著者
神田 学 井上 裕史 鵜野 伊津志
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.83-96, 2000-02-29
被引用文献数
13

東京の環状八号線上空に現れる通称"環八雲"の生成メカニズムに関して数値計算により検討を行った.4次元データ同化手法・4重ネストグリッド手法を用い, また詳細な地理情報と人工排熱分布を考慮することにより, 水平スケール1km未満の局地性の強い環八雲を概ね良好に再現することができた.環八雲は, 東京湾海風の先端部の上昇流域に対応して形成された積雲列が, 環八近傍で停滞することによって形成される.これはちょうど, 東京湾海風と相模湾海風の収束帯に位置する.また, 海風先端部の重力波と熱対流の影響で, 環八雲周辺には複数のロール対流および積雲列が形成されること, が計算結果により裏付けられた.人工排熱量と都市領域を調節した数値実験により, 人工排熱量の増加や都市領域の拡大といった都市化の進行が積雲の雲量を増加させること, 都市領域の変化により水平気圧勾配が変化し, 積雲列の位置が東西方向にシフトすることが示された.
著者
吉永 創 山田 二久次 関根 義彦
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.105-117, 1998-02-28
被引用文献数
4

親潮の異常南下に注目して日本の気温, 降水量の変動特性について調べた。親潮異常南下年の日本の気温では冬季に東北以南の本州, 四国, 九州で負の偏差, 北海道では逆に正の偏差が見られた。降水量では北陸を中心とする日本海側で正の偏差が見られた。5月から6月にかけては関東から東北南部の太平洋側で負の偏差, 降水量では九州中部〜四国南部〜紀伊半島を境にして北で増大し南で減少する傾向が示された。親潮南限緯度と気温, 降水量とのラグ相関解析により冬季は本州, 四国, 九州の気温と3〜5か月後の親潮南限緯度の間で最も高い正の相関, 北陸の降水量と4〜5か月後の親潮南限緯度の間で有意な負の相関が得られた。5月から6月については気温に対して同時あるいは1か月の前の親潮南限緯度の間で関東から東北南部の太平洋側でのみ有意な正の相関が得られた。さらに500 hPa高度偏差のEOF解析の第1, 2モードのスコアと日本の気温・降水量との相関解析により, 冬季に日本上空から北太平洋中央部にかけて500 hPa高度場が負偏差になると本州, 四国, 九州で気温が低下する傾向が示された。また気温ほど顕著ではないが1月の北陸の降水量で有意な正の相関が得られた。これらより親潮異常南下年の冬季の本州, 四国, 九州の気温の低下及び北陸での降水量の増加はグローバルな大気大循環の変動の影響による可能性が高く, 5月, 6月は関東から東北南部の太平洋側でのみ親潮の異常南下に伴う低海面水温の影響を受けて気温が低下している可能性が示唆された。
著者
Liebmann Brant Hendon Harry H. Glick John D.
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.401-412, 1994-06-25
被引用文献数
1

当論文においては、西太平洋及びインド洋における熱帯低気庄とMadden-Julian振動(MJ0)との関連を記述する。熱帯低気圧は振動の積雲対流活動活発期に生じ易いし、雲塊は下層の低気圧性渦度の周辺に存在し、発散場はMJ0に伴う積雲対流活動の西方極側に現れる。熱帯低気圧や台風の絶対数は振動の積雲対流活動活発期に増大するが、弱い熱帯低気圧から転化する熱帯低気圧と台風の比率は、積雲対流活動活発期と乾燥期において同一である。積雲対流活動活発期においてより多くの熱帯低気圧や台風が存在するのは、当時期により多くの弱い熱帯低気圧が存在することによる。当研究の第三の結果は、積雲対流活動活発期の熱帯低気圧の活動度がMJOの活動度に限定されていない点である。事実、我々はMJ0と独立かつ無作為に選ばれた積雲対流活動活発期において熱帯低気圧の活動度が同等に増大することを見いだした。結論として、MJ0は熱帯低気圧に影響を及ぼす独自の機構を持つと言うより、むしろそれに伴う熱帯の変動度が大きな割合を占めるという点で重要である。
著者
Baik Jong-Jin Paek Jong-Su
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.857-869, 2000-12-25

バックプロパゲーション型ニューラルネットワークを使って、北西太平洋での熱帯低気圧の強度の変化を12, 24, 36, 48, 60, 72時間について予測するモデルを開発した。用いたデータは、1983-1996の14年間の北西太平洋の熱帯低気圧に対する、低気圧の位置、強度、NCEP/NCARの再解析、それに海面水温である。ニューラルネットワークの予測因子は重線形回帰モデルの予測因子に基づいて選ばれた。回帰分析により、予測因子の一つ風の鉛直シア-が全ての予測時間に渡って一貫して重要であることを示した。予測因子として気候学的、持続的、総観的因子を用いたニューラルネットワークモデルによる平均予測誤差は、同じ予測因子を用いた重線形回帰モデルに比べて7-16さらに、予測因子として気候学的、持続的因子のみを用いたニューラルネットワークモデルの性能でさえも、総観的因子まで含んだ重線形回帰モデルの性能をわずかに上回った。ニューラルネットワークモデルの性能は14年間の全ての年について回帰モデルを上回るわけではないけれども、ニューラルネットワークモデルの方が良い年の方が逆の年よりもずっと多く、その傾向は短い予測時間の方が顕著である。感度実験により、ニューラルネットワークモデルの平均強度予測誤差は、隠れ層や隠れ層のニューロンの数には敏感ではないことを示した。しかし、熱帯低気圧強度予測のために、より良い隠れ層の構造を用いることにより、回帰モデルに比べてニューラルネットワークモデルをさらに改良する余地がいくらかある。この研究は、予測因子として気候学的、持続的、総観的因子を用いたニューラルネットワークモデルが熱帯低気圧の強度予報において有効な道具として使えることを示唆している。
著者
隈 健一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.147-172, 1994-04-25
被引用文献数
5

気象庁現業全球モデルの高水平分解能(T63、T159)水惑星版を時間積分した。どちらの分解能でも、40日周期のマッデン-ジュリアン振動(M-J振動)が出現した。波数1スケールの構造は両者ともほとんど同一であったが、振幅はT159の方が2倍の大きさであった。下層の収束域の東側では、赤道域で湿潤対流が見られ、西側では赤道から離れた熱帯域で湿潤対流が見られる。水蒸気収支解析によると、M-J振動の構造維持には地表付近の摩擦収束の効果が重要である。T-159モデルでは、クラウドクラスターの集団(スーパークラウドクラスター)のふるまいが中沢(1988)の解析に類似している。しかし、M-J振動とスーパークラウドクラスターのスケールは分離できなかった。M-J振動の熱帯低気圧発生に及ほす影響も調べた。振動の赤道下層収束域付近およびその西側近傍で多くの熱帯低気圧の発生が見られた。これらの低気圧は東西方向に長い対称ロスビー波の構造の生成に寄与している。
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.165-174, 1997-03-31
著者
水越 允治
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.961-963, 2009-11-30
著者
山本 晴彦 早川 誠而 鈴木 義則
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.163-170, 1998-03-31
被引用文献数
2

近年の凶作年および豊作年の気象的特徴、水稲収量を比較するとともに、水稲の豊凶作を夏季平均気温の気温偏差から解析を試みた。1993年の夏の1980年以来の異常低温であり、福岡市では夏季平均気温の気温偏差-1.4℃、暑冷指数-36日の大冷夏年で、福岡県の水稲単収は363kg、作況指数74の大凶作年であった。1994年の夏は記録的な猛暑で、福岡市では夏季平均気温の気温偏差+1.8℃、暑冷指数56日で高温・少雨年であった。福岡県の水稲単収は過去最高の545kg、作況指数111の大豊作年であったが、潅漑用水の不足した地域では生育遅延、稔実障害などが発生し、高温年にもかかわらず単収が大きく低下した。福岡管区気象台管内の気象官署を対象とした夏季の平年気温の偏差と水稲の平均収量との比率との関係から、とくに冷夏年で夏季の気温偏差が著しいマイナスを示す年は水稲収量平年比が大きく低下した。
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.259-272, 1996-04-25
被引用文献数
3

1994年の猛暑の特徴を, 境界層内の状況に焦点を当てて調べた. 境界層内の気温を表す指標として, 地上気温と850hPa気温との差(δT)および昼夜の気圧差(Δp)を使い, これらの経年変化と1994年の偏差を求めた. 解析は1961〜1994年7〜8月の晴天弱風日を対象にした. 1994年の夏はδTの正偏差とΔpの負偏差が明瞭に認められ, 境界層内には自由大気を上回る気温偏差があったことが見出された. また夏季晴天日の一般的特徴として, δTやΔpの偏差は降水・日照の履歴と相関があり, 少雨・多照が続いた後は境界層内は高温になる傾向が認められた. これは地表面の乾燥によって蒸発散が減り顕熱供給量が増すためであると考えられる. 従って, 1994年の夏は著しい少雨・多照の持続が境界層内の高温を増幅する1要因になったと推測される. 一方, δTの経年上昇傾向は夜間については多くの地点で認められるが, 昼間は関東内陸など一部の地点を除いて目立たない. むしろ沿岸ではδTの低下傾向があり, これは海面水温の低下に対応する. 従って, 1994年の猛暑のうち昼間の著しい高温については, 都市化の影響は一部の地域にとどまっていたと考えられる. なお他の研究結果から見て, 昼間の都市昇温は数十年以上の長いスケールにおいて初めて検出されるものと考えられる.
著者
瀬古 弘 加藤 輝之 斉藤 和雄 吉崎 正憲 楠 研一 真木 雅之 「つくば域降雨観測実験」グループ
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.929-948, 1999-08-25
被引用文献数
7

台風9426号(Orchid)が日本列島に接近した1994年9月29日に、関東平野にほぼ停滞するバンド状降雨帯が見られ10時間以上持続した。つくばにおける特別高層観測、2台のドップラーレーダーおよびルーチン観測のデータを用いて、この降雨帯を解析した。この降雨帯はニンジン形の雲域を持ち、バックビルディング型の特徴を持っていた。南北に延びた降雨帝はマルチセル型の構造をしていて、その中のセルは降雨帯の南端で繰り返し発生し, 西側に広がりながら北に移動した。水平分解能2kmの気象研究所非静水圧メソスケールモデルを用いて、数値実験を行った。メソ前線は実際の位置の約100km南東に形成されたが、バックビルディング型の特徴を持つニンジン型の形状のほぼ停滞する降雨帯が再現され、3時間以上持続した。セルが北西に移動すると共に降雨帯の東側で降水が強化されて、ニンジン形が形成されていた。降雨帯の形成メカニズムを調べるためにまわりの場と雲物理過程を変えて感度実験を行った。その結果、中層風の風上側からの高相当温位の気塊の供給と風の鉛直シアが重要であることがわかった。