著者
Hor Tai-Hwa Chang Mou-Hsiang Jou Ben Jong-Dao
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.473-496, 1998-08-25
参考文献数
42
被引用文献数
1

TAMEX IOP期間中(1987年6月15日)に台湾の東岸沖で研究用航空機(NOAA P-3)を用いて梅雨前線の鉛直断面(6高度)観測を実施した。航空機による直接観測データと2種類の航空機搭載レーダーのデータを用いて、梅雨前線南端付近のメソスケール構造と、前線の維持機構を調べた。各高度における水平飛行中の乱流強度の急増から前線の先端の位置を決定し、前線の移動速度を考慮に入れて、前線を横切る鉛直断面内の運動学、力学及び熱力学変数の分布を合成した。これらの分布から、前線の先端部は風速の水平成分と空気密度の偏差の等値線に平行で、密度流的な構造を示すことが明らかとなった。熱力学変数の変化はさほど顕著ではないが、相当温位の分布は前線後面の下層の寒気コアの存在を示した。寒気コアは最も空気密度の大きな部分に対応していた。密度流の進行及び前線系の維持のメカニズムとして、寒気コア内における後方から前方に向かう水平気圧傾度力、前線の先端部付近における中程度の対流不安定、平均流からの運動エネルギーの変換が考えられる。
著者
渡部 浩章
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.449-455, 2007-05-31
参考文献数
7
被引用文献数
2

福井豪雨をもたらした線状降水域について,1.5kmまたは5kmの分解能を持つ気象庁非静力学モデル(JMA-NHM)で詳しく調べた.福井県の西海上では,実況の解析雨量に対応する線状降水域をほぼ再現した.中層では梅雨前線に沿って高湿度領域となっており,前線付近での風向は一様に西北西であった.下層では前線に沿って前線南側の西風と前線北側の北西風により線状の収束域が持続していた,線状降水域の風上に次々と積乱雲(降水セル)が発生して,バックビルディング型の特徴を示した.降水セルは線状降水域に沿って時速約50km/hで東南東進していた.降水セル下部の収束と上部の発散は,ともに10^<-3>/s以上の大きさであった.また,雨滴の蒸発による冷却効果は見られなかった.
著者
尾瀬 智昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.1045-1063, 1998-12-25
参考文献数
25
被引用文献数
5

観測から得られた帯状平均場と熱源を与えたモデルを用いて、その応答としてのアジアモンスーンの循環、特にその気候学的な季節変化を調べた。結果は次のようにまとめられる。(1)夏のアジアモンスーン期において、アジアの南域の深い積雲対流に伴う熱源は、チベット高気圧、モンスーントラフならびに、南アジアにおける下層循環を形成し、さらにユーラシア大陸西部に下降流をもたらす。中央アジアの地表面付近の熱源もまた、その上層に下降流を形成する。(2)初夏(6月)に見られる、アジアの南域の深い対流に伴う熱源は、日本の南東に南西の下層風と上昇流を形成する傾向を示す。これらは、アジアの南域に形成される熱的低圧部とともに、東アジアに梅雨帯が形成される背景的要因になっていると考えられる。中緯度の梅雨帯での降水による熱源は、その南に下層ジェットを形成する。(3)初夏(6月)から盛夏(7月)にかけてのアジアモンスーンの季節変化は、北半球全体で気温が上昇し、帯状平均のジェットが北上し弱まることによって特徴づけられる。モデルにおいて帯状平均場のみを6月から7月に変えると、この季節変化の主な特徴が再現される。すなわち、南アジアから東アジア域において、下層ジェットおよび上昇流域は、大陸周辺の海洋から大陸側に移動する。鉛直流のこの変化は、6月から7月にかけての熱源の季節変化と矛盾しない。(4)盛夏(7月)から晩夏(8月)にかけてのアジアモンスーンの季節変化は、亜熱帯西太平洋の広い範囲で積雲活動が活発化することによって特徴づけられる。モデルにおいて西太平洋の熱源のみを7月から8月に変えると、この太平洋域からインド洋域の季節変化の主な特徴が再現される。上層のチベット高気圧および下層の太平洋高気圧が日本付近へ広がることもまた、西太平洋の熱源のみの季節変化で再現される。(5)6月の帯状平均場と8月の熱源を用いたモデル実験が、気候学的な8月の実験結果と比べられる。気候学的な季節変化から遅れた帯状平均場が、中緯度および亜熱帯域の弱いモンスーン循環および関連する降水偏差と関連していることが暗示される。
著者
柴垣 佳明 山中 大学 橋口 浩之 渡辺 明 上田 博 前川 泰之 深尾 昌一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.569-596, 1997-04-25
参考文献数
39
被引用文献数
4

1991年6月17日〜7月8日にMU・気象(C・X・Ku帯)レーダーを用いた梅雨季3週間連続観測を行った. MUレーダーの観測データから, 下部対流圏の降雨エコーの影響を完全に除去して, 信頼性の高い高分解能の3次元風速のデータセットを作成した. 梅雨前線は最初の約1週間(6月17〜24日)はMUレーダー観測所の南方にあり, その後一旦(6月25〜28日)は北方に移動した. 6月29日以後は中間規模低気圧の地上の中心がレーダー観測所近傍を次々と通過し, その際の水平風の変化は, 下層から圏界面ジェット高度にかけて高度とともに遅れて強まる傾向がみられた. 次に, 中間規模低気圧との相対的位置関係に基づいた数時間スケールの鉛直流と降水雲との対応を(i)低気圧を伴った梅雨前線の北側, (ii)地上の低気圧中心付近, (iii)低気圧からかなり離れた梅雨前線南側の3領域について調べた. (i,(ii)のケースでは, 上昇流領域は対流圏界面付近の層状性乱流下端高度(LSTT)と前線面高度に大きく依存し, その後者のケースの上昇流は温暖前線北側では発達した降水雲を伴い, 寒冷前線北側では中規模スケールの領域にわたって卓越しているが, 降雨を伴わないことが多かった. さらに, (iii)の期間ではいくつかの上昇流領域はLSTTを突き抜けていた. これらの中規模変動は, 積雲規模擾乱に対応する上昇流領域のピークを含んでおり, またそれらのいくつかは地上降雨と一致していた. 以上の観測事実に基づき, 梅雨前線近傍の鉛直流変動の階層構造の概念図を作成した. この特徴は, よく知られている中間規模低気圧, 中規模クラウドクラスター, 積雲規模降水雲から成るマルチスケール構造と部分的には一致しているが, 本観測で得られた結果は過去の研究で主に用いられている気象レーダー・気象衛星では観測できない晴天領域についてもカバーしている.
著者
菅野 洋光
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.1053-1071, 1997-12-25
参考文献数
20
被引用文献数
5

日本の東北地方の夏季に低温をもたらすヤマセ風について、1979年から1993年の三沢の高層気象データを用いて分類を行った。ヤマセ気塊の鉛直構造に対してクラスター分析を行い、7つに分類した。各クラスターに属するヤマセ気塊の特徴を、クラスター毎に平均して調べた。ヤマセ風による地表の低温域は気塊の高さに比例しているが、気塊の高さは必ずしも東風の高さと一致していない。ヤマセ気塊、東風共に高い (約800 hPa以上) 場合、地表では東風が東北地方全域を吹走し、強い低温域が太平洋側に認められる (クラスター2と6)。東風が高いが (約800 hPa以上)、気塊の高さが低い場合 (約800 hPa以下)、東風は東北地方全域を吹走するが、地表の低温はさほど強くはなく、寒気は山地によって効果的にブロックされる (クラスター3と5)。ヤマセ気塊、東風共に低い場合、地表の東風と低温域は太平洋側に限定される (クラスター1, 4と7)。各クラスターに属するヤマセ風の出現頻度には季節性が認められる。クラスター6と7は6月にのみ出現し、クラスター2と4は主に梅雨期に、クラスター1と3は梅雨後期から盛夏季に、またクラスター5は主に盛夏季に出現する。また、地上気圧配置、前線の頻度、および500 hPaの高度場はクラスターごとに特徴的な分布を示している。各年ごとにヤマセ風の出現頻度を調べたところ、夏が著しく低温であった1980年、1988年、および1993年には、クラスター2,3,4のヤマセ風が多く吹走していた。しかしながら、低温かつ高さの高い気塊を伴うクラスター2に属するヤマセ風が、夏季の低温に重要な役割を担っていることが示唆された。
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.403-412, 1993-06-30
参考文献数
13
被引用文献数
3

北日本に記録的な強風をもたらした台風9119, 5415(洞爺丸台風)および6118(第2室戸台風)について, メソα〜β規模における強風の特徴を比べた.中心域の気圧・風速分布は台風ごとに違い, 台風9119は中心付近の広い低圧部=弱風域とその外側(南東側)の南西強風, 台風5415は鋭い気圧中心に集中した強風, 台風6118はメソ寒冷前線に対応するトラフとその後面(西側)の北西強風が特徴的であった.どの台風の場合も, 東北地方の南西〜北西強風は急に吹き出す傾向があった.このうち台風5415と6118においては, 強風の吹き出しはシャープなメソ寒冷前線の通過に対応し, 気温の急降下を伴った.これに対して台風9119の場合には, 中心後面からの寒気流入が緩やかで, 明瞭なメソ寒冷前線は現れず, 強風開始は一時的な昇温を伴った.この昇温は下層の安定層破壊によると推測される.
著者
新野 宏
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.309-312, 1995-05-31

去る2月3日から16日まで,科学技術庁振興調整費による重点基礎研究「シビアウェザーの発生機構に関する基礎的研究」の遂行のため,NCAR(アメリカ)のSenior Scientistのリチャード・ロットゥンノ博士が気象研究所に滞在された.博士は1949年生まれ.メソスケール現象を中心に,大気境界層の乱流からハリケーンや温帯低気圧に至るまでの幅広い分野の力学に関する論文を数多く発表されている.来日の機会をとらえてお話を伺った.
著者
野口 泰生
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.747-757, 2001-10-31
参考文献数
31
被引用文献数
5

親潮の異常南下が注目される東北地方太平洋岸で海面水温変動の特徴を緯度経度1度のグリッド水温(1950〜)で検討した結果, 常磐沖を含む中緯度帯に一年を通して水温が長年低下傾向にある海域が広範囲に確認され, 夏の常磐沖水温変動には明瞭な6年周期が見られた.東北地方太平洋岸の気温も1950年頃から1980年代後半まで一年を通して低温化傾向にあったが, 夏の低温化は東北地方太平洋岸の局地的現象で, この中にやはり6年の周期性が認められた.また, 沿岸から内陸に向かって気温に海の影響が認められた.常磐沖の長期的な水温低下は, 宮城県江ノ島の長期海面水温データや北太平洋指数(Trenberth, 1990), 冬の北太平洋SST指数(Deser and Blackmon, 1995)から判断して, 高緯度大気変動に伴う長期変動の一部である可能性が高く, 同海域では40〜50年の長周期的変動と6年の短周期的変動がオーバーラップしていると推測された.
著者
岩崎 博之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.467-474, 1994-06-25
被引用文献数
2

気象衛星NOAAのsplit-windowデータから求めた可降水量分布の事例解析を行った。可降水量分布にはメソβスケールの不均一が認められた。二つのバンド状の可降水量が少ない領域に沿って地上では発散域が認められ、また、可降水量の多い領域の一つは"小規模の海陸風"が作る収束域に対応していた。
著者
松田 佳久
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.1181-1189, 1995-12-25
参考文献数
12
被引用文献数
2

線型化されたプリミティヴ方程式を使って、ゆっくり回転する大気の、移動する熱源に対する三次元的応答を研究した。まず、プリミティヴ方程式を水平構造方程式と鉛直構造方程式に変数分離した。水平構造方程式の数値的解法においては、Hough関数を利用した。この研究においては、惑星の自転速度と太陽加熱の移動速度は金星の値に固定されている。大気の線型応答が大気の安定度とダンピングレートの色々の値に対して求められている。ダンピングレートが大きな値の時には、夜昼間の直接循環が得られた。一方、ダンピングレートが小さな値の時には、東西風が卓越し、地衡風の関係が中高緯度において成り立った状態が現われた。