著者
尾瀬 智昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.93-99, 2000-02-25

冬季北半球における、西太平洋パターン(WP)および太平洋・北アメリカパターン(PNA)の出現が、2年振動する南シナ海の海面水温とこれに関係する熱帯西太平洋上の降水量の変動と統計的に次のように関係していることが分かった。(1)NINO4の海面水温偏差が正(負)で、フィリピンの東で降水が抑えられる(活発化する)時、WP(逆符号のWP)パターンが現れる傾向があり、このことは局所的なハドレー循環の理論と定性的に一致する。(2)NINO4の海面水温偏差が正(負)で、フィリピンの東で負(正)の降水偏差が小さいか、または西方にシフトしている時、PNA(逆符号のPNA)パターンがWP(逆符号のWP)パターンよりむしろ現れる傾向がある。(3)上記の熱帯西太平洋での降水量の変動は、南シナ海の海面水温の2年振動を説明する降水量の変動と一致する。
著者
千葉 修 小林 文明 久末 正明
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.551-563, 2006-07-31

2000年4月23日に青森県の八甲田山系猿倉岳で発見された樹木被害が同日に発生した突風が原因であると推測して気象学的観点から考察した.同日の朝に寒冷前線を伴った低気圧が青森県地方に最接近し,その後北東方向に通過した.猿倉岳から約24km北北西にある青森地方気象台(青森市)の気象データから突風発生に関係する2つのフェーンが確認された.つまり午前中の第一のフェーンは秋田県北部の降雨に南西風が吹いたための湿ったフェーンであり,猿倉岳東斜面が南西風卓越時に隣接する山々の鞍部の出口にあたる地形的な特徴を持つことから収束合流した気流が局所的に強化されたと考えられる.一方,午後の第二のフェーンは水蒸気量の少ない上層の乾燥空気が寒冷前線の後方で下降して広がり,そのために西寄りの風が加速して山越えの強風になった.この風向きは樹木の飛散した西から東の方向と一致していた.これらのことから猿倉岳樹木被害の主因はフェーンによって発生した強風であり,午前には地形の影響を受けた気流が,そして午後にはおろし風が継続的に作用し倒木被害を起こしたものと考えられる.
著者
新田 勍 関根 創太
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.627-641, 1994-10-25
被引用文献数
18

静止気象衛星「ひまわり」による3時間間隔、9年間のT_<BB>データを用いて、熱帯西部太平洋域の対流活動の日変化の解析を行った。対流活動の大きな日変化がインドシナ半島、チベット高原、北オーストラリア、海洋大陸域等の大陸や大きな島及びその周辺海域に存在する。また、ベンガル湾と南シナ海にも大きな日変化が存在する。一方、海洋大陸域ほど大きくはないが、熱帯収束帯(ITCZ)と南太平洋収束帯(SPCZ)にも日変化が見られる。日変化の特徴は季節によって変化し、対流活動が活発な季節に日変化の振幅も増大する。大陸上及び大きな島の上では、対流活動は午後遅くから夜にかけてピークに達するが、これは日中の地表からの加熱によるものと思われる。一方、大きな島の周辺海域では、対流活動のピークは一般に午前中に現れる。このような周辺海域の対流活動の日変化は、海陸風循環と大規模な一般風との相互作用によって作られているものと思われる。ベンガル湾の北端海域の対流活動は夏のインドモンスーン期に大きな日変化を示し、午後に対流活動のピークが現れる。南シナ海の対流活動の日変化は夏から秋にかけて顕著になり、正午頃ピークになる。ITCZとSPCZの対流活動は一般に午前に最盛期に達するが、午後にもう一度活発になる。フーリエ解析の結果、ITCZやSPCZ上には半日周期の変動が存在し、3-4地方時と15-16地方時に対流活動が最大となることがわかった。
著者
佐野 浩 永岡 利彦
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.385-393, 2002-05-31

東北北部太平洋側の奥羽山脈と北上山地の山間を流れる北上川流域では,夏に湿った南風が卓越する場合がある.このとき,北上川流域では夜間に層雲が広がって曇るが,日の出後数時間で層雲が消散して晴れる「朝曇り」現象が報告されている.今回,北上川流域で起きる「朝曇り」についてNHM統合環境(パソコン版気象研究所非静力学モデル)を使って数値実験し,下層雲の発現・解消の仕組みを調べた.その結果,(1)奥羽山脈で起きる斜面上昇風によって,仙台平野北西部に下層雲が生成される,(2)夜間の陸面温位の低下に伴い北上川流域に下層雲が広がる,(3)日の出後,陸面温位が上昇するにしたがって北上盆地の北部と仙台平野西部から下層雲が消散する,などが明らかになった.
著者
佐藤 薫 長谷川 史裕 廣田 勇
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.859-872, 1994-12-25
被引用文献数
11

シンガポール(1N, 104E)の1978〜1993年に亘るレーウィンゾンデデータを用いて、赤道域下部成層圏における周期3日以下の温度・水平風擾乱の解析を行なった。短周期擾乱は温度・風成分共に、時折り鉛直波長5km程度の時間と共に位相の下がる内部波的な構造を持つ。その位相構造から、これは内部慣性重力波によるものと考えられる。また、パワースペクトル解析の結果、短周期帯には、これまで良く調べられている周期15日前後のケルビン波や4〜5日周期の混合ロスビー重力波とは独立なピークが存在し、そのエネルギーも大きいことがわかった。次にスペクトル特性の時間変化と平均東西風準2年周期振動(QBO)との関係を調べた。東西風と温度の短周期擾乱は、ケルビン波と同様、平均風が東風から西風にかわるフェーズ(EWフェーズ)でバリアンスが極大となるが、ケルビン波と異なり、平均風が西風から東風にかわるフェーズ(WEフェーズ)でもエネルギーが大きい。さらにクロススペクトルについては、これまでケルビン波についてさえほとんど調べられていない、温度と東西風成分のコスペクトルも解析した。その結果、短周期帯において温度と東西風成分のコスペクトルの絶対値がクオドラチャースペクトルの絶対値よりかなり大きいことがわかった。興味深いのは、コスペクトルの符号がQBOの位相に合わせて変化していることである。すなわち、温度と東向き風成分はEWフェーズではプラス、WEフェーズではマイナスの相関を持つ。これらの結果は短周期擾乱がQBOと深い関わりを持つことを示している。
著者
井上(吉川) 久幸 石井 雅男 松枝 秀和 吉本 誠義 森田 良和
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.829-839, 1998-12-25

1996年1月〜2月にかけて日本-オーストラリア、7月〜8月にかけて日本-アメリカ間を航行した大成丸(運輸省 航海訓練所)で中空糸膜モジュールを用いて海水と平衡になった乾燥空気中の二酸化炭素混合比(xCO_2^S)の測定を試みた。中空糸膜モジュールは、全容積が300cm^3と現在用いているシャワーヘッド型平衡器(設置に110dm^3必要)に比べて小さく、設置が容易である。中空糸膜モジュールを用いて測定したxCO_2^Sは温度計測を行うことにより従来のシャワーヘッド型平衡器の結果と良い一致を示した。14分離れて測定したxCO_2^Sの差は、0.1ppm(n=732)であり標準偏差は3.7ppmであった。このことは二つの平衡器間にシステマティックな差がないことを示しており、中空糸膜が平衡器として将来使用できることが分かった。
著者
石原 正仁 藤吉 康志 新井 健一郎 吉本 直弘 小西 啓之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.727-742, 2009-09-30

1998年8月7日にメソスケール降雨帯が大阪湾上を南下し,その中で特に発達した積乱雲が関西国際空港(「関西空港」という)に近づいた.同空港において低層ウィンドシアーを監視している空港気象ドップラーレーダー(DRAW)は,この積乱雲が同空港に到達するまでの間にマイクロバーストを延べ24回自動検出した.このとき低層ウィンドシアーに関する共同調査を実施中であった関西航空地方気象台と北海道大学低温科学研究所は,この積乱雲を対象としてDRAWと同研究所の可搬型ドップラーレーダーによるデュアル観測を行った.この積乱雲は少なくとも4つのマイクロバースト(MB)を,7〜9分間隔で発生させていたことがわかった.このうちの2つのMBについて,その振舞いと内部・周辺の風の3次元分布を詳細に解析した.2つめのMBについては,DRAWの自動検出では水平距離4kmで17m/sの風の水平シアーが測定され,デュアル解析によると高度3kmで7m/sの下降流,及び高度500mで14m/sの水平風が形成されていた.またMB 3が到達した関西空港では21m/sの瞬間風速が記録された.これらのことから,DRAWの自動検出はMBの位置,形状,風の水平シアーの強さを精度よく算出していることがわかった.同時に,MBの非軸対称性が水平シアーの測定に誤差を生じさせる可能性のあることも分かった.MBの微細構造として,1つめのMBにともなう地上付近の発散流は非軸対称的な分布を示し,MBの移動方向の右前方に強く吹き出していた.このMBにともなう発散流の先端のガストフロントでは上昇流が作られ,その上昇流によって上空に形成された降水コアが着地するとともに,2つめのMBが発生した.MBの生成には,降水粒子の蒸発による下降流内の空気の冷却,及び落下する降水粒子が空気を引きずり下ろす力の両者が作用していたと推測された.航空機がこのMBに進入した場合,飛行経路に沿った風の水平シアーにともなう揚力減少の効果は,下降流が航空機を直接降下させる効果より2.7倍以上であったと見積もられた.
著者
千葉 修 高橋 信年
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.447-455, 2003-06-30
被引用文献数
3

1998年4月28日のGMS可視画像に見られた四国上空の雲の変化に関心を持ち,雲の動態と局地風の関係を調べた.午前中の雲画像は,四国の太平洋側に散在した積雲群を,午後には四国の脊梁山脈を中心に集積した広い雲域を示した.これを局地風の動きと比較すると朝方の雲は沿岸域に隣接する岬や高地で生じた積雲群とみられる.そのあと谷風と主に太平洋側からの海風が内陸奥深く進入し山岳周縁部に雲域を形成した.そして午後には高温位となった四国の山岳域に熱的低気圧が発生し,そこに谷風と海風との連結した風が吹き込み山岳域を中心に雲が広範囲に集積した.結果として午後遅くに高峰付近の雲域は四国の面積の約4割を覆い,その雲頂高度は2000m以上であった.
著者
森 博明 北田 敏廣 弥田 賢次
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.7, pp.515-530, 1998-07-31
被引用文献数
1

移動性高気圧が本州中央部を通過した1991年4月21日〜23日の3日間について, 伊勢湾-濃尾平野を含む領域及び松本盆地で行われた立体気象観測データをもとに, 気流の鉛直構造の日変化を調べた.その結果, 1)広域海陸風日における海陸風の発達高度は, 陸風及び伊勢湾海風が層厚200〜400m, 遠州灘海風が層厚500〜700mを示す.2)伊勢湾海風が出現する以前の午前10時頃に, 高さ700〜1100m(港区)で濃尾平野周辺の山岳地形効果に基づくと考えられる平地→台地風が吹き始める.3)遠州灘海風の上層には, 15〜23時頃にかけて, 中部山岳に発達する熱的低気圧(山岳上空の暖気に基づく低圧部)に向かうと考えられる厚さ1000〜1400m, 風向S〜SWの大規模な平地→台地風が出現すると共に, さらにその上層には, 平地→台地風の反流と考えられるN〜Eの風系が見られる.4)この領域における海陸風は, 伊勢湾-濃尾平野-中部山岳という大きなスケールでの地形効果の影響を強く受けていると考えられる.等の特徴が見られた.
著者
藤部 文昭 瀬古 弘 小司 禎教
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.777-786, 2003-10-31
被引用文献数
8

23年間のアメダス1時間値資料を使って,夏の午後に関東平野で発生する降水の分布と地上風系との関係を調べた.日最高気温が28℃以上で,午前中に降水がほとんどなく午後に降水のあった239日を対象にし,12〜24時の降水量分布をfuzzy c-means methodを利用して6つの型に分類した.このうち4つは主に北関東で降水がある型である.これらにおける14時の地上風系は,平野全体を南寄りの風がおおう"広域海風"を成すが,降水のない日に比べて平野中部の収束がやや大きい傾向がある.また,夕方以降になると北関東では北東風が吹く.この北東風は,降水に伴う冷却域からの北寄りの外出流と東寄りの海風とが重なったものと見なすことができ,かつ翌日にかけての総観的変化の1段階でもある.残る2つの降水型は,降水域が南関東に及ぶものである.そのうちの1つは東京23区に降水域の中心があり,14時の地上風系は鹿島灘から吹く東風と相模湾からの南寄りの風が東京付近で収束する状態になっている.
著者
吉門 洋
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.641-648, 1998-08-25
被引用文献数
2

日本海沿岸を東進する総観規模低気圧に伴って初冬季の関東平野にしばしば出現する局地前線の気流構造を、1996年12月5日に観測された例について解析した。前夜からの北部・西部の山地方面から吹く下層風が平野部に冷気を供給していた。低気圧暖域の総観規模の南風が平野南部で夜半からしだいに強まり、北部からの冷気塊との間に局地前線を形成した。南風は前線面において下層の北風が供給する冷気を取り込み、相対的に冷たい南風の「遷移層」を形成して、冷気を運び去る。前線の北側後背部で観測した各層の厚さはかなり定常的で、下層の冷気供給量に対する遷移層内の北向き冷気輸送量の過剰分は、前線の北進に伴う前線先端部の冷気量の減少にほぼ対応する。しかし、下層の冷気流は午後まで持続し、そのため前線は平野中央部に維持される。なお、前線の先端部の構造の一例として、前線通過前の東京都心周辺では、厚さ50mあるいはそれ以下の冷たい弱風層が2時間以上持続した点が特徴的であった。
著者
中井 専人 岩本 勉之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.863-869, 2006-11-30
被引用文献数
1

2005/2006冬季は,広範囲にわたり多量の降積雪が観測され,顕著な災害をもたらした豪雪年となった.この冬季の積雪分布の特徴について,各地点の冬季最深積雪を23冬季の平均値と標準偏差で規格化し,年々の変動を考慮した解析を行った.規格化した2005/2006冬季最深積雪は,いくつかの地域に集中して多くなる分布を示すとともに,山形・宮城両県以南においては内陸部で多くなる傾向が見られた.雪氷災害の多く発生した地域は,平均値より顕著に多い積雪のあった地域である.2005/2006冬季は,23冬季平均最深積雪の多い地点で最深積雪の正偏差が大きくなる一方,それ以外では顕著な負偏差となる地域が見られた.2005/2006冬季は最深積雪分布の偏りも大きかった.
著者
村上 正隆 松尾 敬世 水野 量 山田 芳則
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.671-694, 1994-10-25
被引用文献数
8

1989年から1992年の4冬期間に、雲粒子ゾンデ・雲粒子ドロップゾンデ・ドップラーレーダ・マイクロ波放射計を用いて、日本海上の対流性降雪雲の観測を行った。この論文では、雲の一生の中でステージの異なる雪雲の観測例を多数コンポジットし、雲頂温度-20±3℃の比較的寿命の短い対流性降雪雲内の微物理構造の変化を調べた。発達期には中程度(〜4m/s)の上昇流によって雲全体に断熱凝結量に近い高濃度の過冷却雲水が生成される。このとき水晶数濃度(200μm以下)は10個/リットル程度で降雪粒子(200μm以上)はまだ形成されていない。最盛期には、氷晶は時々100個/リットルを越える高濃度となり、アラレや濃密雲粒付雪結晶からなる降雪粒子ができ、その濃度は10個/リットル程度となる。これらの降雪粒子の昇華及びライミング成長により、過冷却雲水のかなりの部分が消費される。衰退期までには、ほとんどの過冷却雲水が消費され、雲内には全くライミングしていないか、又は軽くライミングした雪結晶が残る。降雪機構としては、過冷却雲粒の共存下で発生した氷晶(特に厚角板や角柱などの軸比が1に近い結晶)が、昇華・ライミング成長を続け、最終的にアラレになる機構が主なものである。一方、暖かい雨の形成機構が慟いていることや、凍結水滴がアラレの芽となっている可能性を示唆する結果も得られているが、過冷却及び凍結水滴の数濃度が低いこと、また分布が時空間的に限定されていることから、その寄与は小さいものとみられる。雲水量の収支計算から、発達期には、気塊の断熱上昇による過剰水蒸気生成項が卓越しており、雲水量は断熱凝結量に近い値となるが、一端降雪が強くなると、1m/s程度の上昇流を含む雲でさえ定常状態を維持できなくなり、降水粒子の昇華・ライミング生成に消費され、過冷却雲水は急速に減少・消失することが示された。
著者
田島 俊彦 中村 敏郎 黒田 貴紀
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.37-46, 1995-02-25
被引用文献数
3

回転円筒水槽実験で観測される定常傾圧波動の基本的構造は、低圧性・高圧性の渦、渦の間を蛇行する上層(東向き)・下層(西向き)ジェット流と境界層でできている。この構造をもとに、最近、菅田・余田は円筒水槽内の流体粒子のラグランジュ運動を数値的に調べた。彼らの結果に刺激されて、数滴の赤インクをジェット流叉は渦に注入する回転円筒水槽実験を行い、ドリフトする波と共に回転する座標系で観測した。流体中に現れたインクの三次元模様は渦の内部を明らかにした。即ち、渦の内部は中心層とその外部の遷移層から成っている。中心層はどちらかと言えば孤立層に近く、さらに上層と下層に分離している。遷移層では流体粒子はその外部と行き来をし、中心層にはめったに行かない。低圧性渦の下に起こるエクマンパンピングと思われる現象のようないくつかの興味ある現象についても又ここで示す。
著者
田中 博 木村 和央 安成 哲三
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.909-921, 1996-12-25

本研究では、モデル大気の自然変動の大きさや周波数応答特性を解析するために、簡単な順圧プリミティブ方程式モデルを長期間(1000年)積分し、その時系列のスペクトル解析を行なった。年周期強制を除いた実験では、周期約50日以上の長周期変動のスペクトル分布は一様白色であり、年々変動や百年単位の顕著な長周期変動は検出されなかった。しかし、周期約50日の特徴的な季節内振動が時系列のうえで検出され、これ以下の周期帯では周波数の-3乗に従う明瞭なレッドノイズスペクトルに遷移することが解かった。季節内振動に伴うスペクトルピークは存在しないことから、レッドノイズが一様白色に遷移する周波数で見かけ上の季節内振動が卓越することを示した。モデル大気の唯一のエネルギー供給はパラメタライズされた傾圧不安定による周期約5日の周波数帯にあり、ここから低周波数帯に向かってエネルギーが逆カスケードを引き起こし、レッドノイズやホワイトノイズスペクトルを形成している。内部力学の非線形性が卓越する周期約50日以上の周波数帯のスペクトル分布はホワイトノイズとなり、一部の線形項が卓越し大気現象の時空間スケールに特徴的な線形関係が保たれる周波数帯ではそれがレッドノイズとなると考えられる。年周期強制を導入した実験では、ホワイトノイズ内部に生じる年周期スペクトルピークが、モデルの内部力学の非線形性によりその高調波(低調波)応答を引き起こすかどうかが調べられた。実験結果のスペクトル解析によると、励起されたスペクトルピークは年周期強制によるものだけで、高調波(低調波)応答は生じなかった。この結果から、季節内振動や年々変動がもし卓越するラインスペクトルを持つとすれば、それらば外部強制として励起される必要があり、モデルの内部力学の非線形性による年周期変動の高調波(低調波)応答では生じないことが示された。
著者
加藤 信巳
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.48, no.7, pp.443-444, 2001-07-31