著者
木内 豪
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.48, no.9, pp.661-671, 2001-09-30
被引用文献数
6

本論文では, 夏期と冬期の温冷感指標を得るため, いくつかの温冷感指標の適用性について検討を行った.検討対象とした既存の指標は, 不快指数, 風力冷却指数, 新標準有効温度SET^*である.また, 体温調節に関する温度情報の統合の概念を適用した温度負荷量TLと, 作用温度と風速を変数とする簡易な式で表される温冷感指数TSIの2つを新たに提案した.これらの指標について夏期及び冬期の屋外空間における温冷感の現地実験結果との対応について比較した結果, 夏期はTLとTSIが温冷感との相関が高く, 冬期はTSIとSET^*が温冷感との相関が高かった.したがって, TSIを用いれば夏期, 冬期ともに実測の気象範囲において精度よく簡便に温冷感を推定できることがわかった.提案した指標を用いて気象要因が人間の温冷感に及ぼす影響度合いについて調べ, 夏期, 冬期における温冷感の気温, 風速, 湿度への依存特性を示した.
著者
那須野 智江 山岬 正紀
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.907-924, 1997-08-25
参考文献数
73
被引用文献数
3

熱帯低気圧のレインバンドを構成するメソスケールの対流に対する地表摩擦の効果を調べるため、軸対称の非静力学モデルを用いて数値実験を行った。風速の回転成分が余り強くない時期(10ms^<-1>以下)には個々のメソスケール対流の時間スケールは2〜3時間であるが、回転風速が強まり地表摩擦による吹き込みが非常に強くなると、メソスケール対流の時間スケールは長くなる(Yamasaki, 1983)。数値実験では11〜12時間の時間スケールをもったメソスケール対流が繰り返し現れた。2〜3時間の時間スケールを持つ対流とは対照的に、この長い時間スケールを持つ対流は、冷却したダウンドラフトに伴う吹き出しにより下層の収束域が外向きに遠ざけられることによっては消滅しなかった。むしろこの対流は、地表摩擦による吹き込みが強くなることによって、下層の収束域が中心向きに移動した時に消滅した。即ち、雲が外に傾くために、降水が下層の吹き込み側で起こり、暖湿な空気が雲の下層に到達するのを妨げていた。この時新しい対流が元の対流の外側に形成された。この長い時間スケールを持つ対流の構造, 時間変化, メカニズムについて詳しく論ずる。
著者
柴垣 佳明 山中 大学 清水 収司 上田 博 渡辺 明 前川 泰之 深尾 昌一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.69-91, 2000-02-25
参考文献数
34
被引用文献数
4

1991年6月17日〜7月8日にMU(VHF帯)・気象(C・X・C / Ku帯)レーダーを用いた梅雨季対流圏の同時観測を行った。MU・C / Ku帯レーダーは風速の3成分と雨雲の鉛直分布をそれぞれ観測した。また、C・X帯レーダーはメソα, メソβスケールの雨雲の水平分布をそれぞれ調べた。この3週間の中で最も激しい降雨が観測された7月4〜5日の期間には、メソαスケール低気圧近傍でいくつかのメソβ, メソγスケールの雲システムが観測された。これらはi)温暖前線、ii)寒冷前線付近の対流雲およびiii)寒冷前線の北西側の層状雲として分類された。i)では、高度14km付近まで発達した降水雲内の顕著な上昇流は高度4〜5kmにおける前面・後面からの吹き込み成分の収束と中部対流圏の強い南風によって生成された。ii)では、寒冷前線の前面にガストフロントを持った狭いレインバンドがみられた。そのレインバンドの前方とその中では、メソγスケールのローター循環がそれぞれ発見された。iii)では、南東風(北西風)は高度9km付近まで延びた寒冷前線面の上側に沿って(その内部および真下で)上昇(下降)していた。その前線面下側には降雨を伴わない乾燥域が存在し、そこでは前線面に沿って下降した西風の一部が雲システムの後方へ吹き出していた。本研究では、晴天・降雨域の両方で観測された詳細な風速3成分を用いることで、上で述べたような特徴的なウインドフローをもったメソβ, メソγスケールの雲システムの鉛直構造を明らかにした。これらの構造は日本中部で観測されたメソαスケール低気圧近傍のクラウドクラスターの階層構造の中のより小さな雲システムとして示された。
著者
平沼 洋司
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.48, no.7, pp.507-511, 2001-07-31
著者
松村 伸治 謝 尚平
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.10, pp.781-791, 1998-10-31
参考文献数
24
被引用文献数
7

季節風の吹き出しは冬季日本および日本海の経年気候変動をもたらす最も重要な要素の一つである.本研究は, 現在入手可能な船舶, 地上, 衛星観測データを用いて, 冬季季節風変動の影響を総合的に調べたものである.日本冬季降水量の変動パターンは日本海側と太平洋側とに分かれており, 季節風が強い年には日本海側で降水量が多く, 太平洋側では逆に少なくなる.一方, 日本海上の降水量, 水蒸気量はともに季節風が強いときに減少していることが衛星データを用いた解析から示された.しかし, 日本列島に近付くにつれ雲水量が増加しており, 日本海側で降雪量が増えていることが示唆された.また, 季節風の強い年に海面水温(SST)が低くなるという影響は日本海南部(40°N以南)のみにしか現れず, 北部においては季節風よりも海洋の内部変動による影響が大きい.このようなSST変動の南北相違は日本の気温にも現れており, 全国的には季節風と地上気温とが有意な負相関を示すものの, 北日本では相関係数が小さくなっている.以上のように, 40°N以南の日本海・日本列島上の気温変動が2〜3年周期を持つ季節風の強弱に強く影響される一方で, 10年スケールの変動が北日本に見られることも分かった.後者の変動要因に関する詳しい解析は今後の課題である.
著者
栗山 佳恵 山本 勝
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.737-746, 2008-09-30
参考文献数
15

1988年から2006年の寒候期(11月から3月)において,那覇では「吹き出し開始初期から厚い北風層が卓越し,それが維持されるもの(N型)」と「吹き出し開始から下層の北風層が徐々に発達するもの(S型)」の2つの寒気吹き出し構造が見られた.そこで,その経年変化や特徴的な気圧配置を明らかにし,海面水温(SST)や冬季モンスーンの経年変化と那覇周辺域の寒気吹き出し構造の関係を調べた.寒候期平均のNINO3海域SST平年偏差は1000hPa南北風と相関が高く,00/01年までの降水量とも相関が高い.また,那覇周辺海域のSSTは海面気圧や1000hPa比湿と相関が高く,北極振動指数は900hPaの相対湿度と相関が高い.さらに本研究では,総観規模の気象解析もおこなった.寒気吹き出し初期の500hPaの太平洋高気圧の張り出しがS型とN型の構造を決定づける.また,エルニーニョと関連して東シナ海上空500hPaの南風が強い冬季では,S型が卓越する.
著者
川上 紳一 東條 文治
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.829-830, 2003-11-30
参考文献数
2
被引用文献数
1
著者
三隅 良平
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.107-121, 1994-02-25
被引用文献数
1

降水量、地上気温、海面気圧のデータを用いて、1990年以降の梅雨期の降水量の数十年スケールの変動の特徴を記述し、大規模場の変動との関係を調べた。日本全国を平均した梅雨期の降水量は、1924年から1944年(期間I)には少雨傾向を示していたが、1950年頃に増加し、1952年から1972年まで(期間II)多雨傾向を示した。この数十年スケールの変動は、日本の南西部で大きな振幅を持っていた。期間Iと期間IIの間で、つぎの気象要素に有意な変動が見られた;1)日本の西部での南北温度傾度(増加)、2)日本の、30゜Nと40゜Nの間の緯度帯での海面気圧(減少)、3)マニラの降水量(減少)。東日本の南北気圧傾度、及び日本の地上気温のEOF第1主成分は、梅雨降水の年々変動と相関するにもかかわらず、期間Iと期間IIの間で有意な変動は見られなかった。解析結果は、期間Iから期間IIにかけての梅雨降水の増加が、亜熱帯の循環の長期変動と関係していた可能性を示唆する。1950年頃の梅雨降水の増加に関して、仮説的なプロセスを提案する。