著者
原 由香里 佐竹 晋輔 鵜野 伊津志 竹村 俊彦
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.719-728, 2004-10-31
参考文献数
16
被引用文献数
3

2000年から2002年にかけて日本における黄砂観測日数は急激な増加傾向を見せたが,2003年は一転して非常に観測日数の少ない年となった.このような黄砂現象の年々変動のメカニズムを明らかにするため,領域ダスト輸送モデルを用い,1993〜2003年の11年間の春季)2月20日から4月30日)を対象に黄砂の発生・輸送過程のシミュレーションを行った.黄砂観測日数データやTOMS Aerosol Indexを用いた比較から,モデル結果は観測された年々変動を再現していることが確認された.また,シミュレートされた黄砂現象の年々変動から,黄砂多発年と非多発年の間には大気境界層内の輸送経路や輸送量に明らかな違いが見られた.更に,ECMWF客観解析データを用いた気象場の解析から,モデル結果の発生量と発生源域の強風発生頻度の間には強い相関が見られ,ジオポテンシャル高度のアノマリー解析から発生源域の強風発生頻度や輸送経路が説明されることが明らかとなった.
著者
大橋 喜隆 川村 隆一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.541-554, 2007-06-30
参考文献数
15
被引用文献数
1

1996年から2004年の夏季に北陸地方でフェーン現象が発現した日を抽出し,中部地方を対象にフェーンとその状況下で形成される熱的局地循環の傾向と, GPS可降水量変動について考察した. GPS可降水量分布は,北陸地方の東部ではフェーンによる大気下層の乾燥傾向を反映するが,西部では太平洋側と同様に高い値を示した.フェーンが発現するような一般風が強い環境であっても,中部山岳域に熱的低気圧が形成される場合には北陸地方で日中に海風や谷風が生じ,フェーンの中断または弱化(フェーンブレイク)が生じる.熱的局地循環に伴うGPS可降水量の日変化は,夏季静穏日と同様にフェーン発現日においても夕方に中部山岳域で極大を示した.北陸地方沿岸域の中で日中にフェーンブレイクが見られる地域では,夕方にGPS可降水量の増加が顕著であり,フェーンに伴う南風と海風の間で水蒸気収束が発生していると考えられる.夜間にはGPS可降水量の高い領域が山岳風下側の新潟県の平野部へ移動する傾向が見られ,熱的局地循環によって山岳上空に輸送された水蒸気が,フェーンをもたらす南から南南西の一般風によって風下側へ輸送されたと考えられる.フェーンブレイクが生じていない事例では太平洋沿岸の可降水量が高く,中部山岳の風上斜面で降水頻度が高くなっており,熱的低気圧も形成されなかった.
著者
直江 寛明 松田 佳久 中村 尚
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.687-700, 1997-06-25
参考文献数
10
被引用文献数
2

色々な基本場におけるロスビー波の伝播の様相を球面上のバロトロピックモデルの時間積分によって研究した。初めに、理想化した基本場における伝播を調べた。東西一様の基本場が強いジェット気流を持つ場合は、ジェット気流はロスビー波の導波管の働きをする。平均流と東西波数1 (又は2) の重ね合わせで基本流が構成されているときは, ジェットの入口から射出されたロスビー波はジェット気流の入口と出口の間の経度 (西風が強い所) を速やかに東に伝播する。そして、その波はジェットの出口付近で停滞し、そのエネルギーはそこに蓄積する。基本流の東西非一様性が大きいときは、基本流が順圧的に不安定になる。しかし、この不安定は弱いので、伝播の様相がこの不安定の影響を受けることはなかった。一方、基本場からの運動エネルギーの順圧的変換も波のジェットの出口付近での増幅に重要であることもわかった。つまり、ジェットの出口付近での波の増幅は、上流のエネルギー源からのそこへの波のエネルギー伝播とそれに基づくそこでの順圧的変換による増幅と理解される。次に、冬 (12月から2月) の観測データから得られた1か月平均の300hPa面での流れを基本流として、そこでの波の伝播を調べた。1986年の12月の場合、アジアジェットの入口と出口の間を東ヘ伝播したロスビー波はジェット出口付近で進行を妨げられ、その付近に停滞した。1984年1月の場合は、ロスビー波の経路はアジアジェットの出口において北大西洋ジェットに接続する東向きの経路と赤道向きの経路とに分岐した。このようにロスビー波の伝播特性は基本流の分布に強く依存することが例示された。
著者
田中 実
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.1109-1123, 1997-12-25
参考文献数
20
被引用文献数
12

東アジアにおける梅雨降水量及び西太平洋における夏のモンスーン (WNPM) の年々変動及び長期変動を1963年から1992年までの30年間の海面気圧・降水量及び5日平均GMS上層雲量データ (1978年4月から1992年12月) を利用して調査した。これらの現象とENSOとの関係を1963年から1992年までの30年間の東部赤道太平洋海面水温(NINO3 SST)を利用して調査した。7月下旬のWNPMの年々変動は、NINO3 SSTと最近の15年間 (1978-1992) のみ高い負の相関があることがわかった。これはLa Nina (El Nino) 年にWNPMは強く (弱く) なりやすいことを示す。7月の梅雨降水量は、NINO3 SSTと上記15年間において高い正の相関があることがわかった。したがって La Nina (El Nino) 年に梅雨降水量が少なく (多く) なりやすいことを示す。これらの関係は最近の15年間については La Nina 年と比較して El Nino 年は WNPM の開始と梅雨降水量の極大が出現する日が20日ほど遅れることによる。7月の梅雨降水量は1963年から1977年の15年間にも NINO3 SST と高い正の相関があることがわかった。しかし La Nina年と El Nino年の梅雨降水量の極大の出現日の遅れの差は小さくなっていた。NINO3 SSTとのラグ相関を計算し、7月下旬のWNPMは5・6月のNINO3 SSTとの負の相関が高かった。梅雨降水量は最近 (前期) 15年間の1978-1992年 (1963-1977年) の期間において、3ヵ月遅い (2ヵ月早い) 月の NINO3 SSTと高い正の相関があることがわかった。NINO3 SSTの自己相関を調べると、1963-1977年の15年間は、2年周期が、1978-1992年は4年位の長い周期が観測された。この周期の変化は、最近の15年間に SSTと WNPM及び梅雨降水量との相関が高くなったことと関係していると考えられるが、今後の調査が必要である。
著者
高井 博司 川村 宏
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.969-976, 2002-12-31
被引用文献数
1

ヤマセは,梅雨期に東北地方太平洋沿岸に吹きつける低温・湿潤な北東風である.古くから冷害の原因とされ,最近では,1993年の大冷害もこのヤマセによるものであった.近年の衛星観測データの蓄積は,局地的な現象を長期的・広域的にとらえることを可能にした.本研究では,衛星観測データと地上観測データを用い,ヤマセ日における「晴れ」・「曇」の出現確率に関する研究をおこなった.衛星観測データは,NOAA/AVHRRから作成されるJAIDASデータを利用し,ヤマセ日の特定にはアメダスデータを利用した.JAIDASよりアメダス地点周辺の気象状況(晴れ・曇等)を判別し,ヤマセ日との関係を考察したところ,ヤマセ時には,90%の割合で雲がかかっていることが示された.また,リアス式海岸である三陸地方の地形の影響が大きいことがわかった.
著者
田中 実
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.255-267, 1994-04-25
被引用文献数
6

5日平均GMS上層雲量(1°×1°メッシュ)データ(1978年4月から1992年12月)、及び5日平均ECMWF上層風(2.5°×2.5゜)データ(1980-88)、を利用してインドネシア・オーストラリア・ニューギニアにおける夏のモンスーンの開始と季節変化を調査した。熱帯モンスーンに伴う雲は、11月にジャワ島・北部ニューギニアで増加し、雨期が始まる。その後、12・1月にかけて東部インドネシア・オーストラリアに広がる。5日平均850hPa及び200hPa面のECMWF上層風の東西成分の季節変化で、850hPaで西風、200hPaで東風が同一地点で観測された期間の始まりを、風によるモンスーン開始日、終わりを終了日とした日付けと比較すると、北部オーストラリア・ニューギニア・スラウエシ島・南部ボルネオ等の島や陸上で、付近の海上にくらべて日射による加熱のため対流活動が活発で、雲量による開始日は早く、終了日は遅れる傾向がみとめられた。インドネシア・オーストラリア・ニューギニアでは広大な海洋のため降水量による雨期の開始(終了)の日付の調査は、ダーウイン付近をのぞいて十分でなかった。しかしGMS上層雲量データによる調査によって、この地域での雨期の開始から終了までの季節変化が明らかになった。
著者
舟田 久之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.243-253, 1993-04-30
被引用文献数
2

富山県内の曰降雪量予想に関して,高層風向による降雪分布の予測について調べ,降雪分布型別に予測式を作成した.また,富山県が1988年1月と1989年1月に富山市の東にある三郷において,高層気象観測を行った.これらのデータとアメダス等のデータを用いて立体的に解析して降雪分布を調べた結果,次のことが得られた.(l)輪島における500hPaと700hPaの風向によって降雪分布型が,これまで調査されている方法よりも良い精度で推定できる.(2)上層の谷に伴って500hPaに寒気が流入して気層が不安定となり,湿潤層が厚くなって雪が降る.(3)冬季の季節風時には富山県の北西部は西風,中央(富山市付近)及び北東部は南西風,南部は風が弱く,富山県の北西部は収束域,北東部は発散域となっていた.(4)雪雲は地上の収束域で発達し,雪片は中・下層の風に流されながら落下するため,降雪分布は下層の発散(収束)分布および中・下層の風との関係が深い.