著者
平 篤志
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.173-182, 1993-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

本研究は,アメリカ合衆国シカゴ都市圏における日本企業の立地パターンとその属性,およびイリノイ州と州内の現在地に立地した理由を明らかにすることを目的とする。シカゴ都市圏の日本企業は,1960年代に増加を始めた。日本企業の分布には,2っの集中パターンがある。すなわち,1っは金融業に代表される業務集中地区での集中分布であり,いま1つは一般機械工業に代表されるシカゴ市近郊の北西部,特にオヘア国際空港周辺での集中分布である。現在,日本企業の郊外への移転・新規立地が,日本人従業員の居住地の郊外化を伴って進行している。114社の日本企業に対するアンケート調査の結果を分析すると,シカゴ都市圏の日本企業は,第1にアメリカ合衆国における地理的中心性からイリノイ州を立地場所として選択していることが明らかになった。そして,より地域的なレベルでは,シカゴ市の近郊に立地する場合は,オヘア国際空港への近接性が,またシカゴ市内に立地する場合は,シカゴ市への近接性が重要な要因となっていることが判明した。同時に,シカゴ都市圏の日本企業は,雇用機会を増加させることによって地域経済に貢献していることが明らかになった。
著者
朴(小野) 恵淑
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.57-65, 1992-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

テキサス州南東部のヒューストン大学海岸センター (UHCC) 周辺におはる降水,地表水と浅層地下水中の酸素同位体比 (δ18O)の変動に関する研究を行った。 大気環境に起因する同位体比の急激な変動が1985年1月以来収集した降水に現われている。一1985年1月から1989年12月までの降水の酸素同位体比の荷重平均は約4.48‰である。降水の酸素同位体比の変動は非常に大きい。特に, 1989年6月下旬(熱帯低気圧“All-ison”) と8月上旬(台風“Chantal”)の多量の降水 は非常に低い酸素同位体比を示し,その値は各々-9.5‰, -13.6‰であった。 地下水の酸素同位体比を調べるために1989年1月以来モニターされた。地下水の酸素同位体比の荷重平均は約-4.0‰である。降水の影響は地下水に現われなかった。 地下水とは対照的に,地表水の酸素同位体比は大きく変動する。これはおそらく地表水は各々の多量の降水の後に降水一流出を受けるためと思われるが,一方地下水は長期間に蓄積された数多い降水が含まれているからかあるいは,新しい降水がまだ浅いシルト粘土層に達していないためと思われる。
著者
井上耕 一郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.75-89, 1992-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
20
被引用文献数
15 15

河川縦断面曲線は,従来,平衡河川を表すのに適当であると考えられてきた関数回帰式によって近似的に表現されてきた。日本の諸河川は非平衡河川であるが,その縦断面曲線は,「指数関数」もしくは「べき関数」で表される。適合関数形の違いは,河川の運搬作用の違いに反映していると考えられる。本研究では,河川作用の縦断方向への変化の実態を理解する目的で,「礫径-掃流力-縦断面形」の関係を吟味し,河川縦断面曲線の適合関数形が異なると掃流力や礫径の縦断変化の特徴がどのように異なるのかを論じた。 関東地方の5つの沖積河川において,「粒度組成・掃流力・河川勾配」のそれぞれにっいて,縦断変化を検討した。河床砂礫は2~5つの対数正規分布集団に分けられる。そのうち最大の粒径を持つA集団の運搬形式は掃流形式と解釈され,その粒径は,河川勾配に強く規定された流水の掃流力の大きさに対応していることが確かめられた。 「指数関数形タイプ」の河川では,縦断面曲線の曲率が大きいため,その中流部において,掃流力が著しく減少し,それにともなって-7~-6φの大きさを持っA集団が特徴的に見られなくなる。それに対して,「べき関数形タイプ」の河川は,河川縦断面曲線の曲率および河川勾配の縦断変化が小さく, -7~-6φの大きさを持っA集団は,「指数関数形タイプ」の河川と異なり,河口付近まで存在する。その流下限界は,中~下流部で掃流力すなわち河川勾配が著しく減少する所に相当しており,その地点の河川勾配は,調査対象5河川においては,いずれも約1/1000を示している。またこの位置は,縦断面曲線の適合関数形が「指数関数形」河川よりも「べき関数形」河川の方が,下流側に位置する。 以上の検討から,沖積河川における河床砂礫の大きさは,河川縦断面曲線の適合関数形のタイプに特有な縦断変化を示すと同時に,河川縦断面形状の特徴を反映した水理状態の縦断変化によく対応していることが明らかになった。このことは,河川縦断面形状(適合関数形のタイプ,曲率)から河川の運搬作用や堆積物によって形成される地形が概ね推定できることを意味している。
著者
中野 和敬 シャフディン
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.90-103, 1992-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

西スマトラ州赤道付近でパダン(ミナンカバウ)高原南縁に位置する高地湖周辺域の農業的土地利用変化の要因を解明する試みを自然および社会経済の双方から行なった。 1980年代なかばの土地利用状況の定量的分析に加えて,土地利用の動態と20世紀初頭以来の社会経済条件の変化との関係も調査した。前述の分析の結果の第一の注目点は畑作物の選定が輸送と道路条件ならびに地形条件と関連しているという点である。 この地域の住民が政府の政策によるものも含めて社会経済条件の変化に機敏にかっ合理的に対応してきたとの結論に至った。米作にとって不利な自然環境下で, 1920年代以来の市場経済に対する積極姿勢が特に目をひく。道路網の発達と整備が市場経済の侵透に果たした役割りは大きかった。
著者
丸山 浩明
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.104-128, 1992-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
48

本研究では,浅間火山山麓での実証的な先行研究の成果を踏まえ,まず集落の起源や形態,集落(もしくは農家)を核とする農業的土地利用の種目構成とその空間的配列状況に着目して,火山山麓の農業的土地利用パターンを低位土地利用パターン (A類型),中位土地利用パターン (B類型),高位土地利用パターン(C類型)の散村型 (C1型)と集村型 (C2型)に類型区分した。そして,それぞれの類型の実態とその分布状態の特質を,中部日本の主要な火山山麓全域において検討した。 水稲を中心に果樹,野菜の組みあわせに特徴づけられる低位土地利用パターンは,河川や湧泉,溜池などに隣接した水利条件の良い低平な場所で卓越する。 A類型の主要な分布域は,火山山麓の最下部にあたる標高約700m以下の高度帯に認められる。中位土地利用パターンは,水稲,果樹,野菜,工芸作物を中心に,飼料作物や花卉一苗木類までが混在する多様な土地利用種目構成に特徴づけられる。 B類型の主要な分布域は,水田卓越地帯から畑地卓越地帯への移行部に対応する,火山山麓中腹の標高約1,000m以下の高度帯である。野菜を中心に飼料作物,花卉一苗木類,水稲が組みあわさった高位土地利用パターンは,火山山麓最上部の高冷地を中心に認められる。 C類型のなかで,散村型(C1型)は第二次世界大戦後のいわゆる戦後開拓集落など新開地の土地利用を反映する類型で,自立型の野菜栽培や畜産経営が卓越する。一方,旧集落を代表する集村型 (C 2型)では,戦後大規模な夏野菜栽培が著しく進展した。 C類型の主要な分布域は,一般に火山山麓最上部の標高約900~1,400mの高度帯である。 浅間火山山麓で実証された農業的土地利用パターンの類型分布の垂直的地帯構造は,より広範な中部日本の主要な火山山麓全域においても認められる一般的かっ基本的な特質であることが本研究で明らかになった。これは,中部日本の火山山麓が歴史的に極めて類似した開発過程を辿ってきたこと,土地利用を規定する水利,気温,地形(起伏),土壌などの自然的諸条件や,開拓地・旧集落の立地形態,交通条件,国有地や入会地の分布といった経済・社会的諸条件の特質に,中部日本火山山麓特有の共通性があることなどに起因していると考えられる。
著者
岡田 俊裕
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1-17, 1993-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
44
被引用文献数
2 2

日本において,地理学研究が組織的・本格的に行われ始めたのは1920年代の半ばごろであろう.その後の日本では,十五年戦争によって中国などアジアへの侵略行為を続けた.このことは,日本の地理学研究に直接・間接に影響を与えた.敗戦後,日本はGHQの占領下におかれ,その間,地理学は社会科学的な研究への志向を強め,発展していった. このような社会情況のなかで,飯塚浩二 (1906-1970) は積極的にそれに関与しつっ日本の地理学を啓蒙した.一方,辻村太郎 (1890-1983) は,直接的には社会情況に関与せず,アカデミー地理学の制度的・理論的樹立のために奮闘した.また三沢勝衛 (1885-1937) は,独学で地理学・教育学・自然諸科学などを修め,農村・地方の更生という実践的関心と結びっいた地理学研究と地理教育を展開した. 仮に,日本の地理学研究の流れを,「中央」の主流と非主流および「地方」の分流に三区分できるとするならば,辻村・飯塚・三沢をそれぞれの代表的存在の一人とみなすことができよう.辻村はおもにドイツ地理学の,飯塚はフランス地理学の影響が強く,三沢には欧米地理学の直接的な影響を認めることができない点でも対照的である.これら三者の研究活動の軌跡をたどるならば,近現代日本の地理学思想史を立体的に展望する端緒になると考えられる. その際,次のような点を重視した.第一に個人史的な考察.それは,各学説を動的かっ多面的に把握するためであり,また,各研究者の業績の全体を視野に入れたうえで各部分の内容を理解するためでもある.第二に,学説と時代思潮や学問的環境との関連性の考察.独自の理念の下に一定の社会的責任を果たそうとするほどの研究者ならば,自己をとりまく時代思潮ないし学問的環境を鋭敏に受けとあ,その動向に何らかの形で関与しようとするからである.なお,学問の発達史において戦中と戦後の間に断絶はないと考えた.学問研究は,いっの時代でも特定の環境のなかでなされるのであり,程度の差こそあれ常に時代的制約を受けざるをえない.したがって,戦中の学問研究を特別視することはできないと考えた.
著者
スーザン ハンソン
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.73-78, 1991-12-31 (Released:2008-12-25)

アメリカ地理学者協会会長スーザン ハンソン教授は,国際交流基金の招待で,夫君ペリー ハンソン博士とともに, 1991年6月7日から16日まで, 10日間にわたり日本を訪問された。この招待計画は,東京大学教養学部が推薦機関となり,京都大学文学部および筑波大学地球科学系が共同招聘機関となって実現されたものである。短い滞在期間にもかかわらず精力的に行動され,日本地理学会,一橋大学経済学部,国際交流基金,東京大学教養学部,筑波大学地球科学系,お茶の水女子大学文教育学部,慶應義塾大学環境情報学部,国際教育情報センター,京都大学文学部および教養部,国立民族学博物館を訪問された。その間一橋大学経済学部経済地理学研究室および京都大学教養部人文地理学研究室主催の歓迎会などを通じて, 100名を越える日本側地理学研究者との交流が行われた。 本稿は,去る6月8日午後に一橋大学本館特別応接室で開かれた講演会における「アメリカ地理学界における最近の研究動向」と題する発表要旨を基に,欧文機関紙編集専門委員会委員長の依頼により,帰国後に加筆修正されて投稿されたもので, 7月13日に開かれた欧文機関紙編集専門委員会の承認を得て,ここに掲載の運びとなった。
著者
島田 周平
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.79-97, 1991-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
45

アフリカの人口移動研究の中では,人口移動をより広い政治経済的文脈で分析しようとする傾向が強まりつつある。この研究では,人口移動を経済的政治的変化の一徴候を表すもの,あるいはその変化に対する人々の対応の一つの現れを示すものと見る。ポリティカル・エコロジー的視点は,この研究目的のために有効であり,また1970年以降前例のないほどの好況と不況を経験してきたナイジェリア経済は,調査地として適切なものである。 家族や血縁グループのネットワークが,人々の移動に重要な役割を果たしていることが明らかになった。そしてそれが, 1970年代の経済好況期には,人々を農業から非農業労働ヘシフトさせ,農村から都市部への移動を促し,高等教育への就学を促進した。経済不況以降は,それは都市部で若年者が何らかの仕事に就くことを助けた。もっともそれは都市インフォーマル部門のそれであった。またそれは若年失業者を農村に届あ置くことにも役立った。これらのことは,人々が急激な経済変化に適応するにあたって,人口移動がどのような機能を果たしているのかを示している。
著者
菅 浩伸 高橋 達郎 木庭 元晴
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.114-131, 1991-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
37
被引用文献数
11 12

本研究の目的は,琉球列島・久米島西銘崎の完新世離水サンゴ礁で行った9本の掘削試料をもとに,完新世の各時相における礁原の形成過程の時空間関係を明らかにし,それに関わった地形形成環境を明らかにすることである。試料の解析は,礁の地形構成における掘削地点の水平的な位置関係と掘削試料の放射性炭素年代とその試料の垂直的な位置関係にとくに留意して行い,次のような結果を得た。 7500-2000年前の期間における相対的海水準変化は,海面上昇速度から以下の3っの時相に区分される。 1. 約7500-6500年前:約10m/1000年と急速な海水準の上昇期 2. 6500-5000年前: 3m/1000年以下の海水準の上昇期 3. 5000-2000年前:海面安定期現礁原にあたる部分の礁地形の形成過程は, 3つの形成段階に分けられる。 1. 初期成長期:礁形成の開始は約7500年前である。初期成長段階における礁形成は,完新世サンゴ礁の基盤地形における波の進入方向と斜面の方向との関係と,水深の違いを反映した成長構造の差異が認められる。 2. 礁嶺成長期: 6500-6000年前の海水準面の上昇速度の低下に対応して原地性卓状サンゴによる活発な造礁活動が認められ,礁嶺が海面に達する。この段階において礁嶺頂部がもっとも速く海面に達したのは,前段階までに形成された礁地形の深度が浅く,波の影響を強く受ける位置にあった部分である。 3. 礁原形成期:海面上昇速度の低下とそれに続く海面安定期に対応して,約6000年前に礁原の形成が始まる。まず,礁嶺中央部が海面に達し,続いて礁嶺の外洋側と礁湖側が海面に達して礁原が形成される。礁湖側の上方成長速度にっいては礁嶺中央部の上方成長が遅く,かっ水平的な連続性が悪いところほど速い。 完新世サンゴ礁形成に関わる諸要因については,主に海面上昇速度と波の進入方向がサンゴ礁形成過程に作用している。サンゴ礁形成の結果つくられた地形は,次の礁形成に作用する要因となっている。
著者
加賀美 雅弘
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1-14, 1992-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
21

住民の健康状態(疾病)の地域差に着目することによって地域性を把握することが本稿の目的である。健康状態を表現するデータを入手することは一般に難しく,多くは歴史的な資料に限られる。ここでは,北イタリアのアルトアディジェ州(南チロルとトレンチーノ)がかつてオーストリア帝国領であった1910年に実施された徴兵検査の結果個票を分析資料とした。この資料には,徴兵検査の合・不合格の判定はもとより,不合格理由としての疾病,住所,身長,母国語など個人の属性が載せられている。 この隣接する二つの地域は,中世以来,南チロルにドイツ系がそしてトレンチーノにイタリア系の住民がそれそれ居住してきたために,両地域の性格には明瞭な差異が観察される。この違いは住民の健康状態にも反映されている。たとえば徴兵検査の結果である合否の割合を見ると,南チロルに比べてトレンチーノでは不合格者の割合が高い傾向にある。また,疾病の種類にも地域的な違いが認められる。とりわけ注目されるのが,トレンチーノの農村,山地地域に目立って発生する皮膚病と甲状腺疾患である。この二つの疾病は, 1910年当時,トレンチーノに蔓延していたペラグラと甲状腺腫を意味するものと言える。そこで,この二つの疾病に関与する地域の諸要素を総合的に捉えることによって,疾病に着目したトレンチーノの地域性を描写することができた。
著者
田中 恭子 カセッティ E.
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.15-31, 1992-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
39
被引用文献数
1 1

人口転換理論の最終段階における出生率の低下は,周期的な変動をすることに特徴が見られる。欧米先進諸国と同様に,日本でも周期的変動がみられたが,空間的側面の変動にっいては余り研究が行われていない。本研究は1950年から1985年の間における日本の出生率の空間的変動,及びその都市化レベルとの関係の変遷にっいて分析を行った。分析方法はエックスパンション法に基づき,パラメーターの変化を検証した。その結果,第二次ベビーブームは,伝統的な都市・農村問の出生率較差の逆転をまねく,、特異な空間的パターンを出現させ,また上昇・下昇のサイクルは特に都市において激しかったことが明らかとなった。
著者
シュルンツェ・ ロルフD.
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.32-56, 1992-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
71
被引用文献数
1 5

本稿は旧西ドイツにおける日本企業の空間的拡散を,経済の重心の北から南への移動を背景たして説明する試みである。従来の研究は日本企業のデュッセルドルフへの集中を指摘しているが,この指摘は動態的な視点からみると現状に合わない。既に日本企業の分布は拡散段階に入ったと考えられる。 階層的拡散プロセスのイPノベーション中心はハンブルク,フランクルフト,シユツトガルトとミュンヘンであり,各中心からその周辺地域に向かう波状的拡散はそれぞれ異なった時期に生じた。商業・サービス業部門では階層的拡散が,生産部門では波状的拡散がみられ,拡散は主に南方に向かった。 上記の拡散プロセスを説明するたあに,いくっかの仮設を非線形重力型重回帰モデルを用いて検討した結果,三っの要因が拡散メカニズムの決定に関して有意性を示した。第一の要因は日本企業の情報ネットワーク(特に日本商工会議所の会員である企業),第二はデュッセルドルフからの距離,第三め要因は中心性である。 日本企業の立地行動は,一方では旧西ドイッの都市システムの変化に影響され,他方では日本企業自体の構造変化の影響を受けている。商業・サービス・生産の各部門はそれぞれ特徴的な立地パターンを示す。以上の結果より,拡散の進んだ段階においては外国企業の立地行動が都市システムの変化の簡便な指標となりうることが示唆された。
著者
中川 正
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.139-155, 1990-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
33
被引用文献数
1 2

本稿は,超有機体的文化が文化景観を形成するとする従来の全体論的な理論の反省から,演繹的な景観解釈モデルを構築し,それを合衆国ルイジアナ州における墓地景観の解釈に適用したものである。まず,究極的には個人のみが墓地景観を形成する営力になりうるとの前提から,人間の行為のモデルを構築した。このモデルによると,文化は人間を支配する実体として捉えられるのではなく,個々の人間が自分の意志に基づいて行う集団へのアイデンティティの表現とみなされ,その文化は集団間の比較のみによって発見される。各々の個人が表現するアイデンティティの対象は様々であるので,文化はいわゆる文化地域間の比較からのみではなく,宗教,人種都市・農村など様々な集団の比較によって発見されうる。本稿では,その中から (1) 北ルイジアナと南ルイジアナ, (2) カトリックとプロテスタントという2対の集団の墓地景観を比較することによって,それぞれの文化を発見することを試みた。層別抽出法によって抽出された236の墓地の実地調査と,その後の分析・統合の結果,本稿で構築したモデルが,従来の超有機体的理論と比較して,分布の説明,体系的な叙述,地域区分,集団の特性の理解などの文化地理学の目的追究のうえで,より効果的であることが示された。
著者
松本 淳
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.156-178, 1990-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
49
被引用文献数
8 9

熱帯におけるグローバルな風系の季節変化を主に850 mb面について解析し,気象衛星観測による赤外長波放射量を用いた雲分布の季節変化との関係を明らかにした。 850 mb面での赤道西風が,急激に位置や分布を変えることが,季節推移のなかで,しばしば認められた。広域でその変化が起こる時期は,3月上旬・3月下旬・4月中旬・5月中旬・6月中旬・7月下旬・9月上旬・10月初旬・10月下旬・ll月中旬・12月下旬に認められた。これらの時期には,雲分布においても大きな変化が認められることが多く,グローバルな熱帯地域の自然季節が,11に区分できた。 これらの各季節の850mb面の風とOLR分布の季節合成図を作成し,各季節の特徴を記載した。各大陸毎の季節変化過程における違いが明らかにされ,雲分布の季節変化とは時期がずれることが多いことがわかった。また,各経度帯によって,赤道西風が出現する季節は異なっており,季節変化過程を3つの型に類型化した。年間を通して赤道西風がみられるのは,インド洋地域のみであった。さらに,赤道西風の北限・南限・分布最小期におけるグローバルな分布域が示された。
著者
増原 孝明
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.179-187, 1990-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17

東京都心付近と周辺の郊外部のタワーデーター等を使用して,接地層の鉛直熱拡散係数 (Kz) の季節変化,時間変化の地域的な傾向の相違を調べた。 この結果,夏期を除いて夜間に都心域のKzが郊外域のKzをかなり上回る傾向が見られ,特に12月の夜間にその傾向が顕著であった。そして,日中のKzの最大値を早朝の最小値と比べると,郊外域では前者は後者の40~80倍程度,都心域では10~20倍程度を示した。都心域の地表面粗度の影響はKzの日変化幅と比較するとさほど大きくないが,夜間にはある程度見られた。 これに引き続き高濃度日の夕刻~夜間におけるCO濃度の簡単な数値シミュレーションを実施した結果,都心型及び郊外型の二つの濃度時間変化タイプが,夕刻の接地逆転層強度が都心部よりも郊外部でより急激に増大するという事実に起因するとみなされるKzの時間変化の違いを導入することによって,うまく説明されることがわかった。
著者
アジズ M.M.
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.188-197, 1990-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本研究はクウエートにおいて, 1985年に死因の40%以上を占めた外因性疾患による死亡を地域的に考察したものである。クウエートの人口は,クウエート人と非クウエート人の2つの明瞭に異なるコミュニティから成り立っており,両グループの社会的,経済的,人口学的性格は死亡の分布に大きく影響している。 死亡率は,死因に関する国際分類により,クウエート人・非クウエート人別に, 10万人ごとに算定した。外因性死亡は細菌・寄生虫感染によるものと,心疾患・腫瘍・事故を除く,それ以外のものに分けられる。前者は,減少しつっあるが, 1980年の死亡の10%を占め,クウエート人と男性に著しく,クウエート市を含む首都地区では,死亡の半数が寄生虫病によるものである。後者による死亡は, 1970年に60%であったものが, 1980年には40%台に減少した。クウエート人の死亡者数は,非クウエート人の2倍以上に上り,クウエート人の男性と非クウエート人の女性に顕著である。死亡者数は,クウエート人・非クウエート人ともに人口密集地区において多く見られるが,呼吸器系統の疾患が,特にクウエート人の主たる死因となっている。
著者
大友 篤 カオリー リヤウ 阿部 隆
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1-23, 1991-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
19
被引用文献数
2

本論文は, 1980年国勢調査の結果に基づき,日本における1979—80年の都道府県間人口移動の流出及び到着地選択過程を年齢別パターンをとおして明らかにしたもので,その概要は以下のとおりである。 流出過程に関しては, (1) 全体の流出率の空間パターンは,複雑であるが,体系的であり,流出率は,都道府県の経済機会や住宅事情ばかりでなく,出生地や住宅の所有の関係に関わる都道府県の人口構成に依存していることが示唆されること, (2) 流出率の空間パターンは,年齢にしたがって体系的に異なり,とくに都市地域で低く,農村地域で高いという最も単純なパターンをもつ15—19歳の年齢層と関わっていること,そして, (3) 流出率の年齢別パターンは,大都市地域の中心部と縁辺の農村県との間で著しく異なることが明らかになった。 到着地選択過程に関しては, (1) 東京都と大阪府は,流出超過を示すにもかかわらず,多数の県からの最も好ましい到着地であること, (2) 到着地選択過程は,年齢にしたがって体系的に異なり,とくに最も顕著な集中パターンを示す15—19歳の年齢層と関わっていること, (3) 35—39歳の年齢層は,かなり分散した到着地選択パターンを示し,この年齢層の東京と大阪の影響圏は,地方中核都市や出発地の近傍の到着地によって大きく分断されているごと,そして,(4)流出選択過程の年齢選好性は,大都市県からの移動者の場合にはかなり弱く,非大都市県からの移動者の場合にはかなり強いという,大都市地域と非大都市地域の間で,明瞭な対照を示していることが明らかになった。
著者
水内 俊雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.24-49, 1991-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
41

地方政府による公共サービスの供給は,経済社会政治的に多様な様相を有する。近年人文地理学において,国家や地方政府の役割,特に国家の介入と言う概念が重要視されてきた。この背後には人文地理学における多様な社会理論論争があった。本稿ではこうした欧米諸国の知的刺激を,戦前期の都市財政資料を用いて,マクロ理論的にかっ歴史的具体的に展開しようとするものである。この展開に際しては,実在論者 (Realist) の示唆する理論的多元主義 (Theoretical pluralism) を念頭においた。国家の役割に関する唯物主義的見方,そして公共サービスの地理学で得られた成果などを折衷的に利用して,戦前期の日本の都市財政構造と,公共サービスの供給パターンを明らかにした。 6大都市政府による都市建造環境への介入の圧倒的な強さが証明され,その政治的社会的背景も明らかにした。またその他の都市についても,地方特有の性格を重視することにより,公共サービス供給に関する柔軟な説明を加えることができた。
著者
菊池 多賀夫 菊池 庸子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.69-71, 1991-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
9

仙台市中心部の街路に植裁されたシナノキの葉の展開時期が,郊外に生育する個体にくらべて約10日早いことが見いだされた。この早期の葉の展開はヒートアイランドの影響とみられ,葉の展開時期の差から逆算される市街中心部と郊外の温度差は, 1ないし1.5°C程度と見積られた。
著者
中川 聡史
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.34-47, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
18
被引用文献数
1 3

本研究は東京大都市圏における5歳毎の年齢別居住パターンの特徴とその近年の変化を記述し,それらを人口移動に関連づけて説明することを目的とした。分析手法として多変量解析を用いずコーホート分析を利用し,以下の諸点を明らかにした。 5歳毎の14の年齢階級の居住パターンを1960年から1985年まで検討すると,大半が同心円的であり,一般に0~14歳と30~44歳は大都市圏内の外圏において相対的に高い構成比率を示し, 15~29歳と45歳以上は内圏で構成比率が高くなる。 1980年以降はこの傾向に多少変化が見られ, 15~19歳と45~49歳はむしろ外圏で, 30~34歳は内圏で高い構成比率を示すようになった。 2) 東京大都市圏をめぐる人口移動の主要な流れとして,大都市圏外から大都市圏の内圏への10歳代後半から20歳代前半の若者の移動と,大都市圏の内圏から外圏への20歳代後半から30歳代とその子供たちの家族の移動の2つが見いだせた。これらの2つの人口移動が前述の基本的な年齢別居住パターンの傾向を形成している。 3) 応用的なコーホート分析の結果,東京大都市圏では近年,若者全体に占める圏内育ち者の構成比率が急速に上昇していることが明らかになった。その要因として,圏外からの若者の流入数の減少とともに, 1950年代, 60年代に東京大都市圏に大量に流入した人々の子供にあたる世代が1980年頃から10歳代後半に達し始めたことが挙げられる。圏内育ちの若者の近年の居住パターンは,彼らの親世代の郊外への移動を反映して,外圏で高い比率を示す。こうした郊外の成熟が1980年以降にみられる年齢別居住パターンの変化を引き起こしていると考えられ,年齢別のセグリゲーションは少なくとも東京大都市圏の内圏・外圏というレベルでは,今後弱まっていくと予想できる。