著者
内山 幸久
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.60-72, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
7

東京大都市圏南部に位置する神奈川県では都市化・工業化が進み,都市的産業に従事する人が増加してきた。神奈川県の人口は国勢調査によれば1960年に3,443,162人であったのが,1985年には7,431,974人となった。人口増加とは逆に農家数や農家人口が減少し,特に農家人口はその25年間に50%以上の減少率を示した。また耕地面積も25年間に54.7%の減少率を示し,多くの農地が都市的土地利用に変わってきた。しかしその中で三浦市は東京への通勤圏内に位置するにもかかわらず,耕地面積の減少は少なく,スイカ・ダイコン・キャベツの産地となっている。一方,果樹園は1960~75年に増加したが,その後その面積はわずかに減少した。果樹園の多くは温州ミカン園であり,温州ミカンは県西部の山麓傾斜地で多く栽培されている。 神奈川県では乳牛や豚や採卵鶏の飼育農家数は1960年以降減少してきたが,家畜飼育頭羽数は1975年以降あまり変化せず,農家の家畜の生産性が増加してきた。 1960~85年の農業粗生産額により,各市町村における農業所得型をみると,県東部から中央部にかけての都市化が激しい地域では,野菜類を第1位とする市町が増加してきている。また,県西部では果樹類を第1位とする市町が増加してきている。さらに県の東部から中部にかけて花卉類を農業所得型に含む市町が増加してきた。さらに県西部では植木苗木類を農業所得型に含む町村が近年に増加してきた。一方,県の東部から中部にかけて,農業生産の型に乳牛・豚・採卵鶏を含む市町が増加してきている。生産された農産物の多くが東京大都市圏の市場で販売されている。
著者
新井 正
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.88-97, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
5 7

都市の人工的な地表面や地中構造物は,地下水・河川などの水の循環を変化させる。都市の拡大により,この変化は広い地域に及ぶようになる。水収支・水量の変化に加えて,水質の悪化が都市水文のもう一つの要素になる。 東京の河川は低地部の河川と,台地部の小河川に分けられるが,特に後者に都市化の影響が著しく現れる。地下水位の低下により小河川の水源が枯渇し,水質の悪化をももたらす。地下水位の低下の原因は,コンクリートなどによる雨水浸透の減少,地下水の揚水,下水道や地下道への地下水の流入などにある。一方,上水道からの漏水が地下水を補給している。これらは土地利用の変化と密接に関係しているので,土地利用の変化と流出率とを基礎にして,東京の水収支変化を推定した。その結果,特に1960年代に収支の悪化があったことが推定された。 東京の小河川の水源である湧水の分布を調査した結果,武蔵野台地の中央部や低い崖にそう湧水の多くは既に枯渇し,武蔵野礫層を切る高い崖にそう湧水のみが活発であることが明らかになった。湧水は,小河川の水質のみならず,景観の保全にも役だっている。
著者
山下 脩二
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.98-107, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
11
被引用文献数
5 7

本報告は東京の都市気候について主として地誌的観点から述べたものである。取り扱った気候要素は温度,降水量,湿度と日射量である。ただし, YOSHINO (1981), KAWAMURA (1985), YAMASHITA (1988) に部分的に東京の都市気候や大気汚染について発表されているので,ここでは主としてこれら3論文で扱われていない現象ないし観点から東京の都市気候を説明することを試みた。 気温は先ず観測開始以来からの経年変化を季節別に示した。次に東京のヒートアイランド強度を時刻別・季節別に示した。また,府中と越谷を東京の郊外地点の代表として選び,東京との気温差からヒートアイランド強度の頻度分布の日変化を求め,また,風向・風速による違いを示した。 降水量については,観測開始以来の年降水量の経年変化を求め,さらに降水日数の階級別頻度分布を示した。階級区分は, 0.0mm, 0.1-1.0mm, 1.1-9.9mm. 10.0mm以上である。また,31mm以上の対流性の雨の日数の都心と郊外の比較から,都市の影響が単純ではないことを示した。 湿度については近年急速に減少していることを示した。また,日射量については, 1972年以来の減少示数の季節別経年変化を示し,トータルでみた場合の都市大気質の変化は必ずしも改善されているわけではないことを明らかにした。
著者
松田 磐余
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.108-119, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
22
被引用文献数
3 3

東京低地は,低平でかつ軟弱地盤が厚く堆積している。この低地の土地利用は,江戸時代までは隅田川沿いに市街地が立地していた他は,農業に利用され,そこでは水害はある程度許容されていた。明治時代以降の工業化は,水害を許容できない土地利用を展開し,荒川放水路の建設を促した。また,地下水の過剰揚水により,地盤沈下を発生させ,0メートル地帯を誕生させた。 0メートル地帯は,現在68km2に達している。災害に対して脆弱な条件を元来持っていたうえに,0メートル地帯の発生は,東京低地における災害対策を一層困難にした。 東京に大被害をもたらした地震には,直下地震とプレート境界に発生する大規模な地震がある。前者の例は安政江戸地震 (1855年)で,後者の例は関東地震 (1923年)である。関東地震では同時に多発した火災による被害が著しかったので,現在の地震対策では火災対策が重要視されることになった。水害には,大河川の氾濫,高潮,内水氾濫,がある。さらに,地震による堤防の決壊などにより惹起される水害も予想される。東京都では災害対策を,長期的な都市計画や環境整備計画に取り込みながら進めてきた。なかでも代表的なのは江東デルタ地帯での取り組みである。地震に対しては6つの防災拠点が計画され,白髭東地区では完成し,他の地区でも事業が着手されている。防災拠点では,避難地としての機能が備えられる上に,日常生活でも良好な環境が整備され,災害に対して備えをもったコミュニティの育成が行われている。水害に対しては,外郭堤防や,排水機場の建設が行われると共に,内部河川の改修が進められている。不要な河川は埋め立てられたり暗渠化されて,オープンスペースとして活用されているし,有用な河川の両岸には耐震護岸が建設されている。 自然災害への脆弱性は,土地自然に求められやすいが,土地利用や災害対策と深い関わりを持つことは言うまでもない。本論では,東京低地の自然的条件,土地利用の展開,自然災害,災害対策の歴史を概観しながら,前の時代に行われた自然の改変や土地利用が,次の時代の都市改良や災害対策の初期条件となっていく過程を明らかにした。
著者
田辺 裕
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.120-132, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

従来,都市と都市住民や市民などの概念は,夜間人口に基礎をおいてきた。しかし都心行政区における夜間人口の減少と郊外市町村における遠距離通勤・通学者の増加は,この古典的概念を根底から覆しつつある。従来,都市とは居住し,働き,家族生活を営む場であったが,その主要な担い手であった都心住民は,職住分離によって郊外に転出しつつある。他方,遠い郊外からの通勤者は,都市行政と都市計画に参画すべき,公法的な権利を奪われ,しかも家族生活の場である都市に所属する意識を失いつつある。またここには生活圏の2重の分裂が見られる。 第一の分裂は通勤者相互間にある。これは旧都心に通勤する人々を除いて,多くの通勤者が家庭生活の場としての郊外と,労働の場としての新都心(副都心)群の一つとを焦点とした楕円状の分都市圏とも呼ぶべき生活圏に所属し,その圏域外の他の新都心とは精神的にほとんど無関係に生活していることである。いいかえれば,住民相互に共有する市民意識が失われていることである。第二の分裂は同一家族の構成員相互間にあって,都心方向に遠距離通勤する父,近くの郊外都市に通学する年長の子供,ごく近距離通学の低学年の子供,家に残る母や老人,それぞれの生活圏が分裂し居住市区町村への帰属意識にもずれが生じていることである。 このような都市住民を,参加度と要求度によって,伝統型,無関心型,要求型,近代型と4分類してみると,都心や農村に見られた,居住し,働き,しかも家族とともにある伝統型は減少し,郊外には職住分離した,都市行政に参加しない無関心型や要求型が増加して,他方市民意識を持とうにも住民ではない近代型が現れている。
著者
野元 世紀 杜明 遠 上野 健一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.137-148, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1

雲南省西双版納の景洪,劾養盆地で1986年~87年, 88年~89年の寒霧季,冷気湖と霧の観測を行なった。盆地大気下層の気温プロファイルは霧形成時に大きく変化する。霧形成時に気温の逆転層,すなわち冷気湖が発達する。しかし下層の逆転は霧形成時に消滅し,不安定なプロファイルが形成される。 逆転層や不安定大気の発達は盆地内の地形環境に強く影響される。そのため両盆地における夜間の気温プロファイルの変化は異なる。霧の発達は気温のプロファイルに関係するので霧のラィフサィクルについても両盆地で差が見られた。さらに冷気湖の発達や霧の形成にメソスケールの循環系の関学が示唆された。
著者
吉野 正敏
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.149-160, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28

この論文は先ず気温・霜・降雨・霧・日照などの気候条件について論じ,次にそれらがゴム,茶,米,サトウキビなどの栽培に与えるインパクトについて論じた。寒波はまれではなく,上記の熱帯作物にひどい被害をもたらす。斜面では冬もなく夏もないよい気候は1,300mから1,650の高度に認められる。谷間や盆地底では周辺の斜面とは異なる条件をもっており,違った作物栽培や異った収穫季のために利用される。春の干ぽつは年によりひどい。灌潮iがその対策のために必要である。また,気候変動,寒波,局地循環などの気候条件が西双版納の山地農業の発展を考える上で重要であることを論じた。
著者
安成 哲三 田 少奮
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.161-169, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
11
被引用文献数
3 4

中華人民共和国の雲南省全域における寒波の時空間構造を,28年間 (1958~1987) の冬 (12, 1, 2月)の月平均気温偏差に主成分分析の手法を適用することにより調べた。また,卓越する寒波のモードが,中国全域に影響を及ぼす寒波の卓越モードと,どのような関係にあるかを,中国全土160地点の同じデータの主成分分析の結果と比較することにより,考察した。その結果,雲南省全域で最も卓越する寒波の型は,より巨視的にみると,チベット高原から雲貴高原,さらに華南南部にかけての山岳・丘陵地にのみ集中して襲来する寒波(雲南モード)に対応していること,これに対し,長江の中・下流を中心として中国平原部全域に最も卓越する寒波(平原モード)の影響は,雲南省では比較的小さく,よりローカルであることがわかった。雲南モードの寒波は,チベット高原から吹き降りて来る寒気団と,高原北(東)縁を地形に沿って流れ降りて来る沿岸ケルヴィン波的な寒気団の振舞いが重要であることも示唆された。 これら二つの寒波のモードに対応する大規模循環場を,北半球全域の500mb高度偏差と,地上気圧偏差の合成図手法により,調べた。その結果,雲南モードは,偏西風の遙か風上側である,ユーラシア大陸西部と北大西洋からグリーンランド付近での循環場の偏差と密接に関連していること,これに対し,平原モードは,中国北東方のシベリア中・東部での低指数型循環と寒気団の南下に,より直接的に対応していることが明かとなった。
著者
永塚 鎮男 漆原 和子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.170-178, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
8

海南島は,亜熱帯から熱帯への移行帯に位置しているとともに,降水量の多い東部から乾燥した西部へ向かって湿潤度が次第に低下しているため,成帯性土壌の分布様式もかなり複雑である。この島の成帯性土壌型の国際的土壌分類体系における位置づけを明らかにするために,代表的な土壌型であるラトソル(傳紅壌),ラテライト性赤色土(赤紅壌),鉄質ラトソル(鉄質傳紅壌)の3種の土壌断面について一般理化学性,粘土鉱物組成,鉄化合物の存在様式を分析し,アメリカの分類体系, FAO-Unescoの分類体系ならびにフランスの生態的土壌分類体系における分類単位との対比を試みた。対比の結果は以下のとおりである。 1) 5ケ月間の乾季がある亜熱帯ないし熱帯季節雨林気候下のラトソルはオキシックロドアスタルフ(USA), クロミックリキシソル (FAO-Unesco), 典型的熱帯鉄質土(フランス)にそれぞれ対比される。 2) 乾季が4ケ月間ある亜熱帯季節雨林気候下のラテライト性赤色土は,オキシックハプラスタルト (USA), ハプリックアリソル (FAO-Unesco), 塩基未飽和熱帯鉄質土(フランス)にそれぞれ対比される。 3) 亜熱帯ないし熱帯雨林気候下の鉄質ラトソルは,トロペプティックハプロルソックス (USA), ローディーックフェラルソル (FAO-Unesco), フェリソル(フランス)にそれぞれ対比される。したがって,海南島のいわゆるラトソルやラテライト性赤色土は真のラトソル(オキシソルあるいはフェラルソル)のカテゴリーには入らず,鉄質ラトソルだけがかろうじて真のラトソルに属すものと見なされる。
著者
高橋 英紀 中川 清隆 山川 修治 田中 夕美子 前田 則 〓 永路 謝 羅乃 曽 平
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.179-191, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

中国海南島の北部にゴムの木のプランテーションが展開されている農場(林段)があるが,そこで1986年4月から1989年3月までの3年間に観測されたデータを基に,微気象特性を調べた。粗度,地面修正量,ゴム林のキャノピーを通過する放射透過率など空気力学的パラメーターは,落葉前後で明らかに異なる。キャノピー上の短波放射のアルベードは,冬季には10%であるが,夏季と秋季には16%になる。落葉後,キャノピー上の顕熱フラックスが増加すると,潜熱フラヅクスは急激に減少する。林床上における顕熱フラックスは1日を通して非常に小さい。また,夜間には,負の正味放射による熱の損失があるが,それは地熱フラックスにより補償されることなどが明らかとなった。
著者
阿部 和俊
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.17-24, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
5
被引用文献数
3 3

本稿の目的は,日本の首都東京を経済的中枢管理機能という高次都市機能の分析を通して,日本におけるその地位を検討することである。 都市機能の観点からみると,現在の東京を特色づけているのは何よりも大企業本社の集中である。本稿では,日本の民間大企業と日本における外資系企業の本社立地の分析を通して,首都東京の姿を浮き彫りにすることを目的とする。 我が国においては,民間企業本社の東京集中は著しい。しかし,東京への本社集中はとりたてて最近の現象ではない。それは早い時期からみられたのであり,今でもそれが強まりつつ継続している状態であると言えよう。そのことは当然の結果として,日本第2位の都市たる大阪の東京に対する相対的地位低下という事態を招いた。しかも,その傾向は今後しばらくの間は続くことが予想された。 外資系企業本社の立地動向をみると,日本の企業以上に東京への集中は激しく,東京と他都市との差は大きなものであった。
著者
高橋 伸夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.25-33, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
6

地域の動態に作用する資金の役割はきわめて大きい。本論は東京が近年国内外の資金をいかに吸引し,都市の内部を変容させるととも,他地域との結合をいかに進めているかを考察しようとする。 東京は全国から資金を吸収し,民間金融機関のとくに貸付機能に特化している。近年,東京都心部は銀行をはじめ金融機関の店舗密度をますます高めつつある。このような都心部への金融機関の極度な集積傾向は,世界の大都市にみられる「シティ (City) 現象」と同様な様相を呈している。すなわち,シティ現象とはロンドンの旧市街のCityのような都心部に典型例が見い出せるように,金融機能や経済中枢管理機能によって,ある地区がひたすら占拠されてゆく過程である。 近年,国内外の資金流動の活発化,金融機関業務の国際化,円の国際化などによって,「金融の国際化」・「金融のグローバリゼーション」が急速に進行し,外国銀行や外国証券会社が東京を中心に日本に進出してきている。 東京のような大都市においては,金融機能と本社機能が中核になって中心業務地区が形成され,貸付空間がそこに明確に画定されうる。一方,近年,副都心が形成され多核的な新たな貸付空間が生じている。同時に,人口の郊外化とともに預金空間は外縁部へ向けて拡大しつつある。東京のような大都市は,それ自身の大都市圏からの資金の吸収にとどまることなく,全国の中小都市から広範囲にわたって資金を吸引するため,二重構造をなす預金空間を有する,さらに,近年,金融の国際化によって,東京のような大都市には世界に広がる金融空間を操作する高次な金融機能が集積し,三重構造をなす金融空間が形成されている。 東京における国内外の金融機関の極度な集積は,地価の高騰をはじめとした都市問題を引き起こすとともに,都心部の再開発や東京湾岸のウォーター・フロントの利用などにみられるように,都市計画の施行を回避できない状況に至らせている。
著者
アジズ M.M.
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-13, 1989-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
48

本研究はクウェートにおける3大死亡原因を地域的に考察したものである。クウェートの人口は,クウェート人と非クウェート人の2つの明瞭に異なるコミュニティから成り立っており,両グループの社会的,経済的,人口学的性格は死亡の分布に大きく影響している。 死亡率は,死因に関する国際的分類により10万人ごとに算定した。主な死因は腫瘍,循環器系疾病,事故傷害の3つで,これらで全国の死亡の3分の2近くを占める。特に循環器系疾病による死亡率は高く,次いで事故傷害,腫瘍の順である。 クウェート人の間の死亡率は非クウェート人のそれよりも高い。また,両コミュニティとも,女子より男子の方が死亡率が高い。地域的には,クウェート市を含む首都地区とジャハラ地区で特に高い。移民は,事故傷害にかかりやすい。
著者
溝口 常俊
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.14-34, 1989-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
49
被引用文献数
1 1

焼畑村落の変容過程を江戸時代初期から現在にわたって明らかにすることが本稿の目的である。従来の研究において,焼畑は時代が下ると少なくなると信じられていた。しかし,白川郷を対象とした本研究においては反対の結果が得られた。すなわち,焼畑は江戸時代初期から明治後半にかけてむしろ増えてきたのである。生産性の乏しい地域にもかかわらず,この時期に人口が増えているのは膨大な焼畑開墾によるものと考えられる。焼畑が減り始めたのは明治後半以降のことである。 焼畑主要地は居住地周辺から遠ざかり,山地の緩やかな斜面から急な斜面へと移っていった。農業的な土地利用の変容過程として,仮説の一つとして唱えられていた焼畑から水田という変化は白川郷では認められず,ほとんどの焼畑が森林もしくは畑地に変っていった。明治後半,白川郷には630筆の焼畑があった。1筆の平均面積は約1haであった。焼畑は700-1,000m,居住地から1-2km,傾斜20-30度の東斜面に最も多く分布していた。 土地保有の変化に関して,以下の結果が得られた。本百姓と本百姓に従属する抱からなっていた元禄時代の村において,本百姓の間では土地保有上顕著な差はなかったが,抱は本百姓より少ししか保有していなかった。しかし,江戸時代後期になると,両者ともに新しい土地を開墾し始め,ともに焼畑を開いた。安永時代までに,抱はかなりの土地を保有するようになり,本百姓から独立していった。同時期に,多くの村有の焼畑が開かれ,その共有の焼畑は村のいかなる農民もいつでも自分の利益のために使うことが認められていた。それゆえに,この地域では,他の一般の近世村落とは異なり,農民層の顕著な分解はみられなかった。 近世における広大な焼畑の開墾,焼畑耕地の分散と共同作業,農民層の未分解,焼畑の森林・畑地への転換などの事象は,山梨県湯島村でも追跡でき,焼畑村落の共通した性格と考えられる。
著者
知念 民雄 リヴィエール アン
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.35-55, 1989-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
57
被引用文献数
3 6

1977-1878年噴火によって荒廃した北海道有珠山の火口原全域において,1977年から1984年に至るあいだの自然の植生回復と地形プロセス(侵食および堆積プロセス)との関連を調査した。調査方法は,おもに野外での観察・観測と航空写真判読によった。 植生回復プロセス-残存(survival)と種子散布による侵入(invasion)-と地形プロセスとの関連はダイナミヅクな様相を呈した。残存は植生回復に大きく貢献した。樹木の親株と埋没落枝からの萌芽は新期テフラに浅く覆われた(約50cm以下の層厚)区域でしばしば観察された。数多くの草本植物の地下茎からの回復-樹木に比較して容易に厚いテフラ層(約1mの層厚)を貫いた-は広範囲にわたった。テフラに厚く覆われたが,2次的に開析された斜面においては,リルやガリーに沿う草本植物の残存と侵入が一般的に認められた。軽い風散布種子起源の先駆木本植物は,はじめに火山灰と軽石に特徴的に覆われ,かつ地形プロセスの鎮静化した扇状地に侵入した。草本植物の侵入も,同様に火山灰地より軽石質の区域に優勢であった。リルおよびガリー侵食は,植生回復に物理的被害をおよぼす反面,有機物や種子を外輪山内壁から斜面下部そして火口原へと運搬すると同時に,旧土壌を露出するという重要な役割を演じた。 斜面と扇状地における先駆木本および草本植物の定着の経時変化は地形プロセスの不活発化に大きく左右された。表面侵食速度は顕著な植被回復の開始以前に急減した。このことは,実際の植被回復が加速化した侵食を和らげるのに大きな役割を果たさなかったことを示している。むしろ,地形プロセスの不活発化が植生回復を規定したと言える。 以上のことは,植生回復が基本的には噴火の直接的被害-とくに植生の破壊程度とテフラ層厚-と噴火後の地形プロセスとその推移に大きく依存することを示している。
著者
正井 泰夫 中村 静夫 大竹 一彦 三村 清志
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.56-71, 1989-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
20

日本の都市地図・アトラスは,日本という風土の中で特徴ある発達を示してきた。江戸時代に大きく発達した絵図的都市地図は,特に百万都市江戸において都市案内図として役立った。明治以後の近代化の過程で,欧米の先進技術が導入され,地図作成法も大きく変化したが,さまざまな面で日本的対応が見られたことも事実である。 今日,国土地理院が大縮尺都市地図のシステム化で果している役割は非常に大きい。また,各省庁,地方自治体,民間企業でも,国土地理院の指導の下に,または密接な協力関係において,詳細な大縮尺地図を作成している。国土地理院は現在,1:10,000地形図シリーズを刊行中であり,これは全国の主要都市へ適応されることになっている。地方自治体等でも,国土地理院の設定したガイドラインの下に,1:5,000から1:2,500程度の大縮尺地形図を作成している。市街地でも地籍図の作成が少しずつ進められているが,正確な地籍図を全面的に完成させるには,従来からの足かせが余りにも大きい。 きわめて詳細なタウンマップの重要性は特に主題図において高い。民間企業による1:1,OOOあるいは1:2,000程度の住宅地図類が全国的規模で出版されているが,この利用度は高い。主として若者向けの買物・レジャー関連の大縮尺タウンマップが多数出されている。歴史的都市アトラスの作成も,東京を中心に盛んとなっているが,大縮尺のものの出版も進み,専門家や中高年を対象として販路がふえている。この種の地図・アトラスは,次第に若者や外国人の関心を呼んでいるが,これには世界最大都市としての東京の過去に対する関心の高まりが反映していよう。
著者
石川 義孝
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.75-85, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
33
被引用文献数
3 4

競合着地モデルは,地図パターン問題(空間的相互作用モデルにおける距離変数にかかるパラメーターの推定値が,対象とするシステムの空間構造の影響をうけて歪んでしまい,結局モデルの誤った特定に陥ってしまう,という問題)の解決に向けての曙光と評価される。しかし,この新しいモデルの根底にある二段階目的地選択過程という前提は,これまで経験的に論証されていなかった。本稿は,概念上競合着地モデルと対応するネスティド・ロジヅト・モデルを用いて,この課題に取り組んだものである。1980年におけるわが国の各都道府県からの移動者データの分析を通じて,このモデルにおける合成変数にかかるパラメーターが,一段階目的地選択を含意する値から有意に離れていることを確認した。この知見は,上記の二段階目的地選択過程が作用していることの証左とみなしうるものである。さらに,異なる選択トリーがモデルの実行度に与える影響についても,論及した。
著者
萩原 八郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.86-103, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
41

この小論でとりあげる4都市は,人文・自然環境ともに大きく異なるが,その基本的都市施設である給・排水施設に着目し,地域性の理解を比較によって試みた。手順としては,まず東京とメキシコ市について比較・考察し,次に先進国と開発途上国の巨大都市という両者の関係をより多元的に検討するために,先進都市であるパリ,そしてメキシコ市同様に都市問題に苦慮するサンパウロの事例をとりあげ,それぞれ東京,メキシコ市と比較してみた。 その際,主に歴史的発展過程と現在の普及状況について各都市の特徴(長)や問題点を明らかにした。また,上・下水道システムを示す図はできるだけ同一の縮尺で表現し,比較しやすくした。 その結果,東京とパリの比較では,両者に共通している先進性にもその内容に違いがあることを確認し,一方メキシコ市とサンパウロ市の比較では,それぞれの独自性とともに問題点に共通性が認められた。 これらの比較を通して,各都市における普及の程度に優劣をつけることは可能であるが,それが本論の目的ではない。地域の自然環境に応じて必要性から作り上げられて現在に至った各都市の上・下水道システムはその地域性を反映するものであるという点を重視し,そのあり方自体には優劣をつけるべきものではなく,むしろそこに見られる優れた点や劣る点について相互に参考とすべきものであろう。その意味で,東京は先進都市であるパリの事例のみならず,開発途上国の巨大都市であるメキシコ市やサンパウロの事例からも参考になる点が少なからずあるといえる。
著者
許衛 東 白坂 蕃 市川 健夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.104-115, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

雲南省,西双版納倦族自治州は,中華人民共和国の南西端に位置し,南はラオス,ビルマと国境を接している。西双版納は植物資源の宝庫といわれ,中国だけではなく,ひろく外国の研究者にも興味深い地域である。 西双版納は東南アジアのマレーシアやイソドネシアのような,典型的な熱帯多雨林地域と比べると,熱帯の限界的性格が強く,それ故に複雑な自然条件に対応した様々な農業や集落がみられる。 西双版納倦族自治州には,傑族をはじめ,基諾族など10を越す少数民族が独特の生活様式を持って生活している。本稿では,筆者の実地調査をもとに,西双版納における集落立地を含めた農業的土地利用と近年の変化を,民族別に考察した。 1980年代に入るとともに,西双版納では農業において生産責任制が採り入れられたこともあり,かつてない急速な農業変革が進められている。その中心は,西双版納の自然環境に基づいたゴム,茶そして熱帯果樹を中心とした換金性の高い近代的集約農業の拡大である。中でもゴム栽培は,多かれ少なかれ,ほとんどの民族に取り入れられ,その高距限界は海抜1,360メートルにもおよんでいる。この,いわゆる“近代化”農業への移行過程で,盆地においては水田耕作の比重が増し,山地においては焼き畑の比重が低下し,仏教文化を持たない少数民族ほど,伝統的農法や固有の農耕文化要素が衰退し,漢民族化・漢文化化が速いテンポで進んでいる。
著者
牧田 肇 中条 廣義
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.116-126, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
13

雲南省と海南省は,広西壮族自治区・広東省・台湾省など,他の中国南部の諸地域と同様に,植物区系のうえでは北帯と旧熱帯との漸移帯をなす。そのため,これらの地域には両帯の植物が混在するが,さらに固有の分類群も多い。 特に雲南省では,無機的環境条件が複雑で,植物の立地の局地的差異が大きい。そのため,熱帯雨林から極帯相当のものまで,多様な植物群が見られる。 これらの中で,硬葉カシとその群落は,特に興味深いものである。