著者
小林 照忠 西村 洋治 網倉 克己 坂本 裕彦 田中 洋一
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.448-451, 2006 (Released:2009-06-05)
参考文献数
21

症例は76歳,男性.検診で便潜血陽性のために前医を受診し,肛門管の扁平上皮癌と診断されて,当院へ紹介された.肛門管内にIIa+IIc型病変を認めたが,腫瘍径13mmであり,壁深達度も粘膜下層までと診断し,経肛門的局所切除術を施行した.病理組織所見では癌の広がりは上皮内に止まっており,免疫組織化学的検査で腫瘍部に肛門管癌発生との関連性が報告されているヒトパピローマウイルス(以下,HPV)感染が証明された.
著者
小倉 修 前田 昭三郎 山田 一隆 石沢 隆 島津 久明 永井 志郎
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.75-78, 1992
被引用文献数
1

大腸内視鏡検査で虫体を確認し,これを内視鏡下に除去しえた大腸アニサキス症の1例を経験した.症例は37歳の女性で,鯖寿司を摂食し,1日後に心窩部痛が出現した.その後,右下腹部痛,嘔気,下痢がみられるようになり,当院を受診した.問診,超音波断層所見,経口腸X線造影などより大腸アニサキス症が疑われ,前処置後大腸内視鏡検査を施行した.盲腸部に4匹の虫体が認められ,これらを内視鏡的に除去した.併せて20例の本邦報告例に関ずる文献的考察を行った.
著者
五十棲 優 富田 凉一 黒須 康彦
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.217-231, 1995-04
参考文献数
14
被引用文献数
14

直腸癌症例前方切除術施行後の排便機能について,支配神経の面から検討を行う目的で,経肛門的に陰部神経を電気的に刺激した時の外肛門括約筋複合筋電図発現までの潜時と,S2-4脊髄神経根磁気刺激による恥骨直腸筋複合筋電図発現までの潜時を測定した.さらに直腸肛門内圧検査および臨床的評価(soilingとincontinenceの有無)を行った.その結果,soilingおよびincontinenceの発生には,直腸肛門内圧検査において内外肛門括約筋の筋自体の障害が,また支配神経の面からは陰部神経障害による外肛門括約筋機能の低下とS2-4仙骨神経障害による恥骨直腸筋の機能低下が加わっていることが判明した.陰部神経伝導時間と,S2-4脊髄神経根刺激伝導時間を測定することにより,直腸肛門内圧検査では判定困難な支配神経損傷による恥骨直腸筋や外肛門括約筋の機能障害の判定が可能と思われた.
著者
長浜 孝 櫻井 俊弘 古賀 有希 蒲池 紫乃 平井 郁夫 佐藤 茂 真武 弘明 松井 敏幸 八尾 恒良
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.273-278, 2003-06-01
参考文献数
17

Crohn病 (CD) に対するprednisolone (Predonine<SUP>®</SUP>; PSL) の適切な初回投与量を検討した.<BR>対象 : 外来通院中にPSLが投与されたCD患者45例, 84回のPSL治療.<BR>方法 : 症状別に初回1日投与量と経時的累積症状消失率を算出した.<BR>成績 : 下痢ではPSL初回投与量0.5mg/kg以上 (初回投与量 : 28.3±6.0mg/日) の群が有意に高率, 早期に症状が消失したが (p<0.006), 0.75mg/kg以上投与しても有意差はなかった (p=0.140). 腹痛では0.75mg/kgから1.03mg/kg(30.0±5.8mg/日)の群が有意に高率, 早期に症状が消失していた. 食欲不振・全身倦怠感, 発熱, 関節痛・結節性紅斑は0.24mg/kgから0.49mg/kg未満(30.0±5.8mg/日)の群とそれ以上の量の群とで累積症状消失率に差はなかった (p=0.818).<BR>上記成績に考察を加え, PSLの初回1日投与量は, 下痢に対しては30mg, 腹痛には35mg, 食欲不振・全身倦怠感, 発熱, 関節痛・結節性紅斑には15~20mgを目安とし, 体重, 活動指数によって増減するのが適切と考えた.
著者
辻 順行 黒水 丈次 豊原 敏光
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.1030-1037, 1999-10-01
被引用文献数
2

平成9年4月から平成11年3月までに当クリニックで行われたday surgeryの218例を対象として分析を加え, 以下の結果を得た. (1) 同時期にクリニックで手術が決定された症例の内訳をみると, day surgeryが59%, 短期入院手術が5%, 普通の入院手術が36%で, day surgeryが過半数を占めた.また希望の入院日数に関するアンケートをみるとday surgeryが41.2%, 1週間までの入院が56.9%で計98.1%を占めた.以上より肛門疾患の入院日数は今後ますます短くなると思われた. (2) day surgeryの麻酔 (仙骨硬膜外麻酔または局所麻酔) については施行時の疼痛の強さ, 施行の際の難易性, 合併症の頻度, 診療時間等を十分に検討した上で決定すべきであると思われた. (3) 術後の早期出血については術後の安静時間を十分に確保すること, 創面に対し止血綿を使用するなど十分な止血操作を加えることで防止は可能と思われた.また痔核の晩期出血については最低3週間は溶解しない吸収糸の使用, 根部結紮にゴム輪結紮の併用や口側粘膜下に硬化剤の注射, 排便指導等を行うことで極力減らせると思われた. (4) 術後の疼痛については閉鎖術式の場合, 半閉鎖の高さを浅くする, 上皮のみを縫合するなど肛門の緊張を上げない工夫をし, 術前より緊張の高い症例では術中に緊張を下げる操作を加える, 嵌頓痔核の手術はしない.また結紮切除の数は肛門の緊張が弱い症例を除いては2ヵ所までとし, それ以上は二期的手術, 短期入院手術とすること等で軽減できると思われた.またアンケートをとると術後の鎮痛剤として, 坐薬は患者の挿入時の不安が強く, 経口薬が適当であると思われた. (5) 費用の点でday surgeryと2週間入院手術症例の比較を痔核症例で行うとday surgeryは入院手術の約1/4であった.
著者
鮫島 伸一 澤田 俊夫 長廻 紘
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.415-421, 2005
被引用文献数
20 35

第59回大腸癌研究会では,本邦における肛門部扁平上皮癌と痔瘻癌の,臨床病理,治療法,予後について,会員施設にアンケートを実施した.肛門部悪性腫瘍症例は総数で1,540例報告され,1,029例(66.8%)は腺癌,粘液癌で,扁平上皮癌は226例(14.7%)であった.肛門部扁平上皮癌患者の平均年齢は63.4歳で,男女比は1:2.25であった.組織型では中分化型扁平上皮癌が50.4%と最も多くみられ,低分化癌も24.4%にみられた.47.6%にリンパ節転移を認め,そけいリンパ節の転移率は25%であった.腫瘍マーカーは,stage II~IVの52%の症例でSCCの上昇を認めた.治療法では68.4%でAPRを含む治療が行われたが,放射線療法,化学療法が増加している.全肛門部扁平上皮癌の5年生存率は51.4%で,治療法による予後の有意差は認められなかった.<BR>痔瘻癌痔瘻罹患年数は18.8年で,粘液癌が60.8%でリンパ節転移は28.9%にみられた.治療は95.0%にAPRないしTPEが行われた.5年生存率は,stage 0,Iで90.1%,stage IIで66.7%,stager IIIで29.0%であった.
著者
辻 順行 高野 正博 久保田 至 徳嶺 章夫 嘉村 好峰 豊原 敏光
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.48, no.9, pp.1026-1032, 1995-10
被引用文献数
14 7

1994年1月から12月までに当院外来を受診した症例の中で,直腸肛門病変を有しない20歳代から70歳代までの男性50例,女性49例を対象として,直腸肛門機能検査を行い以下の結果を得た.(1)肛門管最大静止圧,肛門管最大随意圧,排出圧は,男女ともに20歳代から60歳代までは,有意な差を認めなかった.しかし,70歳代では他の年齢と比較して男女ともに有意な低下を認めた.また性差で比較すると肛門管最大静止圧においては70歳以上では,有意な差を認めなかったが,69歳以下においては有意に女性の方が男性より低かった.肛門管最大随意圧と排出圧においては,69歳以下や70歳以上の群でも有意に女性が男性より低かった.(2)機能的肛門管長では,男女ともに20歳代が他の年齢群と比較して有意に短く,30歳代から70歳代では男女ともに有意な差を認あなかった.また性差で比較すると29歳以下や30歳以上の群においてもそれぞれ女性が男性より有意に短かった.(3)直腸感覚閾値,最大耐用量,直腸コンプライアンス等は,20歳代から70歳代までの,どの年齢群においても,男女ともに有意な差を認めなかった.以上より,肛門機能は直腸機能に比べて性差や加齢による影響が及びやすく,直腸肛門の手術の際には性や年齢を加味して手術術式の選択をすべきであると思われた.
著者
岡村 孝 井上 敏直 竹村 和雄 丸山 洋 佐藤 いづみ 三島 好雄 中谷 林太郎 千田 俊雄
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.267-272, 1984

嫌気性菌に対してメトロニダゾールを, 好気性菌に対して従来から第1選択とされていたカナマイシンを併用投与する大腸術前処置について, カナマイシン単独投与及び機械的腸処置のみの方法と大腸内細菌叢に及ぼす影響と術後感染症の予防効果を比較検討した.処置後の大腸内容1gm当りの菌数は, 嫌気性菌, 好気性菌とも著しく減少した.同様の背景因子, 術式をもつ患者群で術後感染症の発生率を比較し, 創感染に対してより優れた予防効果を認めた.さらに, カナマイシン使用に伴う問題を解決するためにポリミキシンBを選択し, メトロニダゾールと併用して, カナマイシンとメトロニダゾールの併用と同様に比較検討した.Streptococcusを除く大腸内細菌叢の減少効果と術後感染症の予防効果に差を認めず, ポリミキシンBとメトロニダゾールの併用投与の方が好ましいと考えられた.
著者
福田 ゆり 東 光邦
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.324-329, 2014

目的:日帰りや短期入院下での痔核手術が年々増加している.その一方,術後疼痛に悩む患者は多く,現状の疼痛緩和は充分でない.芍薬甘草湯の幅広い鎮痛効果は以前より知られ,痔核手術後の使用で効果が報告されているが,われわれは術前からの芍薬甘草湯投与でより有効性を認めたため報告する.対象と方法:手術を行う患者を無作為に芍薬甘草湯未使用群,術後投与群,術前術後投与群に分け,術後7日間の疼痛スケール(VAS)を比較した.結果:術前術後投与群は手術当日をはじめ,手術翌日を除く6日間において未使用群と比較し有意差をもって疼痛緩和を認めた.また,術前術後投与群は手術当日における若年者のVASが未使用群のみならず術後投与群と比較しても有意差をもって低下した.疼痛緩和までの期間も術前術後投与群は未使用群より有意に短縮した.結語:痔核術後の鎮痛法として術前からの芍薬甘草湯投与は容易で効果に優れ,今後広く勧められる方法と考えられた.
著者
高野 正博
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.889-894, 2007-10-15
被引用文献数
2 1

直腸肛門機能障害はこれまでsymptom-based criteriaであったが, ROME IIIで身体・検査所見が加わった.<br>F1. Functional fecal incontinenceは, 4歳以上の神経や形態障害が無いもので, 漏れはstainig, soiling, seepageなどに分かれ, urgeとpassive incontinenceがあり, 前者は便に行きたい感じが強いが, 随意圧は低下, 後者は便に行きたい感覚, 静止圧が共に低下する. 内圧, 肛門エコー, MRIなども有用で, 治療は薬剤で調節し, バイオフィードバック (BF) 療法が有効である.<br>Functional anorectal painは, F2a. Chronic prctalgiaとF2b. Prctalgia fugaxに分け, さらにF2a1. Levator ani syndromeとF2a2. Unspecified functional anorectal painに分ける. F2a. は慢性・再発性の痛みで, F2a1. Levator ani syndromeでは肛門挙筋の牽引で疼痛を訴える. しかし私の症例では, 該当は4/116例で, この定義に疑問がある.<br>F2b. Proctalgia fugaxは短い痛みで, 原因は不明だが, 私の症例ではよく診ると仙骨神経に沿って圧痛ある硬結を触れる. 効果ある治療法も無いとあるが, 私は神経ブロックで治癒せしめている.<br>F3. Functional defecation disordersはF3a. Dyssynergic defecationとF3b. Inadequate defecatory propulsionに分ける. 前者は骨盤底筋の奇異性収縮か不十分な弛緩, 後者は押出す力が不十分で, 治療はF3aにBF, F3bに排便促進療法が有効である.
著者
斉田 芳久 炭山 嘉伸 長尾 二郎 高瀬 真
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.1077-1082, 1999-10-01
被引用文献数
14 1

大腸疾患に対するステント治療は, その屈曲の強さや壁の薄さなどの解剖学的特徴から他の消化管におくれて1990年代後半からようやく臨床応用が報告されてきている.本稿ではその歴史, 内容を紹介するとともに, われわれの開発したSECC (Stent Endoprosthesis for Colorectal Cancer) についての紹介と成績の報告をする.SECCは, われわれが1993年11月に開発した通過障害を伴った全周性狭窄型左側大腸癌に対しては, 透視下および大腸内視鏡下に金属ステントを挿入し拡張内瘻化する手技で, 現在までに33例にSECCを施行し, 27例82%に挿入可能であった.イレウス発症時は待機手術が可能となり術後手術成績の向上が期待できた.本法は, 他の減圧処置に比較して管理の容易さと患者の身体的, 精神的負担が少なく, 今後の専用キットの開発により大腸癌による狭窄・閉塞に対する第一選択的な手技となり, 大腸の治療内視鏡の一つとして普及していくと思われる.
著者
黒川 彰夫 木附 公介 黒川 幸夫 増田 芳夫 畑 嘉也
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.1051-1056, 1999-10-01
被引用文献数
2

最近の医療情勢の変化から, day surgeryに対応できる手術が俄かに注目され, 術者の手技の熟達度とは関係なく, 頻繁に実施されるようになってきた.day surgeryの増加に伴って, 患者側からの不満も増えている.したがって, このような状況が肛門病学の本質に適った変化であるか否かを真剣に検討する必要があると考える.筆者らは長年, 外来手術だけで肛門疾患に対処してきたが, 主として古典的な非観血療法を実施してきた.技術的には, この特殊性がday surgeryを可能にさせてきたのかもしれないが, 最も大切にしていることは患者と担当医が相互に直接連絡できる体勢をとっていることである.患者らが安心して自宅で入院と同じ状態で治療できるシステムの形成が最重要と考えている.<BR>今後, 本気でday surgeryを実行しようとする術者は, 術後の一定期間は24時間拘束される覚悟がなければ, 安易に実践するべきではないと警鐘を鳴らしたい.
著者
辻 順行 辻 大志 辻 時夫
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.470-474, 2004-08-01
被引用文献数
2

平成13年12月から平成15年4月までの期間に痔瘻を染色するために作成したネジを痔瘻の二次口より挿入し,原発口の同定と瘻管の染色を試み以下の結果を得た.1).62%の症例で原発口より染色液の漏出を認め,位置の同定が術前に可能であった. 2).瘻管を染色すると病変の識別が術中の視診でも容易となり,必要最小限の切除が可能となった.また括約筋温存術の際中に瘻管に切り込んだ際も,染色液が漏れ出るためにすぐに切除方向の修正が可能となった. 3).原発口が判明しなかった症例に対して頻回にしかも無理に染色液を注入すると,正常な組織も染色され病変部の識別が難しくなり手術が困難となった. 4)染色併用下温存術の再発率は8%,従来の手術では7.7%でほぼ同様な結果であった.しかし肛門の手術に経験の浅い医師やseton法を行う場合には手術前に原発口の同定や瘻管の走行を視診で確認でき非常に有用であると思われた.
著者
藤原 有史 高塚 聡 員崎 亮二
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.622-627, 2013-08-01
被引用文献数
2

症例は82歳,女性.直腸癌に対し低位前方切除を施行し,再建はdouble stapling techniqueで行った.術後30日目頃より膣より便の排出を認め,直腸吻合部口側縁に直径約2cmの瘻孔形成を確認した.術後直腸膣瘻に対して,薄筋筋弁充填による修復術を選択した.会陰部横切開をおき膣後壁を切開し,瘻孔周囲を剥離した.直腸瘻孔部を閉鎖し,右薄筋筋弁を用いて直腸膣間隙を充填した.膣後壁および会陰部を縫合した後,横行結腸人工肛門造設を行った.術後再発なく,修復術後6ヵ月で人工肛門閉鎖を行った.修復後1年6ヵ月経過しているが,再発なく,下肢の運動機能異常も認めていない.直腸膣瘻の修復において,瘻孔切除の後に筋肉組織などの充填による膣壁と直腸部との隔絶が再発抑制に有用とされている.本例では薄筋筋弁を用いたが,過不足のないvolumeが得られ,過度な緊張もなく安全に誘導することができた.器械吻合後の術後直腸膣瘻について,文献的考察も含めて報告する.
著者
鈴木 真琴 菅家 一成 大木 了 富永 圭一 小嶋 和夫 平石 秀幸
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.243-249, 2009-04-01

Hermansky-Pudlak症候群(HPS)は眼皮膚白皮症,血小板二次凝集抑制に起因する出血傾向,肺線維症や肉芽腫性腸炎を呈するセロイド様リポフスチンの組織への沈着を三徴とする常染色体劣性の遺伝性疾患である.1959年にチェコの血液学者であるHermanskyとPudlakにより初めて報告されたが,プエルトリコを除けば世界的にも稀とされている.本邦では約60例の報告があるが,皮膚科領域や肺線維症に対する報告が大部分であり肉芽腫性腸炎に関する詳細な報告はみられない.今回我々は下血を契機に発見されたHPSの家族内発症例を経験したので報告する.<br>
著者
高山 鉄郎
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.237-240, 2000-04
被引用文献数
1 1

肛門手術後の疼痛体策として強力な局所麻酔剤であるオキセサゼインを混和した軟膏を調整し(以下オキセサゼイン軟膏),その効果を検討した.136例の日帰り肛門手術症例に対し,術直後よりオキセサゼイン軟膏の肛門内塗布を行った.全例で塗布後に痛みが和らぎ(痛み指数1,9→0,6),以後用時自己使用としたところ約1日4回の塗布とジクロフェナクナトリウム徐放性カプセル37.5mg錠1日2回服用でおおむね術後の痛みはコントロールされた.5例は自己塗布ができず2例はペンタゾシン使用が必要であった.オキセサゼイン軟骨は使用方法が簡便であり,投与による全身作用の懸念がないため,薬を自己管理にできる,という点で安全簡便効果的な方法と考えられ,特に日帰り手術後における疼痛管理対策として推奨できると考えられた.
著者
木俣 博之 馬場 正三
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.226-234, 1998-04

大腸癌の発生予防を目的として,ヒトのAPC遺伝子codon 1309と相同の部位に変異を持つマウスに,非ステロイド消炎鎮痛薬剤であるpiroxycamを投与し,その腺腫増殖抑制効果にっき検討した.その結果,piroxycam投与群はcontrol群に比し,ポリープ数および大きさで有意に抑制効果が認められた.また臨床例において,家族性大腸腺腫症患者で予防的結腸全摘術を行い,残存直腸の腺腫のサーベイランス中の3症例に対し,piroxycam坐剤の実験的投与を行った.10週間の投与で,3例ともに残存直腸内の腺腫の縮小,消失が認められ,piroxycamの腺腫発生に対する予防効果が認められた.従来FAPの予防的切除として行われてきた結腸切除術,回腸直腸吻合術式での,術後残存直腸からの腺腫発生の予防的投与に有用であると考えられた.