著者
佐々木 みのり 佐々木 巖 増田 芳夫
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.303-311, 2005 (Released:2009-06-05)
参考文献数
11
被引用文献数
2 3

肛門〓痒症は皮膚科学的には次のように定義される.「肛囲に皮疹がなく〓痒感があるもの. ただし, 掻破により二次的な続発疹をみる, 明らかな原疾患が存在するものはこれに含まれない」.肛門〓痒症は引き金となる〓痒感に対し患者自身が掻破することによって〓痒感の悪化と続発疹の発生をみるので, 〓痒を強力に抑えるステロイド外用治療と掻破を防ぐ生活指導の併用が適切な治療方針と考えられた. ステロイド外用剤はリバウンドと長期連用による副作用が問題になるが, 我々は使用するステロイドの量を3週間にわたって漸減する方法を試みたところ副作用を効果的に避けることが可能であった. 2003年1月から12月までの1年間に肛門〓痒症の診断で治療した追跡可能な94例中全例 (100%) で症状の改善を確認, 17例で再発を認めたが同様の治療で軽快した. 副作用は認めなかった. 本法は肛門〓痒症の有効な治療法であると考えられた.
著者
梅枝 覚 廣 純一郎 成田 公昌 岩永 孝雄 毛利 靖彦 北川 達士 松本 好市 木村 光政 鈴木 康弘
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.151-157, 2002 (Released:2009-12-03)
参考文献数
26
被引用文献数
2

症例は58歳の男性.2000年3月,粘血便,肛門痛を主訴に近医を受診した.大腸内視鏡検査で,直腸に多発性,不整形の潰瘍を認めた.生検では形質細胞の多い非特異性直腸炎の診断であった.4月に鼠径部リンパ節腫大あり,生検で肉芽腫性リンパ節炎と診断された.9月,粘血便,肛門痛,全身倦怠感増強にて来院入院した.肛門周囲,陰嚢に肉芽腫様皮膚病変を認めた.大腸内視鏡検査で直腸潰瘍直腸炎を認め,経肛門的超音波検査,CT,MRIで直腸壁の全周性の壁肥厚を認めた.梅毒反応(RPR定量)は128倍以上,梅毒反応(TPHA定量)は40,960倍,FTA-ABSIgMは5倍希釈(1+)であり,梅毒性直腸潰瘍,直腸炎と診断し治療を開始した.治療後3カ月で病変,血清抗体の陰性化を認めた.今回,直腸内視鏡検査での多発性不整形潰瘍および,経肛門的超音波検査,CT,MRIでの直腸の全周性全層性の肥厚は,梅毒性直腸炎に特徴的な所見と思われた.
著者
杉山 貢 山下 俊紀 松田 好雄 小林 衛 竹村 浩 土屋 周二
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.369-372,406, 1974 (Released:2009-06-05)
参考文献数
34
被引用文献数
6 1

平時比較的稀な会陰部の刺杭創(杙創)について,2例の自験例を中心に文献的考察を加えて述べる。症例1は8歳女児で校庭の植木の支柱による刺杭創であり,幸い直腸穿孔のみでことなきを得た.症例2は27歳男子で鉄製の椅子の脚による刺杭創で,膀胱・直腸瘻を形成した.刺杭創による腸管損傷について,本邦の報告例について検討すると,1927年に布目が報告して以来症例を加えると27例となり,好発年齢はほぼ外傷年齢である10代と20代に多く,性差は23:3と圧倒的に男性に多かつた.原因物体に関しては,竹による刺杭創が10例と目立った.損傷部位は直腸100%と膀胱88%と高率であり,手術時には特にこの両者への損傷の検索を怠ってはいけない.刺杭創に遭遇した場合には,受傷状況,程度をすばやく把握し,できる限り早期に対処し,むやみに保存療法により時を費すことはあってはならないと思う.
著者
宇都宮 高賢 柴田 興彦 菊田 信一 堀地 義広 河野 豊一 八尾 隆史
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.251-258, 2006 (Released:2009-06-05)
参考文献数
18
被引用文献数
4 4

痔核組織に認められる肛門腺(男性22人,女性20人)と痔瘻瘻管内に見られる肛門腺(男性30人,女性7人)の組織学的特徴と男女間の比較検討を行い,その意義について検討した.痔核組織内肛門腺は,導管直走型,下行性が多く,管壁は移行上皮に被覆され,男性は円柱上皮を併存する症例が多かった.管壁の厚さ,外径,内径の男女差はなく,Herrmann線からの距離肛門腺の長さにも違いはなかった.痔瘻瘻管内の肛門腺は,円柱上皮より成るものが男性で多く,女性では扁平上皮化生した肛門腺の割合が多かった.管壁の厚さ,外径は男女差はないものの,管腔内径は男性が有意に広かった.粘液産生能は女性に陰性例が多く,扁平上皮化生した部位では粘液産生はなかった.肛門腺の感染の要因には,管壁が円柱上皮で被覆され,管腔の内径が広くなることであり,感染が消退するには,扁平上皮化生し,管腔が閉鎖する事と考えられた.
著者
高野 正博 松田 保秀 松田 正和
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.380-385, 1987 (Released:2009-06-05)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

消散性肛門直腸痛は,発作性に起こり,かつ消褪する痛みで,発作が治まるとまったくその痕跡を留めないとされ,この点で他の器質的疾患と大いに趣きを異にしている。その原因についてはさまざまの仮説があるが,いずれも推定の域を脱せず,現在まで原因不明の疾患とされている,われわれは過去32例の当疾患を経験したが,いずれの症例においても骨盤後面,特に仙骨,尾骨,肛門挙筋などに限局性の圧痛点が認められ,われわれはこれがいわゆる疼痛のtrigger pointであると判断した。この部分に診断と治療を兼ねたブロックを行うことによって,ほとんどの症例で症状は軽快,消褪した。以上のことより,当疾患の原因解明に大きなアプローチを得たと思われるので報告する。
著者
山名 哲郎 牧田 幸三 岩垂 純一
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.799-806, 2002 (Released:2009-06-05)
参考文献数
15
被引用文献数
10 6

骨盤直腸窩痔瘻は臨床的には指診で診断されるが,骨盤直腸窩に広がる瘻管や膿瘍腔をより正確に評価するためにはMRIが有用である.撮影法としては瘻管や膿瘍腔が高信号(白色)に描出されるT2強調像およびガドリニウム造影後Tl強調像が適しており,脂肪抑制法を適宜併用するのがよい.冠状断像では肛門管上方に逆ハの字型にひろがる低信号の肛門挙筋の上,横断像では直腸レベルの直腸周囲,矢状断像では尾骨より頭側に瘻管・膿瘍腔の所見がみられる.骨盤直腸窩痔瘻の所見を有する症例では坐骨直腸窩痔瘻や高位筋間痔輝の所見も同時に認める場合が多い.痔瘻癌を合併した骨盤直腸窩痔瘻では瘻管壁・内容の不整や肥厚,みチン貯留の所見が認められる場合もある.クローン病に合併した骨盤直腸窩痔瘻症例では複雑痔瘻自体はクローン非合併例の複雑痔瘻と大きな違いはないが,クローン特有の多数の錯綜する痔瘻がみられる.
著者
吉田 良 高田 秀穂 中川 州幸 岩本 慈能 越路 みのり 川西 洋 吉岡 和彦 日置 紘士郎 松田 公志
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.48, no.7, pp.611-616, 1995 (Released:2009-06-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

結腸膀胱瘻の成因は炎症性, 腫瘍性, 先天性, 外傷性, 医原性などによる二次性変化によるものがほとんどである. 本邦においても近年, 食生活の欧米化に伴い腸の炎症性疾患, とくにS状結腸憩室炎に起因するものが増加の傾向にある. われわれは, 過去5年間に経験したS状結腸膀胱瘻6例について若干の文献的考察を加え報告する. 症例は54歳から89歳までで, 性別は男性4例, 女性2例である. 原疾患はS状結腸癌3例, S状結腸憩室炎2例, 放射線性腸炎1例であり, 初発症状は糞尿, 気尿, 下腹部痛である. 術前検査では膀胱造影と膀胱鏡検査が瘻孔の証明に有用であった. 全例に手術を施行しS状結腸切除術が4例, 人工肛門造設術が2例であり, 膀胱に対しては膀胱部分切除術が2例, 膀胱全摘術尿路変更術が2例, 膀胱切除が不可能な2例に対しては尿管皮膚瘻術を施行した. 術後経過では, S状結腸癌の1例のみが原病死した.
著者
Katsuyoshi Kudoh Chikashi Shibata Yuji Funayama Kouhei Fukushima Kenichi Takahashi Munenori Nagao Sho Haneda Kazuhiro Watanabe Takeshi Naitoh Michiaki Unno
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
Journal of the Anus, Rectum and Colon (ISSN:24323853)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.78-83, 2017-07-27 (Released:2018-05-25)
参考文献数
22
被引用文献数
2

Objectives: The possible effects and benefits of oral rehydration solution (ORS) on chronic dehydration after total proctocolectomy. Methods: To evaluate the effect of ORS on the renin-angiotensin system after remnant proctocolectomy in patients with ulcerative colitis (UC), we selected 20 patients after remnant proctocolectomy, ileal J pouch-anal anastomosis, and construction of a diverting ileostomy for UC. Patients were randomly divided into two groups, A (n=9) or B (n=11), 2 weeks after the surgery. In group A, ORS (1000 mL/day) was given for the first 7 days and mineral water (1000 mL/day) for the next 7 days. In group B, mineral water (1000 mL/day) was given for the first 7 days and ORS (1000 mL/day) for next 7 days. Plasma levels of renin, aldosterone and excretion of sodium in urine were evaluated at days 0, 7, and 14. We defined day 0 as the day of beginning this study. Results: Mean plasma renin levels on day 0 were six to eight times greater than the upper normal limit. In group A, ORS lowered plasma renin levels. In group B, plasma levels of renin and aldosterone after ORS were lower than those at days 0 and 7. Conclusions: ORS corrected increased plasma levels of renin and aldosterone to within the normal range in patients after proctocolectomy.
著者
杉浦 弘和
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.279-285, 1991 (Released:2009-06-05)
参考文献数
17
被引用文献数
2

目的:潰瘍性大腸炎(以下UCと略す.)におけるロイコトリエンB4(以下LTB4と略す.)の関与を検討するために,大腸内視鏡検査時に採取した組織を利用してLTB4量を測定した.方法:採取した組織をカルシウムイオノフォアで刺激したのち,Bond Elutによる精製方法と高感度のRIAによる定量方法を組み合わせることにより,LTB4量をUC患者および正常者で測定した.成績:UCの検討項目は本症の病態を示す臨床症状・X線的・内視鏡的・臨床データ・病理組織的な分類にわけ比較検討したが,LTB4はいずれの病態分類の程度とも相関して変動していた.結果:著者のLTB4測定法は微量な組織を用いても測定可能であり,UCの臨床症状および内視鏡検査などの画像診断との対比が可能となり,従来報告されている測定方法よりも有用であると思われた.さらに本法で検討すると,UCの病態にLTB4が関与している可能性が示唆された.
著者
増澤 成幸
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.1154-1161, 1990 (Released:2009-10-16)
参考文献数
31

炎症性腸疾患に合併する胆石症の成因の一端を解明する目的で, 炎症性腸疾患自験例 (潰瘍性大腸炎42例, Crohn病27例) の胆汁中脂質分析およびコレステロール結晶析出時間の測定を行い, 総胆汁酸濃度は, 潰瘍性大腸炎保存治療例31例・手術例10例ともに有意に低下しCrohn病では回盲部病変を有する保存治療例6例と回盲部切除例11例のみ有意に低下していた.胆汁中コレステロールの組成比は各症例とも変化がなかった.胆汁のlithogenic index 1.0以上の症例は各対象のうち半数近くに認められたが, 胆石生成との関係は明らかに出来なかった.コレステロール結晶析出時間は潰瘍性大腸炎保存治療例を除くと短縮し, こうした症例では胆石を合併しやすいと思われた.析出時間の短縮は, 炎症性腸疾患による機能欠落が主な要因と考えられたが, 析出時間の促進および抑制因子であるアポ蛋白, ムチン, カルシウムイオン等についてさらに検討が必要と思われた.
著者
辻 順行 高野 正博 久保田 至 徳嶺 章夫 嘉村 好峰 豊原 敏光
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.48, no.9, pp.1026-1032, 1995 (Released:2009-06-05)
参考文献数
12
被引用文献数
12 7

1994年1月から12月までに当院外来を受診した症例の中で,直腸肛門病変を有しない20歳代から70歳代までの男性50例,女性49例を対象として,直腸肛門機能検査を行い以下の結果を得た.(1)肛門管最大静止圧,肛門管最大随意圧,排出圧は,男女ともに20歳代から60歳代までは,有意な差を認めなかった.しかし,70歳代では他の年齢と比較して男女ともに有意な低下を認めた.また性差で比較すると肛門管最大静止圧においては70歳以上では,有意な差を認めなかったが,69歳以下においては有意に女性の方が男性より低かった.肛門管最大随意圧と排出圧においては,69歳以下や70歳以上の群でも有意に女性が男性より低かった.(2)機能的肛門管長では,男女ともに20歳代が他の年齢群と比較して有意に短く,30歳代から70歳代では男女ともに有意な差を認あなかった.また性差で比較すると29歳以下や30歳以上の群においてもそれぞれ女性が男性より有意に短かった.(3)直腸感覚閾値,最大耐用量,直腸コンプライアンス等は,20歳代から70歳代までの,どの年齢群においても,男女ともに有意な差を認めなかった.以上より,肛門機能は直腸機能に比べて性差や加齢による影響が及びやすく,直腸肛門の手術の際には性や年齢を加味して手術術式の選択をすべきであると思われた.
著者
小澤 広太郎 金井 忠男 栗原 浩幸 山腰 英紀 石川 徹
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.293-296, 2002 (Released:2009-06-05)
参考文献数
8
被引用文献数
1

酸化マグネシウムは副作用が比較的少なく安全な下剤であり,治療科目にとらわれず汎用される薬剤である.今回肛門狭窄を伴う便秘患者が酸化マグネシウムを大量服用することによって生じた直腸内巨大腸石症例を経験したので報告する.症例は69歳,女性.排便困難を主訴に来院した.肛門診察にて肛門狭窄を認めたため,10月8日入院し,肛門拡張術を施行した.退院後肛門指診にて,ざらざらした砂状の凝集塊と表面不整で非常に硬い腸石を認め,腹部X線を撮影したところ骨盤内に直径6cm大の腸石像を認めた.11月15日再入院し,直腸内腸石摘出術を行った.摘出標本は茶褐色で非常に硬く表面不整であった,腸石の成分は炭酸マグネシウムとして59.9%であり,酸化マグネシウムの大量常用による直腸内巨大腸石症と診断された.酸化マグネシウムは汎用される薬剤であるが安易に増量すべきでなく,他の薬剤を併用するなどの注意が必要と考えられた.
著者
原口 増穂 牧山 和也 千住 雅博 船津 史郎 長部 雅之 田中 俊郎 橘川 桂三 井手 孝 小森 宗治 福田 博英 森 理比古 村田 育夫 田中 義人 原 耕平 関根 一郎
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.45-49, 1987 (Released:2009-06-05)
参考文献数
11

高アミラーゼ血症を伴ったクローン病の1例を経験した.症例は27歳の男性で上腹部痛を主訴に受診高アミラーゼ血症がみられたため膵炎として治療したが約3カ月にわたって高アミラーゼ値は持続した.アミラーゼ値の正常化後も腹痛が続くためにさらに精査を進め,小腸造影での縦走潰瘍などの典型的な所見と生検によるサルコイド様肉芽腫の証明によりクローン病の確診を得た.高アミラーゼ血症については,ERP,CT,USにて膵炎を疑わせる膵管あるいは膵実質の器質的変化がみられないこと,高アミラーゼ値の持続期間が長いこと,腹痛とアミラーゼ値の相関が乏しいことなどより膵由来のものではないと考えられた.したがって本症例はクローン病に膵炎が合併したものではなく,高アミラーゼ血症を伴ったことについては他の機序,たとえば腸管アミラーゼの関与などが示唆され,興味ある症例と思われ,文献的考察を加え報告した.
著者
今村 幹雄 高橋 広喜 國井 康男 山内 英生 中嶋 正彦
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.364-369, 2000 (Released:2009-06-05)
参考文献数
19

クローン病と精神疾患の合併について欧米では以前から指摘され,機序については,近年,精神神経免疫学的観点からの説明が試みられているが,未だ明らかでない.当科でも精神疾患を合併したクローン病症例3例を経験した.2例は精神疾患先行で,1例はクローン病の経過中に発症した.症例1は38歳,男性,小腸大腸型クローン病.19歳時,幻聴,妄想,てんかん発作などが出現し,脳萎縮を有する器質性精神障害と診断された.21歳時,下痢でクローン病が発症し,3回の手術歴がある.症例2は32歳,男性,直腸肛門クローン病.19歳時,幻聴,妄想が出現し,精神分裂病と診断された.29歳時,発熱,肛門部出血などでクローン病が発症し,肛門周囲膿瘍の切開排膿を数回受ける.症例3は32歳,女性,小腸大腸型クローン病.17歳時,下痢でクローン病が発症し,回腸狭窄と痔瘻に対する手術歴あり.32歳時,精神的ストレス状況下で反応性神経症が発症す.
著者
久保 章 川本 勝 福島 恒男 石黒 直樹 仲野 明 杉田 昭 山崎 安信 土屋 周二 鴻丸 裕一
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.123-128, 1985 (Released:2009-06-05)
参考文献数
9

潰瘍性大腸炎症例の便中細菌叢を,経時的に検索し,それぞれの病期の推移によりどのような変化を来たすか比較検討した.本症患者14例について,延べ36回便を採取し嫌気性培養を施行し細菌叢を検索した.本症では,罹患範囲にかかわらず緩解期から活動期またはその反対の経過を追って調べると,便中総菌数と嫌気性菌数がほぼ例外なく活動期に著明に減少し,各菌群の中では,BacteroidaceaeとEubacteriumが同様の変動を示した、本症の活動期においてこのような変化を来たす原因として,第1に炎症性変化が強い為,粘膜の恒常性が保たれないこと,第2に腸通過時間の変化により腸管内環境が変化すること,第3に何らかの機序により大腸内の酸素張力の増加,酸化・還元電位の増加がおこっていること,などが考えられた.索引用語:潰瘍性大腸炎,便中細菌叢,嫌気性菌
著者
武藤 徹一郎 堀江 良秋 上谷 潤二郎 丸山 寅巳 富山 次郎 草間 悟 石川 浩一
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.205-208,266, 1977 (Released:2009-06-05)
参考文献数
10

総計13入の正常人,直腸炎,大腸腺腫症,または大腸癌の患者から計19回にわたって大腸内ガスを採取し,質量分析によって腸内ガスの濃度分布を分析した.腸内清浄化が完全であれば,大腸内に爆発性ガスはほとんど含まれていないことが確認された.内視鏡的ポクペクトミーの実施にあたり,腸内ガス爆発予防のための処置についての老察を行った.
著者
Kenji Tomizawa Shigeo Toda Tomohiro Tate Yutaka Hanaoka Jin Moriyama Shuichiro Matoba Hiroya Kuroyanagi
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
Journal of the Anus, Rectum and Colon (ISSN:24323853)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.36-42, 2019-01-25 (Released:2019-01-29)
参考文献数
30
被引用文献数
15

Objectives: Colonic diverticular disease is widespread in Western countries and its associated with aging. In Japan, diverticulitis and colovesical fistula are also occurring more frequently. Colonic resection for diverticula-related fistulas is frequently technically demanding because of associated acute or chronic inflammation. We evaluated the safety and efficacy of a standardized laparoscopic procedure. Methods: Data from 39 consecutive patients who had undergone laparoscopic surgery for colovesical fistula between October 2006 and August 2017 were retrospectively reviewed. Results: The patients' median age was 60 years and comprised 35 men and four women. Sigmoidectomy was performed in 33 patients, Hartmann's procedure in four, and anterior resection in two. The median operative time was 203 minutes and estimated blood loss 15 mL. There were no intraoperative complications or conversion to open surgery. No patients required bladder repair; three had minor postoperative complications, and none had recurrent diverticulitis or fistula at a mean follow-up of 5.1 years. Conclusions: The magnified vision and minimal invasiveness make a laparoscopic approach the ideal means of managing colovesical fistula. To our knowledge, this is the largest study of colovesical fistula managed by a standardized laparoscopic procedure.
著者
康 謙三 安富 正幸
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.39, no.7, pp.819-829, 1986 (Released:2009-12-03)
参考文献数
17

大腸の運動機能の研究では,近位結腸機能の観察・記録が手技的に困難であるため,上部消化管運動の研究に比べまだ不明の点が多い.従来,大腸運動は近位結腸と遠位結腸では全く異ったものと考えられてきた.すなわち,Cannon-Böhm点より口側の近位結腸は腸内容の貯留と吸収を行う部位として,固型化された腸内容の運搬と排泄を分担する遠位結腸および直腸・肛門とは区別されていた.そこで本研究では,動物実験(イヌ)で大腸運動と術後の排便機能障害のメカニズムにつき,筋電図, strain gauge force transducer,内圧測定により電気生理学的に検討した.覚醒犬の空腹期大腸運動の観察では,大腸各部に30~40分間隔で8~10分持続する収縮波群が周期的に出現し,それらの大部分が肛門側へ順次伝わっていく伝幡性収縮波群として記録される.さらに上部消化管のいわゆる空腹期伝幡収縮波群(migrating motor complexes: MMC)は常に回腸末端部まで到達し,その約80%が回盲括約筋を超え大腸へと伝幡した.イヌ大腸運動では近位結腸と遠位結腸の間に系統的な伝幡性収縮運動がみられ,近位結腸と遠位結腸が別個の運動機能をもつという従来の考え方とは異っていた.同時に上部消化管運動との強い関連性も示された.次に術後の排便機能障害のメカニズム解明のため,イヌを用いて(1)自律神経切断,(2)直腸切除の2つの実験モデルを作成し,下部腸管運動と内括約筋機能を検討した.下腹・仙骨両神経切断によっても肛門管静止圧は正常に保たれ,直腸肛門反射も陽性であるが,反射時の抑制相の延長が認められた.仙骨神経根切断による節前線維の脱落と壁在神経叢の変性の結果である.また低位前方切除術のモデルとしての直腸切除犬では,術後早期より吻合部口側腸管に強いspastic contractionが出現し,同時に肛門管静止圧の低下がみられた.時間とともに両者はほぼ同様な経過で回復していくが,同時に排便状態も改善した.これら2つの実験モデルは直腸癌に対する低位前方切除術後の排便機能障害の臨床経過をよく反映している.
著者
渡辺 賢治 渡辺 元治 増田 英樹 大野 英樹
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.431-439, 1999 (Released:2009-10-16)
参考文献数
7
被引用文献数
2

痔核の保存的療法は, 局所の血液循環を促進し, 循環障害の改善が重要とされている.今回温水洗浄便座を用いて, 温水で肛門を洗浄し, 肛門粘膜下の血流の変化について常温水と比較検討した.血流量はレーザー・ドップラー法を用いて, 相対的な血流量で比較した.結果は, 常温水では洗浄中の血流量のみ有意な増加を認めた (<0.01) のに対し, 温水による洗浄では, 洗浄前後および洗浄中の血流量の変化のいずれも有意に増加した (p<0.05, p<0.01).また, 洗浄前後と洗浄中の血流量の変化率については, いずれも温水のほうが常温水より有意に血流量の増加を認めた (P<0.01).このことより内痔核や裂肛の原因とされている局所循環障害の改善を目的とする保存療法として, また術後の創傷治癒を促進させる方法として温水による肛門の洗浄は有用だと考える.
著者
Minoru Koi Yoshiki Okita John M. Carethers
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
Journal of the Anus, Rectum and Colon (ISSN:24323853)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.37-46, 2018-04-25 (Released:2018-04-26)
参考文献数
82
被引用文献数
46

It has been recently reported that the population of Fusobacterium, particularly Fusobacterium nucleatum (Fn), is overrepresented in colorectal cancers (CRCs) and adenomas. The promoting effects of Fn infection on adenoma and/or carcinoma formation have been shown in ApcMin/+mice. Characteristics of Fn-associated CRC were identified through studies using human CRC cohorts and include right-sided colon location, CpG island methylation phenotype (CIMP)-high, high level of microsatellite instability (MSI-H), and poor patient prognosis. A subset of Fn-associated CRC exhibits a low level of microsatellite instability (MSI-L) and elevated microsatellite alterations in selected tetra-nucleotide repeats (EMAST) induced by translocation of MSH3 from the nucleus to the cytoplasm in response to oxidative DNA damage or inflammatory signals. The association between CIMP/MSI-H and Fn infection can be explained by the role of the mismatch repair protein complex formed between MSH2 and MSH6 (MutSα) to repair aberrant bases generated by reactive oxygen species (ROS) to form 7,8-dihydro-8-oxo-guanine (8-oxoG). Clustered 8-oxoGs formed at CpG-rich regions including promoters by ROS is refractory to base excision repair. Under these conditions, MutSα initiates repair in cooperation with DNA methyltransferases (DNMTs) and the polycomb repressive complex 4. DNMTs at damaged sites methylate CpG islands to repress transcription of target genes and promote repair reactions. Thus, continuous generation of ROS through chronic Fn infection may initiate (1) CIMP-positive adenoma and carcinoma in an MSH2/MSH6-dependent manner and/or (2) MSI-L/EMAST CRC in an MSH3-dependent manner. The poor prognosis of Fn-associated CRC can be explained by Fn-induced immune-evasion and/or chemoresistance.