著者
中辻 小百合
出版者
国立音楽大学
雑誌
音楽研究 : 大学院研究年報 (ISSN:02894807)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.107-122, 2010

本稿は、湯浅譲二 (Joji Yuasa, 1929-) によるバリトンとトランペットのための《天気予報所見 Observations on Weather Forecasts》(1983) において、言語コミュニケーションに関する問題がどのように反映させられているのかについて、作品の分析を通して明らかにすることを目的とする。この作品においては、身体的動作や身振り、感情表出といった非言語的な側面が重要な位置を占めていると考えられる。湯浅は言語コミュニケーションに含まれる非言語的な側面を実際にどのように考えているのだろうか。この問題を考察するにあたって、本稿では非言語的な側面に焦点を当て、作品の分析を試みた。その手順として、曲中における非言語的な側面を、テキストがない箇所における動作と、テキストの提示と同時に指示される身振り・感情表出および楽語とに分けたうえで詳細な分析を試みた。その結果、第一に、テキストがない箇所における動作が構成されるにあたっては、旋律やリズムといった音楽的要素を作品として構成していく方法を応用した音価および時間の段階的縮小と、freezeの動作に代表されるような期待されるものへの裏切りとの2つの特徴的な手法が、第二に、テキストと同時に指示される身振りや感情表出、楽語が配置される際には、前述した身体的動作と同様に、音楽的要素を作曲する際に用いられるシンメトリックな配列や三部形式が利用されていることが確認でき、西洋音楽の作曲における伝統的な方法のもとで構成されていることが明らかになった。一方、テキスト=語られる内容と非言語的な側面との関係の在り方には湯浅の独自性が表れており、分析の結果、情報伝達を目的とする天気予報と身振りや感情表現とは、一部の例外を除き、互いに対比させられたものとして位置づけられていることが明らかになった。この作品では、クロード・シャノン(Claude Elwood Shannon, 1916-2001)らが提唱したような、送り手から受け手へ事実が伝達されるという言語通信システムにおいてはノイズと考えられる側面-すなわち、語られる声の個性や身振りといった音響的側面、言語活動にともなう感情表現としての身振りや動作といった身体的側面に焦点が当てられている。この点から筆者は、この作品をシャノンらの情報理論への音響的および身体的な側面からのアンチテーゼとして考えた。湯浅は、言語コミュニケーションに含まれるこのような非言語的側面に芸術的価値を見出し、詩や演劇といった形態としてではなく、音楽家としての立場から、それらをひとつの音楽作品として組織化したと言える。この《天気予報所見》は、言語コミュニケーションに含まれる非言語的側面を自らの手によって再構成し、音楽化したいという湯浅の創作意欲のあらわれであると結論付けた。

2 0 0 0 父の書斎

著者
有島行光[ほか]著
出版者
筑摩書房
巻号頁・発行日
1989
著者
小林 龍 谷口 亮央 古泉 景子 土屋 総之 多田 知弘 佐藤 雄樹 柴波 明男 妻木 良二
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 = Japanese journal of environmental infections (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.280-284, 2008-09-25
被引用文献数
2 2

今回,手荒れの予防効果が高いと言われているアルコールゲル擦式消毒剤(ゲル剤)を用い,皮膚に対する影響について,当院看護師82名を対象として2週間使用後の手掌と手背,指先の肌水分量を測定した.<br>   各薬剤とも調査前後の手指消毒回数に変化はなかった.種類による差はあるものの,3種類のゲル剤全てにおいて,手掌と指先の肌水分量が増加した.<br>   今回の結果より,ゲル剤の保湿効果が擦式消毒用アルコール製剤に比べ高いことが示された.この成績は,ゲル剤使用により手荒れ防止および手指消毒回数の減少防止に繋がり,医療関連感染の低下にも有効であると考えられる.<br>
著者
藤友 雄暉
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.66-69, 1981

幼児のことばの研究は, 幼児の生活場面において, メモや録音器を用いてことばを採集し, それを分析することが主流をなしてきた。しかし, このような資料は, 対象児の数が少数とならざるを得ないこと, 対象児によって採録した時の環境が異なり, 資料を直接比較できない場合があること, 対象児間に個体差が大であること, 資料が記述的なものになり勝ちなこと, 実験的に再現し, 追試により実証をすることが困難であることなどが短所として存在していた。それに対して, このような短所を克服する方法として, 全くの実験的手法, 特に学習実験によるものが考えられ, 実施されてきた。しかしながら, 実験的手法によるものは, 幼児の生活場面におけることばとは, かけ離れ過ぎたものが多く, したがって, 得られた結果は現実の幼児については, ほとんど何も言及することができないというような新たな問題を生じた。このような2つの方法が持つ短所を補うものとして, ある程度統制した条件下において, 幼児のことばを採集し, 分析する方法が考えられる。藤友 (1977a, 1977b, 1978, 1979a, 1979b, 1979c, 1979d) は, 幼児に絵カードを提示し, 口頭作文を作らせるという統制条件下において, 幼児のことばを研究した。用いられた被験者は, 4歳児, 5歳児, 6歳児各34名, 計102名, 用いられた絵カードは21枚の採色がほどこされたものであった。得られた資料の分析には, FIG. 1に示された品詞の分類規準が用いられた。自立語の11品詞について, 藤友 (1979a) では4 歳児, 藤友 (1979d) では5歳児, 藤友 (1978) では6歳児の品詞別語彙数と総語数, 及び品詞別語彙表を得た。藤友 (1977a) では, 動詞・助動詞, 形容詞, 接続詞, 名詞の誤用例が分析された。藤友 (1977b) では, 幼児が作った口頭作文の内容分析, 助詞の誤用, 語音の脱落, 構音の誤りが分析された。藤友 (1979b) では, 正しく使用された助詞を分析の対象として, 幼児の助詞の習得に関する発達的研究が行われた。藤友 (1979c) では, 藤田・藤友 (1975) によって得られた93名の4・5歳児の助詞の理解に関する資料と, 藤友 (1979b) によって得られた68名の4・5歳児の助詞の生成に関する資料とが, 比較研究された。本研究は, 藤友 (1977a, 1977b, 1978, 1979a, 1979b, 1979c, 1979d) と同一の資料を用いて, 正しく使用された助動詞を分析の対象として幼児の助動詞の習得に関する発達的研究を行うものである。<BR>大久保 (1967) は, 1人の幼児の1歳から3歳までの発話資料における助動詞を分析して,(1) 「た」「ない」「ん」「う」「よう」「ます」「です」「だ」「れる」「られる」「せ」「させ」「そうに」「そうな」「ように」「みたいに」「たい」などを3歳までに使用している。(2) 大部分の助動詞が3歳までに初出し, 過去, 現在, 未来, 可能, 命令, その他様々の表現が出来るようになってきている。(3) 助動詞全体では終止形がいちばん早く使われ多用され, 連用形, 未然形, 連体形の使われかたは少なかった。初出もおそい。との結果を得た。<BR>また, 竹田・望月・丸尾 (1969) は, 1歳, 1歳6か月, 2歳, 2歳6か月の幼児各20名と3歳児11名の発話資料における助動詞を分析して,(1) 発話内容を品詞別に分類して得られる助動詞の出現率は, 1歳6か月で 1.4%, 2歳0か月で5.7%, 2歳6か月で9.0%, 3 歳0か月で14.3%である。(2) 1歳6か月では完了・過去の夕の使用が稀にみられる。2歳では打消しのナイ, 断定ダ, デス, 2歳6か月では意志を表わすウ, ヨウの使用が増加している。2歳6か月以後, 僅かではあるが, 受身, 可能のラレル, 使役のサセルなどの助動詞も用いられる。(3) 活用形の上からみると終止形が最も多く, 連用形, 未然形の順になり, 仮定形, 連体形は殆ど使用されていない。との結果を得た。<BR>藤友 (1977a) では, 助動詞の誤用例が分析研究されたが, 使役「せる・させる」, 受身「れる・られる」, 可能「れる・られる」, 断定「だ」, 確認・過去「た」に関連する誤用がみられた。<BR>以上引用してきた研究はいずれも助動詞を独立の単語とみとめる立場に立つものであるが, 鈴木 (1968) 「学校文法のいわゆる付属語 (助詞, 助動詞) は, ここでは独立の単語と認めず, 語尾 (単語のおわりの部分), あるいはくっつき (付属辞) とみとめ, ともに単語の文法的な形あるいは文法的な派生語をつくるための文法的な道具とみる。」の立場に立つことも可能であることを付記しておきたい。
著者
玉井 真理子
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.99-105, 1999-03-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
12

新生児医療をめぐる倫理的問題に関して,「親による治療拒否」と「選択的治療停止」に焦点をあてて論じた。新生児と家族との関係には,1)お互いに家族としての歴史のない,2)患者本人である新生児の意思を確認するすべがまったくない,3)問題になる疾患に対するイメージを持ちにくい,4)子どもの人権全体を守る法的仕組みが貧困である,などの独自性がある。「親による治療拒否」に関しては,アメリカでは,ベビー・ドゥ事件(1982年)ののち児童虐待防止法が改正され,医療上の放任についての例外規定も設けられたが,日本での議論は進んでいない。「選択的治療停止」に関しては,親が罪の意識を抱かないように医療側が決めてしまうというパターナリズムが日本にはあるが,親か医療者かどちらが決めるのがいいのかということより,情報を共有し一緒に決めるプロセスが重要である。また,親が納得のいく意思決定をすることができるように,心理士などが関与することが望ましいと思われる。
著者
Takao Sato Tomoki Kameyama Takashi Ohori Akira Matsuki Hiroshi Inoue
出版者
一般社団法人 日本動脈硬化学会
雑誌
Journal of Atherosclerosis and Thrombosis (ISSN:13403478)
巻号頁・発行日
vol.21, no.10, pp.1031-1043, 2014-10-24 (Released:2014-10-24)
参考文献数
53
被引用文献数
1 15

Aim: Epicardial adipose tissue (EAT) is a pathogenic fat depot that may be associated with coronary atherosclerosis and cardiovascular events. Because eicosapentaenoic acid (EPA) has been reported to exert cardiovascular protective effects, we aimed to assess the effects of EPA on the volume of visceral adipose tissue, including EAT and abdominal visceral adipose tissue (AVAT), using multislice computed tomography (CT). Methods: In 30 patients with coronary artery diseases (9 women; mean age, 67.2±5.4 years), EAT and AVAT volumes were compared between the control group (n=15, conventional therapy) and the EPA group (n=15, conventional therapy plus purified EPA 1800 mg/day) during a six-month period. EAT was defined as any pixel that had CT attenuation of -150 to -30 Hounsfield units (HU) within the pericardial sac. Results: After the six-month follow-up, the serum EPA level increased from 59.9±18.8 to 177.2± 3.3 μg/mL in the EPA group (p<0.01), but no increase was noted in the control group. Similarly, the EPA/arachidonic acid (AA) ratio increased from 0.39±0.12 to 1.22±0.28 in the EPA group (p<0.01), with no significant increase in the control group. The AVAT and EAT volumes decreased in the EPA group but were unchanged in the control group (AVAT, −11.6±17.0 vs. +8.8±13.6 cm2, p<0.01; EAT, −7.3±8.3 vs. +8.7±8.8 cm3, p<0.01). Moreover, the change in the AVAT volume negatively correlated with the change in EPA (r=−0.58, p<0.01) and EPA/AA levels (r=−0.53, p<0.01). A similar negative correlation in these parameters was also observed for the EAT volume. Conclusions: Oral intake of purified EPA appears to be associated with reductions in EAT and AVAT volumes.

2 0 0 0 OA 官報

著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1939年06月15日, 1939-06-15

2 0 0 0 OA 官報

著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1936年12月09日, 1936-12-09
著者
黒木 政典
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1335, pp.183-185, 2006-04-03

陸の孤島と言われる南九州と関東を結ぶ「海の国道」を守ってきたフェリー会社が倒産しました。川崎港と宮崎港を結ぶカーフェリーを運営していた「マリンエキスプレス」は、昨年の10月に特別清算の申し立てをし、12月に清算手続きに入りました。現在は、2004年に設立した新会社「宮崎カーフェリー」に社員を移して、残された大阪航路で事業を続けています。
著者
田中 孝幸 桐野 秋豊 箱田 直紀
出版者
九州東海大学農学部
雑誌
九州東海大学農学部紀要 (ISSN:02868180)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.1-7, 2001
被引用文献数
1

ワビスケツバキ19品種について形態学的及び歴史的に調査を行った.その結果,'太郎冠者'はピタルディツバキC.pitardiiとヤブツバキC.japonica間のF1雑種で,'胡蝶侘助'が花壇地錦抄に現れた1695年以前に起源があるものと思われた.さらに,'太郎冠者'以外のワビスケツバキ品種群は2つのグループ,すなわち,狭義のワビスケツバキ品種群と'西王母'タイプのもの及びそれらの中間の形質を持つものに分けられた.広義のワビスケツバキ品種群をピタルディツバキC.pitardiiとヤブツバキC.japonica間のF1雑種('太郎冠者')あるいは戻し交雑世代のもの(多くはBC1)であると定義した.