著者
千葉 一雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.839, 2020-07-15

リハマネージャーが行き詰まったときに読みたい実践書 マネジャー業務の1つに職場改善の取り組みがある.マネジャーはリハビリテーション分野で働くスタッフの勤務負担を軽減し,やりがいのある職場にしたい.一方,患者からは質の高い医療を提供してほしいと期待され,経営者からはコストの適正化と経営の質を高める組織目的の実現を求められる.リハスタッフ,患者,経営者の三者にとってwin-win-winの関係をバランスよく高める職場環境にするには,「何を」「どこまで」考え,スタッフの協力をどのように得て運営するのか,課題が複雑で悩みが多い.マネジメントに関係する書籍はビジネス系の一般書が多く,リハ部門運営の舵取りに直接的に当てはまらないと感じていた. そこに本書は,リハ施設で比較的多い職員の“あるある”問題を「こんな場面に経営学」の項にトップバッターとして登場させ,読者の共感に訴え,本書の魅力をアピールしている.馴染みの薄い経営学理論を,職場にある「問題解決」のプロセスに落とし込み,解決するための実践方法のヒントが満載されている.
著者
佐々木 修二 井口 登與志
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.244-248, 2013-04-15

はじめに 下部消化管より分泌されるGLP-1(glucagon-like peptide-1)は,血糖値に応じた膵β細胞からのインスリン分泌促進作用に加え,グルカゴン分泌抑制,胃内容物排出抑制,食欲抑制作用など,多様な作用を有する1).GLP-1受容体作動薬は,このGLP-1の生理活性を薬理学的濃度まで高めた新しい糖尿病注射薬である.これまでの糖尿病治療薬では体重増加・低血糖といった問題が常に懸念されていたが,GLP-1受容体作動薬は体重減少が期待でき,単剤での低血糖リスクが少なく,医療者も患者も安心して使用できるため,2010年にわが国で発売されて以来,2型糖尿病の診療に大きな変化をもたらしている.さらに,血糖降下作用を超えて,膵保護作用や抗動脈硬化作用が期待されている薬物でもある2, 3).
著者
ゆらり
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.792-796, 2020-07-15

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に突然罹患したゆらりさんが、当事者にしかわからないCFSの体験をベッドの上で描いたコミックエッセイ『ある日突然、慢性疲労症候群になりました』(合同出版、2019)より、特別に抜粋・転載させていただけることになりました。本作では、ゆらりさんの10年以上に及ぶ闘病生活が、物語と4コマで描き出されます。本稿は、そのごくごく一部です。ぜひ本書を手に取っていただければと思います。倉恒弘彦先生(p.797・800)が、医学的観点から監修されています。本書の詳細はp.794・884も、ぜひご参照ください。(編集室)
著者
伊苅 裕二
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.7, 2013-01-15

心臓カテーテル検査および治療は,心疾患の治療において重要な位置をしめるようになり,冠動脈インターベンション(PCI)の件数はすでに外科医による冠動脈バイパス手術(CABG)件数を大幅に超えている.歴史的には内科治療,外科治療に続く第三の領域として登場したのであるが,現実には第一選択と考えて良い対象も増加している. 心臓カテーテルの世界第一例は,1929年ドイツの泌尿器科医Forssmanが,自分の上腕静脈から尿道カテーテルを挿入し,レントゲン室に走って行き胸部写真を撮ったところ,尿道カテーテルが右心房内にあることが確認された.初めて生きている人間において末梢の血管から心臓内にカテーテルが到達することを証明したが,狂気の行為として病院をクビになり泌尿器科医としては不遇であった.しかし,その後に発展する心臓カテーテル法を開発したことにより1956年にノーベル賞を受賞している.
著者
坂東 政司 佐野 照拡
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.224-228, 2018-05-01

Point・わが国のIPFの治療ガイドライン2017では,「慢性安定期のIPF患者にピルフェニドンを投与することを提案する(推奨の強さ2,エビデンスの質B)」と記述されている.・これまでの臨床試験の結果から,ピルフェニドンは疾患進行の抑制(FVCの悪化抑制)のみならず,全死因死亡やIPF関連死亡のリスク低下をもたらす可能性がある.・ピルフェニドンの主な副作用は食欲減退,光線過敏性反応,悪心,腹部不快感である.・実臨床においては,ピルフェニドンの有効性と有害事象とのバランスを見極めながら治療開始・継続の是非を判断することが重要である.
著者
小原 安喜子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.656-658, 2003-05-01

1993年12月,ウガンダ共和国西ナイル地区を訪れた.北はスーダン,西はコンゴに接する地域で,西ナイルウイルスの名を思い起す地名である. 訪問のきっかけは韓国の医大の先生からのお便りだった.前年のクリスマス・カードに国立療養所を辞し,生活の軸足を国際ヴォランティアに移したと書いたことへの思いがけない反応で,その先生方の国際協力フィールドがウガンダにあり,女性ワーカーが助産婦として常駐しているので,協力の意志があれば,という内容である.私が韓国のハンセン病医療に関わり始めたのは1969年だった.以来,韓国の医療界の方々と続いた交流からの呼びかけである.一度フィールドをお訪ね致しますとお応えした.その帰途ケニヤに足を延ばそう,ふとそう思う.というのは,韓国のフィールドに仲間入りした1972年から7年程一緒だった医師夫妻が,帰米して子供達の教育を終え,60歳代に入る頃からケニヤのフィールドに行かれたと聞いていたからである.
著者
大西 尚昭 中川 義久
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.654-656, 2016-04-10

ポイント●巣状興奮タイプ(異所性)の心房頻拍の場合は,12誘導心電図でのP波の極性から頻拍の起源を推定することができる.●左房起源か右房起源か,高位起源か低位起源かで大別して考えると理解しやすい.●嚥下誘発性心房頻拍は稀な疾患ではあるが,ときおり臨床現場で認める.薬剤が無効な場合でもカテーテルアブレーションが奏功することもある.
著者
藤代 貴志
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1239-1245, 2019-10-15

半導体レーザー装置CYCLO G6®を用いたマイクロパルス毛様体光凝固術の治療成績は,眼圧下降は良好で,術後の合併症が少ないと報告されているが,これまでのところ報告は海外からのものだけで,わが国では有効性と安全性を示した報告がない。今回,CYCLO G6®を用いた毛様体光凝固術の治療の原理とその有効性と安全性について解説したい。
著者
野口 卓也 京極 真 寺岡 睦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1097-1106, 2016-12-10

要旨 【目的】本研究では,精神障害者を対象に,Well-Beingを促進する生活活動にどの程度かかわれているかを評価できる尺度(Assessment of Positive Occupation;APO-15)を開発した.【方法】本研究は2段階から構成された.研究1では,作業療法士を対象に構成概念の検討,項目プールの作成,内容妥当性を検討した.研究2では,2つの手順で構成された.手順1は,研究1で作成した項目プールの項目特性を明らかにし,基準を満たさない項目の削除を検討した.手順2は,厳選された項目の信頼性と妥当性を検討した.【結果】研究1の対象者は10名(経験年数8.70±3.22年)であった.分析の結果,ポジティブ心理学のPERMAモデルに準拠し,Well-Beingに寄与する生活活動の5因子50項目が作成された.また,各項目はわかりやすい文章,因子定義を的確に反映するように意図して加筆修正された.研究2の対象者は110名(53.22±11.24歳)であった.分析の結果,APO-15は4因子15項目で尺度構成され,併存的妥当性,項目の妥当性,因子妥当性,構造的妥当性,仮説検証,項目分析などのいずれにおいても良好な尺度特性を示した.【考察】APO-15は全体として高い妥当性と信頼性を備えており,精神科デイケアに通う精神障害者を対象に,Well-Beingを促進する生活活動にかかわれている程度を的確に評価できると考えられた.特に,それが芳しくない対象者で測定精度が高いことから,APO-15は支援が優先的に必要な精神障害者を適切に評価できると考えられた.
著者
浅山 滉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.419-424, 1978-06-10

はじめに 起立歩行を行なう人間には重力に抗して生体の恒常性を保つためのいろいろの調節機構を有している.そのなかでいかなる体位でも脳への十分なる血液供給をする複雑な循環調節機構があり,その障害時にめまいから失神に至るまでの種々な程度の危険な症状が現われてくる.これを起立性低血圧(postural or orthostatic hypotension)と呼んでいる.これには既知の疾患の経過中に起こる症候性起立性低血圧(symptomatic or secondary orthostatic hypotension)と,特に明瞭な原因が明らかでない原発性起立性低血圧(idiopathic or primary orthosatic hypotension)がある.通常頸損と呼ばれる高位脊髄損傷者にみる起立性低血圧は前者に属し,ADL上,下位脊髄損傷者ときわめて異なる症状の一つである. この低血圧「発作」は頸損者に終始つきまとうやっかいな現象で,陳旧性に至ってもしばしば見られるが,体位を水平にしさえすれば後遺症も残さずに元の状態に戻ってしまうことで余り心配もされなく,またそれを防ぐ簡単な方法で日常対処されている.この起立性低血圧症は第5またば第6胸髄神経節以上の損傷でみられるが,その節以下から分岐していて,大量の循環血液量を調節する役目を担っている内臓神経splanchnic nerveが切断されたためとされている1~3). そこで私共のセソターに入院中の主に陳旧性の完全頸損者を対象に,ごく日常の臨床検査手技を用いて,身近で起こっている自律神経失調症の諸変化,ことに起立性低血圧に関する諸検査を行ない,併せて臨床的見地から腹帯の効果について調べてみた.

1 0 0 0 抗RNP抗体

著者
小池 竜司
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.572-573, 1999-10-30

異常値の出るメカニズムと臨床的意義 いわゆる抗核抗体の抗原を検索する過程で,核成分抽出物の可溶性分画はENA(extractable nuclear antigen)と呼ばれた(→「抗ENA抗体」の項参照).そのうち,リボヌクレアーゼで処理すると患者血清との反応性が消失する抗原に反応する抗体(RNase感受性抗ENA抗体)のかなりの部分は,抗RNP抗体に相当する.RNP(ribonuclear protein)とは,mRNA,rRNA,tRNA以外に細胞内に大量に存在する低分子RNAと蛋白の複合体を指すが,そのうちのU1RNPという複合体を構成する蛋白(8サブユニット存在する)のうち3種類を抗原とする自己抗体が狭義の(一般的に用いる)抗RNP抗体に相当する.最近では定義を厳密にするために抗U1RNP抗体とも呼ばれる. 抗RNP抗体は混合性結合組織病(MCTD)の診断に必須とされているが,SLEをはじめとするその他の自己免疫疾患でも検出される.その存在はさほど特異的なものではないが,臨床像と照合するとある種の症候と相関していることを示唆する報告もいくつか存在し,興味深い点もある.
著者
鈴木 秀和
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.244, 2018-03-01

Spinopelvic harmonyとは,脊椎と骨盤において良好な矢状面アライメントの調和が得られている状態をいう.脊椎矢状面アライメント異常は腰痛や生活の質(QOL)の低下をきたす1).腰椎矢状面形態は骨盤形態によって規定されており,pelvic incidence(PI)は個人固有の骨盤形態を表す指標として重要である2).また代償の働いていない理想的アライメントは脊椎のみならず関節や軟部組織に対する最小負荷で立位姿勢を保持できると考えられ(cone of economy)3),脊柱変形に対する矯正手術においては理想的アライメントの獲得が目標とされる.Schwabら4)は無症候成人75例の検討で,PIによるlumbar lordosis(LL)の予測式としてPI=LL+9°を提唱,さらに成人脊柱変形術後患者125例の臨床成績を検討し5),sagittal vertical axis(SVA)>50mm,骨盤傾斜(pelvic tilt:PT)>20°とともにPI-LL>9°がoswestry disability index(ODI)約40以上となる指標となることを示し,“Harmony among spinopelvic parameters is of primary importance” と述べている.そして2012年,脊椎骨盤アライメントとhealth related quality of life(HRQOL)に基づく成人脊柱変形の指標として,Scoliosis Research Society(SRS)-Schwab分類が提唱された6).SRS-Schwab分類はSVA,PT,PI-LLをsagittal modefierとし,SVA>40mm,PT>20°,PI-LL>10°がsagittal deformityと定義され,これが現在の成人脊柱変形評価のスタンダードとなっている.しかし,腰椎前弯減少に対する体幹バランス不全の代償は骨盤後傾によってのみならず胸椎後弯減少や下肢関節屈曲によっても行われる.変形矯正手術により腰椎前弯を獲得してもreciprocal changeにより胸椎後弯が増強し矢状面体幹バランス不全が残存することもしばしば認められる.Roseら7)は矯正手術の指標として,胸椎カーブを含めたフォーミュラを提唱しており,Le Huecら8)はC7から膝屈曲による代償まで考慮したフォーミュラ[full balance integrated(FBI)technique]を提唱した.また,わが国においても,各年代のPTの予測式から理想的なPTを得るために必要なLLを算出する浜松フォーミュラ9)や,PI-LLの値がPIにより変化するという解析結果をもとに算出された獨協フォーミュラ10)など,さまざまな算出式が提唱され,いまだ議論されている.また,PTは頚椎矢状面アライメントにも相関があり,頚椎矢状面形態と姿勢異常の関連もあることから11),脊椎手術においては局所や隣接アライメントだけでなく,全脊椎アライメントあるいはバランスを考慮することの重要性が指摘されている.さらに近年は,立位のみならず,若年者や高齢者の坐位における脊椎アライメントの検討も行われ12,13),さまざまな生活動作や姿勢における脊椎アライメント変化も明らかになってきている.しかし,個々の脊椎アライメントは健常者においてもばらつきがあり,また高齢者のspinopelvic harmonyは若年者と同じなのかなど,明らかにすべき課題も多く,さらなる検討が必要である.
著者
西村 真紀
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.900-904, 2020-07-15

教育学部を卒業して7年間、私は中高教員だった。化学を教えていた。しかし“冒険家の私”は、30歳を目前に医学部に学士入学、家庭医の道を邁進してきた。診療所や大学、学会で家庭医教育に従事し、なかでも「ウィメンズヘルス」に注力、また「女性医師」の働きやすい環境づくりにも取り組んできた。私のキャリアの概略を表1に示した。
著者
勝沼 俊雄
出版者
協和企画
巻号頁・発行日
pp.560-563, 2020-07-01

1911年にNoonらが枯草熱に対する治療法として,世界で初めて皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy:SCIT)の効果を報告した1).筆者がレジデントの時代,SCITは「減感作療法」と呼ばれ,小児においても喘息やアレルギー性鼻炎の長期管理において,非常にポピュラーな治療法として実践されていた.しかしながら国内に治療用としての抗原製剤は存在せず,各医療機関においてハウスダストやスギ花粉の診断用抗原エキスを転用して治療を行っていた.そのためか筆者は,同治療の有効性を当時は十分に実感できなかった.このため,筆者はSCITから遠ざかったし,国内外のコンセンサスとしても喘息長期管理における位置づけは低位といえた. ところが1999年にスギの標準化エキス(トリイ)がわが国で使用可能となり,SCITが改めて評価されるに至った.世界的にもダニを含めた抗原の精製度が増して標準化されたことにより,小児の喘息やアレルギー性鼻炎に対する有効性を論述した論文が次々に報告され始めた.(『I.吸入性抗原と舌下免疫療法』の「1.皮下免疫療法の効果と問題点」より)
著者
鈴木 康之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.626, 2020-05-15

私が初めて本格的な英語論文を書いたのは1986年でした。当時,論文執筆に関するテキストはほとんど無く,他の論文の表現や構成を参考にしながら,四苦八苦して継ぎはぎの英作文をしていた記憶しかありません。本書で植村研一先生が強調しておられる“comfortable English”にはほど遠いものでした。当時,本書があったら私の苦労の何割かは軽減し,ワンランク上の雑誌に掲載できていたことでしょう。近年,論文執筆に関するテキストは随分多くなりましたが,本書は次の3点でとても魅力的です。 (1)医学研究者・医学英語教育者・雑誌編集者・同時通訳者としての長年の経験に基づいて,“どのような論文が一流誌に採択されるか?”を熟知した植村先生が,まるで直接語りかけてくださるように,歯切れ良くポイントを示しています。植村先生のお話を一度でも聞いたことのある方は,特に実感されるでしょう。植村先生の頭に蓄積されてきた智慧とノウハウを学びとってほしいと思います。 (2)全編を通じて“comfortable English”と“短縮率”がキーワードとなっています。日本人特有の婉曲・冗長な表現を戒め,言葉をいかにそぎ落とすかを多くの実例で示し,演習によって実践力が高まる工夫がされています。英語論文の読者・査読者の多くはnative speakerであり,comfortableな英語を心がけることが重要です。“うまい英語”とは決して美文ではなく,読者の頭に素直に入っていく“simple and clear statement”なのだと理解しました。“うまい英語”のコツがわずか50ページの中に凝縮されているとは驚きです。 (3)コンパクトな構成で,忙しい医師・研究者でも手軽に読むことができます。読みやすく(comfortable Japanese!),明快(simple and clear!)に書かれていますので,一度全編を通読することがお薦めです。これから英語論文にチャレンジしようとしている若手はもちろんのこと,論文の質をワンランク高めたい中堅,論文執筆を指導する立場のベテランにとっても格好の参考書です。一度でも英語論文を書いた方なら,読んでいてうなずかされることばかりです。査読者の視点を知ることで,どんな論文を書けば良いかを知ることができます。
著者
池知 大輔 山下 進
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.11-17, 2020-01-01

脳卒中症例では,非感染性の発熱を伴うことが多く,神経原性発熱あるいは中枢性発熱と呼ばれる。これは視床下部に存在する体温調節中枢の障害によるものと考えられている。視床下部に障害がなくても,脳脊髄液腔に出血があるとプロスタグランジンE2が産生され,生理的な体温上昇が生じる。 脳卒中症例では,急激な心機能低下を伴うことも多い。これは自律神経を介するカテコールアミンサージによって心筋障害を生じるためと考えられている。特に,自律神経ネットワークの中心に位置する島皮質の障害があるとリスクが高くなる。 くも膜下出血に伴う血管攣縮の原因は,いまだに解明されていない。単純な脳主幹血管の攣縮だけでなく,微小循環障害なども遅発性に生じる虚血性障害の一因と考えられている。
著者
中島 一敏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.462-466, 2006-06-01

1996年,西日本を中心に発生した腸管出血性大腸菌O157アウトブレイクが1つのきっかけとなって,1999年に日本の実地疫学専門家養成コース(Field Epidemiology Training Program: FETP)が誕生したように,世界中の多くの国や地域で,各々の背景によってFETPが誕生,運営されている.世界中のFETPのネットワークであるTEPHINET(Training Programs in Epidemiology and Public Health Interventions NETwork)には,2006年3月現在32の国や地域で,FETPもしくは同等のプログラム(以下,FETP等)が参加している.各FETPは,すべて2年間のon-the-job trainingであり,実際の感染症集団発生事例の現地疫学調査の実施等を通してトレーニングを行っている.日本以外のプログラムは,研修生に対し給与が支給され,公衆衛生上の疫学サービスの提供が求められている.各々の研修員や修了生の多くは,担当地域の感染症サーベイランス業務やアウトブレイク調査などに従事しているが,必要な場合には,国際的な連携のもとで,国境を越えた疫学調査にあたることも少なくない. SARSなどの集団発生疫学調査における世界のFETP等修了生の役割 SARS(重症急性呼吸器症候群)は2003年突然現れ,世界中を巻き込んだ後,多くの関係者の多岐にわたる献身的な努力の末封じ込められた(現在のところ再流行は起こっていない).ベトナムの原因不明呼吸器感染症の院内発生で初めて認識されたSARSは,当初,以下のような特徴を備えていた.突然の出現,原因不明(あらゆる病原体検索も陰性),有効な治療法なし(様々な抗菌薬・抗ウイルス薬投与に反応しない),医療従事者の発病,重症化・死亡者の発生,複数国でのほぼ同時期の発生,などである.国際的な緊急支援が必要と判断した世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局(WPRO)では,GOARN(Global Outbreak Alert and Response Network:世界的な集団発生事例に対する警戒と対応のためのネットワーク)を通じ,参加国やパートナー組織に要請し,緊急支援チームを組織した(GOARNとは,国際的な集団発生支援を行うグローバルなネットワークで,2000年に設立された.ジュネーブのWHO本部内に事務局を持ち,世界各国の様々な分野の組織が参加している).主な支援分野は,臨床マネジメント,感染予防(臨床分野),病原体検索支援(ラボ分野),疫学調査支援(疫学分野)であった.
著者
千貫 祐子 森田 栄伸
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.8-11, 2012-04-10

要約 近年,旧「茶のしずく石鹸」中の加水分解小麦(グルパール19S®)で経皮または経粘膜感作されて,小麦による食物依存性運動誘発アナフィラキシー(food-dependent exercise-induced anaphylaxis:FDEIA)を発症したと思われる患者が急増した.患者の多くが小麦によるFDEIAの主要アレルゲンであるω-5グリアジンに対する特異的IgEを有しておらず,従来のFDEIAとは異なる臨床症状および予後を呈している.
著者
岩瀬 拓士
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1069, 2014-09-20

マンモグラフィ検診がまだ十分に日本に定着していなかった20年近くも前のことではあるが,当時我々が癌を強く疑って生検した石灰化の写真を,講演で来日したDr. Tabárに診てもらったことがある.一見多形性,区域性に見える石灰化ではあったが,彼は即座に良性と診断し,生検は不要だろうと答えたことを覚えている.生検結果が良性であったことを知る我々にとっては大変な驚きであったが,経験を積んだ今ならその診断理由をよく理解できる.当時の診断能力の差を思い知らされた貴重な経験となっている. 本書は,そうしたマンモグラフィの教育活動を世界中に展開してきたDr. Tabárの有名な著書「Teaching Atlas of Mammography」の第4版を訳したものである.第4版改訂を機に日本語への翻訳と出版が現実のものとなった.
著者
小林 美亜 竹林 洋一 柴田 健一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.568-577, 2018-11-15

診療報酬による「身体拘束最小化」への誘導 高齢化の進展と共に認知症高齢者の入院が増加している。急性期病院(看護配置7対1及び10対1)では、認知症をもつ患者の入院割合は約2割を占め、そのうち、半数以上がBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:行動・心理症状)を有しており*1、身体合併症の治療だけでなく、認知症高齢者の中核症状およびBPSDへの対応能力を高め、身体拘束を防止し、認知症高齢者の尊厳を保障することが急務の課題となっている。 診療報酬でも、医療機関は身体拘束を減らす方向に誘導がなされている。2016年の診療報酬改定では「認知症ケア加算」が新設され、身体的拘束を実施した日は、当該点数が40%減額となるペナルティが課せられるようになった。また、2018年の診療報酬改定では、看護補助加算や夜間看護加算の算定において、「入院患者に対し、日頃より身体的拘束を必要としない状態となるよう環境を整えること」「また身体的拘束を実施するかどうかは、職員個々の判断ではなく、当該患者に関わる医師、看護師等、当該患者に関わる複数の職員で検討すること」といった身体拘束などの行動制限を最小化する取り組みを行うことが要件となっている。