著者
齊藤 壽彦 サイトウ ヒサヒコ Hisahiko SAITO
雑誌
千葉商大論叢
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.49-106, 2003-03-31

本論文において,日本銀行が大手銀行などから直接にその保有株式を買入れた問題を実証的,総合的に考察した。単なる現状分析にとどまらず,理論研究を基礎に,時間的推移も考慮に入れてこの問題を考察した。政策評価(意義と問題点の分析)も行った。本論文においては,まず本施策の決定過程を考察し,当初株式買入を拒否していた日本銀行が,不良債権問題の深刻化と株価低落に伴う大手銀行の経営悪化という状況変化のもとで,日本銀行自らがこの異例の施策の採用を決断するに至ったことを明らかにした。続いて本施策の目的,日銀の株式買入方法,買入れ状況を論述した。さらに日銀の株式買入限度額引上施策について,それが実施された背景や目的について考察した。最後にこの施策を信用秩序維持,証券市場,貨幣・中央銀行信認に及ぼす影響について検討した。本施策は日本銀行が銀行の株価変動リスク軽減を通じて金融システムの安定を図る政策であって,また,政府に不良債権の早期処理への取組を促すという役割をもっており,それは一定の役割を果たしたが,それは大きな限界をもっており,また証券市場の改善には役立たず,中央銀行の財務悪化を通ずる信認毀損の恐れという問題点をもっていたということをを明らかにしている。
著者
福原 敏男
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.1-23, 1994-03-31

筆者はこれまでに、祭礼芸能である一つもの・細男について考察し、これを平安末期に成立した田楽・王の舞・獅子舞・十列・巫女神楽・競馬・流鏑馬・神楽・舞楽・神子渡等からなる一連の芸能として位置づけた。京都・奈良の古社の祭礼において、「日使」と称する役が、上記の諸芸能とともに、祭礼に参加する事例がある。従来の日使に関する先行研究は、春日若宮祭礼に限られ、ここに神聖性が指摘された。日使は黒袍表袴に長い裾をひいた姿で、奉幣を主な役割とし、芸能的所作がないからであった。本稿では、春日祭・春日若宮祭礼、東大寺八幡宮転害会、大山崎離宮八幡宮の日使神事、山城宇治田原三社祭に参加する日使を対象にした。史料と絵画に基づく検討の結果、日使の成立を楽人の風流に求めた。日使が伝播した地における宗教性は、その所役を荷った人々の階層の問題である。
著者
上田 陽平 小原 盛幹
雑誌
情報処理学会論文誌プログラミング(PRO) (ISSN:18827802)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.17, 2020-01-29

Webアプリケーション開発においては,動的コンパイル言語やスクリプト言語が実装言語として選択されることが多い.これは,静的コンパイル言語に比べてデプロイに必要な時間が短く,新しい機能やバグ修正を迅速にリリースでき,開発生産性の向上に寄与するためと考えられる.しかし,近年のコンテナ技術や継続的インテグレーション・継続的デリバリーの普及により,静的コンパイル言語を用いたWebアプリケーションの開発においても動的コンパイル言語やスクリプト言語と遜色ない生産性を実現する環境が整いつつある.本発表では,静的コンパイル言語のGoと動的コンパイル言語のJavaおよびJavaScriptで実装されたWebアプリケーションの性能評価結果を報告する.WebアプリケーションであるAcme Airベンチマークの各言語での実装を使用して性能評価を行い,Goによる実装はJavaScriptに対して約1.6倍,Javaに対して約1.8倍のスループットを達成することを確認した.性能プロファイルの分析によると,GoのWebフレームワークはJavaのWebフレームワークに比べてREST型Webリクエストの処理に必要なコードフットプリントが少なく,また,動的型付けのJavaScriptと比較して静的型付けのGoはランタイム検査のオーバヘッドが少ないことが判明した.GoはJavaおよびJavaScriptに対して優位な性能を示しており,Webアプリケーションにおいても静的コンパイル言語の普及が期待される.
著者
西垣内 泰介
出版者
神戸松蔭女子学院大学学術研究委員会
雑誌
トークス = Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin : 神戸松蔭女子学院大学研究紀要言語科学研究所篇 (ISSN:13434535)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.59-74, 2019-03-05

本論文は,「地図をたよりに(目的地にたどりつく)」のような,「付帯条件」を表すとされる付加表現について新しい提案をしている西垣内(2019, 『日本語文法』19(1)) の補遺である。そこで提案されている統語的分析の要点を示した上で統語分析の詳細なポイントを追加し(1–2 節),代名詞束縛,量化表現の相対スコープ,「量化詞分離」の現象に基づく「構造的連結性」の議論を提示し(3 節),「時」に関する解釈など,統語論分析だけでは捉えられない意味的な要因についての議論を行い(4 節),西垣内(2019) で主張している「X をY に」と「X をY にして」は構造的に違うものだという議論に,主に「時」の解釈に関連した議論を追加している(5 節)。また,西垣内(2019) の主張のポイントのひとつは三宅(2011) 以来この現象についての研究で共通認識となっている,この構文と「指定文」との間の平行性がいずれも「関数名詞句」から移動によって派生することから由来する二次的な現象に過ぎないということであるが,本論文では,そのような平行性が成り立たないことを示す複数のケースを提出する。
著者
小川 宏高 松岡 聡 佐藤 仁 高野 了成 滝澤 真一朗 谷村 勇輔 三浦 信一 関口 智嗣
雑誌
研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC) (ISSN:21888841)
巻号頁・発行日
vol.2017-HPC-160, no.28, pp.1-7, 2017-07-19

国立研究開発法人産業技術総合研究所 (以降,産総研) では,平成 28 年度二次補正 「人工知能に関するグローバル研究拠点整備事業」 の一環として,平成 29 年度末に,東京大学柏 II キャンパスに,「AI 橋渡しクラウド (AI Bridging Cloud Infrastructure)」 (以降,ABCI という) の導入を計画している.ABCI は,我が国の人工知能技術開発のためのオープンなリーディングインフラストラクチャの実現を目指し,アルゴリズム (Algorithm),ビッグデータ (Big Data),計算能力 (Computing Power) の協調による,高度な人工知能処理を可能にする大規模かつ省電力なクラウド基盤である.本稿では,ABCI のサーバシステムにフォーカスしつつ,ABCI の概要と,システム設計上の論点と我々が採った方策について紹介する.