著者
住吉 朋彦
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.186, pp.31-81, 2014-03-26

国立歴史民俗博物館は、開館当初から日本の印刷文化を重視し、中世以前将来の中国刊本、日本中世の刊本や、朝鮮版など、多くの古版本を蒐集して来た。その中でも、中世の印刷文化を体現する諸版本の収蔵は特に篤く、二十餘種もの五山版を擁することは、新設の機関として極めて異例である。これらの五山版を通覧すると、禅籍を中心として、一般の仏典、漢籍の外典、国書を数点ずつ収め、五山版全体の構成が再現されているのみでなく、南禅寺、臨川寺、天龍寺といった、当時の主要な禅院の出版書を含む他、臨川寺版『禅林類聚』や兪良甫版『唐柳先生文集』等、禅院の出版事業に関与して南北朝後半の展開を担った、来朝刻工の代表的な版本を収めている。さらに外典では、室町期出版の地方的展開にも及ぶ所である。こうした収蔵の副産物として、中世の印刷技術を垣間見ることができる点も意義深く、伝存の殆どない南北朝の五山版の版木について、一面に二、三張を配し、一版の両面に四、六張を列した版木の様式が類推される資料を、いくつか含んでいた。特に来朝刻工関与の版本では、六張一版の様式を確認できる場合があった。これらの五山版が禅院の学問を潤した様子も、その書入や蔵印から明らかな伝本が多い。また地方の禅院や、禅宗以外の寺院への流布を示す等、五山版の流通を基礎とする、中近世の学問の広がりを証言する点は貴重であり、その他、近世、近代の学者、蔵書家に用いられた点も注意される。そして、当時一流の蔵書家の見識により選択された諸伝本には、整った早印の完帙が多く、書物としての五山版の意義をよく発揚している。本稿は、上記の諸点を書誌学的に整理し、目録解題として記述、当館収蔵の五山版コレクションの特色を示したものである。
著者
岸田 直子
出版者
文教大学
雑誌
文学部紀要 = Bulletin of The Faculty of Language and Literature (ISSN:09145729)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.95-106, 2018-09-15

現代アメリカ英語の口語表現の代表的な構文の一つである、go/come+ 原形不定詞構造を取り上げて、まず、その統語的、意味的な特徴について、述べる。つぎに、先行研究として、Shopen( 1971)および Jaeggli and Hyams (1993)を紹介する。つぎに、この構文の史的な発達過程について、Jespersen( 1940), Mitchell( 1985), Mustanoja(1985), Visser (1969)を概観し、特にVisser の命令形の扱いに注目する。古英語から現代にいたるまでの、この構文関連の資料を概観し、最後にこの構文の起源について考察する。
著者
石飛 太一 飯田 弘之
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ2015論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.126-131, 2015-10-30

探索中に得られた情報を探索以外の目的に利用することはときに有効であると考えられる.本研究では,証明数探索で求められた証明数・反証数および探索ノード数を詰め将棋コンクールにおける順位と比較し,これらの探索指標をパズル問題の感性評価のために用いる.これらの探索指標はパズル問題において難易度を表すことを確認し,コンクールの順位付けと難易度には密接な関係があることがわかった.
著者
松橋 崇史
出版者
拓殖大学経営経理研究所
雑誌
拓殖大学経営経理研究 = Takushoku University research in management and accounting (ISSN:13490281)
巻号頁・発行日
vol.117, pp.75-88, 2020-03-26

本研究の目的は,株式会社広島東洋カープと広島市,株式会社楽天野球団と宮城県・仙台市の連携を対象に,各地方公共団体がどのような制度整備を行い,そのことが球団経営や地域経済に与えた影響について明らかにすることである。本研究では,民間事業者が中心となって地域活性化等に波及効果を生み出す「地域イノベーション」と,民間事業者の新たな価値の創造実現を可能にする公的な条例や規則の制定や改正,その運用としての「政策イノベーション」の相互作用という分析枠組みを仮説的に設定し,両事例における球団と自治体の関係を分析することにする。両球団,および,宮城県,仙台市,広島市の関係者に対するヒアリング調査および文献調査から次のことが明らかになった。まず,両球団は自治体との間に連携協定を結び,自治体が有するスタジアムの管理者として,既存の制度的制約にとらわれない球場管理/経営を行っている。例えば,球団による球場の改修等が可能になり,飲食物販や球場内のスポンサーからの売り上げの多くを球団が得ることが可能になった。2010 年代に入ってからの両球団の経営的成功は自治体との間に結んだ連携協定に大きな影響を受けていることが明らかとなった。地元地域においても年間200 万人前後の誘客力を持つ球団によって雇用効果,経済効果がもたらされ,球場周辺の都市開発が進む現状も生じた。本論で用いた分析枠組みは,他球団や他種目の事例に適応しながら分析を行い,「地域イノベーション」と「社会イノベーション」の関係をパターン化していくことが求められる。
著者
梶並知記
雑誌
研究報告デジタルコンテンツクリエーション(DCC)
巻号頁・発行日
vol.2013-DCC-4, no.14, pp.1-7, 2013-06-20

本稿では,e-Sports の一種である対戦型格闘ゲームに関する,プレイ技能向上支援の方法について検討する.近年,対戦型格闘ゲームの競技会は世界各国で行われており,その模様は動画コンテンツとして配信されている.本稿では,対戦型格闘ゲームのプレイが知的なものであり,またプレイヤーが競技者 (Athlete) でもあり観戦者 (Audience) でもあると仮定し,動画コンテンツを用いて,ゲームプレイにおける戦略・戦術に関する創造活動を支援するための枠組みについて述べる.
著者
早川 陽 Yo Hayakawa
雑誌
學苑 = GAKUEN (ISSN:13480103)
巻号頁・発行日
vol.896, pp.2-18, 2015-06-01

In the field of Japanese art education, the pigments employed in traditional Japanese paintings are rarely used, though using them in an educational context could be very valuable in imparting an understanding of Bijutsu Bunka(art culture)currently required in curriculum guidelines. In an attempt to explore how they can be adopted in today's art education, this paper explores two Japanese traditional painting technique books from the Taisho Period and highlights the common characteristics of the pigments described in the books and compares them with pigments that have survived from those times, or have been more recently developed for use in traditional-style paintings. The origins of various Japanese pigments are organized in such a way that they can be used as educational material. In order to provide background for this research, the first chapter considers how Japanese traditional paintings are created, displayed and enjoyed today. Also the significance of Bijutsu Bunka, which was newly specified in curriculum guidelines, is discussed. The second chapter, focusing on the refinement and elutriation of pigments used in Japanese traditional paintings, categorizes and organizes the features of the pigments used. The third chapter refers to the above two books and considers the changes made since then in the types of the pigment. The final chapter summarizes the characteristics of the pigments and gives a general view of how they were traditionally used and concludes that the pigments, many of which have been refined by elutriation, can be utilized effectively in the field of art education today. The author believes that intercourse between the past and present, and understanding and appreciating traditional art, offer new possibilities in the future of art education.
著者
中屋敷 太一 金子 知適
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ2019論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.86-93, 2019-11-01

AlphaZero は同一のアルゴリズムで強いプレイヤを作成できることを将棋,チェス,そして囲碁の3 つのゲームのそれぞれで示した.しかし AlphaZero の手法は,どのくらいの学習でどのくらい強くなるかなどを理論的に解析することは難しく,プレイヤ強さを測るには実験的に行うしかない.本稿ではAlphaZero の手法で学習を行ったニューラルネットワークがどの程度正しい判断をしているかを,すでに完全解析されたゲームであるどうぶつしょうぎを用いて,完全解析結果と比較し測定した.また異なる大きさのニューラルネットワークを用いて実験を行い,ニューラルネットワークの大きさによる影響を測定した.さらに完全解析結果を用いた教師あり学習も行い,ニューラルネットワークの大きさそのものによる性能比較も行った.最後に AlphaZero が指し手決定の際に用いている探索アルゴリズムである.Monte-Carlo Tree Search について,そのハイパーパラメータによる違いを簡単に調査した.実験の結果,教師あり学習の場合には大きいニューラルネットワークほどよい性能である一方で,AlphaZero の手法で用いる際には必ずしもそうではないことを示した.また Monte-Carlo Tree Search のハイパーパラメータによって探索の挙動が大きく変わることを示した.