著者
阿部 隆明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.727-734, 2018-07-15

はじめに 双極Ⅱ型障害という病名が臨床で用いられるのは,1994年発刊のDSM-Ⅳ6)で正式に取り上げられて以降である。この病態は,一昔前であれば単極うつ病と診断されていたし,ICD-1033)では採用されていない。したがって,同障害とパーソナリティ障害との合併が話題になるのも,1990年代後半以降である。現在では,DSM-57)の診断基準が採用されることが多いと思われるが,軽躁病エピソードの評価は案外難しく,過小診断の一方で過剰診断の恐れも指摘されている。また単極うつ病との境界も不明確であり,長期経過を見ると,うつ病から双極Ⅱ型障害に,あるいは双極Ⅱ型障害からⅠ型障害に診断が変更されるケースも稀ではない。したがって,臨床特徴も単極うつ病と双極Ⅰ型障害の中間的な所見になることが多い。 双極Ⅰ型障害,すなわちかつての躁うつ病の病前性格に関しては,対照群と変わらない35)とされていたが,DSMなどの操作的診断でcomorbidityという観点が導入されて以来,双極性障害とパーソナリティ障害の合併が報告されるようになった。双極Ⅰ型障害では22〜62%11)にパーソナリティ障害が合併するとされているが,双極Ⅱ型障害に関しては報告が少なく,筆者が調べた限りでは,Vietaら31)の研究くらいである。それによると,双極Ⅱ型障害の32.5%にDSM-Ⅲ-Rのパーソナリティ障害を合併していたという。内訳としては,境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorders:BPD)が12.5%で最も多く,強迫性パーソナリティ障害3.75%,演技性パーソナリティ障害3.75%,自己愛性パーソナリティ障害2.5%,シゾイドパーソナリティ障害1.25%の順だった。パーソナリティ障害合併群で感情障害の発症年齢が若く,自殺念慮も高率だった以外は,パーソナリティ障害の合併の有無で社会人口学的なデータに差はなく,他の臨床的な変数,すなわち,軽躁ないしうつ病相の数,精神病的な特徴,急速交代,季節性,精神疾患の家族歴にも有意な差はなかったという。また,双極Ⅱ型障害におけるBPDの合併に関しては,Benazzi8)も12%という数字を挙げている。 パーソナリティ障害ではなく,気質やパーソナリティという観点から,Perugiら26)は気分循環気質(cyclothymic temperament)が双極Ⅱ型障害の中核的な要素かもしれないと報告している。また,単極うつ病の患者に比べて,双極Ⅱ型障害の患者では,外向性が高く,神経質が低く,易刺激性が高いとする研究がある一方で,依存性,強迫性,演技性の特徴が多く,報酬依存的,受動回避/依存的という単極うつ病の患者と似たパーソナリティが認められるという研究もある9)。この矛盾した所見は,前者では双極Ⅰ型障害寄りの,後者は単極うつ病寄りの双極Ⅱ型障害が対象になっていたことを示唆するのかもしれない。結局,これまでの諸研究からは,双極Ⅱ型障害では他のパーソナリティ障害に比べて,BPDが多いというのが,唯一の最も一貫した所見である。逆に,BPDと診断された患者を調べると,約66%が感情障害の診断を合併していて,双極Ⅱ型障害が特に多い20)。そこで,以下では双極Ⅱ型障害とBPDとの関係を中心に論じてみたい。
著者
山下 大介 丹生 健一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.679-683, 2010-09-20

Ⅰ.はじめに 線維素性唾液管炎とは,1879年,Kussmaul1)によって初めて報告された発作性反復性に唾液腺腫脹をきたす疾患である。末梢腺組織ではなく主に導管系が閉塞し,唾液管開口部からは白色の索状分泌物が排出されるのが特徴的である。この線維素塊の中には多数の好酸球が認められる。唾液腺造影では,主導管の高度な拡張像を呈する。これまで国内外からの報告は約40例と決して多くはないが,Pearson2)は耳下腺の反復性腫脹を伴う患者104名中16例(15.4%)に本疾患を認めたと報告している。このように本疾患に対する認識の低さから臨床上,見逃されている可能性もあると考えられる。そこで反復する唾液腺腫脹を主訴とする場合には,本疾患を念頭に入れておくことが重要であると思われる。
著者
松岡 敦子
出版者
メディカルレビュー社
巻号頁・発行日
pp.37-41, 2017-04-20

メトホルミンに代表されるビグアナイド薬はスルホニル尿素薬と並び,最も古くから使用されている糖尿病治療薬である。ビグアナイド薬はフレンチライラック(ガレガソウ)に多く含有するとされるグアニジンの誘導体であるが,すでに17世紀の薬草療法ガイドブックに「フレンチライラックは糖尿病によると考えられる口渇・多尿などの症状に効果がある」との記載があり1),グアニジンに血糖降下作用があることが1918年に報告されている2)。ビグアナイド薬は1950年代より販売され,1970年代にフェンホルミン服用者に乳酸アシドーシスの発症が報告されて以来,一時,使用頻度が減少したが,1990年代に行われた大規模臨床研究によりメトホルミンの有効性と安全性が確認され3)4),再評価の機運が高まった。2008年には米国糖尿病協会と欧州糖尿病学会の共同ステートメントにおいてメトホルミンは第1選択薬に位置づけられた5)。最近,メトホルミンの作用メカニズムについて新しい知見が相次いで報告され,基礎研究の観点から注目を浴びている。また心不全患者での有効性や安全性に加え,悪性腫瘍への影響に関しても興味深い報告がある。本稿ではこのようなメトホルミンに関する最近の基礎的,臨床的な話題について概説する。「KEY WORDS」メトホルミン,作用機序,悪性腫瘍,心不全
著者
落合 俊輔 齋藤 彰 髙柳 聡 玉木 康信 名倉 誠朗 三原 政彦 平川 和男
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.1201-1204, 2018-11-01

は じ め に 本邦において人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)後に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とアセトアミノフェンを併用して内服した鎮痛方法の有用性を報告したものはない.THAの術後疼痛管理は,低侵襲手術や早期リハビリテーションの利点を最大限に活かすために重要な課題の一つである. 近年,術後疼痛管理の方法としては多様式鎮痛(multimodal analgesia)の概念が普及している1).多様式鎮痛は異なる作用機序の鎮痛方法,鎮痛薬などを組み合わせることにより,多角的に鎮痛を行い,さらにそれぞれの鎮痛方法や薬剤の副作用を低減する方法である. 多様式鎮痛で使われる薬剤のなかで,NSAIDsは消炎鎮痛効果があるため,術後鎮痛の基本的薬剤となっているが,消化性潰瘍のリスクがあるため最近ではCyclooxygenase-2(COX-2)選択的阻害薬のセレコキシブが多く用いられるようになっている.アセトアミノフェンはその作用機序は明確に解明されてはいないが,NSAIDsとは作用機序が異なりCOX阻害作用がないため,NSAIDsで懸念される消化性潰瘍や腎障害,抗血小板作用など副作用が少ないとされる2).このため多様式鎮痛では,ほかの薬剤と併用しやすい薬剤とされており,欧米での術後疼痛管理におけるガイドラインでは,禁忌でない限り,NSAIDsとアセトアミノフェンを併用することが推奨されている3,4). 以前にわれわれは,THAの術後鎮痛におけるアセトアミノフェン点滴製剤の有用性を報告した.しかし,現状,本邦ではアセトアミノフェン点滴製剤の保険適用は経口摂取困難な術後となっているため,経口摂取が可能になった後には内服に切り替える必要がある.これまで,THAの術後疼痛管理においてNSAIDsとアセトアミノフェンの内服を併用した報告はない.本研究の目的は,THAの術後鎮痛におけるCOX-2阻害薬(セレコキシブ)とアセトアミノフェンの内服を併用した鎮痛方法の有用性を明らかにすることである.
著者
立岡 弓子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.866-871, 2005-09-01

はじめに ビスフェノールA(BPA)は,内分泌撹乱物質として環境庁よりリストアップされた物質の1つであり,その国内生産量は約50万トンにも及ぶ。BPAを原料とするポリカーボネイト(PC)樹脂は,電気・電子機器,自動車の製造原料として使用されており,人が直接体内に摂取する可能性のあるものとしては,食器類や医療機器があげられる。 同様に,BPAを原料としたエポキシ樹脂は,缶詰製品の内側のコーティング材質に使われている。その他には,歯科治療用のレジンにも混入されている可能性が指摘されている。 BPAの化学構造は,女性ホルモンと類似している部分があり(図1),体内に取り込まれたBPAも女性ホルモンレセプター(エストロゲンレセプター)に結合してしまう可能性があり,人の内分泌環境を混乱させる危険性が危惧されている。動物実験では,マウスの胎児に自然環境中に存在する量のBPA(2.4μg/kg)を負荷した結果,性的早熟が観察されたという研究報告がある1)。 しかし,このBPAは,女性ホルモン活性の1万分の1以下の活性化しかないことから,実際には,体内に取り込まれても肝臓での代謝作用によって“抱合体”となり,尿中や糞便中に排泄されていく。これまでに報告されているヒトサンプルのBPA濃度の測定結果を表1に示す。 筆者は,初乳検体からBPAを抽出し,また,その濃度が臍帯血や羊水,成人血清中のBPA濃度と比較して高い濃度であることを明らかにし,授乳行為により母乳を介して母乳を飲む児にBPAが移行していることを報告した5)。また,そのBPA濃度が,缶コーヒーやカップめん,コンビニ弁当などのBPAが溶出する食器包装容器をより多く摂取した母親から分泌された初乳に,多く含まれる傾向があることを報告した5)。 とくに缶コーヒー飲料では,食品への金属の溶出や味の変化を抑制するために,内面がBPAを使用したエポキシ樹脂や塩化ビニル樹脂による塗装,またはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの貼り合わせがなされている。そのうち,エポキシ樹脂には原料として,塩化ビニル樹脂には安定剤としてBPAが使用されていることから,BPAが塗膜中に残存しコーヒー飲料中に移行している6)。 今回,BPAが体内に摂取されてから乳汁中への移行,および尿中に排泄されるまでの体内動態を明らかにする研究に取り組んだので報告する。
著者
志賀 隆
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1304-1307, 2019-07-10

Point◎「症状が悪くなったら来てください」よりは「血便が出たら」「右下腹部痛が出たら」など,具体的な説明を患者さんにすることが望まれる.◎夜間や混雑時に帰宅時の説明が標準的にされるためには,部門や病院にて合意した内容で帰宅指示書を作成し患者さんに渡すことが望まれる.◎帰宅指示書は,実際に説明した記録を残すためにも,電子カルテの文書管理機能から印刷することが望まれる.
著者
脇本 博 青野 敏博 松本 圭史 高安 進
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.421-424, 1983-06-10

睾丸性女性化症は性染色体がXYで,腹腔内に睾丸を有し,外性器は女性型を呈する。思春期には正常女性と同様に乳房の発育がみられ,男性化徴候は出現しない。腋毛,陰毛はほとんど認められない。このような睾丸性女性化症の症状は,胎生期または思春期に男性ホルモン作用が発現されていないことを示唆する。本症の病因として,1)睾丸における男性ホルモン分泌能の低下,2)男性ホルモンに対する標的器官の感受性の低下の2つが考えられるが,本症の患者睾丸のテストステロン合成能は正常男子と同様良好であることが明らかにされた1)。そこで標的器官のホルモン感受性の低下が本症の病因として重要視されるようになった。近年,Bullock2),Griffin3)らの研究により,本症の男性ホルモン不応は男性ホルモンレセプターの欠損に起因するものであることが証明された。したがって,睾丸性女性化症の確定診断には,アンドロゲンレセプターの検索が不可欠と考えられる。しかし,実地臨床の場でアンドロゲンレセプターの測定が,本症の鑑別診断に利用されたという報告は未だ見られない。我々は正常のヒト皮膚由来培養線維芽細胞中における5α-dihydrotcstosterone(DHT)に対するレセプターをデキストランーチャーコール法によって検索し,その最大結合部位数(B max)ならびに解離恒数(Kd)をScatchard分析によって求め,その正常値を決定した4)。同様に睾丸性女性化症および外性器異常を伴う内分泌異常疾患,染色体異常疾患を有する患者の皮膚由来培養線維芽細胞中のDHTレセプターを検索し,正常値と比較対照することにより睾丸性女性化症の診断に本検査法を応用した。本稿では,睾丸性女性化症の病像を解説した後,本検査法の実際的な使用例について報告したい。
著者
原田 憲一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.117-126, 1979-02-15

Ⅰ.まえおき 老人が妄想的になることは稀でない。しかし老人の妄想はあまり臨床医の注目をひかない。それは老人では一般に,ましてや器質性痴呆や記憶障害を多少とも示す老人ではとくに,その妄想のために実際上の処遇に困ることは少ないし,若年者の妄想の場合のように老人はその妄想をふりかざしてわれわれに立ち向ってくることが少ないからであろう。さらに,妄想のような産出性心理現象が,器質性精神症状によって形を崩されるため,精神病理学的にも関心が薄められる。いいかえれば,老人一般,とくに老人の痴呆が1つの生物学的欠陥として心理学的関心から遠ざけられる時,一緒に,そこにみられる妄想現象も関心からはずされてしまうのである。 老人の妄想を論じる場合,当然疾病学的な問題がある。妄想を伴った器質性精神病か,年をとった分裂病か,老人の妄想反応か,あるいはパラノイアやパラフレニーかなど。また器質性精神病にしても,それが老年痴呆か,動脈硬化性痴呆か,などの問題がある。しかし,ここではこの観点からの分析は敢えて行なわない。器質性痴呆のあるなし,記憶障害のあるなしに関係なく,精神障害をもって入院を余儀なくされている老人を私が臨床的に診察している過程で,私の注意を惹いた老人の妄想についての2つの側面,特徴について述べる。
著者
小笠原 絢子 新福 洋子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.434-437, 2021-06-25

出産中の痛みの緩和には,鎮痛薬の使用やリラクゼーションの技法などがあります。本稿では,鎮痛薬を用いた産婦の分娩経過を提示していただき,その使用の意義を考えたいと思います。
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.406-411, 2021-06-25

母子の安全が保たれ,当事者たちにとってポジティブな体験となるお産を実現するためには,どんなケアを行うべきで,どんなことは行うべきでないのか−現段階で分かっているエビデンスを検証して,WHOが本当に必要なケアを整理した“WHO recommendations:intrapartum care for a positive childbirth experience”1)。その日本語版翻訳書『WHO推奨:ポジティブな出産体験のための分娩期ケア』2)(以下,本ガイドライン)より,「ポジティブな出産体験のための分娩期ケアについての推奨項目リスト」(同書4〜9ページ)を転載します。 このリストでは,56の医療行為やケアについて,WHOから以下の4つの推奨度が示されています。ここでは56の項目と推奨度のみを掲載しますが(表),本ガイドラインには,各項目の詳しい説明が「注釈」としてまとめられており,さらに,基となったエビデンスの要約と考察も掲載されていますので,実践に活かすためには本ガイドラインそのものを参照することを強くお勧めします。またp.412からの特集記事では,本ガイドラインの基となった正常出産のガイドライン(“Care in Normal Birth”:日本語版翻訳書『WHOの59カ条 お産のケア実践ガイド』)から改訂された項目に絞って,「日本の助産師の具体的なケアにどう活かすか」という視点で解説しています。
著者
鵜木 友都
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.709, 2021-06-15

患者:50歳、女性。3カ月前頃から階段を昇る時や椅子から立ち上がる際に疲れやすく、手すりや腕の力を要するようになった。時々息苦しい感じがすることもあった。いずれの症状も少し歩くと改善していたため、そこまで気にしていなかった。ただ、3カ月も症状が続いていること、少しずつ程度が強くなってきていることが心配になり、あなたの外来を受診した。
著者
小川 聡子 名田部 明子 中野 彩 鈴木 知子 倉林 志保 石野 啓子 岡村 紀宏 野口 百香 牧角 寛郎 丸山 泉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.348-351, 2021-04-01

公益社団法人全日本病院協会(以下,全日病)は,2013年に「全日本病院協会プライマリ・ケア宣言2013」を発表した.少子高齢化が進む社会で,病院医療におけるプライマリ・ケアの重要性を認識し,新たな行動目標として「在宅医療,在宅介護対応,認知症対応へ積極的に取り組むこと」を宣言したのである.この宣言の下,プライマリ・ケア委員会を立ち上げ,「病院医療ソーシャルワーカー研修会」(2014年から),「認知症研修会」(2014年から),「総合医育成プログラム研修」(2018年から)を主催している. 「病院医療ソーシャルワーカー研修会」(以下,本研修会)は,日本医療社会福祉協会と協働して年2回開催し,1回目は病院医療ソーシャルワーカー(以下,病院MSW)対象,2回目は同じ施設からMSWと多職種の同時参加を原則としている.全国から医療機関に勤める多職種が一堂に会し,MSWだけではなく,病院経営者,多職種も共に学び,前進してきた7年間であった.
著者
植木 正明 深澤 高広 伊藤 達也 伊藤 淳 大内 聖士 佐藤 啓三
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.727-730, 2021-06-01

は じ め に Simunovicら1)は2010年に大腿骨近位部骨折の早期手術は肺炎や褥瘡発症が少なく,死亡率は低いと報告した.その後,欧米のガイドラインでは,大腿骨近位部骨折は整形老年病医が参加した集学的プログラム管理下に入院後36~48時間以内の早期手術が推奨されている2).しかし,大腿骨近位部骨折手術は早ければ早いほど予後がよいのかという問題がある.この問題に対して,国際多施設共同研究によるaccelerated surgery versus standard care in hip fracture(HIP ATTACK)trialの研究成果3)が報告された. 一方,わが国のガイドライン4)では,できる限り早期の手術が推奨されている.欧米とは違う医療体制のわが国でどこまで早く手術を行えばいいのかという問題に対して,本研究では,大腿骨近位部骨折患者の救急外来受診後,手術まで6時間未満の超早期手術と6時間以降24時間未満の早期手術後の30日死亡率,術後合併症および入院期間を比較・検討したので報告する.
著者
山田 実 本誌
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1216-1221, 1983-11-01

救急医療ドキュメント“救命への道”—救命・救急医療の生々しい現実をとらえた報道写真家・山田実写真展が7月12-17日の6日間,東京銀座にあるニコンサロンで開かれた.第一線の救命看護はフォトジャーナリストのファインダーにどう映ったのか?以下は,2年6か月の長期にわたって救急医療を密着取材した写真家のとらえた救命看護の実像である.
著者
千葉 靖男 黒岩 宙司 帖佐 徹 遠田 耕平
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.540-543, 1994-08-15

◆はじめに EPI(拡大予防接種計画)の発展により,世界的に小児麻痺(以下ポリオと略す)の発生は著しく減少したが,開発途上国を中心として未だ年1万人前後の報告がある. ポリオはワクチンにより完全に防御できる疾患であり,WHOおよび世界の各国は西暦2000年までにポリオを地球上から根絶する活動を進めている.また,すでにPAHO(汎アメリカ保健機構)は,1991年のペルーの症例を最後として,土着の野性株ポリオウイルス伝播の遮断に成功した1,2). アジアのうち,わが国に最も関係の深い西太平洋地域(WPR)の主なポリオ流行国は中国,ベトナム,ラオス,カンボジア,フィリピンの5カ国であり,日本はこれらの国のポリオ根絶活動に対して直接的に,あるいはWHOなど国際機関を介して,いろいろな面で支援を行ってきた.また,筆者らはこれらの一環として行われている中国ポリオ対策プ口ジェクト(JICA)や,ベトナムメコンデルタおよびラオスでのポリオサーベイランスに従事してきた.以下にこれらで得られた知見に基づきWPR地域におけるポリオ流行の状況を概説し,加えてポリオ根絶活動の進捗と課題,特にサーベイランスに関係した事柄について述べる.
著者
福島 章
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.169-174, 2001-02-15

疾病論から操作的診断へ 1.疾病論 神経症の概念は,古く18世紀のCullenの命名に遡るが,心因にもとづく心理的障害という近代的な定義は今世紀に入ってからのもので,神経症という上位概念の下に,その後さまざまな類型が命名された。 一方,境界例の概念は,始めは偽神経症性分裂病,潜伏分裂病,外来分裂病,境界状態(分裂病の前後の状態),境界患者(疾病単位)などと呼ばれるなど,その概念は始めから大いに変遷を重ねたが,おおむね,神経症と精神病との「境界」領域と考えられてきた。(このほかに,正常,精神病,人格異常,神経症の4つに跨る境界状態とするSchmidbergの考え方もある)。そして,症状学的にはGundersonらの臨床的な症状の整理や記述,精神力動学にはKernbergの境界人格構造(BPO)の提唱などによってその理解が大いに進められたが,病跡学の領域においてこれらの貢献が活用された例はあまり多いとはいえない。
著者
尾身 茂
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.588-589, 2004-08-01

前号では,専門家会議で30億円のワクチン購入費用のための資金提供の要請に対して1円たりとも約束が得られなかったと書いて終わったが,今回はその資金調達の奮闘記である. 専門家会議の直後から,私は,ワクチン購入の金策のため,開発援助機関(世界銀行,アジア開発銀行等),援助国,ユニセフなどの公的機関を巡り歩いた.いわば“営業マン”としての生活が始まった.しかし恐らく,30億円という「金額」と,アジアでのポリオ「根絶」が,相手には荒唐無稽に映ったようで,こちらがポリオ根絶の可能性をいかに力説してみても,「大変良い話ですが,いずれまたお話をしましょう」と門前払いも同然だった.
著者
三木 俊 阿部 倫明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.282-287, 2018-05-15

痛みを数値化できるメリットを生かして 痛みの検査は、これまでビジュアル・アナログ・スケール(VAS:Visual Analoge Scale)やNRS(Numerical Rating Scale)が簡便な方法として臨床で用いられてきた。しかしVASやNRSは患者さんがもつ不安などの要素によって結果が左右されやすく、実際の痛みを正確に反映しているとは限らないという弱点がある。 近年、知覚痛覚定量分析装置PainVisionが開発され、患者さんの知覚や痛みを数値化して評価できるようになった。
著者
赤池 清美 堀 悦明 渡辺 一夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.39-42, 1957-01-20

緒言 鼻内手術後に従来から用いられているガーゼタンポンは,其の除去に際し屡々疼痛と再出血に悩まされる為,高野豆腐或はスポンゼル等を用いて効果的であるとの報告がある。 今回吾々は鼻内タンポンとして凍蒟蒻を使用した所,抜去時疼痛も再出血も見られない点等非常に効果的であつたので,決して目新しいものではないが,近時忘れられた感があるのではないかと考え,記憶を薪たにする為,敢えて茲に報告すると同時に,諸賢の御試用を推奨する次第である。
著者
水野 忠快 林 久允 杉山 雄一
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
巻号頁・発行日
pp.514-516, 2012-10-15

●細胞膜タンパク質の分解;ユビキチン化-リソソーム分解経路 生体内のタンパク質はたえず合成,分解を繰返し,動的に制御されている。その分解過程は分解を担うプロテアーゼの種類の違いや,また,それらが機能する細胞内小器官へ基質が到達するまでの系の違いなどにより分解経路として体系的に分類できる。細胞膜タンパク質に限っては,① カルパインによる分解経路,② ユビキチン(Ub)化をシグナルに開始されプロテアソームにより分解を受ける経路,③ 同じくUb化が引き金となりendosomal sorting complex required for transport(ESCRT)系を経てリソソームにて分解を受ける経路の三つの分解経路が挙げられる。本稿では,なかでも③の分解経路をUb化-リソソーム分解経路と称し,これを紹介したいと思う。 リソソームは1950年代半ばと比較的早い時期に同定されたものの,どのようにして分解されるべきタンパク質のみが選別されリソソームへと輸送されるのか,という疑問が長い間研究者の頭を悩ませていた。これに一つの明確な解答を与えたのがUb化-リソソーム分解経路の発見であり,今世紀幕開けにかけてのことである1)。本経路において細胞膜タンパク質はUb化を皮切りに内在化し,ESCRT系によって認識され,同系を経る過程で形成されるmulti-vesicular body(MVB)に取り込まれた後,MVBがリソソームに融合することで最終的にリソソーム内のプロテアーゼにより分解を受ける。このスキーム中で一点留意してほしいのがUb化と内在化の順序である。最もよく研究されているepidermal growth factor receptor(EGFR)などを除き,多くの場合どこでUb化を受けているのかは明らかとなっていない。そのため可能性は示されているものの,細胞膜上でUb化を受けた後に内在化するというスキームの普遍性については議論が続いている。しかしながら,ESCRT系が基質のUb化部位を認識し,これを皮切りに進行するという点は多くのエビデンスによって支えられており,本経路におけるUb化の重要性は明確である。