著者
三須田 善暢
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.95-106, 2015-07-16 (Released:2018-03-28)
参考文献数
4

本稿では,新規就農者たちによる助け合い・直売・ボランティア活動を中心とする団体(新農業人ネットワーク)を取りあげ,その展開過程を具体的な事例に即して見るなかから,彼らの活動の特徴とその含意を明らかにする. Iターンなどの新規就農者は,「自分自身の確固とした宇宙」をつくる傾向が強く,個性的な人間が多い.そうした彼らがこうした団体を結成し活動を続けてきたのは,販路を確保するという経済的理由にくわえ,地域と密に溶け込み難いゆえに同じ境遇である仲間の協力を必要としたからでもあった.この助け合いの精神と,自らの経営を単なる自己利害のためにとどめたくないとする志向があいまって,引きこもり・障碍者支援や高校生の就学援助,環境保全,震災ボランティア,独自の就農支援企画等の「公共性」の強い活動へと向かわせていった.別言すれば,ある意味で「社会運動」としての側面を強く持ったものへと進展していったのである.彼らの活動は,生活のためであると同時に遊びの要素と「夢」を含んだ側面が強く,それが公共的なものと結びつきあらわれている.しかし,彼らが述べ志向する公共性は,現時点では地元農村地域,特に集落との関わりが薄いものにとどまっている.
著者
加藤 眞義
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.1-3, 2016-12-26 (Released:2018-09-25)
参考文献数
6
著者
松井 克浩
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.19-29, 2016-12-26 (Released:2018-09-25)
参考文献数
15

本稿では,福島県の隣に位置する新潟県への原発避難の事例を対象として,長期・広域避難とコミュニティとのかかわりについて考察する.避難指示区域からの避難者に対して,間隔を置いて同じ人に数回行った聞き取りをもとに,避難生活の経過と将来の見通し,故郷/福島について,奪われたもの/失ったものの順に,現状とその変化などをたどった.その結果,表面的には生活の安定がうかがわれる一方で,避難者の迷いや不安はむしろ深まっていることが分かった.何が「難民」という言葉に象徴されるような避難者の苦悩をつくりだしているのだろうか. 若松英輔の議論をふまえると,避難者は「人生の次元」抜きの「生活の次元」を強いられているといえる.すなわち,時間の蓄積をふまえた未来への展望,被害の真の回復までに要する時間,「根っこ」のある生き方,住み慣れた生活空間での承認等々を失い,しかも失っていることさえ周囲から理解されずに日々の生活に追われている.避難者が再び地に足をつけて前に進んでいくためには,「生活の次元」の再建・維持に加えて,時間的・空間的・関係的な「人生の次元」の再生が不可欠である.避難者全体の不可視化と難民化がいっそう進むのか,それとも「人生の次元」の再生がはかられるのか,現在はその岐路にあるといえる.
著者
牧野 友紀
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.5-18, 2016-12-26 (Released:2018-09-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本稿の目的は,福島県南相馬市で有機農業の再生に取り組む一人の農民の実践を取り上げ,その生活現実の認識に関して,東日本大震災前と震災後の社会的時間の連続性と差異性に注目して考察を行い,震災後の生活秩序のあり方について検討することである. 福島の農業を取り囲む厳しい現状のもと,避難生活を強いられている農家は,理不尽な生活現実に直面し続けている.居所への帰還とはいっても,ただ単に地理的な居所に帰りそこで消費生活が営めればよいということではなく,農業生産を基軸とする生活が可能でなければならない.避難以前の日常の取戻しは農民や農家にとって至難の業となっている.それでも浜通りの旧警戒区域において,試行錯誤を繰り返しながら,農の営みを組み立て直そうと避難先から通勤して農業を行う人が実在している.本稿ではそうした農民の生活の一端を考察している.また,農家の生活の確保や展開に資するような社会学的知の検討を行っている.考察を通じて,本稿では福島において「食べる」ための農業の再確立が必要であるとの結論を得た.この「食べる」という言葉には二つの意味が込められている.一つは,生産者や消費者,さらには将来世代が農産物を食べるという意味であり,もう一つは農業者が生活する,暮らしていくという意味である.
著者
相澤 出
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.39-49, 2016-12-26 (Released:2018-09-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1

地域包括ケアが推進されるなか,特別養護老人ホーム(特養)の看取りへの取り組みが増えている.しかし医師,看護師など医療職の人材不足に悩む医療過疎地域では,特養での看取りが困難な場合がある.宮城県登米市もそうした地域のひとつである.そこで,登米市の地域密着型特養のケアの当事者が,看取りの阻害要因についていかなる認識をもっているかを明らかにするため,聞き取り調査を実施した.聞き取りは,個々の施設ごとの体制や現状,取り組み,看取りの阻害要因として認識している事柄に関するものである.調査から,医療過疎地域や登米市の固有の事情と複合したかたちで,特養の看取りの阻害要因が認識されていたことが明らかになった.今後は看取りのケアを可能にする普遍的な要因の検討に加えて,地域の文脈や個々の特養が置かれた状況を視野に入れたアプローチが,地方における特養の看取りを研究する上で重要となろう.
著者
渡辺 寛人
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.17-24, 2015-07-16 (Released:2018-03-28)
被引用文献数
1

東日本大震災以降,貧困問題への視点は薄れ,被災問題ばかりがクローズアップされている.しかしながら,被災者が抱える困難の性質は,被災によって一時的に生じた問題だけではない.むしろ,経済的困窮をはじめとする貧困問題としての性質が極めて強く現れている.こうした状況にもかかわらず,「最後のセーフティネット」である生活保護制度は,被災地においても十分に機能しているとは言えない.本稿は,筆者らが行なった仙台市の仮設住宅における生活実態調査をもとに,被災問題と貧困問題との重なりを明らかにしつつ,被災問題に限定されない普遍的な社会保障制度の構築が必要であるとの問題提起をしたものである.
著者
池田 岳大
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.47-57, 2015-07-16 (Released:2018-03-28)
参考文献数
28

女性が各キャリア段階において形成した人的資本は,必ずしも再就職の際に有効に機能しないことが先行研究において示されてきた.しかし,いまだ未検証な人的資本の指標として職業資格があり,人的資本理論やシグナリング理論に基づいて考えると,その独自の効果が期待される.そこで本稿では,再就職移行に際して職業資格とその取得時期が他の人的資本の指標とは異なる独自の効果をもちうるのか検証した. データは2005年SSM調査を使用し,そのうち結婚・出産を機に離職した女性の再就職移行に関して,離散時間ハザードモデルを用いて推定を行った.主な結果として,(1)入職以前の人的資本の指標となる最終学歴は効果をもたないこと(2)入職後の人的資本の指標となる職業経験の効果は一貫したものではないこと(3)入職後に職業資格を取得した者は再就職に移行しやすく,そのほとんどが20年以内に再就職していること(4)入職後の職業資格の効果は,他の人的資本の指標となる変数を統制したうえでも独自の効果をもつことが示された.この結果,職業資格には女性の再就職移行において,特定の職業との結びつきを高める可能性や,採用側との情報の非対称性を埋め合わせる効果が期待される.
著者
下瀬川 陽
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.71-81, 2015-07-16 (Released:2018-03-28)
参考文献数
16
被引用文献数
1

近年,日本における大学・短大中退者は増加し,中退への関心は高まっている.一方で,中退者の社会経済的地位達成に着目した研究はあまりなされていない.本稿の目的は,大学・短大を中退したことがその後のライフコースへ与える影響について,計量的アプローチを用いて明らかにすることである.「正規雇用に就くことができるか」「獲得可能な賃金」の2点を達成の指標に分析を行ったところ,大学・短大中退者は中長期的にも正社員就業しづらいこと,同じ正社員経験のない者であっても卒業者に比べ賃金が低くなることが明らかになった.正社員になることのできない大学・短大中退者は,大学・短大卒業者に比べて賃金の面では不利であり,より条件の良い仕事は卒業者に取られてしまうのである.
著者
佐藤 嘉倫
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.39-41, 2015-07-16 (Released:2018-03-28)
参考文献数
5
著者
阿部 晃士
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.5-16, 2015-07-16 (Released:2018-03-28)
参考文献数
12
被引用文献数
2

東日本大震災の被災地である岩手県大船渡市の住民を対象に郵送で実施した,2011年12月と2013年12月のパネル調査データ(有効回答439人)を分析した.地震・津波による被害については,住まいの被害は収入や職業と関連がない一方で,仕事という点ではもともと収入が低い層ほど継続が困難な状況にあったことを確認した.次に,2013年12月時点で自宅を再建できているのは震災前の世帯収入がかなり高い層であること,震災前からの世帯収入の変化には業種・職業による大きな違いがみられることを示した.最後に,意識の点では不安感と生活復興感を取りあげ,2年間に不安感は低下したが生活復興感は変化していないこと,居住形態の効果もあるが,性別や世帯収入の効果が強くなってきたことが明らかになった.また,復興感では,2013年の復興感に対する震災前の世帯収入の効果があった. これらの結果から,震災による住まいへの被害は格差との関連は小さかったが,その後,仕事の継続や住まいの再建といった復興過程に経済的要因による格差が存在したといえる.さらに,震災前の収入が震災2年9カ月後の時点での生活復興感に結びつていることから,震災前の格差が復興過程の格差に,さらに復興における意識の格差にもつながっていると考えられる.
著者
加藤 正文
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.25-38, 2015-07-16 (Released:2018-03-28)
参考文献数
9

アスベスト(石綿)は他に類を見ない有用性から産業革命以降,各国で大量使用されてきた.その用途は3千種類に及んだ.しかし,髪の毛の5千分の1の微細な石綿繊維は,吸引すると長い潜伏期間をへて中皮腫や石綿肺などの病気を引き起こす.生産・流通・消費・廃棄の経済活動の全局面で被害を起こす「複合型ストック災害」(大阪市大名誉教授・宮本憲一)とされる. 微細な死の棘が一気に拡散されるのが,大震災のときだ.激しい揺れで倒壊した建物からは,建材などに内在していた石綿が周囲に飛散する.1995年の阪神・淡路大震災では大量の建物が倒壊し,粉じんが舞いあがった.20年あまりが過ぎ,がれき処理に携わった労働者の間で発症が相次いでいる.震災で家族や自宅,工場などを失い,さらに時をへて石綿の病気にかかってしまう.この不条理こそが震災アスベストの特徴である.この教訓は2011年の東日本大震災の被災地できちんと生かされているのだろうか.宮城県石巻市や仙台市などでは飛散対策の不備やマスクの装着の不徹底など飛散・吸引のリスクを各所で感じた. アスベスト被害は使われた範囲が広い分,被害の形もまた多様である.有害と知りつつも「管理して使えば安全」として十分な規制を怠る.その結果,大勢の市民が犠牲となり,いまも危険にさらされ続ける.その姿は,東京電力福島第一原発事故を引き起こし,迷走したままの原子力政策とも重なる.
著者
何 淑珍
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.95-106, 2014-07-25 (Released:2015-08-24)
参考文献数
10
被引用文献数
1

本稿は,北海道の根釧パイロットファーム開拓事業によって入植した開拓初代女性の自発的文化活動を対象とした事例研究である.本稿の課題は,対象者が日々の日常生活において農業に携わりつつ家事育児をこなしながら,どのように自らの生活文化を形成させてきたのかを明らかにすることである.開拓女性の入植から今日に至るまでの生活史を追うことによって,根釧パイロットファームという社会的条件に,対象者はどのように向かい合い,結果的にどのような新たな社会的条件を作り上げようとしているのかを焦点に検討した.女性の文化活動が,家族経営である農家生活において,家族内人間関係の円滑化および生活,生産両面における家族生活の安定化を促進させた.そしてその活動が地域の同世代および世代間の交流の場と機会を提供することにつながり,結果的に地域に新たな生活文化が形成されつつあることが明らかとなった.
著者
吉原 直樹
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.35-47, 2014-07-25 (Released:2015-08-24)
参考文献数
19

福島第一原発が立地する大熊町では,全住民の96パーセントが「帰還困難区域」に指定され,故郷を追われている.加えて,新自由主義的な復興政策の下ですさまじい勢いで「難民化」=「棄民化」がすすんでいる.にもかかわらず,東京に拠点を置く主流メディアは真実を報道することを避け,人びとの目をフクシマからそらすことに躍起になっている.避難民は,「忘却」という暴力にさらされたうえで,「絶望の共有」(shared despair)を余儀なくされている.しかしながら決してあきらめず,自らの生存と人権をかけた復興への道を模索している. 本稿では,たえず組み合わせを変えながら横に広がっていく「関係としての相互作用」を通して,剥奪された場所を回復しようとする避難民の姿を,サロンを事例にして,「創発するコミュニティ」の展開をフォローアップしながら追う.そして旧来のガバメント(統治)によるトップダウンの「統制」(control)にも,市場を介して私化された関係による「調整」(coordination)にも回収されないコミニュニティの可能性について論じる.併せて,「コミュニティ・オン・ザ・ムーブ」を契機とするコミュニティ・パラダイム・シフトの方向性について検討する.
著者
本間 照雄
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.49-64, 2014-07-25 (Released:2015-08-24)
参考文献数
12
被引用文献数
3

本稿の目的は,東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県南三陸町を中心にして,被災地で見えてきた災害ボランティア活動の様相を取り上げ,災害ボランティア活動に関わる新たな課題について考察することにある.巨大津波で街を失った沿岸部被災地のボランティア活動は,阪神・淡路大震災以降積み重ねてきた活動とは異なる新たな課題に直面している.特に,長期間に渡って開設されている災害ボランティアセンター,漁業や農業への支援及び組織化されたボランティア団体と地元社会福祉協議会との連携・協働は,新たな不具合として表面化してきた内容と従来から現場で感じていた課題が重なり合い,東日本大震災から学ぶべき課題として,その具体的対応を迫っている. 本稿では,これまでボランティア活動側に視点を置いた議論が多い中にあって,同時に支援を受ける側の力「受援力」の向上も併せて行うことの必要性を問うている.この受援力は,支援力と地域力を編む力と言い現し,支援力と地域力を編む力としての受援力を高めることで,被災直後の緊急援護から復旧復興期支援,そしてその先にある地域福祉へつながっていく支援を目指す力となる.このことへの着目は,東日本大震災で得た教訓を新たな震災への備えとして活かす道ではないかと提案する.
著者
相澤 出
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.75-78, 2014-07-25 (Released:2015-08-24)
参考文献数
11