著者
渡辺 理絵
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.248-269, 2010-05-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
56
被引用文献数
1 1

本稿は,近世の農村社会における天然痘の伝播過程について,村落間・村落内・世帯内の三つの空間スケールを設定し,伝播が起きる人々の社会的なつながりや行動様式,習俗などを加味して考察した.1795~1796年,出羽国中津川郷で起きた天然痘流行は罹患者の大半が10歳以下の子どもであった.子どものモビリティの低さから,周囲の村へ急速に天然痘が伝播することはなく,最近隣村への伝播に1ヵ月を要するほど,村落間における伝播速度は緩慢であった.また積雪などの気象条件や農閑期の副業労働は,子どものモビリティに影響を及ぼす伝播の障壁効果となり,農閑期,降雪期の村落間の伝播は一層緩慢であった.村落内の伝播は,子どもの異年齢集団による行動様式を反映し,集団感染に近い特徴を有している.同世帯における兄弟間の発症率も高い.患児を隔離するような天然痘対策を採らなかった当該地域において,収束までに流行開始前における未罹患者の8割以上が罹患し,次の流行を迎えることとなった.
著者
鳴海 邦匡 渡辺 理絵 小林 茂
出版者
日本地図学会
雑誌
地図 (ISSN:00094897)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.17-35, 2022-03-31 (Released:2023-09-14)
参考文献数
63

For the Taiwan expedition (1874) and military action to suppress local resistance after the SinoJapanese War (1894-5), Japanese navy prepared nautical charts re-engraving from British Admiralty charts. Concerning place names, Japanese Hydrographical Office tried to transcribe those on British charts into Chinese characters locally used. However, it was not easy to infer exact Chinese characters on the basis of transliterated alphabetical local place names on British charts. Although a Chinese nautical chart titled Da Qing yi tong hai dao zong tu 大清一統海道總圖 (General map of the Chinese coast and sea-routes) re-engraved from a British chart was consulted, even place names of major ports of Taiwan on it were not always correct, because it transliterated many local place names phonetically into Chinese characters. After a process of trial and error up to 1905, place names in Chinese characters conformed to local use were put on Japanese charts of Taiwan.
著者
小林 茂 山近 久美子 渡辺 理絵
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨 2008年 人文地理学会大会
巻号頁・発行日
pp.110, 2008 (Released:2008-12-25)

2008年3月、ワシントンのアメリカ議会図書館で外邦図の調査をおこなったところ、1880年代に中国大陸・朝鮮半島・台湾で、日本軍将校がおこなった簡易測量にによる手書き原図を発見した。まだ調査は完了していないが、彼らの調査旅行と測量、手書き原図を集成した地図作製、さらにその利用について一定の成果がえられたので報告する。この測量と地図作製は、日清戦争以後の臨時測図部による外邦図作製の前段階と位置付けられるが、記録がすくなく、手書き原図のさらなる調査は、その全貌の解明に大きな意義をもつと予想される。
著者
平井 松午 鳴海 邦匡 藤田 裕嗣 礒永 和貴 渡邊 秀一 田中 耕市 出田 和久 山村 亜希 小田 匡保 土平 博 天野 太郎 上杉 和央 南出 眞助 川口 洋 堀 健彦 小野寺 淳 塚本 章宏 渡辺 理絵 阿部 俊夫 角屋 由美子 永井 博 渡部 浩二 野積 正吉 額田 雅裕 宮崎 良美 来見田 博基 大矢 幸雄 根津 寿夫 平井 義人 岡村 一幸 富田 紘次 安里 進 崎原 恭子 長谷川 奨悟
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-10-21

本研究では、城下町絵図や居住者である侍・町人の歴史資料をもとに、近世城下町のGIS図を作成し、城下町の土地利用や居住者の変化を分析した。研究対象としたのは米沢、水戸、新発田、徳島、松江、佐賀など日本の約10ヵ所の城下町である。その結果、侍屋敷や町屋地区の居住者を個別に確定し地図化することで、居住者の異動や土地利用の変化を把握することが可能となった。その点で、GISを用いた本研究は城下町研究に新たな研究手法を提示することができた。
著者
小林 茂 渡辺 理絵
出版者
大阪大学文学研究科片山剛研究室
雑誌
近代東アジア土地調査事業研究ニューズレター
巻号頁・発行日
vol.1, pp.14-23, 2006-03

平成17年度科学研究費補助金 基盤研究(A)1930 年代広東省土地調査冊の整理・分析と活用(課題番号 17251006)中間報告書
著者
小林 茂 渡辺 理絵
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.58, 2005

演者らはここ数年来、第2次世界大戦終結まで日本がアジア太平洋地域で作製してきた地図について、地域環境資料として評価するとともに、その作製過程にアプローチしてきた。近代国家における地図作製への関心のたかまりに応じて(Edney, 1997; トンチャイ, 2003)、日本についても関連の研究を展開する必要が大きいと判断されたからである。この結果、日本の旧植民地における地形図作製は、土地調査事業と密接に関係しつつ展開されたこと、さらに陸地測量部と密接な関係がもちつつも、非軍事的色彩がつよいことが注目された。本報告では、この概要を紹介し、共通する特色について検討する。1. 植民地における土地調査事業の展開 日本の植民地では、初期より土地所有の近代化にむけて土地調査事業が積極的に推進された。台湾では臨時台湾土地調査局(1898-1905年)、朝鮮では朝鮮総督府臨時土地調査局(1910-1918年)、さらに関東州でも関東庁臨時土地調査部(1914-1924年)によってそれぞれ実施され、土地台帳や地籍図が整備された。この意義については、多方面から検討される必要がある(宮嶋, 1994)が、いずれでも地籍図作製に際し三角測量により図根点が設定され、それにもとづく地籍原図を縮小しつつ地形図の作製にいたっている。2.三角測量の導入と地形図の作製 地籍図作製への三角測量の導入は、沖縄土地整理事務局による同種の事業(1899-1903年) が最初であり、台湾では沖縄の事業の視察後にこれを決定した(江, 1974, p. 135)。ただし朝鮮・関東州の場合は、事業当初より導入を決定していたと考えられ(『朝鮮土地調査計画書』1910年、「関東州土地調査事業概要」1923年)、これが標準化していったことがうかがえる。他方沖縄県で実施に至らなかった地形図作製については、台湾・朝鮮・関東州いずれでも当初予定していなかったが、事業開始後しばらくして付帯的な事業として実施することにした点は注目される。3.目賀田種太郎(1853-1926)の役割 沖縄県の土地整理事業における三角測量の採用は、これを指揮した当時の大蔵省主税局長、目賀田種太郎の指示によるものとされている(『男爵目賀田種太郎』1938, pp.250-251)。目賀田はこれ以前に大蔵省地租課長などとして地価修正と地押調査を推進しており、この指示はその時の体験をふまえたものである。また目賀田は、のちに韓国財政顧問(1904-1907年)として朝鮮の土地調査事業の準備に関与し、三角測量の導入を指示している(p.498-499)。くわえて目賀田は、1901年台湾総督府に赴任する宮地舜治(殖産局長)に地図をつくるようすすめたという(p.253)。台湾の地形図(堡図)作製のための作業は1902年から開始され、時期的にも符合するので、これが土地調査事業にともなう地形図作製の発端になった可能性がある。なお、目賀田はベルギーとフランスにおける類似の事業に関心をもっており(pp. 168, 253-255)、これらの指示や勧誘との関係をさらに検討する必要が大きい。4.植民地における地図作製の非軍事的性格 上記のように、大蔵官僚のイニシアティブにより、非軍事機関によって作製された地形図の刊行には、台湾の場合は台湾日々新報社、朝鮮の場合は朝鮮総督府、関東州の場合は関東庁が関与し、要塞地帯などをのぞいて、各地域で最初の本格的近代地形図となった点も留意される。
著者
小林 茂 渡辺 理絵
出版者
大阪大学文学研究科片山剛研究室
雑誌
近代東アジア土地調査事業研究ニューズレター
巻号頁・発行日
vol.2, pp.4-14, 2007-03

平成18 年度科学研究費補助金 基盤研究(A)1930年代広東省土地調査冊の整理・分析と活用(課題番号 17251006)中間報告書
著者
平井 松午 溝口 常俊 出田 和久 南出 眞助 小野寺 淳 立岡 裕士 礒永 和貴 鳴海 邦匡 田中 耕市 渡辺 誠 水田 義一 野積 正吉 渡辺 理絵 塚本 章宏 安里 進
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、各地に所蔵される近世後期に作成された実測図もしくは実測図系絵図の作成法とその記載内容・精度の比較検討を行い、その上で近世実測図を用いたGIS 解析法の確立を目指したものである。その結果、徳島藩・金沢藩・鳥取藩では藩領全域をカバーする測量図がそれぞれ独自の手法によって作成されていたこと,また近世後期の城下絵図についても測量精度が向上して,これらの測量絵図が GIS 分析に適した古地図であると判断した。