著者
鈴木 眞一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.70-76, 2018 (Released:2018-08-24)
参考文献数
17
被引用文献数
1

東日本大震災後の原発事故による放射線の健康影響を見るために,福島県では大規模な超音波検診が開始された。甲状腺検診を実施するとスクリーニング効果から一度に多くの症例が発見されるが,過剰診断にならないように,検診の基準を設定した。5mm以下の結節は二次検査にならず,二次検査後の精査基準も10ミリ以下の小さいものにはより厳格な基準を設けて,過剰診断を防ぐことを準備した上で検診を行った。その結果発見治療された甲状腺癌は,スクリーニング効果からハイリスクは少なく,かつ非手術的経過観察の対象となる様な被胞型乳頭がんは認められず,微小癌症例でも全例浸潤型でリンパ節転移や甲状腺被膜外浸潤を伴っていた。したがって,一次検査の判定基準,二次検査での精査基準さらに手術適応に関する基準などから,超音波検診による不利益は極めて少ないものと思われた。一方で発見甲状腺癌は過剰診断ではないのであれば,放射線の影響による甲状腺癌の増加ではと危惧されるが,現時点ではその影響を示唆する様な事象は得られていない。以上より,放射線被曝という特殊状況下で検診を余儀なくされたにも関わらず,厳格な基準を設定しこれを遵守しながら実施することによって,過剰診断という不利益を極力回避できていることがわかった。
著者
坂本 穆彦 廣川 満良 伊東 正博 長沼 廣 鈴木 理 橋本 優子 鈴木 眞一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.265-268, 2021 (Released:2022-02-22)
参考文献数
18

筆者らの内,筆頭著者より6名は福島県県民健康調査の病理診断コンセンサス会議にて,各症例の病理組織診断を担当している病理医(病理専門医・細胞診専門医)である。福島第一原発事故(2011年3月)後の福島県民健康チェックのための福島県県民健康調査では,チェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺癌の多発という教訓を踏まえた任意の小児甲状腺超音波検査などが施行されている。悪性ないし悪性の疑いとされた場合は,必要に応じて手術が勧められる。この県民健康調査については,調査対象の設定が不適切で,不必要な検査が行われている可能性があるという声があり,その立場からは,県民健康調査が過剰診断(overdiagnosis)であると批判されている。この過剰診断という語は病理医や細胞診専門家は良性病変を癌と診断する様な誤診を示す場合のみに用いている。このように,用語や定義の使用法にくい違いがあるままで用いられるため,種々の誤解が生じている。本稿では県民健康調査そのものの是非を論じることは目的としていない。筆者らの意図は,過剰診断および過剰手術/過剰治療についての定義・用法に関しての病理医と疫学者双方に立場の違いがあることを示し,今日の混乱の解決策を論じることにある。
著者
鈴木 眞一 鈴木 聡 岩舘 学 立谷 陽介 芦澤 舞 大河内 千代 中野 恵一 中村 泉 福島 俊彦 水沼 廣 鈴木 悟
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.7-16, 2017 (Released:2017-04-28)
参考文献数
18

小児甲状腺癌は稀な疾患とされているが思春期若年成人では決して稀ではない疾患である。その超音波所見につき解説する。小児若年者の甲状腺癌の大半は乳頭癌であり,なかでも多くが古典型と言われる通常型である。浸潤型が多く境界不明瞭でリンパ節転移が多い。さらに特殊型のびまん性硬化型乳頭癌類似の腺内散布像を認める。特殊型もあることを念頭に置くが,通常の乳頭癌の術前診断が重要であり,ドプラ法,エラストグラフィも組み合わせ診断する。術前術後のリンパ節の評価には超音波診断が重要である。小児若年者甲状腺癌に関しては術前術後の超音波検査は極めて重要である。
著者
鈴木 眞一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.6-10, 2022 (Released:2022-05-24)
参考文献数
8

2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故後の福島県県民健康調査の一つとして福島県民に超音波検査による甲状腺検査が実施されすでに10年を経ている。そこで当時責任者であった筆者が,今までに経験のなかった大規模検査を立ち上げ実施した経緯について述べる。本検査は外部の専門家の意見も踏まえ,専門医師技師によって実施されることが決まり,また超音波スクリーニングによる過剰診断を制御するため診断基準を設けた。対象年齢,検診間隔,検診方法を決定し,実際には2011年10月9日から福島医大で開始し,11月14日からは出張検査を開始し現在まで継続している。本検診としては第一に誤診を避ける精度管理と過剰診断を抑制する基準の遵守さらに受診者への配慮と保護者への十分な説明を心がけて実施した。専門医師技師の育成とともに,現在は福島県独自の講習会,ハンズオンおよび認定試験によって人材育成を拡大している。
著者
鈴木 眞一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.17-22, 2022 (Released:2022-05-24)
参考文献数
18

2011年の東日本大震災に伴う原発事故後行われた甲状腺検診によって発見された甲状腺癌について臨床病理組織学的所見について解説した。平均年齢は17.8歳で性差は1:1.8であった。術前リンパ節転移陽性例は22.4%にもかかわらず術後は77.6%と増加しその大半が気管周囲リンパ節であった。術後の被膜外浸潤例が39%と高率であった。M1は2.4%であった。術式は全摘8.8%,片葉切除91.2%でありリンパ節郭清は全例に施行された。病理組織は98.4%が乳頭癌でその大半が古典型であった。また遺伝子変異では69%がBRAF変異で,再配列異常は少なかった。RET/PTC3や充実型亜型は少なくチェルノブイリとは全く異なる結果であった。以上より,福島での甲状腺癌はチェルノブイリとは大きく異なる一方,性差以外では通常の臨床で扱われていた小児甲状腺癌と差は認めなかった。
著者
伊藤 研一 清水 一雄 吉田 明 鈴木 眞一 今井 常夫 岡本 高宏 原 尚人 筒井 英光 杉谷 巌 杉野 公則 絹谷 清剛 中駄 邦博 東 達也 野口 靖志 阿部 光一郎 内山 眞幸 志賀 哲
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.310-313, 2014 (Released:2015-02-17)
参考文献数
4

本邦においても進行甲状腺癌に対する分子標的薬が承認され,放射性ヨウ素治療(RAI)抵抗性進行性分化型甲状腺癌に対する治療が新しい時代に入った。しかし,適応患者の選択に際しては,病理組織型,進行再発後の放射性ヨウ素(RAI)治療に対する反応などを適切に評価した上で判断することが重要であり,分子標的薬特有の有害事象に対する注意も必要である。分子標的薬の適正使用に際しては治療による恩恵と有害事象を十分に考慮した適応患者の選択が肝要である。また,未解決の問題に関しては,本邦での臨床試験による検討が必要と考えられる。
著者
福島 俊彦 鈴木 眞一 早瀬 傑 隈元 謙介
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

小児甲状腺癌手術症例のうち、研究参加の同意が得られた67例について、癌関連遺伝子の解析を行った。BRAFの点突然変異は63%で認められ、K, N, H RASには遺伝子変異を認めなかった。これらの結果は、これまでの日本人成人の結果と同等のものであり、チェルノブイリ事故後の甲状腺癌のものとは異なっている。また、BRAFについては、免疫組織化学的検討も行い、染色性と変異陽性は同等の結果であった。
著者
福島 俊彦 水沼 廣 中野 恵一 阿美 弘文 旭 修司 片方 直人 鈴木 悟 鈴木 眞一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.258-260, 2014 (Released:2015-02-17)
参考文献数
7

近年の悪性腫瘍診療において,診療ガイドラインの果たす役割は大きい。2010年版甲状腺腫瘍診療ガイドラインによれば,グレーゾーン症例に対する術式は,確立したものがないが,T3あるいはN1症例には,全摘を推奨している。2005年から2013年10月までに経験したグレーゾーン症例は50例,男性12例,女性38例で,14~78歳(50.3±18.9),平均腫瘍径は28.6±7.9mmであった。現在の当科における手術方針は,45歳未満:片葉に限局,Ex0 or 1,N0,M0の場合は片葉切除+D1,対側に癌および癌疑いの結節あるか,あるいは,Ex2 or N1 or M1症例には全摘+D2-3,45歳以上:T1aかつN0,M0の症例は片葉切除+D1,それ以外の症例は,全摘+D2-3としてきた。したがって,グレーゾーン症例に対して葉切除を行った7例中6例は小児例を含む45歳未満症例であった。外側リンパ節郭清は,術前USやCTで転移陽性と判断した場合,当該部位を含んだ領域を郭清するという方針になりつつある。
著者
岩舘 学 松本 佳子 塩 功貴 鈴木 聡 水沼 廣 鈴木 眞一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.175-179, 2021 (Released:2021-11-27)
参考文献数
32

小児若年者の甲状腺癌は成人と比べ稀であり,組織型としては90%が乳頭癌であり,濾胞癌,髄様癌は少ない。BRAFV600E変異は成人の甲状腺乳頭癌で最も多くみられる遺伝子変異であり,散発性の小児若年者甲状腺乳頭癌は8.8~63%と論文の報告によってさまざまであるが若年者ほど頻度は少ない傾向である。福島原発事故後の小児若年者甲状腺癌では,20代以上が多く含まれているため全体としてBRAFV600E変異は69.6%であった。また,小児若年者甲状腺癌にみられる遺伝子異常はRET/PTC融合遺伝子やNTRK融合遺伝子が成人よりも多いとの報告が多く,特にRET/PTC1は放射線非被ばく小児例で多くみられる。一方,RET/PTC3はチェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺乳頭癌で多く認められる。高齢者にみられるTERTプロモーター変異は小児若年者の散発性甲状腺乳頭癌ではほとんど認めない。
著者
林田 直美 高村 昇 鈴木 眞一 南 恵樹
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

福島県では、福島第一原子力発電所事故後、小児を対象とした甲状腺超音波検査が行われている。この検査では、約半数の小児で小さな結節やのう胞が認められているが、小児における甲状腺所見の頻度についての報告はないため、日本人一般における甲状腺超音波検査を行った。その結果、対象者の約半数に甲状腺のう胞が認められ、結節は0.7%にみられ、福島県と同様の頻度であった。成人での調査では、これより多い頻度で結節を認めた。甲状腺を4年間観察したところ、大半の小児でのう胞の有無や大きさが変化することがわかった。
著者
鈴木 眞一 塩 功貴 松本 佳子 鈴木 聡 中野 恵一 岩舘 学 水沼 廣
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.87-91, 2021 (Released:2021-09-25)
参考文献数
12

甲状腺癌手術における手技のなかで,反回神経,Berry靭帯周囲の操作および副甲状腺の温存について解説した。基本的には被膜剝離法(CD)で行う。True capsuleとfalse capsuleの構造を理解し,この方法で副甲状腺や反回神経がfalse capsule内に温存される。また下甲状腺動脈と反回神経が交差することとそのバリエーションを理解し,その損傷原因も理解しながら手術を行うことが反回神経損傷を防ぐ重要な点である。またBerry靭帯やZuckerkandlの結節も反回神経温存には欠かせない解剖知識である。さらに術中神経モニタリングが多く使用される昨今,モニタリングの使用に有無での利点欠点についても述べた。小切開や内視鏡手術でも基本的に同様の概念で行うが,操作野が小さく甲状腺外背側の牽引,脱転が不十分になりかねず,CDが不十分になりやすいためIONMなどでの確認が必要である。
著者
鈴木 眞一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
内分泌甲状腺外会誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.219, 2015

内分泌外科領域では,甲状腺,副甲状腺についで副腎が重要な臓器であり,構成医師の中でも内分泌外科医に次いで多いのが泌尿器科医である。ややもすると甲状腺に偏りやすい本学会誌ではあるが,副腎の最新知見は読者にとって欠かせないものと考える。本特集は,2015年5月28日,29日に福島市で開催された第27回日本内分泌外科学会においてシンポジウム2「副腎皮質腫瘍の診断と治療」,ワークショップ3「副腎皮質腫瘍・褐色細胞腫 パラガングリオーマの診断と治療」で発表をいただいた先生方から,大会会長として推薦し依頼したものである。馬越洋宜先生と西川哲男先生(中井一貴先生)には副腎静脈サンプリングについて執筆いただいた。特に馬越先生には多施設データベースの構築とその臨床的意義につき,西川先生には副腎腺腫の部分切除が可能となる超選択的副腎静脈サンプリング法につき詳述いただいた。西本紘嗣郎先生にはアルドステロン産生腺腫発生母地の解明の鍵としてアルドステロン合成酵素免疫染色と次世代シークエンサーでの最新の知見を執筆していただいた。関敏郎先生にはクッシング症候群の術前診断と術後管理につきあらためて解説いただいた。特別講演も賜った笹野公伸先生(山﨑有人先生)には副腎皮質癌の治療標的因子につき執筆いただいた。皮質腫瘍関連が多い中で,この領域の第一人者である成瀬光栄先生に,ご自身を中心にまとめられた褐色細胞腫 パラガングリオーマの診療ガイドラインにつき解説いただいた。いずれも本邦の副腎領域のエキスパートからの珠玉の稿であり,内分泌外科医にとっては垂涎の特集と思う。また普段は全く副腎に接しない,甲状腺外科とくに甲状腺副甲状腺のみの領域の先生方にも専門医の知識として,また試験対策としても絶好の特集といえ,1人でも多くの先生方に一読いただければ幸いである。
著者
福島 俊彦 鈴木 眞一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.24-26, 2014 (Released:2014-04-30)
参考文献数
4

永続的上皮小体機能低下症は,甲状腺手術において避けるべき合併症の一つである。本稿では,当科で行っている上皮小体温存手技の実際を解説する。1.Capsular dissection:要点は,膜解剖の正確な把握である。Surgical thyroid fasciaとtrue thyroid fasciaを確認し,その間で,剝離操作を行う。これにより,自ずと上皮小体はin situに温存できる。加えて,反回神経はsurgical thyroid fasciaと同じ層で温存されることになる。2.上皮小体の自家移植:中心領域のリンパ節郭清を併施する場合,下腺の血流は犠牲にせざるをえないことが多いので,摘出しmincingしたものを胸鎖乳突筋内に自家移植する。胸腺舌部に迷入している下腺も可及的に確認し,同様に自家移植する。3.Surgical loupeの使用:高解像で明るい2.2倍レンズのloupeとloupe装着型のLEDライトを好んで使用している。これにより,明視野下に膜解剖の認識が可能である。