著者
清水 栄司 佐々木 司 鈴木 伸一 端詰 勝敬 山中 学 貝谷 久宣 久保木 富房
出版者
日本不安障害学会
雑誌
不安障害研究 (ISSN:18835619)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.116-121, 2014-03-31 (Released:2014-05-02)
被引用文献数
1

日本不安障害学会では,日本精神神経学会精神科用語検討委員会(日本精神神経学会,日本うつ病学会,日本精神科診断学会と連携した,精神科病名検討連絡会)からの依頼を受け,不安障害病名検討ワーキング・グループを組織し,DSM-5のドラフトから,不安障害に関連したカテゴリーの翻訳病名(案)を作成いたしました。ご存知のように,厚生労働省は,地域医療の基本方針となる医療計画に盛り込むべき疾病として指定してきた,がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病の四大疾病に,新たに精神疾患を加えて「五大疾病」とする方針を決め,多くの都道府県で2013年度以降の医療計画に反映される予定です。精神疾患に関しては,「統合失調症」や「認知症」のように,common diseasesとして,人口に膾炙するような,馴染みやすい新病名への変更が行われてきております。うつ病も,「大うつ病性障害」という病名ではなく,「うつ病」という言葉で,社会に広く認知されております。そこで,DSM-5への変更を機に,従来の「不安障害」という旧病名を,「不安症」という新名称に変更したいと考えております。従来診断名である,「不安神経症」から,「神経」をとって,「不安症」となって短縮されているので,一般に馴染みやすいと考えます。ただし,日本精神神経学会での移行期間を考え,カッコ書きで,旧病名を併記する病名変更「不安症(不安障害)」とすることを検討しております。そのほかにもDSM-5になって変更追加された病名もあるため,翻訳病名(案)(PDFファイル)を作成しました。翻訳病名(案)については,今後も,日本精神神経学会精神科用語検討委員会の中での話し合いが進められていく予定です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
著者
辻内 琢也 鈴木 勝己 辻内 優子 熊野 宏昭 久保木 富房
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.53-62, 2005-01-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
6

本研究では, クラインマンが提唱した「説明モテル」を鍵概念として, わが国における民俗セクター医療を利用する患者の社会文化的背景に対して, 医療人類学的視点に基づいた質的研究法による解明が試みられた. 対象は東洋医学, 仏教医学, スピリチュアリズム理論に基づく治療実践を行う治療家Aのクライエントらとし, 自由記述式のアンケート調査および聞き取り調査が行われた. その結果, 民俗セクター医療を利用しやすい病態群や受療行動パターンが持定され, 病いの物語りからは, 人々が多元的医療システムの中でそれぞれのライフストーリーに裏づけられた価値観に基づいて, 自分に合った医療を主体的に選択していくありさまが認められた. 研究の背景と目的 「医療」が「人間の病気に対する対処行動の全体系」であると定義されるように, 現代社会には治療の基盤となる根本原理がまったく異なる複数のヘルス, ケア, システムが多元的, 多様的, 多層的に存在しており, そのありさまは「多元的医療システム(pluralistic medical systems)」とよばれる.
著者
中尾 睦宏 熊野 宏昭 久保木 富房 Arthur J Barsky
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.539-547, 2001-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
14
被引用文献数
6

身体感覚の増幅に関連する心理特性を明らかにするため, 日本語版の身体感覚増幅尺度(Somatosensory Amplification Scale ; SSAS)を作成した.大学病院の外来患者81人(心療内科48人, 内科33人)を対象に10項目からなるSSASを施行し, 身体症状数, 心理社会的ストレス度, 気分状態の心理身体指標を併せて質問紙で評価した.SSASは各項目間の相関がよく(Cronbachのα係数0.79), 他の心理身体指標と有意な関連があった(p<0.05).心身症患者群の方が内科患者群よりSSAS得点が高く(p<0.005), 多重logistic回帰分析で年齢, 性別, 心理身体指標の影響を統制しても両群は有意に識別された(p<0.05).心身症の訴えや機能障害を簡便に評価する指標としてSSASの臨床的有用性が示唆された.
著者
辻内 優子 熊野 宏昭 吉内 一浩 辻内 琢也 中尾 睦広 久保木 富房 岡野 禎冶
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.205-216, 2002-03-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
28

化学物質過敏症(MCS)とは, Cullenによって提唱され, 化学物質の少量持続暴露か大量暴露を受けた後に, 多臓器にわたって臨床症状が発現する機序不明の病態とされている.本研究ではこのMCS概念に基づき, 心身医学的観点から比較検討(患者18名, 健常者35名)を行った.その結果, 発症および経過には心理社会的ストレスの関与が認められ, 過去1カ月間の飲酒・喫煙歴が少ないという生活習慣の特徴が認められた.発症後の状態として, 患者群は多くの身体症状と精神症状を自覚しており, 精神疾患の合併が83%で, 身体表現性障害・気分障害・不安障害が多く認められた.
著者
貝谷 久宣 金井 嘉宏 熊野 宏昭 坂野 雄二 久保木 富房
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.279-287, 2004-04-01
被引用文献数
1

本研究の目的は,社会不安障害を簡便にスクリーニングできる尺度を開発することである.社会不安障害患者97名,パニック障害患者37名,健常者542名を対象に自記式の調査を行った.探索的因子分析の結果,本尺度は「人前でのパフォーマンス不安と他者評価懸念」,「身体症状」,「対人交流に対する不安」の3因子28項目と日常生活支障度に関する項目で構成された.各因子および全項目の内的整合性は高かった.また「人前でのパフォーマンス不安と他者評価懸念」得点,「身体症状」得点,合計得点は,社会不安障害群と他の2群を弁別可能であった.したがって,本尺度は高い信頼性と妥当性を有することが明らかにされた.
著者
Al-Adawi Samir 鄭 志誠 辻内 琢也 葉山 玲子 吉内 一浩 熊野 宏昭 久保木 富房
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.933-941, 2005-12-01

国際的にみて, 精神的外傷を引き起こすような死別に対し, 十分に対処がとられている社会は少ない.これにもかかわらず, 死別に対する反応を社会的特性という観点でとらえる人類学的研究はごくわずかであり, 死への悲嘆反応は, 心身医学的問題としてとらえられている傾向がある.本稿では, オマーンの伝統的な社会に存続する不慮の死における死者の生き返り(zombification), そして呪術や魔法に関する信仰(信念)を紹介する.これらの反応は社会的に容認されており, 死者の死の否定を基礎としている.さらに考察では, これらを説明モデルという概念を用いて分析し, 世界各地で観察される類似する悲嘆反応を欧米のタナトロジー(死亡学)研究におけるそれと比較し, 新たな視点で論じる.
著者
熊野 宏昭 織井 優貴子 鈴鴨 よしみ 山内 祐一 宗像 正徳 吉永 馨 瀬戸 正弘 坂野 雄二 上里 一郎 久保木 富房
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.335-341, 1999-06-01
被引用文献数
2 2

がんに罹患しやすいパーソナリティ傾向を測定するShort Interpersonal Reactions Inventory(SIRI)の日本語短縮版を作成した.SIRIと平行検査を含む質問紙調査を, 病院職員485名を対象にして行った.因子分析により, 原版に含まれる4因子20項目からなる日本語短縮版SIRIが作成された.因子分析の結果と平行検査との相関分析の結果より, 従来からがんの発症と関連があるとされてきた合理性・反情緒性と社会的同調性のうち, より関わりが大きいとされる後者を, 日本語短縮版SIRIは測定できることが明らかになった。さらに, 4下位尺度の標準得点を算出することにより, 4つのパーソナリティタイプが識別できる可能性が示唆された.
著者
中井 義勝 久保木 富房 野添 新一 藤田 利治 久保 千春 吉政 康直 稲葉 裕 中尾 一和
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.11, pp.729-737, 2002-11-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
8
被引用文献数
6

1999年の1年間に全国23施設を受診した摂食障害女性患者975人について,臨床背景,身体症状,精神症状と食行動異常,本人の状態と家族の状態,誘発因子につき調査し,神経性食欲不振症制限型(AN-R),同むちゃ食い/排出型(AN-BP),神経性大食症排出型(BN-P),同非排出型,特定不能の摂食障害の5群で比較した.各病型に持徴的な身体症状(AN-Rのうぶ毛密生,柑皮症,AN-BPとBN-Pの唾液腺腫脹や歯牙侵食等)があった.精神症状は各群に共通して出現率が多い項目(過剰適応,強迫傾向)と群間で有意差のある項目(肥満恐怖,対人関係不良,抑うつ等)があった.誘発因子はストレスとダイエットが2大因子であった.この資料は,摂食障害を専門としない人にもその診断に役立つと思われる.
著者
久保木 富房
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.25-31, 2007-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1

第47回日本心身医学会総会において,「東京大学心療内科の30年」というテーマで会長講演の機会を得た.東京大学心療内科は昭和47年(1972年)に東京大学医学部附属病院分院に開設された.当時の中心人物は石川 中助教授と菊池長徳医局長の2名であった.初代教授となった石川は心身医学に5つのサイバネティックス原理を導入し,TEG(東大式エゴグラム)を作成し,サイバネーション療法を確立した.また,彼は「気づきとセルフコントロール医学」を提唱した.そのほかに日本心身医学理事,『心身医学』誌編集委員長,第4回国際心身医学会総会(会長:池見酉次郎先生,1977年,京都)の事務局長を務め,さらに日本心身医学会の日本医学会への加盟に貢献した.第三代教授となった筆者は世界保健機関(WHO)の主催する世界パニック障害研究会議(G. Klerman)と世界摂食障害研究会議(B. Liana)に委員として出席し,国内ではPsychosomatic Symposium in Tokyoを3年間主催した.また,分院と本院の統合に参画し,心療内科病棟を開設した.さらに2005年には神戸において第18回世界心身医学会議の組織委員長を務めた.最後に最近の研究の中から(1)心身相関マトリックス, (2)パニック障害患者の脳機能をPETを利用して, (3)Ecological Momentary Assessment (EMA), (4)Mild depressionの診断基準づくりの4つについて概説した.
著者
辻内 琢也 鈴木 勝己 辻内 優子 鄭 志誠 熊野 宏昭 久保木 富房
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.9, pp.799-808, 2006-09-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
17
被引用文献数
2

「医療人類学」は社会・文化人類学の一分野として,健康や病いと社会・文化システムとの関係を探求してきた.本稿では,はじめに病いの経験の社会的・文化的な相互作用を明らかにするうえでとても有用な,(1)多元的ヘルスケアシステム,(2)説明モデル・アプローチ,(3)病いの語りと臨床民族誌,という三つのキーコンセプトについて解説する.次に,われわれがこれまでに取り組んできた,医療人類学的アプローチを応用した質的研究3点を具体的に提示し,物語りに基づく医療(ナラティプ・ベイスト・メディスン; NBM)の理論的骨格の一つとも言える,「医療人類学」の目指す学問的姿勢を明らかにする.
著者
大島 京子 末松 弘行 堀江 はるみ 吉内 一浩 志村 翠 野村 忍 和田 迪子 俵 里英子 中尾 睦宏 久保木 富房
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.315-324, 1996
参考文献数
16
被引用文献数
4

TEG第2版の臨床的応用の第一歩として, TEG第2版を用いて健常者群と患者群とを比較検討した。一定の判定基準からTEGプロフィールのパターンを判定し, それぞれの群のパターンの出現率をX2検定を用いて比較した。また, 2群のプロフィールの相違を数量的に把握するために, 多変量解析(変数選択法・正準判別分析)を行った。その結果, TEGパターンの出現率に差があり, 患者群に不適応的なパターンが多いこと, さらに5尺度のうちFCが最も2群の判別への関わりが大きいことなど, 2群の違いが有意に示された。以上により, TEG第2版が臨床上十分有用であることが確認された。
著者
中尾 睦宏 野村 忍 久保木 富房 末松 弘行 下澤 達雄 藤田 敏郎
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.71-78, 1995

高血圧患者10名を対象にパイオフィードバック療法による白衣高血圧症の降圧効果の検討を行なった。治療前の自己血圧値と医師測定値が収縮期において25mmHg以上差があった者を白衣高血圧群(以上W群;5名),それ以外の者をN群(5名)とした。治療は週1回計4回行なった。治療による自己血圧の低下はわずかであったが,医師測定血圧は,収縮期でW群18mmHg,N群11mmHg,拡張期圧でW群11mmHg,N群8mmHg低下し,W群の降圧が著しかった.また,暗算負荷テストによる血圧上昇もW群の方が治療による抑制が著しかった。本治療法にストレスによる昇圧反応を抑制する効果があり,白衣高血圧によい適応があることが示唆された。
著者
Samir Al Adawi 鄭 志誠 辻内 琢也 葉山 玲子 吉内 一浩 熊野 宏昭 久保木 富房
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.933-941, 2005-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
22

国際的にみて, 精神的外傷を引き起こすような死別に対し, 十分に対処がとられている社会は少ない.これにもかかわらず, 死別に対する反応を社会的特性という観点でとらえる人類学的研究はごくわずかであり, 死への悲嘆反応は, 心身医学的問題としてとらえられている傾向がある.本稿では, オマーンの伝統的な社会に存続する不慮の死における死者の生き返り(zombification), そして呪術や魔法に関する信仰(信念)を紹介する.これらの反応は社会的に容認されており, 死者の死の否定を基礎としている.さらに考察では, これらを説明モデルという概念を用いて分析し, 世界各地で観察される類似する悲嘆反応を欧米のタナトロジー(死亡学)研究におけるそれと比較し, 新たな視点で論じる.
著者
赤林 朗 甲斐 一郎 久保木 富房 吾郷 晋浩 末松 弘行
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.517-527, 2001-10-01
被引用文献数
1

心身医療・心理療法領域におけるカルテ開示の意識に関連する要因を明らかにし, 今後の方向性を考察するため, 日本心身医学会の会員を対象に, 郵送による無記名・自記式質問紙調査を行った(回収率62%).回答者の多数は, カルテ開示の問題に関心・知識をもっており, カルテの一部あるいは全面開示に基本的に賛成を示した.一方, 心理療法におけるカルテ開示についての意識は二分した.重回帰分析の結果, 病名・病状の説明等に困った経験, 精神分析療法をしばしば用いることが, カルテ開示に消極的な意識に有意に関連していた.心理療法におけるカルテ開示の問題は, 各心理療法や個別疾患の特徴に沿った議論を行う必要性があると考えられた.
著者
鈴木 勝己 辻内 琢也 辻内 優子 熊野 宏昭 久保木 富房
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.185-191, 2007-03-01

近年,心身医療における物語りに基づく医療(narrative-based medicine; NBM)に関する研究では,病者の語りを質的に分析していく意義が理解されつつある.医療人類学によるNBM研究への貢献の一つは,病いの語りの質的調査において,病者・医療者・調査者間の交感的な関わりを含めた相互作用を理解しようとする点にあるだろう.病いの語りの医療人類学研究では,質的調査の中で生じた相互作用を考慮しつつ,病者の生活世界を精緻に理解しようとするからである.今回の報告では,精錬された病いの語りは病者の証言(witness)であり,その証言が証人である医療者と外部の第三者から確認されていくことが,NBMの実践においてきわめて重要であることを提示したい.本報告における証言は,全人的医療の理解に貢献し,NBM研究における重要な概念と考えられるからである.病者・医療者・第三者の相互作用は,病いの語りを精錬させ,病者が病いの専門家としての自負をもち,医療への過度な依存から脱していく臨床プロセスが確認される可能性がある.ここで問うべきは,病者の個人的経験に関する証言は,心身医療における治療の根拠となるのか,という点であろう.医療人類学は,病者の証言の理解を通して,NBMのあり方について根源的な問いを投げかけている.
著者
久保木 富房 野村 忍 熊野 宏昭 末松 弘行
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.107-113, 1996-02-01
被引用文献数
1 1

摂食障害における死亡率の検討は現在までにいくつか報告されている。欧米および本邦でのそれらの報告では1〜10%とあり, 多数例による報告では4%とほぼ一致している。当科の23年間の外来患者中の摂食障害患者は724名である。これら全例についてその予後を調べ, どれほどの患者がどのような状況, 状態で死亡しているのかを調べてみた。当科の外来カルテ, 台帳およびデータベース, さらに担当医への質問紙などより資料を集め, 724名中データの得られた434名について該当者のリストをつくり, それぞれ担当医に直接依頼して, 症例サマリーと以下の項目についての回答を得た。全症例の中で死亡を確認できた症例数は9例あり, 全例女性で, 死亡時の年齢は17〜48歳(平均28歳)であった。発症時年端は14〜21歳(平均17歳)で, ANのみの症例は4例, AN+BNの症例が5例であった。また, 死亡時の体重は17〜66kg(平均35kg)で, 肝障害が確認されていた症例が6例, 浮腫が4例.低K血症が5例, 低血糖発作が4例であった。そして, 死因としては衰弱死3例, 飛び降り自殺2例.服薬自殺未遂後の心不全1例, 突然死2例, 癌死1例であった。さらに心理社会的な面では, やせ願望(肥満恐怖)は全例に強く認められ, 自殺企図4例, 人格障害4例, 母子共生6例, 強迫性5例, Hy傾向3例であった。また, 治療者側の反省点としては以下のことが挙げられた。(1)AN3例(No.1,3,9)→衰弱死この3例に共通する治療者側の反省点は, 治療関係の確立と治療動機づけができなかったことである。No.9の症例においては父親の単身赴任によって母親の負担が増加し, 母親が治療者へ陰性の転移を強く示し, 治療上の問題点とされていた。(2)AN+BN2例(No.5.8)→飛び降り自殺不安定な精神状態への対応が十分でなかったこと, 慢性的なうつ状態に対する評価と対策がとれなかったこと, さらに自殺の予知と対応が不十分であったこと。(3)AN+BN(No.6), AN(No.7)→突然死身体状況の的確な評価ができなかったこと。(4)AN+BN(No.4)→薬物自殺→心不全bulimia症例とのつき合い方, 治療者と患者との距甦の問題, identity crisisや大学への不適応などの問題が十分扱えなかったこと。(5)AN+BN(No.2)→癌死引きこもり(schizoid)への対応が不十分であったこと。両親への対応が十分でなかったこと。摂食障害における死亡は最悪のことであり, 今後さらなる検討が必要と考える。また, 長期化しsocial abilityの低下している症例も多く, Garfinkelらは25%と報告しているが, これらの症例についての今後の検討も重要な問題と考えている。
著者
志村 翠 堀江 はるみ 熊野 宏昭 久保木 富房 末松 弘行 坂野 雄二
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.62-69, 1994-09-30

日本語版Eating Disorder Inventory-91(EDI-91)を新たに作成し,Eating Attitude Test(EAT)とともに首都圏在住の514名の健常女子(12〜36歳)を対象に実施した。因子分析を行った結果,91項目,11の原尺度と異なり,68項目からなる解釈可能で高い信頼性をもつ6つの因子が抽出された。各因子と原尺度との関係は以下のようであった;第I因子,"痩せ願望","過食";第II因子,"ボディーイメージ";第III因子,"衝動統制","内界への気づき","対人不安","無力感";第IV因子,"成熟恐怖";第V因子,"他人不安","対人不信";第VI因子,"禁欲主義","完壁主義","無力感"。相関分析の結果,各因子とEATとの間には有意な相関がみられた。
著者
大林 正博 井出 雅弘 久保木 富房
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.37, no.8, pp.591-598, 1997-12-01
被引用文献数
6

アレキシシミアを伴う書痙患者に対して, 5年余り(200回余り)のフォーカシングによる面接を行った。面接第30回くらいまでの話題の大半は, 右手の違和感など症状に関するものであった。しかし, 「日常の問題が出ないこと」の指摘などの直面化をしたり, 面接140回頃よりコーネルによる方法を取り入れたこともあり, しだいにアレキシシミアとしての印象は薄らぎ, さまざまな「気がかり」なことに触れたり, 神経症的な葛藤や不安を表現するようになった。一方, 書痙症状は徐々に軽快し, 去勢不安とも取れる事柄を語るようになった第170回頃よりほとんど完全に消失した。フォーカシングは心身症に対しても試みる価値がある治療技法であると思われた。
著者
久保木 富房 久保 千春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, 2005-04-01

第45回日本心身医学会総会の最終日に永田頌史会長の発案で,「心身医学が進むべき方向」と題してシンポジウムが開催された.シンポジストとしては東京大学心療内科の熊野宏昭氏,九州大学心療内科の久保千春氏,関西医科大学心療内科の中井吉英氏,琉球大学精神衛生学教室の石津宏氏,そして指定発言に鹿児島大学心身医療科の成尾鉄朗氏が指名され,座長は筆者と久保千春氏が務めた.まず,熊野氏より「東京大学心療内科から」と題して,その研究方法論と臨床活動について述べられた.研究方法論としては,Ecological Momentary Assessment(EMA),大脳機能検査,神経内分泌学の3つを中心に据えた具体的な説明と現在までに得られているエビデンスが紹介され,今後の心身医学の研究方向が示された.また,臨床活動においては,心身症,摂食障害,パニック障害,軽症うつ病などが中心であること,精神科とは自ずから守備範囲が重なってくるが,心療内科はあくまでも身体や行動の側から眺めていくという特徴と,コミュニケーションの観点からは,「話せばわかる」という立場を堅持することが述べられた.次に,久保氏より,「九州大学心療内科から」というテーマで,臨床活動においては東京大学心療内科とほぼ同様のデータが,研究面ではストレス研究の新しい動物モデルなどが提示され,多くの研究グループの具体的な研究成果が発表された.臨床面,そして研究面においてevidence based medicineを追求しているスタンスが強調された.東京大学と九州大学がほぼ同様の方向へ研究を展開していることが確認されたことは,今回のシンポジウムにおける大きな産物の一つとして挙げることができよう.3番目は,中井氏より,「全人的医療学の臨床,教育,研究を通して」と題する発表があった.30年以上前より心身医学の中心に据えられてきたbio-psycho-socio-ecologicalモデルに基づく,関西医科大学における臨床,教育,研究の実際と今後の展望が述べられたが,心身医学がもつnarrative based medicineとしてのよさが遺憾なく発揮された発表であるという印象を強くもった.4番目に石津氏より「精神医学的視点と課題」と題して,精神医学と心身医学の近似点や相違点に関して具体的な例を挙げて説明が示された.また,研究面ではゲノムレベルに及ぶ近年のbiological psychiatryは,心身医学に多大なresourseを提供し,心身相関の脳内機序やPsychoneuroendocrinoimmunomodulationメカニズム,器官選択性や個体のストレス耐性の解明などに新しい展開が期待できると述べた.一方,心身医学のbio-psycho-socio-ethics-ecologicalな考え方は,精神医学に人間学的な新展開を加えることが期待されると結んだ.最後に,成尾氏は指定発言として,「大学での教育,臨床,研究で果たすべき役割」と題して述べた.成尾氏は,「現時点で考えられる問題と方針としては,まずは学部教育と卒後教育段階での心身医学的知識や診療,研究スタンスへの啓蒙を充実させることと,リエゾン的役割をより積極的に発揮するとともに,臨床各科における心身医学的問題症例への能動的関与の機会を増やすことが重要と考える」と結ばれた.発表後,フロアの先生方を交えた討論も活発に展開し,今後の心身医学の進むべき方向に関して有意義なシンポジウムとなった.