著者
香川 敏幸 伊藤 裕一
出版者
広島大学経済学部附属地域経済システム研究センター
雑誌
地域経済研究
巻号頁・発行日
no.14, pp.51-66, 2003-03

労働市場における雇用対策として、職業能力開発が近年脚光を浴びている。一方で、単独で職業能力の開発のみを行っても、失業率の低下につながらないのではないか、という問題をめぐって常に批判されている。そのためこの政策は、地域レベルでのパートナーシップを用いながら運営された場合に、より効率的な政策効果を追及することができる、というのが本研究の問題意識である。そこで以下では、1) どうしてパートナーシップという政策運営の手法が必要なのか、伸縮的な労働市場を前提とする理論的なフレームワークを用いて提示し、2) それが実際にはどのように運営されているのかを、事例研究を通じて明らかにし、3) このパートナーシップに基づく運営の成否のためには、どのような点が重要であるか、について考察する。具体的にケーススタディの対象としたのは、イギリスの若年失業者向けニューディール政策がイングランド北東部のサンダーランドで実施された例である。得られた知見は、以下の3点である。1) 職業能力の開発は、能力の向上した個人が雇用されるような新規雇用が必要であり、そのためには地域レベルでの投資活動と雇用政策がリンクしている必要がある。また、失業という問題は多様な問題を内包しているため、単に雇用主と公共職業サービスだけではなく、地域レベルにおける多様な主体がパートナーとなりサポート体制を作っていく必要がある。2) サンダーランドでは、政策の運営会議がパートナー間で定期的にもたれており、訓練センターなどが共同で設立されている。3) パートナーシップの成功のポイントは、その規模と、パートナー間の信頼関係である。規模に関しては、参加者数が多過ぎないことが重要である。また信頼関係を築いていくためには、特に民間企業の政策参加の負担を減らすために、公的機関が柔軟に対応できるか、という点を挙げることができる。本稿の最後には、今後の職業能力開発の政策の展望と、日本への示唆について触れる。The purpose of this study is to examine a partnership method for development of individual employability. Employment policy that emphasizes on employability has been focused recently. However, it is criticized that increasing employability itself would not decrease a number of unemployment. So, the partnership on regional level could be a key issue to make the employment policy more efficient.The main questions are to understand;1) why the partnership method is desired (theoretical study)2) how the actual partnership has been managed at a regional level (case study),3) and what the key points in order to understand the reason behind the success of the partnership are.The case chosen is the New Deal policy for the young unemployed people at Sunderland in the United Kingdom.The main findings are as follows.1) The development of employability requires the new jobs and thus the partnership with a local investment is necessary. The unemployment is also a complex problem, which requires a participation of various organizations to support the unemployed.2) In Sunderland, the New Deal management meetings have been held regularly, and the training center was created through the partnership.3) The key points for a success of partnership method are a scale of the partnership and a relationship among partners.
著者
伊藤 裕子
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.647-661, 2012-12-01 (Released:2012-12-01)
参考文献数
29

電子カルテのような医療における情報基盤の整備は,国民に対する質の高い医療の提供のために国家政策として10年以上行われてきたが,まだ不十分である。本稿では,「病院内の電子カルテなどの医療情報基盤の整備の有無」に何が関連するのかを検証するため,勤務医を対象にしたアンケート調査(2010年実施)の結果を再分析した。その結果,病院における電子カルテなどの医療情報基盤の整備の状況は,病院の規模や開設主体によって差があることが示唆された。現在,医療情報基盤の整備が進んでいる病院は,経費の問題もあるため中規模以上の病院であるが,日本の病院の8割以上は小規模病院である。今後,病院内の電子カルテなどの医療情報基盤の整備を進めるためには,学術情報に関して一部で既に実施されているように,地域内の複数の医療機関が連携することによって経費を分担することや,地方および国の行政が医療情報基盤整備のために経済的な支援をすることが必要と考えられる。
著者
伊藤 裕之
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.349-354, 2011-09-01

インターネット上に点在する学術情報資源を効率よく検索するシステムに対する需要が年々高まっている。その背景には,Googleをはじめとするサーチエンジンが学術分野へ広く浸透していることが挙げられるだろう。学術情報資源を効率よく検索するシステムの開発は以前から進められてきたが,システムを提供する側の思惑と,利用者側の期待との間には大きな隔たりがあることが浮き彫りになっている。本稿では,学術情報資源を効率よく検索するシステムとして横断検索システムと統合検索システムを取り上げ,両者の特徴および違いについて整理する。あわせて,統合検索システムの一例として,Ex LibrisのPrimoとPrimo Centralの特徴および取り組みについて述べる。
著者
善木 道雄 伊藤 裕昭 姫野 新典 横山 崇
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.201-203, 2003 (Released:2003-08-04)
参考文献数
18
被引用文献数
4 4

A simple solid-phase colorimetry using polyurethane foam (PUF) for the determination of iron(II) has been proposed. The 1,10-phenanthroline (phen) method is selective and sensitive, and is widely used for the determination of Fe(II) in aqueous solution. It is worthwhile to develop this method, which is suitable for visual colorimetry. An iron(II)-phen complex and its ion-associates, such as Br−, SCN− and ClO4−, were not extracted onto PUF at all. In the presence of sodium dodecyl sulfate (SDS), we found iron(II)-phen complex was adsorbed onto PUF and the iron concentration was visually measured from the resulting color onto PUF. The recommended procedure is as follows. Five ml of a 1 M acetate buffer solution (pH 4.7), 1 ml of 10 w/v% ascorbic acid, 3 ml of 0.1 w/v% phen, and 4 ml of 5×10−3 M SDS were added to a 200 ml sample solution containing less than 200 ppb of Fe(II). A chip of PUF (2×2×2 cm) was put into the solution and stirred with a magnetic stirrer for 20 minutes. The chip taken up from the solution was rinsed with distilled water and squeezed to remove any water. The color intensity of the PUF was then visually compared by a standard series method.
著者
佐原 宏典 渡部 武夫 渡邊 秋人 伊藤 裕明
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
航空宇宙技術 (ISSN:18840477)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.15-22, 2012 (Released:2012-01-31)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

This paper reports a development and demonstration of inflatable extension boom in the experiments of the ISAS/JAXA sounding rocket, S-520-25. The inflatable extension boom developed by the authors is the longest in ones with conductive part to work as an electrode for collection of electrons surrounding the rocket. S-520-25 sounding rocket was launched in August 31, 2010, and 5 experiments including an extension of the inflatable boom were conducted. The inflatable extension boom and its system worked very well with no problem to form 4-m-long electrode in space.
著者
香月 健志 及川 洋一 島田 朗 伊藤 裕
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.861-865, 2008 (Released:2009-05-20)
参考文献数
13
被引用文献数
6

症例は35歳の肥満男性.32歳時に口渇・多飲・多尿が出現し当院を受診,糖尿病性ケトアシドーシスの診断で入院となった.清涼飲料水の多飲歴はなく,膵島関連自己抗体も陰性であった.インスリン加療にて完全ではないものの内因性インスリン分泌能の改善を認め,退院後33歳時からインスリン加療は中止となり,食事療法のみにてHbA1c 6.0%前後で推移した.その後体重は88 kgから105 kgまで徐々に増加し,34歳時に再び口渇・多飲・多尿が出現し当院を受診,糖尿病性ケトーシスの診断にて再入院となった.インスリン加療を再開し,内因性インスリン分泌能は不十分ながら回復傾向となった.退院後現在まで血糖コントロールは安定している.本症例は経過からketosis-prone type 2 diabetesが疑われた.日本人での報告はほとんど認められず,若干の考察を含め報告する.
著者
山崎 美樹 伊藤 裕久
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.88, no.806, pp.1493-1504, 2023-04-01 (Released:2023-04-01)
参考文献数
5

Kichijoji has been established by the emigration with the urban renewal of Edo after the Great Fire of Meireki in1657 and planed as Shinden settlement with the similar strip-shaped allotment of land . This paper compares the land allotments and composition of Michi (streets and alleys) in detail with the typical maps (cadastral map at the beginning of the Meiji era, lot number map at the end of the Taiso era, fire insurance map revised in 1949) and seeks to comprehensively the formative process of Kichijoji and Nishikubo area from the Meiji era to the early Showa era.
著者
浅井 和康 鴻 信義 柳 清 深見 雅也 遠藤 朝彦 森山 寛 伊藤 裕之 大橋 正洋
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.329-334, 1995-06-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
10

頸髄損傷患者3症例について, 体位変換時および排尿前後での鼻腔通気度の変化を調べた。その結果, 坐位から仰臥位に体位変換することによって鼻腔抵抗値は上昇し, 排尿することによって低下をみた。これは, 頸髄損傷患者に特有の自律神経過反射 (autonomic hyperreflexia) と呼ばれる現象に伴うものと考えられた。すなわち, 膀胱内の尿の充満などによる麻痺域への刺激が交感神経反射を惹起して全身性の血圧上昇を起こす現象であり, これによって非麻痺域すなわち鼻腔の血管拡張を招き鼻閉をきたす。また健常者でも坐位から仰臥位に体位変換することによってわずかに鼻腔抵抗が増大するが, 頸髄損傷患者では顕著にこの現象が現れることも, 外傷に伴う交感神経系の機能障害が関与していることが示唆された。
著者
相良 順子 伊藤 裕子
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.92-94, 2017-07-01 (Released:2017-04-15)
参考文献数
6
被引用文献数
5 4

The structure of a scale of generativity was examined and gender differences were investigated among 649 men and women in their forties and fifties in Japan. Results indicated that generativity consists of two factors: generative consciousness and the will to make social contributions. Gender difference was seen in both factors: men had higher generative consciousness while women had higher will to make social contributions. These results suggested that the difference in the social share due to gender influenced the state of generativity among middle-aged people in Japan.
著者
伊藤 裕才
出版者
共立女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

軟体動物頭足類(イカやタコ)の表皮色素胞は黄色から紫色までの様々な色素を含んでいる。これらの色素は着色料として利用できる可能性があるが、色素成分はオンモクローム類であること以外は不明である。そこで主にスルメイカを対象に表皮から色素を抽出し、それら全成分を分析するHPLC分析法を開発した。分析の結果、黄色、赤色、紫色といった複数の色素の観測に成功した。さらにスルメイカ抽出液から紫色色素をクロマトグラフィーによって単離精製した。組成分析の結果、紫色素は硫黄原子を含んでいることが強く示唆された。
著者
伊藤 裕夫
出版者
Japan Association for Cultural Economics
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.19-26, 1999-09-30 (Released:2009-12-08)
参考文献数
12
被引用文献数
1

1 0 0 0 OA 6.肥満

著者
河合 俊英 島田 朗 及川 洋一 伊藤 裕
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.5, pp.916-921, 2007 (Released:2012-08-02)
参考文献数
7

近年,肥満,ことに内臓脂肪蓄積型の肥満はlow gradeの慢性炎症として捉えられるようになっている.肥満は,高血圧,糖代謝異常などの代謝障害の基盤となり腎障害をきたしうる.一方,肥満そのものによる腎障害が明らかとなり,肥満関連糸球体障害(症)(obesity-related glomerulopathy(ORG))という疾患概念が提唱されている.本稿では,肥満と腎障害との関連について概説する.
著者
入江 潤一郎 伊藤 裕
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.103, no.11, pp.2813-2819, 2014-11-10 (Released:2015-11-10)
参考文献数
14

ヒトは一人あたり100兆個にも上る腸内細菌と共存しており,その腸内細菌の機能を個体の維持に効率的に利用している.腸内細菌と宿主の関係はこれまで感染症において主に検討がなされてきたが,感染症とはみなされない肥満や糖尿病に対しても腸内細菌が能動的に病態の形成に寄与していることが遺伝学的網羅的検討から近年明らかとなってきた.腸内細菌は腸管内容物の代謝を通じてエネルギー獲得を促進し,また短鎖脂肪酸や胆汁酸などを代謝し,シグナルとして腸管ホルモンや代謝臓器に影響を与えている.腸内細菌は宿主の生存に有利な腸内環境を構築しているが,過剰な栄養下では肥満を助長する.一方,腸内細菌は宿主に慢性炎症を引き起こし,宿主に不利なエネルギー代謝を誘導する.腸内細菌叢を含めた腸内環境の包括的評価,およびその整備が生活習慣病の新たな臨床指標・治療標的となるであろう.