- 著者
-
小熊 誠
- 出版者
- 沖縄国際大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1993
沖縄における民俗文化の中で、中国文化の影響を受けていると思われるものは少なくない。本研究では、風水思想と門中制度をとりあげ、その伝播と受容について調査研究することを目的とした。風水思想は、近世琉球において、琉球王府が中国から導入し、その政策に積極的に応用したことが、文献研究を通して明らかにされた。とくに、名宰相といわれた蔡恩が、沖縄本島北部の山林政策や村落経営に風水思想を取りいれていたことは、多くの文献に記されている。また、近世から近代初頭にかけて、村落が王府に願い出て村落風水を看てもらう事例もいくつか発見された。さらに、村落が、久米系士族出身の風水師を個別に頼んで、村落風水のみならず、個人の家屋風水をも看てもらっていた。こうして、沖縄における風水思想は、琉球王府の政治思想からしだいに一般の知識へと伝播していったものと予想される。現在でも、沖縄では家屋の建築や墓の造成の際に風水を看る慣習があるし、街角に多く見られる石敢當も風水の影響である。今日、沖縄の風水は、「気」の思想に欠けている点で中国の風水と大きく異なる。この点は、今後の研究課題となろう。門中制度については、やはり近世初期に、琉球王府が中国の宗族制度を模範として士族の間に取り入れたことから発展したと考えられる。その端緒は、身分制を強化するために、士族に家譜を作成させたことから始まる。家譜は、中国の族譜に倣って、父系出自に基づいて記載された。さらに、それが集団化し、共通祖先の祖先祭祀、門中墓の形成などを伴なって、門中が形成されていった。しかし、門中には中国姓を使用するが、中国における姓の原理までは導入しておらず、中国では禁止されている同姓不婚の原則が、沖縄では厳格に忌避されていたわけではなかった。中国文化の受容と伝播の研究には、歴史的視点と原理の比較が必要であり、この点が比較民俗学の視点となろう。