著者
山本 毅雄
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.254-259, 2008-05-01
被引用文献数
1

1975年6月,日本最初の実用規模オンライン情報検索サービスTOOL-IRが,東大大型計算機センターで開始された。ソフトウェアは著者らのチームによる自作で,初期には海外から輸入したデータベース(最初はChemical Abstracts ServiceのCA Condensatesのみ,同年度内にCambridge UniversityのCrystallographic Data, INSPECのComputer and Control Abstracts)が加わった。利用者は全国の大学・短大・高専・研究所などの研究者(教師および大学院生)で,毎年の実利用者は致百人(最盛期は千教百人), 20年以上利用された。TOOL-IRサービスは,ヒューマン・インターフェースを重視した対話型(CUI)ソフトウェアをもち,語尾一致検索,質問ライブラリ,利用者によるデータベース作成支援ソフトウェア(PDB),サービス提供者と利用者間の電子メール交信のどの特色があった。また,国産計算機上で音響カプラー端末(いわゆる電話端末)を利用できるようにした最初のシステムでもあった。このプロジェクトの発想,研究・開発,データベースの輸入,サービスの略史について述べる。
著者
長崎 二三夫 山本 毅也 北方 健作 脇坂 昇
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.5-16, 2014-04-25

はじめに オオムラサキは,最も大きなタテハチョウの1種であり,日本,朝鮮,中国,台湾等に分布している.通常年1化で,幼虫越冬をする.翅表は黒褐色を基調に,♂は翅表の基部を広く紫色が被い,♀では紫色を欠く.日本のオオムラサキの♂の翅表については,紫色が少し薄い北海道から黒みを帯びる九州まで,微妙な地方変異が知られている.海外に目を転じると,台湾において青く輝くオオムラサキが知られており,また最近,長野県産の輝きの強い個体が提示されており(小舘,2009),これも青いオオムラサキの1型である可能性が高い.著者の一人は大分県北部から1頭の青みを帯びた輝きの強い♂を飼育により得ている.そんななかで滋賀県の同好者の間で(ブルー)と呼ばれているオオムラサキの存在を聞くに及んだ.同産地の越冬幼虫をたまたま累代飼育していたところ,青いオオムラサキの出現を記録し,遺伝形式を解明すべく累代実験を行うこととした.最初の越冬幼虫は,2005年に滋賀県の鈴鹿山地より得たものである.飼育はそれぞれの著者の庭に植えてあるエノキを用い,ナイロンネットの袋掛けを行い,越冬幼虫を4月のエノキの芽吹きに合わせて放ち行った.成虫の羽化後♂は約10日経ち成熟してから,♀は羽化後2日目から7日目までを交配に用いた.交配はハンドペアリング法で行った.採卵はエノキの袋掛けネット内で行った.12月上旬に越冬幼虫が木を降りる頃を見計らい回収し,土を入れた植木鉢に保管した.2005年12月に野外採集で得られた越冬幼虫からF2世代まで3世代累代して青い異常個体を得,その後出現した青い異常型個体から世代を重ねて純系作成を試みた.内交配を繰り返し,得られる翅色彩についてすべての組み合わせによるペアリングをして,純系の作成を目指した.一腹から得られた次世代の全個体が青色異常型となった後には,純系であることの確認のために純系個体同士の交配を行った.青い異常型が出現する遺伝形式を見極めるために,青純系と新たに野外から得た幼虫より羽化した正常型との間で交配実験を計画した.2010年原産地より5km離れた地点から得た30頭の正常型と青純系の2頭の♂,2頭の♀との間で4組の交配を行った.飼育結果 1.青い異常型個体の出現 Table 1の通り,2005年12月採集の同一産地に由来する正常型の1♂1♀を交配し,内交配による累代飼育の結果,2008年6月に3世代目として羽化した3頭の♂のうち2頭が青く輝く異常型であった.2.青の純系の作成の試み 累代を続けた結果,3世代後の組み合わせの一つから羽化した♂は,30頭すべてが青で,F5世代で青の純系が誕生したことが示唆された.これらが本当に純系であるかどうかの確認を行うため,純系と思われる2家族同士の交配を2011年6月から7月にかけて行った.翌年2012年6月から7月にかけて,Cross11#1,#2それぞれから38頭と91頭の青の♂のみが羽化し青の純系であることが確認された.3.青純系と野外の正常型との交配実験 前節で得られた青の純系♂と♀を,野外の正常型と交配させた.これらの4組の組み合わせから,翌年2012年6月から7月にかけて,正常型の紫の♂46頭のみが羽化した.青が1頭も羽化しなかったことより青は劣性であることが強く示唆され,羽化した♂,♀ともすべて青の遺伝子をヘテロの状態で保持していると考えられた.最後に2012年7月に上記のF6-3,4,5,6同士の間で交配を行った.すなわち青のヘテロ同士で交配を行ったことになる.2013年6月から7月にかけてCross12#1-4のそれぞれから青と紫の両方が羽化した.上記の交配に用いた両親は,いずれも青に関してはヘテロでありまた青の遺伝子は劣性と想定していたので理論的に導かれる交配の結果は次のようになるはずである.♂Aa x ♀Aa→AA+2Aa+aa→3紫+1青 ここでA:優性の紫の遺伝子 a:劣性の青の遺伝子 AA:ホモの紫 Aa:ヘテロの紫 aa:ホモの青 すなわち理論的には青対紫の分離比は1:3であり,青出現率は0.25(1/4)のはずである.そこで実験結果につき統計学的検討を行うこととした.Cross12#1-4それぞれについて理論的な分離比から仮定される青出現率(p_0)に対し実験で得られた比率(p)が有意に異なるかを正規近似を用いて検定したところ,4組ともメンデル遺伝の理論分離比で劣性遺伝すると判断された(Z検定:Cross12#1-4それぞれ|Z_0|=0.425,p=0.67;|Z_0|=0.994,p=0.32;|Z_0|=0.478,p=0.63;|Z_0|=0.266,p=0.79).考察 以上の飼育実験より青い異常型はメンデルの劣性遺伝をすることが確かめられた.飼育実験を重ねるうちに集積された標本を検討すると,青の青さにスカイブルーから比較的暗いダークブルーまで,連続した微妙なバラツキのあることに気付いた.青と正常型の決定的な違いは,青は斜めに傾けて翅表を観察すると強く金属的に輝くことである.この金属色は構造色とよばれ鱗粉の微細構造に由来するものである.正常型オオムラサキの鱗粉は大きく2種類に分けられ,そのうちの1種類が櫛状構造に外皮様のヒダが何層にも重なってついており,これが構造色を生み出しているという(Matejkov-Plskova et al.,2009).鱗粉の櫛状構造の櫛についている多数のヒダの間隔が正常型では103nmに比し青では169nmと広く,この広いことが光学的研究により,青く輝く原因となっていることが突き止められている(永井ら,2009).この間隔が169nmより少し狭いと,濃い青へ,広くなるとスカイブルーの方ヘバラツクのではないかと想像される(吉岡,私信).スギタニ型にも青い遺伝型が出現し,スギタニ型での青はギラツキ感がやや弱く,また青みが暗い傾向がある.これらの微妙な変異をまとめてFig.7からFig.38まで提示してみた.連続した変異が理解されるものと思う.青い異常型の存在は,各地でささやかれてきた.先に示した大分県をはじめとして,福岡,京都,山梨からは報告は無いものの知られており,栃木,北海道からは最近報告されている.栃木県の報告では,同一のエノキから得られた8頭の越冬幼虫より青が2頭出現しており,遺伝の関与を示唆している(瀬在,2012).北海道では2011年と2012年のオオムラサキの大発生の年に,計6頭の青い異常型が採集されたと報告しており(上野・高木,2013),それぞれの年に,500〜600頭のオオムラサキが容易に捕獲できたとのことである(高木,私信).そうであればおおざっぱであるが,青の出現率は約0.5%(6頭/600×2年)となり極めて稀であることが理解される.オオムラサキは、蝶の愛好家の間では最も人気ある蝶の一つであり,過去半世紀以上数知れぬ越冬幼虫が飼育されてきた蝶である.にもかかわらず青い異常型の報告は,上記のように最近の数例しかない.それほど稀な型ということであろう.この青い異常型は極めて稀で,分布が限られており,保護が計られねばならない.その理由で詳しい産地の公表は控えさせていただいた.その一方で保護の目的で著者たちは累代の努力を継続中である.
著者
阿部倉 貴憲 森下 進悟 山本 毅 杉浦 昇 稲垣 瑞穂
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.82, no.837, pp.15-00615-15-00615, 2016 (Released:2016-05-25)
参考文献数
14

As vehicle engines become lighter, smaller, and more powerful, stress prediction of the main bearings has become an important aspect of strength design measures for the cylinder block. To predict the stress of the engine main bearings under actual working conditions, a flexible multibody dynamics (FMBD) solver was developed with a built-in elastohydrodynamic lubrication solver for the main bearings. The dynamic behavior of the engine system under actual working conditions was then calculated and the results were used to calculate the stress. To reduce the stress calculation cost, rather than inputting the actual working load into a finite element model (FEM) of the whole engine as a boundary condition, the stress was calculated by inputting the dynamic behavior into a small FEM consisting only of the main bearing as a displacement boundary condition. Verification of the test results confirmed that this model is capable of highly precisely predicting the actual working strain of main bearing portions susceptible to fatigue-related fractures. It was confirmed that the developed model could predict the actual working strain if the highest natural frequency of the eigenmode utilized by the FMBD analysis was set to 50kHz or higher.
著者
山本 毅也
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3-4, pp.104-111, 2017-12-31 (Released:2018-03-25)
参考文献数
7
被引用文献数
2

Besides the red (normal) and white color forms of the hind wing anal angle spots in Sasakia charonda, there exists the pink color form. Through test crosses by the hand pairing method, this study demonstrates that the red and pink forms occur from different alleles of an autosomal gene, the former being dominant and the latter recessive. White and pink color forms are in incomplete dominance and the color of the hind wing anal spots in the F1 generation shows a color cline between white and pink.
著者
長谷部 紀元 阪口 哲男 山本 毅雄
雑誌
情報処理学会研究報告情報システムと社会環境(IS)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.89(1994-IS-051), pp.1-6, 1994-10-18

図書館情報大学は、JUNETの初期ノードの一つであり、インターネット上のニュース機能(大学内ローカル・ニュースグループ)の利用が約9年あまり、メール機能の利用は学内で約13年、学外に対しても約11年の緒験がある。最近はこれらの機能の利用者が広がり、業務にも使われるようになってきた。最近のニュース機能・メール機能の利用統計と、ニュース機能による電子会議の状況の一部を紹介し、これらの新しいコミュニケーションチャネルの参入による大学内各層(卒業生を含む)間の情報流通の変化を論ずる。電子会議での議論は、反応が早いこと、議論がオープンであること、年齢差にこだわりが少ないこと等が特徴である。これが業務上の会議に受け継がれることにより、業務上の会議の進行にも影響を与えている。
著者
長谷部 紀元 阪口 哲男 山本 毅雄
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. 情報システム研究会報告
巻号頁・発行日
vol.94, no.89, pp.1-6, 1994-10-18

図書館情報大学は,JUNEtの初期ノードの一つであり,インターネット上のニュース機能(大学内ロ-カル・ニュースグループ)の利用が約9年あまり,メール機能の利用は学内で約13年,学外に対しても約11年の経験がある.最近はこれらの機能の利用者が広がり,業務にも使われるようになってきた.最近のニュース機能・メール機能の利用統計と,ニュース機能による電子会議の状況の一部を紹介し,これらの新しいコミュニケーションチャネルの参入による大学内各層(卒業生を含む)間の情報流通の変化を論ずる.電子会議での議論は,反応が早いこと,議論がオープンであること,年齢差にこだわりが少ないこと等が特徴である.これが業務上の会議に受け継がれることにより,業務上の会議の進行にも影響を与えている.
著者
高原 健 難波 倫子 高橋 篤史 畑中 雅喜 山本 毅士 竹治 正展 山内 淳
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.371-376, 2008-06-28
参考文献数
16
被引用文献数
1

【目的】抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎におけるびまん性肺出血合併例の予後は一般的に不良である.強力な免疫抑制療法が推奨されているが,感染症による死亡が多くみられることから,免疫抑制の程度についてはなお明確な基準はない.肺出血合併ANCA関連血管炎に対し,免疫抑制薬を使用することなく,ステロイド治療に血漿交換(PE)を併用し,その有用性について検討した.【方法】過去10年間に当院で経験したMPO-ANCA型急速進行性腎炎22例中,肺出血を合併した7例(男性2例)を対象とした.全例にPEを施行し,肺出血が改善するまで継続した.全例にステロイドパルスおよび後療法としてステロイド内服治療を行った.【結果】平均年齢は72±9歳,入院時MPO-ANCA titer 569±581EU,血清Cr 5.7±3.3mg/dL,観察期間は34±22か月であった.肺出血の初期症状として全例に血痰があり,低酸素血症を伴う強い呼吸困難,急激な貧血の進行,胸部CTにてびまん性間質影を認めた.3例に人工呼吸管理を要した.血痰出現から血漿交換開始までの期間は2.9±2.0日,平均3.5±1.3回のPEを行った.肺出血は全例治癒し,退院時に人工呼吸や酸素吸入を要する例はなかった.入院時全例に腎機能障害を認め,腎生検を施行した2例はpauci-immune半月体形成性腎炎で,5例が透析を必要とした.そのうち3例は維持透析に移行したが,ほかの例では腎機能の改善を認めた.重篤な感染症は認めず,16か月後に誤嚥性肺炎で失った1例を除き全例生存中である.【まとめ】肺出血合併ANCA関連血管炎は予後不良とされているが,早期診断の上,PEとステロイドの併用療法により予後を改善させ得ると考えられる.
著者
山本 毅雄
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, 1978-06-15
著者
山本 毅士
出版者
大阪大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

本研究課題ではオートファジー活性(フラックス)に焦点を絞り、フラックス異常を認める腎疾患の病態解明、またフラックス異常を是正する遺伝子改変マウス作成と治療薬の探索を行い、その疾患抵抗性を検証した。結果、(1)in vivoオートファジーフラックス評価方法を確立し、腎老化や肥満におけるフラックス調節異常を明らかにした。(2)オートファジー阻害因子Rubiconをノックアウトしオートファジー亢進モデルを作成した。このマウスは確かにオートファジーが亢進し腎疾患ストレスに抵抗性であった。(3)あるオートファジー活性化薬(EPA)に着目し肥満マウスに投薬したところフラックス異常是正と腎保護効果を認めた。
著者
高橋 久美 山本 毅雄
雑誌
情報処理学会研究報告情報システムと社会環境(IS)
巻号頁・発行日
vol.1993, no.23, pp.17-23, 1993-03-16

パターン・マッチング技術を利用する新しい図書館システムを提案した。図書を適当なサイズ(例えば100?200冊)のブロックに分け、背表紙にカラーコードのラベルを張ってこのブロックへの所属を表す。ブロックは同一の書架にまとめて置くが、ブロックの書庫内での配置、ブロック内での各図書の配置は任意である。ワークステーションによって制御されるビデオカメラで各書架の画像を得、カラーラベルと前もって作成してある画像目録を用いて、システムは常時、各図書の位置を把握している。利用者の検索に対して、書庫内での所属ブロックの位置が知らせるばかりでなく、書架に設置してある位置マーカがグループ内での求める位置を指示する。A new library system using pattern matching technology is proposed. Books in the library are classified into blocks of 100-200 each. A color-coded label on the back of a book specifies the block it belongs to. The arrangment of blocks in the library as well as that of books in a block can be arbitrary. Video cameras controlled by workstations monitor all the shelves. The image of each book is obtained and matched with the "image catalog" to identify the book. The system thus knows the position of each book in the library. The user may be directed to the book by a marker light attached to the shelf.
著者
長崎 二三夫 山本 毅也 北方 健作 脇坂 昇
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.5-16, 2014-04-25 (Released:2017-08-10)

はじめに オオムラサキは,最も大きなタテハチョウの1種であり,日本,朝鮮,中国,台湾等に分布している.通常年1化で,幼虫越冬をする.翅表は黒褐色を基調に,♂は翅表の基部を広く紫色が被い,♀では紫色を欠く.日本のオオムラサキの♂の翅表については,紫色が少し薄い北海道から黒みを帯びる九州まで,微妙な地方変異が知られている.海外に目を転じると,台湾において青く輝くオオムラサキが知られており,また最近,長野県産の輝きの強い個体が提示されており(小舘,2009),これも青いオオムラサキの1型である可能性が高い.著者の一人は大分県北部から1頭の青みを帯びた輝きの強い♂を飼育により得ている.そんななかで滋賀県の同好者の間で(ブルー)と呼ばれているオオムラサキの存在を聞くに及んだ.同産地の越冬幼虫をたまたま累代飼育していたところ,青いオオムラサキの出現を記録し,遺伝形式を解明すべく累代実験を行うこととした.最初の越冬幼虫は,2005年に滋賀県の鈴鹿山地より得たものである.飼育はそれぞれの著者の庭に植えてあるエノキを用い,ナイロンネットの袋掛けを行い,越冬幼虫を4月のエノキの芽吹きに合わせて放ち行った.成虫の羽化後♂は約10日経ち成熟してから,♀は羽化後2日目から7日目までを交配に用いた.交配はハンドペアリング法で行った.採卵はエノキの袋掛けネット内で行った.12月上旬に越冬幼虫が木を降りる頃を見計らい回収し,土を入れた植木鉢に保管した.2005年12月に野外採集で得られた越冬幼虫からF2世代まで3世代累代して青い異常個体を得,その後出現した青い異常型個体から世代を重ねて純系作成を試みた.内交配を繰り返し,得られる翅色彩についてすべての組み合わせによるペアリングをして,純系の作成を目指した.一腹から得られた次世代の全個体が青色異常型となった後には,純系であることの確認のために純系個体同士の交配を行った.青い異常型が出現する遺伝形式を見極めるために,青純系と新たに野外から得た幼虫より羽化した正常型との間で交配実験を計画した.2010年原産地より5km離れた地点から得た30頭の正常型と青純系の2頭の♂,2頭の♀との間で4組の交配を行った.飼育結果 1.青い異常型個体の出現 Table 1の通り,2005年12月採集の同一産地に由来する正常型の1♂1♀を交配し,内交配による累代飼育の結果,2008年6月に3世代目として羽化した3頭の♂のうち2頭が青く輝く異常型であった.2.青の純系の作成の試み 累代を続けた結果,3世代後の組み合わせの一つから羽化した♂は,30頭すべてが青で,F5世代で青の純系が誕生したことが示唆された.これらが本当に純系であるかどうかの確認を行うため,純系と思われる2家族同士の交配を2011年6月から7月にかけて行った.翌年2012年6月から7月にかけて,Cross11#1,#2それぞれから38頭と91頭の青の♂のみが羽化し青の純系であることが確認された.3.青純系と野外の正常型との交配実験 前節で得られた青の純系♂と♀を,野外の正常型と交配させた.これらの4組の組み合わせから,翌年2012年6月から7月にかけて,正常型の紫の♂46頭のみが羽化した.青が1頭も羽化しなかったことより青は劣性であることが強く示唆され,羽化した♂,♀ともすべて青の遺伝子をヘテロの状態で保持していると考えられた.最後に2012年7月に上記のF6-3,4,5,6同士の間で交配を行った.すなわち青のヘテロ同士で交配を行ったことになる.2013年6月から7月にかけてCross12#1-4のそれぞれから青と紫の両方が羽化した.上記の交配に用いた両親は,いずれも青に関してはヘテロでありまた青の遺伝子は劣性と想定していたので理論的に導かれる交配の結果は次のようになるはずである.♂Aa x ♀Aa→AA+2Aa+aa→3紫+1青 ここでA:優性の紫の遺伝子 a:劣性の青の遺伝子 AA:ホモの紫 Aa:ヘテロの紫 aa:ホモの青 すなわち理論的には青対紫の分離比は1:3であり,青出現率は0.25(1/4)のはずである.そこで実験結果につき統計学的検討を行うこととした.Cross12#1-4それぞれについて理論的な分離比から仮定される青出現率(p_0)に対し実験で得られた比率(p)が有意に異なるかを正規近似を用いて検定したところ,4組ともメンデル遺伝の理論分離比で劣性遺伝すると判断された(Z検定:Cross12#1-4それぞれ|Z_0|=0.425,p=0.67;|Z_0|=0.994,p=0.32;|Z_0|=0.478,p=0.63;|Z_0|=0.266,p=0.79).考察 以上の飼育実験より青い異常型はメンデルの劣性遺伝をすることが確かめられた.飼育実験を重ねるうちに集積された標本を検討すると,青の青さにスカイブルーから比較的暗いダークブルーまで,連続した微妙なバラツキのあることに気付いた.青と正常型の決定的な違いは,青は斜めに傾けて翅表を観察すると強く金属的に輝くことである.この金属色は構造色とよばれ鱗粉の微細構造に由来するものである.正常型オオムラサキの鱗粉は大きく2種類に分けられ,そのうちの1種類が櫛状構造に外皮様のヒダが何層にも重なってついており,これが構造色を生み出しているという(Matejkov-Plskova et al.,2009).鱗粉の櫛状構造の櫛についている多数のヒダの間隔が正常型では103nmに比し青では169nmと広く,この広いことが光学的研究により,青く輝く原因となっていることが突き止められている(永井ら,2009).この間隔が169nmより少し狭いと,濃い青へ,広くなるとスカイブルーの方ヘバラツクのではないかと想像される(吉岡,私信).スギタニ型にも青い遺伝型が出現し,スギタニ型での青はギラツキ感がやや弱く,また青みが暗い傾向がある.これらの微妙な変異をまとめてFig.7からFig.38まで提示してみた.連続した変異が理解されるものと思う.青い異常型の存在は,各地でささやかれてきた.先に示した大分県をはじめとして,福岡,京都,山梨からは報告は無いものの知られており,栃木,北海道からは最近報告されている.栃木県の報告では,同一のエノキから得られた8頭の越冬幼虫より青が2頭出現しており,遺伝の関与を示唆している(瀬在,2012).北海道では2011年と2012年のオオムラサキの大発生の年に,計6頭の青い異常型が採集されたと報告しており(上野・高木,2013),それぞれの年に,500〜600頭のオオムラサキが容易に捕獲できたとのことである(高木,私信).そうであればおおざっぱであるが,青の出現率は約0.5%(6頭/600×2年)となり極めて稀であることが理解される.オオムラサキは、蝶の愛好家の間では最も人気ある蝶の一つであり,過去半世紀以上数知れぬ越冬幼虫が飼育されてきた蝶である.にもかかわらず青い異常型の報告は,上記のように最近の数例しかない.それほど稀な型ということであろう.この青い異常型は極めて稀で,分布が限られており,保護が計られねばならない.その理由で詳しい産地の公表は控えさせていただいた.その一方で保護の目的で著者たちは累代の努力を継続中である.
著者
柚木 泰彦 山本 毅 秋田木工株式会社 パラマウントベッド株式会社
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究作品集 (ISSN:13418475)
巻号頁・発行日
vol.7, no.7, pp.14-17, 2001-03-30
被引用文献数
1

曲げ木車いすは、秋田県産のブナ材を用い、主な地場産業である秋田木工(株)の曲げ木技術を活用して開発された。これからの高齢社会において、生活者のための日常生活用具に求められる要素としては、安全性や使いやすさとともに、安心感や愛着感といった情緒面への配慮が欠かせない。車椅子というと、歩行補助器具としての機能性が先行しがちであるが、本作品のコンセプトは、むくのブナ材による温もりを大切にした屋内空間における動く家具の具現化である。本研究開発では、二度にわたる試作品の製作を通して、車椅子使用者による既存車椅子との比較評価および座圧分布測定の結果からいくつかの改良を経て商品化に至った。
著者
赤司 保 竹内 真一 山本 毅 森 和行 上田 知史 河合 正昭
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. R, 信頼性 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.103, no.33, pp.17-22, 2003-04-18
被引用文献数
1

小型かつ組立容易な3次元MEMS光スイッチを開発した。光スイッチ光学系を屋根型のミラーを用いて折返し構造とすることで、従来から提案されている平板型折返しミラーを用いた構造よりも光スイッチを小型化した。また、折返しミラーの実装トレランスの解析を行い、f-θレンズのビーム偏向の原理を応用した簡易アライメント手法によって、トレランスがパッシブ実装可能なまでに拡大でき、光スイッチの簡易組立が可能となることを示した。本手法により試作した光スイッチファブリックと、高速動作可能なMEMSミラーおよび制御回路により、小型、低損失、高速切替え80チャンネルMEMS光スイッチを実現した。
著者
石田 栄美 石塚 英弘 根岸 正光 山本 毅雄
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. 情報学基礎研究会報告
巻号頁・発行日
vol.97, no.86, pp.109-116, 1997-09-11
参考文献数
12

先に発表した, 大きな分野を対象とする大量の自然語テキストデータの検索・分類のための単語リスト作成方法を詳しく検討した. 情報処理学・農芸化学・土木学などの学会予稿抄録の一部を単語リスト作成用データとし, 他を検索・分類用データとした. 単語リストの選択基準に含まれる二つのパラメタを変えて検討したが, 単語リストの大きさや内容は大きく変わるものの, 互いに離れている上記3分野間では, 分野推定の結果は安定していることがわかった. さらに, 分野に重なりのある電子情報通信学を加えて影響を調べた. また, これらの単語リストを応用して文献の分野関連度, 文献集合の分野関連度などを求める方法を示した.