著者
林 剛史 福井 健太郎 宮田 章裕 重野 寛 岡田 謙一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告グループウェアとネットワークサービス(GN) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.49, pp.43-48, 2005-05-26

本稿では、簡易脳波測定によるリアルタイムな思考状態導出手法を提案する。簡易脳波計を用いて脳波情報より思考状態を推定する際には、ノイズや脳波の個人差を考慮しなければならないため、リアルタイム処理が困難である。また、思考を時間幅のあるプロセスと捉えて過去の思考の影響を考慮している手法が従来にはみられなかった。そこで、本提案ではノイズを除去し、個人差を考慮し、時間幅を考慮することにより簡易脳波計よりリアルタイムに思考状態をMS-Levelという独自の指標で数値化する手法を提案する。そして、提案概念を検証するためにMS-Levelを導出するプロトタイプシステムを用いた評価実験ではノイズの除去が確実に行われていること、時間幅を考慮して思考状態を有効に提示できることを確認した。In this paper,we propose a technique for estimating mental states in real-time from the EEG(electroencephalogram). When we estimate mental states from brain wave information by using an EEG in real-time,it is necessary to consider the noise and the individual variability of the brain wave. Also,there seemed to be no studies to consider thinking as time-width process which is affected by the past thinkings. To address these issues,we propose a method to quantify the mental state as the MS-Level(Mental State Level) in real-time by eliminating the noise,considering of the individual variability and treating the thinking as the process with the time width. We ran experiments to evaluate our proposition using a prototype system,and concluded that the noise have been removed surely and to present the mental state effectively using past EEG data.
著者
岡田 謙介 加藤 淳子
出版者
日本行動計量学会
雑誌
行動計量学 (ISSN:03855481)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.155-166, 2016 (Released:2017-06-30)
参考文献数
74

Spatial analysis and modeling have played significant roles in the empirical analysis for political science. This paper first reviews the development and application of the spatial analysis in political cognition from methodological point of view. The emphasis is laid on the multidimensional scaling technique and its extensions. Then, one of the recent developments in special analysis, Bayesian K-INDSCAL, which is a multidimensional scaling with both individual and group differences, is applied to the Japanese expert survey data on party policies. Three latent-classes have been identified, with related but heterogeneous spatial representations. Individual differences in terms of dimensional weight have also been identified. Implications and future directions of spatial analysis in political science are discussed.
著者
岡田 謙介 星野 崇宏 繁桝 算男
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.382-392, 2007-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
34
被引用文献数
3 3

構造方程式モデリング (SEM) では柔軟なモデル構成が可能であるために, モデルの評価・選択が重要になる。統計的モデル選択において基本となる統計量に尤度比検定統計量Tがあり, SEMでもこれが漸近的にx2分布にしたがう性質を利用した検定が可能である。しかし, 標本サイズが小さいとき検定統計量Tの標本分布はx2分布から正方向に逸脱する。逸脱の度合いは1因子あたりの観測変数数が大きいとき, とくに大きくなる。通常得られる教育心理学データの標本数程度では, この逸脱のため, 適切なモデル選択が行えなくなってしまう。また, 適合度指標の大部分はx2分布にしたがうTの関数として構成されるので, Tの分布のゆがみが直接的に波及する。そこで, 我々は今回TにBartlett補正を適用し, そのx2分布への近似精度を向上させる方法を提案する。モンテカルロ実験により, 提案した方法がTの標本分布のx2分布に対する近似精度を大幅に改善していることを確認する。
著者
宮田 章裕 林 剛史 福井 健太郎 重野 寛 岡田 謙一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.906-914, 2006-03-15
参考文献数
16
被引用文献数
6

我々は,思考状態および発話停止点を利用した会議の動画ダイジェスト自動生成を提案する.映像中のシーン変化やカメラワーク,テロップを利用する従来手法では,日常的な会議映像のダイジェストを生成することは困難であった.そこで,本手法では,「思考」と「発話」という情報を利用して日常的な会議映像のダイジェストを生成する.具体的には,脳波情報を利用して思考状態をMS-Levelという独自の指標で数値化し,発話停止点を利用して素材映像から単位映像への分割を行う.そして,単位映像の中からMS-Level が高いものを抽出・連結する.プロトタイプシステムを利用した評価実験では,比較システムより的確なダイジェストを生成できることを確認した.In this paper, we propose a method to summarize movies of a conference automatically by the use of participants' mental states and speech breakpoints. Currently, many research groups have developed techniques for video summarization, but these ways are not qualified for editing conference movies. To address this issue, we propose a method to summarize conference movies by the use of participants' mental states and speech breakpoints. We define MS-Level (Mental State Level) derived from one's EEGs as an indicator of mental states. Video Segmentation is conducted by detecting speech breakpoints of participants. After segmentation, high MS-Level scenes are extracted and constitute a digest movie. We ran experiments to evaluate our proposition using a prototype system, and conclude that our proposal will contribute to a better summarization of conference movies.
著者
高津 良介 牧 宥作 井上 智雄 岡田 謙一
雑誌
情報処理学会論文誌デジタルコンテンツ(DCON) (ISSN:21878897)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.19-25, 2016-02-18

オーケストラをはじめとした複数人での演奏を支援する研究が広く行われている.その中で,演奏の中心となる指揮者が不在な環境に焦点を当てて,図形やコンピュータグラフィクスによる人型モデルなどによる仮想指揮者を用いて支援する研究が存在する.しかし,これらの研究では演奏者全体に向けた簡易な指揮しか行えないことから,演奏者に十分な指示ができないという問題があった.我々はこの問題を解決する新たなアプローチとして,演奏者のパートや役割に応じて個別に指揮する仮想指揮者を用いた合奏支援を提案する.これにより,各パートの演奏者に詳細な指示を行うことができるようになり,指揮者不在の環境において演奏者にとって演奏しやすい指揮環境を構築することが期待できる.実験により,本提案を演奏で使用した際の影響を評価した.
著者
寺本 邦夫 大木 直人 阿部 圭一 内田 美喜子 岡田 謙一 松下 温
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.50, pp.327-328, 1995-03-15
被引用文献数
1

マルチメディアという言葉が一般に広く用いられるようになってずいぶんと時間が経過している.マルチメディアは,"マルチ+メディア"という言葉の通り,画像,音声,文字など複数のメディアを統合して処理できる環境として脚光を浴びており,現在では,ごく当たり前のように様々な分野で用いられている.しかし,マルチメディアは,これら複数のメディアがあってこそ意味がある場合が多い.したがって,これらのメディアのうち一つでも欠けてしまうと不快感を生じてしまうこともある.音の出なくなったテレビがよい例であろう.その他に人為的なミス,例えば,ビデオ撮影の際の音声や映像の取り忘れなど様々考えることは容易である.このようなマルチメディア情報の内,1個または数個のメディアが欠如している時,他のメディアから欠如しているメディアを創出する事を"メディアの補完"と呼ぶことにする.著者らはメディアの補完の中でも「画像」から「音声」への補完に注目した.ここでいう「音声」とは,人間のコミュニケーション手段である会話だけでなく,波の音や風の音,昆虫の鳴き声など「文字」で正確に表現するのが困難な「音」を指す.また,今回取り扱う画像は風景画や風景写真に限定し,それに対応する「音風景」を補完する音検索システムOKeS(仮称)を構築した.音風景とは英語のSoundscapeに因んで名付けた言葉で,臨場感のある音場で構成された空間である.
著者
本田 新九郎 富岡 展也 木村 尚亮 大澤 隆治 岡田 謙一 松下 温
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.1472-1483, 1998-05-15
被引用文献数
17

本稿では,3次元返想空間を利用した在宅勤務環境を提供する仮想オフィスシステムValentineについて述べる.Valentineは,地理的に分散したユーザをネットワーク上に仮想的に構築したオフィスに出勤させ,そこで他のメンバの雰囲気・気配を伝達し,コミュニケーションを支援するシステムである.物理的なオフィスは存在せず,ユーザはすべて仮想オフィスに通うことを想定している.遠隔地にいる他の社員の気配を伝達するために,「周辺視ビュー」および「効果音」を実現し,アウェアネスの提供を行った.またアウェアネスの過度な提供が効率的な個人作業の妨げとなることから,ユーザの「集中度」を定義し,集中度に応じたアウェアネス提供環境を実現した.集中度は「キーボード,マウスの利用頻度」「椅子を動かす頻度」という2つの要素からシステムで自動検出され,作業環境に反映される.評価実験を行った結果,気配の伝達および集中度に応じた環境の提供について,良好な結果を得た.In this paper,we describe a virtual office system named Valentine that provides a "work-at-home" environment based on 3D virtual space.Users can go to the virtual office built on network virtually,feel the existence of each other,and communicate with each other by using Valentine.We assume that we have no physical office and all members go to the virtual office.In order to transmit the feeling of other members' presence at the virtual office,we have realized "Around View" and "Sound Effect" for supporting awareness in Valentine.On the other hand,for avoiding too much awareness information that bothers workers,we have defined "degree of concentration" and provided appropriate office environment to workers according to their state.The degree of concentration is automatically detected from two elements "the frequency of key stroke and mouse use" and "the frequency of rotating a chair".The system evaluation demonstrated that we have gained a better result on transmitting the presence and providing an environment according to the degree of concentration.
著者
中村 亮太 井上 亮文 市村 哲 岡田 謙一 松下 温
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.172-180, 2006-01-15
参考文献数
24
被引用文献数
3

近年,大学などの教育機関では,学習用コンテンツとして講師映像と講義資料を組み合わせたものが制作されているが,単調な表示方法であるため学習者を飽きさせてしまうという問題がある.そこで本稿では,学習者にとって飽きにくい講義コンテンツを自動的に作成することができるシステム「MINO: Multimedia system an Instructor needs Not Operate」を提案する.著者らは映像の単調さを改善するために,誘目性(目が惹き付けられる)に着目し,画面に並列表示された講師映像と講義資料の表示サイズを交互に拡大縮小することで提示映像のスイッチングを行い,講義資料中の重要語句(講師の発話と一致した語句)を誘目性の高い表示へ変換することが自動的にできるシステムの開発を行った.MINO では,音声認識によりテキスト化した講師の発話情報と講義資料内の文字列とをマッチングさせることで重要語句の特定とともに,映像の切替えタイミングとフォントの変換タイミングを自動的に決定することができる.評価実験の結果,本提案手法は従来の提示方法に比べ,学習者を飽きさせないという評価を得ることができた.本稿では従来の提示方法について分析した結果を示し,開発したシステムの設計,実装,評価について述べる.Recently, e-learning contents that combine the speaker video with supporting materials are produced in educational institutions such as universities. However, there is a problem that those systems make learners become tired because produced contents are monotonous. In this paper, we propose the system "MINO: Multimedia system an Instructor needs Not Operate" that can automatically edit the recorded speaker video and supporting materials. MINO allows users to automatically convert words in the supporting materials into conspicuous ones according to the utterance of the speaker. We used speech recognition to convert voice of lecturer into character string. Their data are matched up words into the supporting materials so that speaker video is synchronized with supporting materials. Through evaluations of the system, we verified the effectiveness of our system.
著者
大槻 明 岡田 謙一
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.350-361, 2011-09-27 (Released:2011-12-13)
参考文献数
17

本研究では,筆者らが提案している知識を構造的に俯瞰表現する「構造化俯瞰図」をさらに発展し,同図を構成する各知識に属性情報や叙述を付与し,それら属性情報等を含めた知識同士の関係性を意味付けしたうえで俯瞰マップを作成するCosut(Concept Support Tool)について提案する.Cosutを使用することにより,当該知識群のさらなる整理や分析を実現することが可能となる.つまり,企業における新商品開発や課題解決時,さらには研究機関における新理論の検討時など,様々な場面における知識の有効活用に資することができるものと考える.評価実験では,構造化俯瞰図を使用した場合に比べた定量的分析及び概念構造の変化を分析した.その結果,仮説をまとめるためのアイディアの量的な増加傾向が確認され,さらには,Cosutが被験者の概念構造に直接影響を与えた部分を把握することが可能になるなどの発想支援的な効果が認められた.
著者
大槻 明 岡田 謙一
出版者
Japan Society of Information and Knowledge
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.350-361, 2011-09-27

本研究では,筆者らが提案している知識を構造的に俯瞰表現する「構造化俯瞰図」をさらに発展し,同図を構成する各知識に属性情報や叙述を付与し,それら属性情報等を含めた知識同士の関係性を意味付けしたうえで俯瞰マップを作成するCosut(Concept Support Tool)について提案する.Cosutを使用することにより,当該知識群のさらなる整理や分析を実現することが可能となる.つまり,企業における新商品開発や課題解決時,さらには研究機関における新理論の検討時など,様々な場面における知識の有効活用に資することができるものと考える.評価実験では,構造化俯瞰図を使用した場合に比べた定量的分析及び概念構造の変化を分析した.その結果,仮説をまとめるためのアイディアの量的な増加傾向が確認され,さらには,Cosutが被験者の概念構造に直接影響を与えた部分を把握することが可能になるなどの発想支援的な効果が認められた.
著者
北條 大樹 岡田 謙介
出版者
日本行動計量学会
雑誌
行動計量学 (ISSN:03855481)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.13-25, 2018 (Released:2018-11-03)
参考文献数
34
被引用文献数
1

This study conducts a data-driven classification of the response styles for the 2,131 respondents of the SHARE (Survey of Health, Ageing and Retirement in Europe) survey. In the standard Likert scale measurement, item responses reflect not only the latent traits of respondents but also their response style biases which are irrelevant for the purpose of the original measurement. The anchoring vignettes is an effective method to measure and correct for such biases. In this study, we first modeled the anchoring vignettes variables in the SHARE dataset using the Bayesian multidimensional item response model. Then, we classified the estimated individual response style parameters using the divisive analysis clustering. As a result, seven different clusters of response styles were obtained. While some of them correspond to the well-documented response styles, many of the clusters of respondents exhibit unique response styles which are both interpretable and relevant. Thus, bottom-up classification approach of response styles would undertake a key role in revealing the empirical analysis of item response behavior.
著者
井上 智雄 岡田 謙一 松下 温
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.37, no.11, pp.2095-2104, 1996-11-15
参考文献数
23
被引用文献数
28

本論文ではTV会議システムの映像を演出することを提案する. TV会議システムの使用で報告されている様々な問題を解決するためには システムの主たる要素である映像情報の用い方が問題であり 特にこれまでにあまり研究されていない 参加者の映像の表示方法が重要であると考えた. 映像の理論によれば 映像の適当な切り替えが必要であるため TV会議システムに適した映像表現方法を得るために テレビ討論番組の映像手法を分析した. そして そこから得た知識を利用した 多人数遠隔TV会議システムを作成した. さらに このシステムと従来の固定カメラの会議システムとの比較実験を行い 良好な結果を得た.Designing the video of a videoconferencing system is presented. The authors put an importance on the utilization of video, which is one of the essentials of a videoconferencing system, and assumed that how to present the pictures of participants was the key to solve the problems which have been reported and improve videoconferencing. The video technique on TV debate programs was studied to obtain an appropriate way of presenting video. Then the videoconferencing system that uses the video technique was developed. The system was evaluated highly in a comparative experiment with a conventional fixed video camera system.
著者
藤巻 貴宏 重野 寛 清松 和明 〓 衛東 大森 博雄 岡田 謙一 松下 温
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.535-536, 1997-03-12

モーバイル・コンピューティング環境において, ユーザは, 携帯型計算機や自宅のマシンから, 会社や学校の計算機にアクセスすることが考えられる. この際, 無線通信を使用することにより生じる通信中の回線の切断・接続不可能な状況などの問題点を解決するため, 我々は, MC^2Platform を構築した. しかしながら, 実際にはファイアウォールにより, どこからでもあらゆるネットワークにアクセスできるわけではない. そこで本稿では, ファイアウォールの存在を考慮した上で, どこからでもファイルを利用できるような, 新しいモーバイル・コンピューテイング環境を構築した. また, この環境上で動作する新しいモーバイル・アプリケーション, 宅配便エージェントを構築した.
著者
清松 和明 重野 寛 兪 衛東 岡田 謙一 松下 温
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.367-368, 1996-09-04
被引用文献数
1

小型の計算機を持ち運び,移動体通信網を利用して計算機ネットワークに接続して使用するといったモーバイルコンピューティングが可能となってきた.モーバイル・コンピューティング環境を実現するには,回線の切断,接続不可能な状態,ユーザの使用するマシンの変化などを考慮する必要がある.現在のモーバイルコンピューティング環境では,有線ネットワーク上で実表されていたアプリケーションを携帯型計算機上で使用することが主流である.しかしこれらのアプリケーションは,上記のような特徴は考慮されていない. そこで,本稿では,これらのモーバイル・コンピューティングの特徴を考慮し,ユーザに代わって処理を行なうエージェントを提案しこのエージェントをMCプラットフォームで動作させた場合について述べる.
著者
波田野 結花 吉田 弘道 岡田 謙介
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.151-161, 2015
被引用文献数
5

これまでの心理学データ分析では, 概して統計的仮説検定の結果は報告されるが, 効果量の報告や議論は軽視されがちであった。しかし近年の統計改革の中で, 効果量を活用することの重要性が再認識されている。そこで本研究では, 過去4年間に 『教育心理学研究』誌に掲載された論文中で報告された仮説検定について, 論文中の情報から対応する効果量の値を算出し, 検定における<i>p</i>値と効果量との間の関係を網羅的に調べた。分析対象は, 独立な2群の<i>t</i>検定, 対応のある2群の<i>t</i>検定, 1要因および2要因の被験者間分散分析における<i>F</i>検定であった。分析の結果, いずれの場合においても報告された<i>p</i>値と効果量の相関係数は-0.6~-0.4であり, 両者の間には大まかな対応関係が見られた。一方で, 検定結果が有意であるにもかかわらず小さな効果量しか得られていない研究も決して少なくないことが確認された。こうした研究は概ね標本サイズが大きいため, 仮説検定の枠組みの中では検定力分析の必要性が考えられる。また仮説検定の枠組みに留まらず, メタ分析によって関心下の変数ごとに効果量の知見を蓄積することや, ベイズ統計学に基づく新たな方法論などが今後の方向性として考えられる。