著者
建内 宏重 白鳥 早樹子 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0568, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】腸脛靭帯炎は,ランナーや変形性膝関節症患者において頻度が高く,大腿骨外側上顆部での腸脛靭帯(ITB)による圧迫や摩擦により生じるため,ITBの硬度が高いことが腸脛靭帯炎の直接的な原因と考えられる。したがって,ITBの硬度に影響を与える要因を明確にすることは,腸脛靭帯炎の評価・治療において重要である。しかし,現在までITBの硬度を測定した報告は存在しないため,ITBの硬度に影響を与える要因も明らかではない。ITBの硬度を変化させる要因としては,主に股内外転角度や股内外転モーメント,股外転筋群の筋活動の変化などが考えられる。本研究では,近年開発された,生体組織の硬度を非侵襲的に測定できるせん断波エラストグラフィーを用いて,股関節の角度およびモーメント,股外転筋群の筋活動の変化がITBの硬度に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常者14名(男性7名,女性7名:平均年齢22.0歳)とした。課題は,骨盤,体幹ともに3平面で中間位の片脚立位(N),下肢挙上側の骨盤を前額面で10°下制させ体幹は中間位にした片脚立位(Pdrop),Pdropの肢位で体幹も下肢挙上側へ傾斜させた片脚立位(PTdrop),下肢挙上側の骨盤を前額面で10°挙上し体幹は中間位にした片脚立位(Prise),Priseの肢位で体幹も支持脚側へ傾斜させた片脚立位(PTrise)の5条件とした。ITB硬度(弾性率)の測定には,超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用いた。測定部位は膝蓋骨上縁の高位とし,5秒間姿勢を保持し超音波画像が安定してから記録した。また同時に,3次元動作解析装置(Vicon motion systems社製)と床反力計(Kistler社製)を用いて,各条件の股内外転角度・モーメント(内的)を測定した。加えて,ITBと解剖学的に連続する大殿筋(上部線維),中殿筋,大腿筋膜張筋(TFL),外側広筋の筋活動量を表面筋電計(Noraxon社製)により記録した。筋電図は,各筋の最大等尺性収縮時の値で正規化した。各条件の測定順は無作為とし,各々2回ずつ測定を行った。超音波画像でのITB硬度の測定は,ITB部に関心領域を3か所設定し,それらの部位の弾性率の平均値を求めた。なお,この測定は,実験後に条件が盲検化された状態で一名の検者が行った。ITBの硬度,筋活動量,股角度とモーメント各々について2試行の平均値を解析に用いた。各条件間の比較をWilcoxon符号付順位検定とShaffer法を用いた補正により行い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】所属施設の倫理委員会の承認を得たのち,対象者には本研究の主旨を書面及び口頭で説明し,参加への同意を書面で得た。【結果】股外転角度は,N(0.2°;中央値)に対してPdrop,PTdropで有意に内転位(-7.5°,-8.7°),Prise,PTriseで有意に外転位(11.0°,11.4°)であった。PdropとPTdrop間,PriseとPTrise間には有意差はなかった。ITB硬度は,N(10.7 kPa;中央値)に対してPTdrop(13.2 kPa)では有意に増加し,PTrise(8.1 kPa)では有意に減少したが,Nに対してPdrop(11.8 kPa)とPrise(8.7 kPa)では有意差を認めなかった。また,ITB硬度はPdropよりPTdropで有意に増加し,PdropよりもPriseで有意に減少した。股外転モーメントは,NよりもPTdropで増加,PTriseで減少し,Pdrop,Priseでは有意な差を認めなかった。さらに股外転モーメントは,PdropよりもPTdropで有意に増加し,PriseよりもPTriseで有意に減少した。筋活動における有意差として,大殿筋はPriseで他条件よりも増加し,中殿筋とTFLはNよりもPdrop,PTdropで減少,Priseで増加し,外側広筋はNに対してPriseで増加した。【考察】ITB硬度はPTdropで最も増加した。PTdropはNよりも中殿筋やTFLの筋活動量が減少したが股内転角度は増大しており,外転筋群の筋活動量よりも股関節角度の影響を強く受けたと考えられる。しかし,PdropはPTdropと股内転角度は同じでもNと比べてITB硬度の有意な増加は認めなかった。PTdropとPdrop間では,筋活動量に差がないもののPTdropの方が股外転モーメントは増加しており,股関節角度だけでなくモーメント変化もITB硬度に重要な影響を与えることが示された。【理学療法学研究としての意義】本研究により,ITB硬度が増加しやすい姿勢とともに硬度に影響を与える要因が明らかとなった。本研究は,腸脛靭帯炎の評価・治療に関して意義のある研究であると考える。
著者
近藤 勇太 建内 宏重 水上 優 坪山 直生 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0406, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腸腰筋は股関節屈曲の主動作筋だが,下肢疾患患者では特異的に筋機能が低下することが多く,選択的トレーニングが求められる。これまで選択的トレーニングに関する研究は運動方向に関しての検討が主だったが,他関節において,負荷量を上げた際に各筋の筋活動は一様に増加しないという報告がある。股関節も同様の傾向があると考えられ,選択的な腸腰筋のトレーニング法を検討するには運動方向だけでなく,股関節屈曲トルク増加に伴う各股関節屈筋の筋活動の変化も検討する必要がある。また近年,表面筋電図で腸腰筋の筋活動が測定可能との報告があり,非侵襲的に筋活動の測定が可能となった。本研究の目的は,股関節屈曲トルク増加に伴い各股関節屈筋の筋活動・筋活動比がどのように変化するか明らかにすることである。【方法】対象は健常成人男性17名とした。課題は等尺性股関節屈曲運動とし,測定肢位は両膝より遠位をベッドから下垂した背臥位とした(股関節内外転・内外旋中間位)。測定筋は利き脚の腸腰筋(IL)・大腿直筋(RF)・大腿筋膜張筋(TFL)・縫工筋(SA)・長内転筋(AL)の5筋とした。ILの電極貼付部位は鼠径靭帯の遠位3cmとし,超音波診断装置(フクダ電子製)で筋腹の位置を確認し電極を貼付した(電極間距離12mm)。筋活動の測定は筋電図計測装置(Noraxon社製)を用いた。各筋の最大筋活動を測定した後,大腿遠位に徒手筋力計(酒井医療製)を設置し,ベルトで大腿を含め固定した。最初に最大股関節屈曲トルクを測定し,その10%,20%,30%,40%,50%MVCを発揮した際の3秒間の各筋の筋活動を記録した。各筋の3試行の平均筋活動を最大筋活動で正規化した値(%筋活動)と,各筋の%筋活動を5筋の%筋活動の総和で除した筋活動比を解析に用いた。統計解析は,一元配置分散分析およびBonferroni法を用いて10%,20%,30%,40%,50%MVCでのトルク発揮時の各筋の筋活動と筋活動比を比較した。【結果】IL・TFLの%筋活動は10%(25.0・9.3:平均値)に対し20%(31.5・12.4),20%に対し30%(37.4・16.1)で有意に増加したが,30%と40%(43.5・19.4),40%と50%(48.9・22.6)は有意差が無かった。一方RFは10%(6.5)に対し20%(10.6),20%に対し30%(17.0),30%に対し40%(22.6)で有意に増加したが,40%と50%(25.4)は有意差が無かった。SA・ALは50%まで有意に%筋活動が増加した。またILの筋活動比は10%(0.37)が20%(0.32)以外と比べ有意に高値となり,20%が30%(0.30)以外と比べ有意に高値となった。RF・TFL・SAの筋活動比には有意差が無く,ALは10%(0.11)がそれ以外と比べ有意に低値となった。【結論】本研究の結果,股関節屈曲トルクが低負荷から中等度の負荷まで増加する場合,SAやALは線形に筋活動が増加するが,ILやTFLは比較的低負荷の範囲しか筋活動が増加せず,またILの筋活動比は低負荷であるほど高い値を示した。本研究結果は,腸腰筋トレーニングを実施する際に有用な知見である。
著者
齊田 高介 大塚 直輝 小山 優美子 西村 里穂 長谷川 聡 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101218, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 膝前十字靭帯(以下ACL)損傷は着地やカッティング動作時のknee-in(膝外反)で発生することが多く,この受傷起点には股関節外転筋力の低下が関係していると言われている。またACL損傷は試合の終盤に発生することが多く,疲労がACL損傷の一要因であると考えられている。これらのことから疲労による外転筋の筋力低下がACL損傷に繋がる可能性があると考え,我々は股関節外転の主動作筋である中殿筋に注目した。しかし,これまでの所,中殿筋単独の疲労が動作に及ぼす影響を調査した研究はなく,中殿筋の疲労とACL損傷リスクとの関連は不明である。そこで本研究では,骨格筋電気刺激(以下EMS)装置を用いて中殿筋を選択的に疲労させ,その前後での片脚着地動作の変化を調査した。本研究の目的は,中殿筋の選択的な疲労が片脚着地動作に及ぼす影響を検討することである。【方法】 対象は健常男性8名(年齢20.9±1.9歳)とし,利き脚(ボールを蹴る脚と定義)側を測定肢とした。まず疲労課題としてEMS装置(ホーマーイオン社製,AUTO TENS PRO)を用い,最初の10分間は痛みを感じない強度で,その後の20分間は耐えられうる最大強度で中殿筋に対して電気刺激を実施した。中殿筋の選択的な筋力低下を確認するために,最大等尺性随意収縮(以下MVC)時の股関節外転・屈曲・伸展筋力をEMS前後で測定した。筋力測定には徒手筋力計(酒井医療製,mobie)を用いた。動作課題として30cm台からの利き脚片脚による着地動作を行った。疲労課題の前後で動作課題を3試行ずつ計測し,三次元動作解析装置(VICON社製)と床反力計(KISTLER社製),表面筋電図(Noraxon社製,TeleMyo2400)を用い,運動学的・運動力学的データと筋電図学的データを収集した。筋電図は外側・内側広筋,大腿直筋,外側・内側ハムストリングス,大腿筋膜張筋,大殿筋,中殿筋に貼付した。解析では,着地動作中の利き脚の矢状面,前額面における股・膝・足関節角度および外的関節モーメント,動作中の床反力の鉛直成分を算出した。筋電図は50msec毎の二乗平均平方根を算出し,MVC時の値で正規化した。筋電図の解析区間は着地の前後50msec,50~100msecの4区間とし各区間の平均値を求めた。各関節角度,外的関節モーメントの解析には着地時点,床反力最大時点,最大膝関節屈曲時点での値を用いた。床反力鉛直成分と股関節外転筋力の解析には最大値を用いた。各パラメータは3回の試行における平均値を算出した。統計学的処理では,疲労前後での運動学的・運動力学的データ,筋力データを対応のあるt検定,筋電図データをWilcoxonの順位和検定で比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,実験の目的および内容を口頭,書面にて説明し,研究参加への同意を得た。【結果】 EMS後に股関節外転筋力は有意に減少(p<0.05)したが,股関節屈曲・伸展筋力に有意な変化は認められなかった。着地時点では股関節屈曲角度(p<0.05)および膝関節屈曲角度(p<0.01)が有意に増加した。床反力最大時に股関節屈曲モーメント(p<0.05),股関節内転角度(p<0.05)および膝関節屈曲角度(p<0.01)が有意に増加した。最大膝関節屈曲時点では股関節屈曲角度(p<0.01)および膝関節屈曲角度(p<0.01)が有意に増加した。床反力鉛直方向の最大値は有意に増加(p<0.05)した。他の関節モーメントおよび関節角度,筋電図データに有意な変化は認められなかった。 また,有意な差は認められなかったが着地時点の股関節内転角度(効果量r=0.65),床反力最大時点の股関節屈曲角度(効果量r=0.61)および膝関節外反角度(効果量r=0.64)で効果量大が示された。【考察】 疲労課題前後における筋電図データに有意な差はみられなかったが,筋力が有意に低下していることから,股関節外転筋をEMSにより選択的に疲労させられたと考える。疲労課題後の床反力最大時点での股関節内転角度の増加は,中殿筋の筋疲労のため床反力最大時に反対側の骨盤が下降したと考えられる。また有意な差はなかったものの,床反力最大時点の膝関節外反角度の増加は効果量大であり,中殿筋の筋疲労によって股関節が内転し,膝関節が外反方向に誘導されたと考える。 本研究の結果より中殿筋の筋疲労は片脚着地動作時のknee-inを誘導し,ACL損傷のリスクを高める可能性があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果より,中殿筋の選択的な疲労によって着地時のACL損傷リスクが高まる可能性があることが示唆された。これはACL損傷の発生機序を解明する一助となると考えられる。
著者
荒木 浩二郎 池添 冬芽 田中 浩基 簗瀬 康 森下 勝行 中尾 彩佳 磯野 凌 神谷 碧 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1306, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】筋力トレーニング直後に生じる筋厚の増加(筋腫張)は血流増加,血管透過性亢進による組織間液増加に起因し,筋肥大に必要な低酸素状態や代謝物蓄積の程度を反映すると考えられている。我々は高齢者を対象に最大等尺性筋力の10%の負荷での膝関節伸展運動を10回1セットとして5セット実施した結果,1~2セット後には筋腫脹がみられず,3セット以降から筋腫脹が生じることを報告した(第2回基礎理学療法学会,2015)。筋腫張は筋肥大を引き起こす重要な要素とされているが,筋腫脹が生じる最低限の運動量でトレーニング介入をした場合に筋肥大効果が得られるかは明らかではない。そこで本研究では高齢者を対象に,最大等尺性筋力の10%の負荷で筋腫張が生じる最低限の運動量を用いて12週間の低強度筋力トレーニング介入を実施し,介入効果が得られるか検討した。【方法】対象は健常高齢者26名(男性3名,女性23名,年齢75.0±4.2歳)とし,介入群13人,対照群13人にランダムに割り付けた。介入群のみ週3回(1回監視下運動,2回自主練習),12週間の低強度膝伸展筋力トレーニングを実施した。運動負荷として,椅子坐位,膝関節90°屈曲位で測定した最大等尺性筋力の10%の重錘を用いた。膝関節屈曲90°から0°の範囲での膝関節伸展運動(求心相3秒,保持3秒,遠心相3秒)を10回1セットとし,3セット行なった。セット間の休息は1分とした。介入前後に筋力,筋厚を測定した。筋力の測定には筋力計(OG技研製マスキュレーターGT30)を用いて椅子坐位,膝関節30,60,90°屈曲位で最大等尺性膝関節伸展筋力を測定した。筋厚の測定には超音波診断装置(フクダ電子社製)を用いて,背臥位,膝伸展位で大腿直筋(RF),中間広筋(VI),外側広筋(VL),内側広筋(VM)の筋厚を測定した。測定部位はRF,VIが上前腸骨棘(ASIS)~膝蓋骨上縁の50%,VLが大転子~大腿骨外側上顆の50%,VMがASIS~膝蓋骨上縁の80%の高さの5cm内側とした。超音波画像は各筋2枚撮影し,平均値を解析に用いた。統計解析は群と時期を2要因とした分割プロットデザインによる分散分析を行なった。なお,有意水準は5%とした。【結果】12週介入後の測定が可能だった介入群12名(男性2名,女性10名,年齢75.9±4.0歳),対照群10名(男性1名,女性9名,年齢73.7±3.3歳)を解析対象とした。低強度筋力トレーニングにおいて用いた重錘の重さは2.2±0.7kgであった。分散分析の結果,すべての膝関節角度の膝関節伸展筋力において交互作用を認めなかった。また大腿四頭筋各筋の筋厚も交互作用を認めなかった。【結論】本研究では先行研究によって明らかとなった最大等尺性筋力の10%の負荷で筋腫脹を生じさせる運動量(セット数)を用いて12週間の低強度筋力トレーニング介入を行っても筋力増強,筋肥大効果は得られないことが示唆された。低強度筋力トレーニングでも効果を得るためには運動量を増やす必要があると考えられる。
著者
岡 久雄 北脇 知己 岡本 基 市橋 則明 吉田 正樹
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.219-230, 2012 (Released:2017-02-15)
参考文献数
27
被引用文献数
4

骨格筋の収縮機能を評価するには, 生化学的検査や画像診断の他に筋電位信号がよく用いられるが, これは筋を収縮させる入力側の信号である。筋音信号は筋収縮に伴う振動, すなわち出力側の信号であるので, 両者を計測・比較することによって筋の収縮様相を正しく評価できると考えられる。筋疲労や筋力トレーニングを行ったときの変位筋音信号を測定したところ, 速筋線維の寄与率変化が示唆された。さらに変位筋音信号を簡便に測定するために, フォトリフレクタを応用した小型・軽量の変位筋音センサを開発した。本センサはエルゴメータ運動やトレッドミル歩行中でも筋音信号の測定が可能で, 単収縮波形を算出することができた。
著者
西村 純 市橋 則明 日下部 虎夫 奥田 良樹
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.C0297-C0297, 2006

【目的】ラグビーは短距離走を繰り返す競技であり、ハムストリングスに大きな負荷が生じるため、肉離れの発生頻度は高い。その主原因は膝屈曲筋力低下、膝屈伸筋力のバランス不良、すなわち伸展筋力に対して屈曲筋力が低い、あるいは膝屈曲筋力の左右差が大きくなると発生率が高くなるとされている。本研究の目的は、肉離れを生じたラグビー選手の運動能力・膝関節屈伸筋力・下肢柔軟性に他の選手との違いがあるかを明らかにすることである。<BR>【対象および方法】対象はラグビー部(関西大学Bリーグ)に所属する男子学生22名(平均年齢20.2±1.1歳、身長171.9±5.3cm、体重72.8±7.7kg)とした。体力測定として筋力測定、運動能力テスト、長坐体前屈テストを行い、さらに測定後の1年間での肉離れの発生の有無を追跡調査した。筋力測定には等速性筋力評価訓練装置MYORET(川崎重工業株式会社製RZ450)を用い、角速度60、180、300deg/secでの等速性膝屈伸筋力を測定した。3回の膝屈伸動作の最高値をピークトルクとし、さらにトルク体重比(ピークトルク/体重)および屈曲筋力と伸展筋力の比(H/Q比)を求めた。運動能力テストは片脚垂直跳び、片脚幅跳び、片脚三段跳びの3種目とした。また、長坐体前屈を下肢柔軟性の尺度として用いた。また、アンケート調査により体力測定後の1年間で、ハムストリングスの肉離れを生じた群(St群)と生じなかった群(Con群)に分類し、膝関節屈伸筋力(ピークトルク、トルク体重比、H/Q比)、運動能力テストおよび長坐体前屈の結果を比較した。統計処理にはt検定を用い、有意水準は5%とした。<BR>【結果および考察】肉離れを生じたのは22名中6名で、ポジションはバックスが5名、フォワードが1名であった。生じなかったのは16名で、バックスが8名、フォワードが8名であった。両群間で年齢、身長、体重に差は無かった。膝屈伸筋力では、ピークトルクには有意差は認められなかったものの、60 deg/secでの屈曲トルク体重比は、St群(1.50±0.37 Nm/kg)はCon群(1.86±0.34Nm/kg)より有意に低い値を示した。また、180 deg/secでのH/Q比は、St群(0.71±0.08)はCon群(0.82±0.15)より有意に低い値を示した。St群で屈曲筋力の左右差を比較すると、受傷側と反対側との間には全ての角速度において有意差は無かった。運動能力テストでは3種目とも両群間で有意な差は認められなかった。長坐位体前屈は有意な差は認められなかったものの、St群(28.3±4.6cm)はCon群(33.5±6.5cm)に比べ低い傾向を示した。今回の結果から、肉離れを生じる選手は運動能力に大きな差はないが、膝関節屈曲筋力のトルク体重比の低下とH/Q比の低下を認めることが示唆された。
著者
佐久間 香 西村 純 大畑 光司 市橋 則明
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.263-267, 2009 (Released:2009-05-28)
参考文献数
14
被引用文献数
1

[目的]本研究の目的はドロップジャンプ(以下DJ)時の下肢の運動学的特徴とStretch-shortening cycle(以下SSC)を跳躍に利用する能力との関係を調べることである。[対象]対象は健常男性28名とした。[方法]20 cm DJ時における下肢関節角度の変化に加え,垂直跳び(以下VJ)とDJの跳躍高を測定した。DJ時の関節角度の変化より,着地直前と踏切動作時の関節角度,踏切動作時の足関節運動の切り換わりから膝関節運動の切り換わりまでの時間を算出した。VJよりDJ跳躍高が増加した群と減少した群に分類し,両群の違いを比較した。[結果]増加した群は,着地直前の足関節底屈角度が有意に少なかった。また,足関節の切り換わりから膝関節の切り換わりまでの時間が有意に長く,足関節が膝関節より早く切り換わるものが多かった。[結語]少ない足関節底屈角度での着地に加え,足関節を膝関節より早く伸展運動に切り換えるような踏切動作をとることでSSCを効率的に利用したDJを行うことができることが示唆された。
著者
池添 冬芽 浅川 康吉 島 浩人 市橋 則明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.232-238, 2007
参考文献数
38
被引用文献数
10

加齢に伴い,ヒト骨格筋においては筋張力が低下するだけでなく,筋厚,羽状角など筋の形態的特徴も変化する。近年では超音波法により簡便に筋の形態的特徴を調べたり,固有筋力を推定することが可能になったものの,高齢者を対象とした研究は少ない。本研究では大腿四頭筋の形態的特徴や筋力の加齢による変化について明らかにすること,ならびに高齢者の筋力低下に影響を及ぼす因子について検討を行うことを目的とした。超音波診断装置を用いて,外側広筋部での大腿四頭筋の筋厚および羽状角の測定を行った。また,大腿四頭筋の筋厚と大腿周径から筋横断面積の推定値を求め,さらに膝伸展筋力をこの筋横断面積で除した固有筋力指数を求めた。その結果,高齢女性では若年女性と比較して大腿筋厚や筋横断面積で約1/2,膝伸展筋力では約1/3に有意に減少することが確認された。また高齢女性において,膝伸展筋力と年齢との間に有意な相関がみられ,筋厚や筋横断面積と年齢との問には相関がみられなかった。これらのことから,大腿四頭筋では筋量よりも筋力の方が相対的に加齢による低下の程度が大きいことが示された。固有筋力指数も高齢者では若年者より有意に低い値を示し,加齢による筋力低下は筋量以外に神経性因子の変化が関与していることが推察された。さらに,高齢者の固有筋力指数は変動係数が56%と高く,筋力発揮に関わる神経性因子は,高齢者では個人差が拡大することが示唆された。
著者
小栢 進也 建内 宏重 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A2Se2029, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】筋が収縮すると関節は回転力を生み出し、筋力として発揮される。昨年我々は数学的モデルを用いて股関節の関節角度変化によるモーメントアームの変化を報告し、筋の発揮トルクが関節角度により大きく異なる可能性を示した。筋の発揮トルクはモーメントアームだけでなく、筋線維長や筋断面積などに影響を受けるとされており、本研究では股関節屈曲角度変化に伴う股関節周囲筋の屈伸トルクを数学的モデルにより検討した。【方法】股関節運動に作用する15筋を対象とし、股関節は円運動を行うとした。モーメントアームおよび筋・腱の線維長はKlein Horsmannらの筋の起始停止位置から算出した。大殿筋下部線維、大腿筋膜張筋は、起始から停止までを直線的に走行するのではなく、途中で骨や軟部組織に引っかかる走行変換点を考慮したモデルを用いた。なお、腸腰筋はGrosse らが提唱したwrapping surfaceの手法を用いた。この方法は走行変換点の骨表面を円筒状の形状ととらえて計算する方法で、筋は起始部から円筒に向かい、その周囲を回って走行を変え、停止に向かうとする。また、生理学的断面積・羽状角・筋や腱の至適長はBlemkerら、筋の長さ張力曲線はMaganarisらの報告を用いた。なお、本研究では関節運動によって、モーメントアームと筋線維長は変化するとし、生理学的断面積、羽状角は関節運動によって変化しないものとした。解剖学的肢位での起始・停止の位置から、股関節の角度に応じた起始の座標を算出した。次に、起始停止から筋の走行がわかるため、各筋のモーメントアームを求めた。このモーメントアームと筋の走行から、単位モーメント(筋が1N発揮した時の関節モーメント)を算出した。さらに筋の長さ張力曲線から想定される固有筋力、生理学的断面積、羽状角の正弦と単位モーメントとの積から各筋が発揮できる屈伸トルクを算出した。【説明と同意】本研究は数学的モデルを用いており、人を対象とした研究ではない。【結果】腸腰筋は26.3Nm(伸転20°)、23.7Nm(屈曲0°)、23.6Nm(屈曲30°)、26.1Nm(屈曲60°)の屈曲トルクを有し、伸展域と深い屈曲位で高い値を示した。一方、大腿直筋は10.5Nm(伸転20°)、18.4Nm(屈曲0°)、23.6Nm(屈曲30°)、28.1Nm(屈曲60°)であり、50°付近で最も高い屈曲トルクを有した。伸転筋に関してはハムストリングス全体で、11.2Nm(伸転20°)、42.0Nm(屈曲0°)、70.6Nm(屈曲30°)、74.2Nm(屈曲60°)と、伸展域では伸展トルクは小さいが、屈曲域になると急激にトルクは大きくなる。一方、大殿筋は20.9Nm(伸転20°)、29.3Nm(屈曲0°)、35.4Nm(屈曲30°)、29.0Nm(屈曲60°)と、ハムストリングスと比較して伸展域では大きな伸展トルクを発揮するが、屈曲位では半分以下のトルクしか持たない。また、内転筋は伸展域で屈筋、屈曲域で伸筋になる筋が多かった。【考察】腸腰筋は伸展するとモーメントアームが減少して屈曲トルクが弱くなると考えられるが、wrapping surfaceの手法を用いるとモーメントアームは増加し、筋も伸張されるため、強い発揮トルクを発生できることが判明した。一方、深い屈曲位では腸腰筋が腸骨から離れて走行変換点を持たなくなり、モーメントアームの増加により発揮トルクが増加すると考えられる。腸腰筋は走行変換点を持つことで二峰性の筋力発揮特性を持つ。これに対し、大腿直筋は主にモーメントアームが屈曲50°付近でモーメントアームが増加し、強いトルクを発揮すると思われる。また、ハムストリングは坐骨結節、大殿筋は腸骨や仙骨など骨盤上部から起始する。このため、浅い屈曲位から骨盤を後傾(股伸展)すると坐骨結節は前方へ、大殿筋起始部は後方へと移動する。よってハムストリングはモーメントアームが低下し、伸展位では大殿筋の出力が相対的に強くなると思われる。一方、内転筋群は恥骨や坐骨など骨盤の下部から起始し、大腿骨に対しほぼ平行に走行して停止部に向かう。よって、解剖学的肢位では矢状面上の作用は小さいが、骨盤を前傾(股屈曲)すると起始部は後方に移動し、筋のモーメントアームは屈曲から伸展へと変わるため、筋の作用が変化する。特に大内転筋は断面積が大きく、強い伸展トルクを発揮できると思われる。【理学療法研究としての意義】解剖学的肢位とは異なる肢位での筋の発揮トルクを検討することは、筋力評価や動作分析に有用な情報を与える。特定の関節肢位で筋力が低下している場合、どの筋がその肢位で最も発揮トルクに貢献するかがわかれば、機能が低下している筋の特定ができる。また、内転筋のように、前額面上の運動を行う際に矢状面上の作用を伴う場合、内転筋の中でもどの筋が過剰に働いているのかを検討することも可能である。このように本研究で行った数学的モデルによる筋の発揮トルク分析は、理学療法士にとって重要な筋の運動学的知見を提供するものと考える。
著者
和田 治 建内 宏重 市橋 則明
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.356-362, 2009-12-20

【目的】骨盤の矢状面アライメントが,身体回旋動作における胸郭・骨盤・脊柱回旋可動域および身体重心移動量に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は骨・関節および神経疾患のない健常成人男性17名とした。三次元動作解析装置を用いて,身体回旋動作時の胸郭・骨盤・脊柱回旋可動域および身体重心移動量(後方・側方)を求めた。開始肢位の骨盤前傾角度を自然立位(中間位),自然立位より5度前傾位(前傾位),自然立位より5度後傾位(後傾位)の3種類とし,各条件で身体回旋動作を測定し,これらの項目を比較した。【結果】身体回旋角度において,前傾位での回旋では,中間位での回旋と比較し,胸郭・骨盤・脊柱とも回旋角度は有意に低値を示した。後傾位での回旋では,中間位での回旋と比較し,胸郭・骨盤・脊柱とも回旋角度は有意に低値を示し,前傾位での回旋と比較すると,脊柱の回旋角度が有意に低値を示した。身体重心移動量は,前傾位での回旋では,中間位での回旋と比較して,後方重心移動量が有意に小さく,側方重心移動量が有意に大きい結果となった。後傾位での回旋では,中間位での回旋と比較して,後方重心移動量,側方重心移動量とも有意に小さくなった。【結論】本研究により,骨盤の矢状面アライメントは胸郭・骨盤・脊柱回旋可動域および身体重心移動量に影響を与えることが示唆された。
著者
武富 由雄 村木 敏明 市橋 則明 篠原 英記
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.113-116, 1990-03-10

バイオメーターを使用することにより, 五十肩における体幹の回旋運動に伴う肩甲胸郭結合での肩甲帯の運動に関与する菱形筋の活動変化を検討した。対象は, 筋性拘縮期にある五十肩12例と健常者12例。健常者では左右の菱形筋に明確な波形の違いがある非対称的活動パターンの変化が認められた。五十肩では健常者と同様の非対称的活動変化がみられたが, その波形は著しく低下していた。五十肩の関節可動域訓練においては, 直接に肩関節ヘアプローチするのではなく, まず体幹を回旋させ, 次に肩甲帯の protraction と retractionを惹起させることにより, 連結桿の肩甲上腕関節の水平屈曲や水平外転の関節可動域を拡大させることが示唆される。
著者
池添 冬芽 市橋 則明 羽崎 完 森永 敏博
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.59-63, 2001-03-31
被引用文献数
1

本研究の目的は, 段差昇降動作における昇降動作様式の違いおよび下腿の肢位によって, 膝周囲筋の筋活動がどのように変化するかを明らかにすることである。対象は健常女子学生18名であった。測定筋は右下肢の大腿直筋, 内側広筋, 外側広筋, 半膜様筋, 大腿二頭筋とし, 前方昇降動作と後方昇降動作をそれぞれ下腿中間位, 下腿内旋位, 下腿外旋位で行わせたときの筋電図を分析した。前方昇格および後方昇降動作の筋活動量を比較すると, 大腿直筋, 内側広筋, 外側広筋においては前方昇降動作より後方昇降動作の方が有意に大きな筋活動量を示した。また, 下腿の肢位による変化は, 内側広筋, 半膜様筋, 大腿二頭筋において認められ, 内側広筋, 大腿二頭筋では下腿外旋位, 半膜様筋では下腿内旋位で最も大きな値を示した。これらのことから, 段差昇降訓練を行う場合, 段差昇降様式の違いではハムストリングスに対する負荷は変化しないが, 大腿四頭筋に対しては, 前方昇降より後方昇降させる方が大きな負荷量が得られること, さらに内側広筋をより収縮させたい場合には下腿外旋位で段差昇降を行うことが有効であることが示唆された。