著者
平田 昌弘
出版者
食品資材研究会
雑誌
New Food Industry (ISSN:05470277)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.71-82, 2011

本稿では,北アジアの乳加工技術と乳製品を,モンゴル遊牧民の事例で紹介してみたい。著者は1999年からモンゴル国を毎年訪れ,モンゴル遊牧民と生活を共に楽しみ,そして,乳加工体系について調査してきた(写真1)。モンゴルは,モンゴルを後にする時,遊牧民の温かさ,笑顔,人情とが心に込み上げ,またモンゴルを訪ねたいときっと思わされる国だ。 モンゴル遊牧民は器具をほとんど使わずに,草原の中で家畜から乳を搾り取る。また,乳加工は,日常の調理用器具を転用しておこなっている。このような搾乳・乳加工に特化した器具をほとんど持たないモンゴル遊牧民は,草原の中でいったいどのように搾乳し,どのような乳加工技術を利用しているのであろうか。興味がわくところである。モンゴル遊牧民の乳加工の特徴は,アジア大陸北方域の人びとに広く採用されている技術を用いている。つまり,クリームをせっせと取り集め,チーズをつくるための凝固剤として酸乳そのものを用い,馬の乳で酒をつくっていることにある(平田,2008;2010)。モンゴルの乳加工体系が地域毎に多様に発達しているのは,これらの諸技術を自由に取捨選択して組み合わせているためで,実はその基本的な乳加工技術は多くの地域で共通している。本稿では,以下にモンゴル国中央部の事例をもとに,モンゴル式の搾乳の技法を先ず紹介してから,乳加工技術と乳製品とを紹介していきたい。
著者
平田 昌弘
出版者
食品資材研究会
雑誌
New Food Industry (ISSN:05470277)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.73-81, 2011

インドには,ユーラシア大陸においてインドのみにしか観られない乳加工技術がある。ライム汁(植物有機酸)を凝固剤にしてチーズを加工したり,加熱濃縮系列群の乳加工を採用したりと,大変珍しい技術が存在している。また,乳製品の菓子である乳菓にも種類が多い。鴇田の報告(1992)からも分かるように,類似した乳加工技術や乳製品がインドでは多種多様に発達している(図1)。新しい乳菓を開発しようとしている菓子職人,和食と乳製品との融合を図ろうとしている開発者には,ぜひインドを訪問されてみられるとよい。斬新なアイデアが得られることであろう。 本稿と次号Vol.53 No.7ではインドの都市と農村での事例を中心にして,乳製品の種類とその加工法,そして,利用のされ方について紹介する。インド乳製品の多様性の整理を試みるために,本稿では類型分類法として,乳のみを素材とした乳製品と添加物を付加した菓子的な乳製品とを区別するために,乳のみを原材料として加工した乳製品を「乳のみの乳製品」,乳を主な材料にし,砂糖やナッツ類などを添加して加工した菓子様乳製品を「乳菓」として区別する。「乳のみの乳製品」には,酸乳,バター,チーズ,バターオイル,バターミルク,クリームなどを含み,その製造工程は乳のみを原料とした加工技術により構成される。一方,「乳菓」を加工する工程は,「乳のみの乳製品」に添加物を付加し,乳製品を様々な菓子に加工する乳加工技術となる。本稿では,インドの複雑な乳製品の土台となる「乳のみの乳製品」について先ずは報告する。
著者
平田 昌弘
出版者
北海道共同組合通信社
雑誌
デーリィマン (ISSN:04166272)
巻号頁・発行日
vol.64, no.8, pp.62-64, 2014

ユーラシア発-乳文化へのいざない 19
著者
平田 昌弘
出版者
北海道共同組合通信社
雑誌
デーリィマン (ISSN:04166272)
巻号頁・発行日
vol.64, no.8, pp.62-64, 2014

ユーラシア発-乳文化へのいざない 19
著者
平田 昌弘
出版者
食品資材研究会
雑誌
New Food Industry (ISSN:05470277)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.65-73, 2011

前号Vol.53 No.6に引き続き,インドの都市と農村での乳製品の種類とその製造法,そして,乳製品の利用のされ方について紹介する。本稿では,乳のみの乳製品に様々な添加物を付加して加工した「乳菓」を概説する。そして,インドの乳加工体系の特徴を分析し,複雑なインドの乳加工体系の本質に迫ってみたい。
著者
平田 昌弘
出版者
光琳
雑誌
食の科学 (ISSN:02871734)
巻号頁・発行日
vol.312, pp.52-60, 2004

2004年2月号
著者
平田 昌弘 清田 麻衣
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.103-114, 2010

これまでにアジア大陸各地の乳加工体系を調査し、乳加工の起原と伝播について論考してきた。乳加工は、西アジアに起原し、乾燥地帯のアジア大陸では北方と南方に二極化していった。南方圏での乳加工の特徴は、生乳に対する最初の働きかけが酸乳化することであり、北方圏の特徴はクリームを最初に収集することである。いずれも、バター・バターオイルとして乳脂肪の分画・保存、脱脂乳を乾燥化させて乳タンパク質の分画・保存が成し遂げられている。このアジア大陸の乾燥地帯で発達した乳加工体系が、冷涼・湿潤地帯に伝播して、どのように変遷していったかを明らかにするために、先ず亜湿潤地帯のコーカサスのグルジア・アルメニアにおいて調査した。本稿では、ヨーロッパのフランス中南部の冷涼・湿潤地帯において2009年6月14日〜6月20日まで観察とインタビューにより、乳牛を飼養しながら乳加工・販売もおこなう酪農家合計4世帯を調査したのでここに報告する。
著者
平田 昌弘
出版者
食品資材研究会
雑誌
New Food Industry (ISSN:05470277)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.80-86, 2012

本シリーズではこれまでに,アジア大陸から西アジア,南アジア,北アジア,中央アジア,チベットを,ヨーロッパ大陸からはバルカン半島を事例に,乳加工技術と乳製品,そして,その利用の仕方について紹介してきた。駆け足で述べてきたこともあり,まだまだ紹介していない事例も多いのだが,それでもユーラシア大陸をぐるっと見回したことになる。このシリーズを閉じるにあたり,最後に人類が辿ってきた乳文化史について語っておきたい。シリーズ最初のVol.53 No.1(平田,2011a)で「乳文化の一元二極化説」について言及したが,これまで紹介してきた事例をまとめる意味で,改めて詳しく論じてみたい。
著者
平田 昌弘 板垣 希美 内田 健治 花田 正明 河合 正人
出版者
日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.175-190, 2013-05-25
参考文献数
28

本研究は,BC1200~BC300年頃に編纂されたVeda文献/Pāli聖典をテキストに用い,古代インドの乳製品を再現・同定し,それらの乳加工技術の起原について推論することを目的とした.再現実験の結果,dadhi/dadhiは酸乳,navanīta/navanīta・nonītaはバター,takra/takkaはバターミルク,ājya/—はバターオイル,āmikṣā/—はカッテージチーズ様の乳製品,vājina/—はホエイと同定された.sarpiṣ/sappihaはバターオイル,sarpirmaṇḍa/sappimaṇḍaはバターオイルからの唯一派生する乳製品として低級脂肪酸と不飽和脂肪酸の含有量が多い液状のバターオイルであると類推された.Veda文献・Pāli聖典は,「kṣīra/khīraからdadhi/dadhiが,dadhi/dadhiからnavanīta/navanītaが,navanīta/navanītaからsarpiṣ/sappiが,sarpiṣ/sappiからsarpirmaṇḍa/sappimaṇḍaが生じる」と説明する.再現実験により示唆されたことは,この一連の加工工程は「生乳を酸乳化し,酸乳をチャーニングしてバターを,バターを加熱することによりバターオイルを加工し,静置することにより低級脂肪酸と不飽和脂肪酸とがより多く含有した液状のバターオイルを分離する」ことである.さらに,ユーラシア大陸の牧畜民の乳加工技術の事例群と比較検討した結果,Veda文献・Pāli聖典に記載された乳加工技術の起原は西アジアであろうことが推論された.
著者
平田 昌弘 米田 佑子 有賀 秀子 内田 健治 元島 英雅 花田 正明 河合 正人
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.9-22, 2010

The reproduction and identification of ancient dairy products in East Asia were conducted based on "SEIMINYOUJYUTU" which is the order ancient document available in East Asia and contains detailed explanation about milk processing, and then the spread pathway of these milk processing techniques into East Asia was discussed in this paper. As the results of reproduction and identification experiments, RAKU was identified as sour milk, KANRAKU could not be identified, ROKURAKU was identified as unmatured type cheese such as KHOROOT of Mongolian pastoralists and KURUT of Turki pastoralists, and SO was identified as butter and butter oil. Since some imprecise descriptions were found in SEIMINYOUJYUTU through the reproduction experiment, it was considered that Kashikyou, the author of SEIMINYOUJYUTU, was the just editor to use various texts which were gathered from different ethnic origins on milk processing and did not conduct processing milk products by themselves. The milk processing such as sour milk (RAKU) making from raw milk, butter (SO) making from sour milk (RAKU) by churning, butter oil (SO) making from butter by heating are wide spread techniques and still used among the current pastoralists in West Asia, South Asia, Central Asia and Inner Mongolia. As the comparison with components in milk products and the milk processing techniques of pastoralists in the Asian continent, it was concluded that the milk processing techniques adopted in SEIMINYOUJYUTU were mainly influenced from the pastoralists in North Asia and/or Central Asia.
著者
平田 昌弘
出版者
北海道共同組合通信社
雑誌
デーリィマン (ISSN:04166272)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.60-61, 2014

ユーラシア発-乳文化へのいざない 15
著者
平田 昌弘 鬼木 俊次 加賀 爪優 Berhe Melaku
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.75-89, 2017

<p>本稿の目的は,エチオピア北部中高地のアファール牧畜民を対象に,1)アファール牧畜民の現在の食糧摂取のあり方とその特徴を把握し,2)食料摂取の視座から牧畜の生業戦略を考察し,3)社会・経済の変化が食料摂取や牧畜の生業戦略にどのような影響を及ぼしているかについて考察することにある.食糧摂取パターンの特徴は,1)朝にラクダの生乳を摂取する傾向にあること,2)コムギ粉を用いた料理が多用され,3)コムギ,生乳,酸乳,バターオイルが重要な食材となっており,4)肉と野菜は日常では全く,もしくは,ほとんど利用しておらず,5)近年では食事内容が多様化し,6)食事は親戚や友人と共食することが常であることである.栄養摂取量の特徴は,1)エネルギー摂取量的に約70 %が外部から供給されたコムギ粉などの食料であり,2)自給した食料のほとんどは生乳・乳製品によっており,特に脂肪とタンパク質の半分ほどが生乳とバターオイルから供給され,3)コムギ粉と生乳・乳製品に大きく依存した食体系ではあるが,必要なエネルギー量,タンパク質と脂肪は充足しているとまとめることができる.アファールの農牧民や遊牧民の事例は,家畜を飼養する目的が,家畜を殺して,肉を食べることにではなく,家畜を生かし留めて乳を得て,生乳・乳製品を摂取することにあることを示している.牧畜という生業の本質がここにある.以前は,乳・乳製品への食料依存度は80%ほどであった.今日,流通が盛んになり,近郊の市場で大量の食料品が販売されるようになって,外部からの購入食料に大きく依存するように変化してしまった.流通整備と経済の自由化という社会・経済の変化が,家畜を屠殺せず,生かし留めながら,その乳を利用し,必要最小限を外部社会に依存する牧畜から,家畜は交換材としての傾向を強め,多品目の外部購入食料へと大きく依存する生業構造へと変化させてきている.</p>
著者
平田 昌弘 Mihaela Persu 山田 勇
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.27-37, 2017 (Released:2017-04-22)
参考文献数
15

本稿では,南西ヨーロッパのルーマニアにおいて,かつて移牧民であった世帯とかつて半農半農民であった世帯を対象に,1)乳加工体系を把握し,2)西ヨーロッパで実践されている熟成チーズや南西ヨーロッパ諸国の乳製品と比較検討することにより,ルーマニアの乳加工体系の特徴を分析することを目的とした。凝固剤を用いたチーズ加工では,ブルンザ・デ・ブルドゥフとテレメエと呼ばれる2種類のチーズが加工されていた。ブルンザ・デ・ブルドゥフは,凝乳からホエイをできるだけ排出させ,静置による熟成を経てから,凝乳を粉砕して塩と混ぜ合せて加塩していた。ブルンザ・デ・ブルドゥフは,熟成ハード系チーズに相当し,アルプス山脈以北のヨーロッパ西部でみられる熟成ハード系チーズへと展開するチーズである可能性が高いことが示唆された。テレメエは,凝乳を加圧してホエイを排出した後に,数日間の静置による熟成を経ることなく,直ぐに塩水に漬けて加塩していた。テレメエは,フレッシュチーズ,もしくは,熟成フレッシュチーズに相当する。このテレメエの加工は,ブルガリア,ギリシャやイタリアでもおこなわれており,アルプス山脈以南の地中海域に共通したチーズとなっている。ヨーロッパで熟成チーズがアルプス山脈を境に,北側と南側とでそれぞれ特徴的に発展していった発達史を考察するにおいて,ルーマニアのチーズ加工技術は極めて興味深い情報を提供してくれている。
著者
平田 昌弘 木村 純子 内田 健治 元島 英雅
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.1-11, 2015-02-25 (Released:2015-03-18)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本研究は,熟成ハード系チーズ(パルミジャーノ・レッジャーノ)と熟成ソフト系チーズ(タレッジョ)の加工上の特徴を分析し,イタリア北部における熟成チーズの発達史を再構成することを目的とした.パルミジャーノ・レッジャーノの加工の特色は,生乳の脱脂,自然に混入してくる微生物を利用していること,一日静置させて乳酸菌を増やしたホエイを加え合わせる技術,カッティング後の加温による凝乳粒からのホエイ排出,加温後に凝乳を細かくカッティングする技術にあった.タレッジョはもともとは移牧民により冬の寒い間に一時的に低地でつくられるものであった.北イタリアでの熟成チーズの発達史は,基層に熟成ハード系チーズがあり,低地では塩が豊富に供給される背景のもとに熟成ハード系チーズの厚みが増し,後になって,アルプス山脈山麓の低地で湿度が高く保てる特殊な状況設定のもとに熟成ソフト系チーズが発達してきたと推論することができる.
著者
平田 昌弘
出版者
二宮書店
雑誌
地理月報
巻号頁・発行日
no.487, pp.9-11, 2005-06-20

http://www.ninomiyashoten.co.jp/pc/geppou/backnumber/vol487.php#more
著者
平田 昌弘
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.291-293, 2002-10-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
8

家畜の乳利用を発見することにより一つの生業形態である牧畜が成立し, ユーラシア大陸全体に広まっていった。本稿では, ユーラシア大陸の乾燥地帯における乳文化圏を乳加工体系の視座から類型分類することを試みる。約50の民族の乳加工体系の事例研究の結果, 次の仮説が導きだせる。それは, 搾乳・乳利用は西南アジアに起原する。そして, 乳加工が未だ乳を酸乳にする, それを乾燥保存させるという段階で周辺に伝播してゆく。その後, 乳加工体系は大きく二つの地域, つまり, 北緯約40°, 年間平均気温約15℃を境に, 北方域と南方域とでは別々に乳加工体系が発達する。北方域の乳文化圏では, クリーム分離, 凝固剤として酸乳を用い, 乳酒つくりが発達する。一方, 南方域の乳文化圏では, 酸乳のチャーニングによる乳脂肪分の抽出, 凝固剤としてレンネットを用いる乳加工が発達したことが示唆される。以上が, ユーラシア大陸の乳加工体系を類型分類し, 類推され得る乳文化圏二元論である。
著者
平田 昌弘 ヨトヴァ マリア 内田 健治 元島 英雅
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.237-253, 2010 (Released:2014-03-15)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本稿では,ブルガリア南西部の乳加工体系とその特徴を明らかにし,バルカン半島のブルガリアにおける乳加工発達史を論考した。ブルガリアの乳加工体系は,発酵乳系列群と凝固剤使用系列群の乳加工技術が確認された。ブルガリアの発酵乳系列群は西アジア由来の乳加工技術である可能性が極めて高く,冷涼性ゆえに水分含量が比較的高くても保存が可能なため,酸乳やバターの段階で加工が終了してしまうように変遷していた。塩水漬けにしてチーズの熟成をおこなうバルカン半島ブルガリアのチーズ加工技術は,熟成をおこなわない西アジアと熟成に特化したヨーロッパのちょうど中間的な位置にあり,ヨーロッパのチーズ加工の土台を形成した可能性が高いと考えられた。更に,レンネット利用がチーズ加工にではなくチャーニングによるバター加工用の生乳凝固に利用されていることから,もともとのレンネット利用は先ずバター加工に用いられ,後にバター加工からチーズ加工へと転用されていった可能性が高いと考えられた。これらのことから,レンネット利用によるチーズ加工の起原地の一候補地がバルカン半島であることが示唆された。このように,ブルガリアの乳文化は人類の乳加工史において極めて重要な乳加工技術を今日に伝えている。これらのブルガリアの重要な乳加工技術も,社会主義体制への移行・崩壊,EU 加盟を通じて,経営的に成り立たず,多くが消え去ろうとしている。ブルガリアは,EU という巨大経済圏に加盟したまさに今,自国の農業生産や文化の継承のあり方について問われている。
著者
平田 昌弘 Hirata Masahiro
出版者
京都大学ヒマラヤ研究会
雑誌
ヒマラヤ学誌
巻号頁・発行日
no.11, pp.61-77, 2010

The food intake of agro-pastoralists was surveyed in the hilly high altitude of Ladakh,northern India tounderstand the characteristics of those subsistence,to discuss their adaptation strategy to high altitudecircumstances and to reconsider the pastoralism theory through the case study of transhumance. The characteristicsof their food intake are 1) the daily food intake is composed by 5 times such us morning tea,breakfast,lunch,evening tea and dinner,2) they don't take any meat in normal daily life, 3) necessary nutrients are mostly suppliedby taking beans,fresh and dry vegetables,milk products and cereals,4) cereals contribute mostly to the nutrientintake,5) the intake of purchased wheat and rice become bigger than self-supplied barley,6) the milk products usedas butter salty tea and sweet milk tea has been important traditional food resources to supply fat to their intake,7)beans are important to supply protein to their intake especially in winter and spring,8) they basically use hot spicesto add strong taste to dishes. The adaptation strategy of Ladakh agro-pastoralists into high altitude circumstances issummarized from the point of food intake as 1) they could extend their life space into high altitude by utilizingcereals,cow-yak crossbred,and beans which are cultivatable in high altitude and 2) they chose not to eat meat,butto take directly cereals,vegetables,milk products to increase food efficiency maximally for sustaining a certainpopulation in such limited land area for food production as hilly high circumstances. It was considered that Ladakhagro-pastoralists put high intention into "modesty" to coexistence with more peoples in high altitude circumstances.栄養学的視点から、移牧民の生業構造の特徴を把握し、高地環境への適応戦略を考察し、移牧という事例を通した牧畜論を再考するために、インド北部のラダーク山岳地帯において移牧民世帯と定住世帯について現地調査をおこなった。食料摂取の特徴は、1)起床後直ぐの目覚めのお茶、朝食、昼食、夕方のお茶、晩食のl日5回の食事で組み立てられていること、2) 日常の食において肉は摂取されていないこと、3)肉を摂取せず、豆類、新鮮・乾燥野菜と乳製品を多用し、穀物類を摂取することにより、必要な大部分の栄養素はまかなわれていること、4)食料摂取における穀物類の貢献度は食材の中では最大であること、5) 自給する大麦よりも購入した小麦・米の方が摂取量は多くなっていること、6) 塩バター茶や甘乳茶を頻飲するために脂肪摂取において乳製品は伝統的に重要な食材となっていたこと、7) 特に冬・春において豆類の存在はタンパク質供給源としては重要であること、8) 味付けに強烈な風味を添えるスパイスを多用していること、とまとめることができる。そして、栄養摂取の視座からラダーク移牧民の高地環境への適応を分析すると、l) 穀物類、ヤク交雑種、そして、高地でも栽培可能な豆類を巧みに利用し、また、2) 限られた土地面積という山岳環境で、ある一定の人口を扶養するために肉を摂取せず、食材の利用効率を最大限に高めるために穀物類、野菜、乳製品とを摂取する戦略をとっていると、その特徴をまとめることができる。ラダークの人びとは、肉という贅沢品を食うという貪欲性よりも、より多くの人びとと共存せんがために穀物類、野菜、乳製品を食うという「謙虚性」で生きているのである。
著者
平田 昌弘
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-14, 2009

コーカサスは、南方の西アジアと北方の中央アジアやヨーロッパを繋ぐ結節点にある。西アジアで牧畜と乳加工が始まり、西アジアの乳加工技術が周辺域に伝播したとすると、中央アジアやヨーロッパヘはコーカサスを経由した可能性は十分にありえる。牧畜を生業基盤とする西アジアの乳加工技術が農業を生業基盤とするコーカサスにおいてどのように変化・展開したかを考察することは、文化の伝播と変遷を論考するにおいて極めて興味深い。また、中央アジアやヨーロッパなどでの乳加工技術の展開過程を分析する上で、コーカサスでの乳加工技術のあり方は極めて貴重な資料ともなる。そこで本稿では、コーカサスにおける乳加工技術の変遷過程を論考するために、グルジアとアルメニアにおいて2008年7月11日〜7月30日まで観察とインタビューにより合計9世帯を調査した結果を報告する。インタビューはグルジアの農牧民にはグルジア語で、アルメニアの農牧民にはロシア語とアルメニア語を介しておこない、乳加工技術と乳製品に関する語彙はグルジア語とアルメニア語でそれぞれ書き取った。本稿の目的は、1)グルジアとアルメニアにおける乳加工体系を把握し、2)周辺地域との比較分析や生態環境の視座からコーカサスにおける乳加工体系の変遷過程を検討することにある。本稿では、乳加工体系を整理・把握するために、中尾の4つの系列群分析法を用いた。つまり、生乳をまず酸乳にしてから加工が展開する発酵乳系列群、生乳からまずクリームを分離してから加工が展開するクリーム分離系列群、生乳に凝固剤を添加してチーズを得る凝固剤使用系列群、生乳を加熱し濃縮することを基本とする加熱濃縮系列群の4類型である。