- 著者
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岡田 菜摘
池田 裕
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.Cf1508, 2012 (Released:2012-08-10)
【はじめに】 交通事故により外傷性くも膜下出血,多発骨折を呈した60歳女性に対し,職場復帰に向けICFモデルを活用して目標指向的アプローチを行った.主婦業再開と職場復帰が必要な症例に対し,早期より参加向上訓練を行い,入院中からADL自立,主婦役割の再獲得を果たし退院後復職が可能となった経過を報告する.【症例紹介】 本症例は60歳女性.交通事故により外傷性くも膜下出血・左鎖骨端骨折・右母指末節骨骨折・右足関節外果骨折を呈し,高血圧・子宮筋腫の既往歴がある.背景因子は,病前は独歩でADL・ASL自立,長男・長女夫婦と同居,週5日ドラッグストアに勤務し,本人・家族ともに復職を希望していた.入院時,参加は主婦業・パート勤務は非実施,院内では自室にて読書をして余暇を過ごしていた.活動は,車いすレベルで入浴以外のADLを修正自立,歩行レベルではPTB装具・U字型歩行器を使用しADLに軽介助~見守りを要していた.家事は座位で一部介助,仕事は非実施であった.麻痺や高次脳機能障害はなく,立位での複合動作に軽介助,床からの立ち上がりに中等度介助を要し,基本動作は修正自立,歩行はU字型歩行器とPTB使用にて監視レベルであった.ROMは左肩関節屈曲150°,外転140°,足関節背屈5°,MMTは左上肢3,右足関節2~3で足関節外果下部・足背部に荷重・伸張時痛が認められた.【説明と同意】 事前に本報告の説明を行い,本人・家族の同意を得た上で報告する.【経過】 [目標]初期評価で得た情報をICFモデルで構造化し,以下の目標を設定した.3ヶ月の入院期間で在宅生活・主婦業を再開し職場へ復帰する.日常の移動手段として自転車使用を再獲得し,病前同様の生活を送る.[課題]多発骨折による機能制限のためセルフケアや就労に関する動作遂行に介助を要する.在宅生活や主婦業,パート勤務への参加が制約されている.[アプローチ]在宅での主婦業再開と復職に向け,早期からの機能向上訓練と同時に参加向上訓練としての外出外泊訓練を繰り返し,階段昇降や買い物等,徐々に高いレベルの課題を与えていった.実際場面でADL動作を行い,家事や仕事の関連動作も本人が自主的に実施するようPT・OT介入時に確認と促しを行った.[退院時評価]外泊時に家事全てを自立にてこなし,就労は業務動作が独立レベルとなった.そして本人と職場店長,MSWらと情報を共有し復職計画を立て職場に出向いた.院内では外の散歩や自主訓練をして活動的に過ごした.ROMや筋力等の機能は改善され疼痛は消失した.【考察】 初期の生活機能は主婦業・就労が非実施であり,受傷部の可動域制限や筋力低下,疼痛のため車椅子レベルにて修正自立でADL遂行,できるレベルではPTB装具を用いた歩行でADLに軽介助を要し,仕事の関連動作は立ち仕事全般に介助を要した.家庭の経済的理由から働く必要があり,入院時座位レベルで目的動作が修正自立していたことから歩行自立により病前同様の生活が可能であると考え,主目標は入院期間を3ヶ月とし,ADL・ASL自立で在宅生活と主婦業を再開,職場復帰することとした.復職に必要な動作を評価し,機能向上訓練の中に関連動作を取り入れ,併行して歩行レベルでのADL訓練やレベルに応じた課題を与えながら外出泊訓練を実施することで早期から参加向上を意識した介入を行った.主婦とパートを兼任できる高い耐久性の獲得が必須であると考え,本人主体で1日のスケジュールを立てることで自主的な活動を促し,歩行能力向上に伴って物持ちや長時間の屋外歩行等の課題を取り入れた.リハ介入時に声かけによる確認と課題修正を行った.以上により入院2ヶ月目には自発的な運動習慣が身に付き,ADL自立にて自宅退院が可能なレベルとなった.パート勤務に関しては軽介助~見守りを要したため,1か月間集中的なリハビリを行う方針をたて,退院時には全動作自立となった.多発骨折を呈した症例に対し早期から参加向上訓練を積極的に実施し,他部門との協業によって退院後の生活の流れに類似させた生活を行う事で早期のADL・ASL自立を獲得し復職に繋げることができた.【理学療法学研究としての意義】 目標指向的に機能向上訓練と参加向上訓練を併行することで機能改善と同時に参加場面の広範化が図られ早期でのADL・ASL自立を獲得し,復職に対する重点的な介入や協業による他職種との連携が高い訓練効果・QOLの獲得を可能にし,退院後そのまま社会参加を達成した.本症例は退院後,主婦業再開と職場復帰を果たし,目標指向や参加への介入の大切さについて報告することができた.