著者
牛垣 雄矢 木谷 隆太郎 内藤 亮
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.85-97, 2016 (Released:2016-06-23)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

本研究は,東京都千代田区秋葉原地区を対象に,2006年と2013年に行った現地調査結果を基に,商業集積の特徴と変化を考察した.同地区ではメイド系店舗が集積し,飲食・サービス業化が進んでいる.アイドル関係の小売店や劇場も増加し,アニメ女性から実在する女性を嗜好する消費者へとターゲットが移りつつある.家電業界における企業再編の影響を受け,秋葉原駅付近の表通りでは戦前・戦後直後に開業した店舗が閉店して娯楽・飲食系のチェーン店が進出し,商業空間の均質化が進んでいる.街の飲食・サービス業化や街と関係性の薄い業種の店舗が集積したことで,消費者の関連購買行動が弱まり,商業集積地としての強みも減じている.一方,雑居ビルで構成される裏通りでは,メイド系店舗が多数入居して特徴のある空間を維持している.その雑居ビルでも残存・成長できる店舗は少なく,少女アニメ関係やメイド系店舗は激しく入れ替わる形でその集積を維持している.
著者
牛垣 雄矢
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.383-396, 2012-07-01 (Released:2017-11-03)
参考文献数
26
被引用文献数
1 4

本研究では,同業種型商業集積地の形成と変容について,東京都秋葉原地区を対象に考察した.秋葉原地区は,第二次世界大戦後,周辺地域に比べ相対的に地価が安いことで電気関係の店舗が集積した.その後,取扱商品の中心がパソコンからアニメ関係商品へと変化する際は,老舗電気店の果たす役割が大きかった.両業種ともさらに集積が進む段階になると,多くの新規店が出店し,駅前や表通りに進出する商店も現れた.主にパソコン関係店の場合は初期に開業した商店が,アニメ関係店の場合は近年に開業した商店が駅前へ立地した.アニメ関係の新規店は駅前や表通りへの進出が早く,地域にもたらした変化も大きい.また,アクセスが不便な雑居ビルの上層階にもアニメ関係店やメイド喫茶などが入居し,地価が安い裏通りの雑居ビルにも多くの店舗が入居している.これらにより,秋葉原地区は小規模な店舗が集積する商業集積地としての性格を維持している.
著者
牛垣 雄矢
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.10, pp.527-541, 2006-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1 1

本稿は,多様な展開がみられる都心周辺地域の都心化について,建物を単位とした詳細で長期的な土地利用の分析よりその歴史的背景を明らかにした.研究対象とした東京の神楽坂地区は,江戸末期では一部を除き旗本屋敷で,現在もほぼ同じ用途地域と容積率に指定されているが,以前に料亭街であった街区は密集市街地を形成していたために,今日でも建築基準法による規定の影響で街区内の建物は低中層である.また,中層化した建物も以前の狭い敷地を承継した建物が多いため,オフィスや住居のみならず飲食業も多く,かえって飲食店街としての性格をより強めている.一方,料亭街が形成されなかった街区では,大規模な建物が建設される余地が残されていたことに加えて,鉄道路線の結節点となった飯田橋駅にも近いことにより,大規模な中高層建築物が建設されてオフィスやマンションとして利用されるなど,都心的な土地利用を形成している.
著者
牛垣 雄矢 久保 薫 坂本 律樹 関根 大器 近井 駿介 原田 怜於 松井 彩桜
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.285-306, 2020 (Released:2020-11-10)
参考文献数
34

アクアラインの通行料引下げの結果,高速バスによる東京都心部や川崎・横浜方面への通勤者が増加し,その中にはパーク&ライドを行う人も多い.東京大都市圏郊外としては相対的に地価も安いため,木更津市の人口は増加し,中心市街地から離れた郊外住宅地がその受け皿となっている.市や県など行政の協力・連携のもと,イオンモールなどのショッピングセンターが立地し,周辺ではチェーン店等が集積した.これにより木更津市の買物環境と商業中心性は向上したが,中心市街地の個人商店は厳しい状況にあり,スーパーやドラッグストアが少なく生活必需品が購入しづらい状況にある.その中でイオンによって無料送迎バスが運営され,高齢者の重要な移動手段となっている.木更津市の人口分布や商業は自家用車の利用を前提とした構造となり,イオンとの関わりや更なる高齢化が進展する中で,住民に対する買い物の機会や移動手段の確保が課題となっている.
著者
牛垣 雄矢 木谷 隆太郎 内藤 亮
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100057, 2015 (Released:2015-04-13)

1.研究目的 発表者の一人は,東京都千代田区秋葉原地区について,すでに2006年における現地調査と2000年以前の資料を基に,商業集積と変容の過程を分析するとともに(牛垣2012・2013),「地域的個性」の形成過程という文脈で考察した(牛垣2014)。しかしこれらの論文においては,雑居ビルに入居する店舗については補足的な扱いにとどまり,ここに入居する小規模な店舗の集積・変容の過程については課題となっていた。本発表では,2013年に実施した現地調査によって得られたデータを基に,雑居ビルに入居するような小規模な店舗も含め,2006年から2013年にかけての商業集積の変容について考察する。 2006年から2013年にかけての7年間で,同地区は大きく変容しているように見える。家電業界の再編,サブカルチャーやアイドルブームといった近年の動向が,同地区に変化をもたらしているとも考えられる。2.研究方法 牛垣(2012)と同様,単独の店舗が占有している建物を「占有ビル」,複数の店舗が入居している建物を「雑居ビル」とし,同地区へ集積する店舗の規模を区別する。また,立地傾向とその変化については,秋葉原駅からの遠近と表通り・裏通りを区別し,A~Fの6地区に区分して分析する。3.結果 ①同地区を代表する業種であった家電,デジタル,アニメ関係の店舗が減少したのに対して,比較的新しい業態であるメイド喫茶が雑居ビルで急増し,同地区に固有の空間的性格をもたらしている。逆に,アニメ関係店は雑居ビルで急減しており,雑居ビルにおける店舗の入れ替わりや業種・業態の変化が顕著である。 ②家電業界の再編の影響もあり,秋葉原駅近辺に立地していた老舗の電気店が全国的にチェーン展開する企業の傘下に取り込まれている。また家電系以外の店舗においても,占有ビル・雑居ビル双方でチェーン店が増加し,他の商業集積地と同様に,商業空間の均質化が進行している。 ③これに対して駅から離れた裏通りの雑居ビルでは,メイド喫茶のほかリフレ系やJK散歩といったよりオタク度の高い店舗が入居しており,表通りと裏通りで空間的性格が二極化している。 ④また,比較的軽度なオタクといえる一般的なアニメやアイドル店は占有ビルに多いのに対して,少女アニメ店やメイド喫茶は雑居ビルに多く入居する傾向がみられ,アニメ系の店舗の中でも立地傾向は二極化している。4.考察 大手流通企業によるチェーン展開が進む中,国内外で商業空間の均質化が進行しているが,固有の景観的・機能的性格を有していた秋葉原地区においても,駅近辺・表通りに立地する大型店ではチェーン化が進行したのに対して,裏通りなどに多い雑居ビルでは同地区特有の性格が強化され,空間的性格が二極化している。家電街からパソコン街,パソコン街からアニメ街への変容の際には,駅近辺や表通りに立地する大型店でこれらの新しい業種を取り扱ったことが,同地区の業種変化をもたらしたが(牛垣2012),2006年から2013年にかけての変化はこれと異なる傾向をみせている。 これは,同地区がこれまで小売業中心の商業集積であったのが,飲食・サービス業の割合を高めていることとも関係があると考えられ,その点においても大きな変化といえる。また,第二次世界大戦後のラジオ店から家電・パソコン関係と,電子部品を扱い技術的な知識が要求される業種であったのが,アニメ化によってそれが不要となったことで,同地区に同業種が集積する必要性が減じたといえるが(牛垣2012),メイド喫茶などの集積によりこの傾向が更に強まったといえる。
著者
藤田 裕嗣 吉田 剛 高橋 清吾 鈴木 康之 宇根 寛 牛垣 雄矢 安藤 哲郎 深瀬 浩三 宮里 修 上島 智史 堀 健彦 仁木 宏 山元 貴継 塚本 章宏
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

歴史地理学研究で取り上げられた地図・絵図資料の中には地震・水害など、災害に関わる古地図も多数含まれるが、現在の地図情報には反映されておらず、実際の対策に活かされてきたとは言い難い。そこで本研究課題は、地域中心として機能し続けた城下町に特に注目し、全国各地に残る過去の古地図情報をGISデータ化し、それらをデジタル地図情報に反映させて、防災・災害復興に向けた歴史災害情報をデータベース化し、情報発信することで各地の防災・災害復興への寄与を目指す。2022年度の高校教育「地理総合」必修化も念頭に置き、中等教育に貢献できる歴史災害GISコンテンツの提供も視野に入れる。