著者
森 功次 林 志直 野口 やよい 甲斐 明美 大江 香子 酒井 沙知 原 元宣 諸角 聖
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.80, no.5, pp.496-500, 2006-09-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
13
被引用文献数
3 11

ノロウイルス (NV) による集団胃腸炎は事例数患者数ともに毎年上位をしめ, その予防対策の構築が求められている. しかしNVは現在培養系が確立されていないため, その不活化の条件などに不明な点も多い. そこでノロウイルスと同じカリシウイルス科に属するネコカリシウイルス (FCV) が培養可能であることに着目し, 手洗いによるウイルス除去効果についてウイルス感染価と遺伝子量を指標にアルコール, クルルヘキシジン, 第四級アンモニウム塩, 成分としてヨード化合物, トリクロサン, フェノール誘導体を含むハンドソープを用いて検討を行った. その結果, 流水によるすすぎのみでもウイルス量が100分の1程度に減少することが明らかとなった. 手洗い時にハンドソープを使用することにより, さらにウイルス量の減少傾向が強まったことから, 手洗いはウイルス性胃腸炎の発生予防および拡大防止に非常に有効な手段であることが示唆された.
著者
畠山 薫 貞升 健志 甲斐 明美
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.238-243, 2011-05-20 (Released:2015-04-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

1950 年代に東京都内で分離された狂犬病ウイルス 10 株と日本の狂犬病固定毒株である小松川株,高免株,西ヶ原株ならびに動物用ワクチン株 RC-HL 株および世界各地の狂犬病ウイルス 86 株の核タンパク(N)遺伝子領域における系統樹解析を行った.東京都で分離された株は,2 グループ (Tokyo 1,Tokyo 2) に分類された.2 グループとも,ヨーロッパ,アフリカ,アジア,アメリカからなる広域クラスターに属していた.Tokyo 1 グループは,1930 年代,40 年代にアメリカ合衆国西海岸のイヌから分離された株とサブクラスターを形成し,Tokyo 2 グループはロシアハバロフスクの racoon dog やバイカル湖地域の stepped fox から分離されたウイルスと同じクラスターを形成する小松川株と近縁であった.これらのことから,1950 年代に東京都内で流行していた狂犬病ウイルスは,ロシアおよびアメリカ由来のウイルスと関連性があったものと推測された.
著者
下島 優香子 井田 美樹 西野 由香里 石塚 理恵 黒田 寿美代 仲真 晶子 平井 昭彦 貞升 健志 甲斐 明美
出版者
日本食品微生物学会
雑誌
日本食品微生物学会雑誌 (ISSN:13408267)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.209-214, 2015-12-30 (Released:2016-01-08)
参考文献数
28

2010~2013年に都内の食肉処理場および小売店で購入した牛内臓肉104検体について,糞便系大腸菌群,VTEC,C. jejuni,C. coli,SalmonellaおよびL. monocytogenesの調査を行った.その結果,糞便系大腸菌群は, 85検体(81.7%)が陽性であった.VTECは25検体(24.0%)から31株検出された.そのうち1検体は糞便系大腸菌群陰性であった.血清群O157は 17検体(18株),O26が1検体(1株),O103が1検体(1株),その他の血清群(O1,O28,O91,O153,OUT)が7検体(11株)から検出された.付着遺伝子保有状況を調べた結果,eaeは血清群O157,O26,O103の20株が陽性,saaは血清群O28,O153,OUTの5株が陽性であった.aggRはすべての株が陰性であった.C. jejuniは42検体(40.4%)から50株,C. coliは16検体(15.4%)から16株が検出された.Salmonellaは4検体(3.8%)から5株検出され,血清群はO4群が4株(いずれも血清型Derby),O3, 10群が1株(血清型Amsterdam)であった.L. monocytogenesは22検体(21.2%)が陽性であった.以上の結果から,牛内臓肉は腸管出血性大腸菌を含む食中毒菌に高率に汚染されていることが明らかとなった.
著者
灘岡 陽子 早田 紀子 杉下 由行 梶原 聡子 渡部 ゆう 吉田 道彦 長谷川 道弥 林 志直 大地 まさ代 甲斐 明美 住友 眞佐美
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.136-144, 2014 (Released:2014-04-16)
参考文献数
20

目的 本報告の目的は,東京都における2011年の麻しんの流行状況を把握し,麻しん排除に向けて,今後の対策へ反映させることである。方法 感染症発生動向調査事業によって2011年に都内で報告された麻しん患者の発生届と麻しん調査票の内容を対象とした。年齢階級別,遺伝子型別,ワクチン接種歴別の発生状況,発生届の取り下げ状況,遺伝子検査結果別の IgM 抗体検査結果と検体採取日の関係等について分析を行った。結果 2011年の麻しん患者報告数は178件で,13週から24週にかけて一つのピークを形成し,この期間に128件(71.9%)の報告が集中していた。1~4 歳が40件(22.5%)で最大で,20歳代と30歳代がそれぞれ34件(19.1%)であった。麻しん患者が 2 人以上発生した施設数は 6 か所,1 事例の患者数は 4 人以下にとどまり,散発例がほとんどであった。1~4 歳の年齢層を除くすべての年齢層で,接種歴が無いか不明が過半数を占めた。PCR 遺伝子検査で検出された麻しんウイルスの遺伝子型は主に D4 型,D9 型で,2008年まで国内流行株の中心だった,いわゆる土着株である D5 型ウイルスはみられなかった。結論 2011年の麻しんの流行は,海外から持ち込まれたウイルス株によるものであった。2007年,2008年のような大流行に至らなかったのは,発生後の関係機関の対応が迅速かつ適切になったことと感受性者が減少したことが影響していると思われる。麻しん排除に向けて,引き続き麻しんワクチン接種率の向上に努めること,麻しん疑い患者に確実に遺伝子検査を実施し,的確なサーベイランスを実施することが重要と考えられた。
著者
小西 典子 甲斐 明美 松下 秀 野口 やよい 高橋 由美 関口 恭子 新井 輝義 諸角 聖 小久保 彌太郎
出版者
日本食品微生物学会
雑誌
日本食品微生物学会雑誌 (ISSN:13408267)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.9-14, 2001-03-31 (Released:2010-07-12)
参考文献数
15
被引用文献数
3 4

1998年8月から11月の間に有機.水耕栽培野菜の汚染実態調査を行った.卸売市場およびスーパーマーケットで買い上げた大根37件, 人参29件, キャベツ28件, ネギ28件, レタス32件, キュウリ29件, トマト40件, 玉ネギ28件, カイワレ大根32件, アルファルファ13件, およびサラダ菜, ホウレン草, モヤシ各1件の合計299件を対象とし, 生菌数, 大腸菌, 腸管出血性大腸菌O157およびサルモネラについて検査した.その結果, 生菌数は1g当たり10個以下から107個までと広範囲にわたっていた.特にアルファルプァとカイワレ大根の生菌数は全体に高かった.大腸菌はネギ1件より検出された.O157は検出されなかったが, サルモネラはアルファルファ1件より検出された.検出されたサルモネラはO13群血清型Cubanaであった.アルファルファ由来株と同時期に検出された同血清型ヒト保菌者由来株との関連性を薬剤感受性試験, プラスミドプロファイルおよびXbaI , SpeIで消化後のPFGEパターンの比較により検討した.その結果PFGEパターンが異なっていたことから, 両者の関連性は否定された.
著者
関 なおみ 貞升 健志 甲斐 明美 中島 由紀子 渡瀬 博俊 上田 隆 前田 秀雄 小林 一司 石崎 泰江 広松 恭子 岩下 裕子 本 涼子 神谷 信行 栗田 雅行 田原 なるみ 長谷川 道弥 新開 敬行 林 志直
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.238-250, 2015

<b>目的</b> 2014年 8 月,代々木公園が感染地と推定されるデング熱が発生した。これに対し,東京都の各担当部署が関係自治体と協力して対策を講じた。本経験は公衆衛生活動として他自治体や関係機関に共有すべき貴重な事例であると考え,報告する。<br/><b>方法</b> 8 月26日~11月 5 日に東京都が国内感染のデング熱流行に対して実施した対策について,1)リスクコミュニケーション・情報共有,2)患者への対応,3)蚊への対策,4)検査対応,の 4 分野について経過をまとめ,得られた結果について分析を行った。患者の疫学情報については2014年第 1~44週保健所受理分を対象とした。デング熱の国内感染が疑われる患者の血清および蚊検体の検査は東京都健康安全研究センターで実施した。<br/><b>結果</b> 都庁内に設置されたデング熱専用相談電話窓口に寄せられた相談件数は3,005件であった。東京都が実施した報道発表回数は,患者届出受理数および専用相談電話実績について39回,蚊の対策について 9 回であった。<br/> 東京都における国内感染症例は108件(男性62.7%,年齢中央値31.1(3~77)歳)で,2014年 第35~44週に報告されており,第36週がピーク(35件)となっていた。推定発症日の分布は 8 月 9 日~10月 7 日,推定感染日の分布は 8 月 3 日~10月 3 日であった。このことから,7 月下旬には代々木公園内にデング熱ウイルスに感染した蚊が複数生息していた可能性が示唆された。<br/> 代々木公園で週 1 回実施された蚊の調査(全11回のべ200トラップ)で捕集された蚊の総数は1,152頭で,種の同定においてヤブカ属が73.7%(856頭)であった。ヤブカ属を対象としたデングウイルス検査では,9 月 2 日,9 月 9 日,9 月16日分について陽性となった。<br/> デング熱の国内感染が疑われる患者の血清241件について確定検査を実施し,うち78件が陽性(国内感染症例73件,輸入症例 5 件)となった。ウイルスが検出された国内感染症例の血清および蚊検体の遺伝子解析では,すべて血清型 1 型 遺伝子型I型であり,全株の相同性が埼玉県在住の初発患者から分離されたウイルスの遺伝子配列と99%以上一致し,都内で感染したデング熱患者の原因ウイルスは単一のデングウイルスであった可能性が高いと考えられた。<br/><b>結論</b> 2020年のオリンピック,パラリンピック開催を予定している東京都としては,デング熱をはじめとした蚊の媒介する輸入感染症の国内発生について対策の強化が必要と考えられた。
著者
森 功次 林 志直 秋場 哲哉 野口 やよい 吉田 靖子 甲斐 明美 山田 澄夫 酒井 沙知 原 元宣
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.249-255, 2007-05-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
18
被引用文献数
3 4

ノロウイルス (NV) による集団胃腸炎の予防対策に資するため, ノロウイルスと同じカリシウイルス科に属し, 培養可能であるネコカリシウイルス (FCV) を用い, ウイルス感染価と遺伝子量を指標に, 速乾性消毒剤 (クロルヘキシジン, 第四級アンモニウム塩ヨード化合物), ウェットティッシュ (クロルヘキシジン, 第四級アンモニウム塩安息香酸PHMB), 機能水 (強酸性電解水, オゾンのナノバブル水) の手指衛生効果の比較を行った.速乾性消毒剤にはいずれもウイルス除去効果はなく, ヨード化合物を含むものにのみ有意なウイルス不活化効果がみられた. ウェットティッシュでは界面活性剤を含む安息香酸およびPHMB含有品に強い除去効果と不活化がみられた. 機能水によるすすぎ洗いの効果が確認され, さらに石けんを用いることにより除去効果も強まる傾向がみられた.これらの検討から有効な手洗い方法の選択がウイルス性胃腸炎の発生予防および拡大防止策となることが示唆された.
著者
小西 典子 尾畑 浩魅 甲斐 明美 大塚 佳代子 西川 禎一 寺嶋 淳 工藤 由起子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.161-166, 2018-08-25 (Released:2018-08-30)
参考文献数
29
被引用文献数
2

腸管毒素原性大腸菌(ETEC)は,発展途上国において一般的な病原体として知られており,汚染した野菜や水を介して食中毒を引き起こす.また,ETECは,先進国でも食中毒を引き起こすが,その原因食品はしばしば不明である.そこで,食中毒統計を基に日本で発生したETEC食中毒事例を分析した.その結果,野菜および井戸水が原因食品の50%および22.2%を占めた.これら主な原因食品は発展途上国の場合と同様であった.また,ETECの血清群も分析され,血清群O6,O25,O27,O148,O153,O159およびO169が主要7血清群であった.ETECの代表的な血清群O148による食中毒発生事例について,その食品での検査法を中心に詳細に検討した結果,二段階増菌法および耐熱性エンテロトキシン遺伝子を対象としたリアルタイムPCR法によって本菌が効率的にカットネギから検出された.本研究では,日本でのETEC食中毒の原因食品および主要O血清群が明らかになり,ETECの国内環境での生存が示唆された.また,食中毒事例での原因食品究明において効果的な検出法が示された.
著者
福山 正文 今川 八束 原 元宣 田淵 清 伊藤 武 尾畑 浩魅 甲斐 明美
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.508-512, 1994-04-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
22

ヒトのVero毒素産生性大腸菌 (VTEC) 感染症に対する感染源や感染経路を究明する一環として, 1991年10月から1992年3月までの期間に相模原市, 横浜市および平塚市で飼育されていた健康な家畜 (ウシ, ブタおよびヤギ) の新鮮糞便を採取し, VTECの分離を試みたところ, ブタ105例中1例 (1.0%), ウシ55例中2例 (3.6%) およびヤギ13例中12例 (15.4%) からそれぞれVTECが認められた.特にヤギについてはわが国では初めての分離例であった.分離菌株の血清型と毒素 (VT) 型の組合わせはウシ由来株ではO116: H21 (VT2) とO163: H19 (VT2), ブタ由来株ではOUT: H19 (VT2vp), ヤギ由来株ではすべてOUT: H21 (VT1) であった.以上の成績からウシおよびヤギから分離されたVTECは, ヒト由来のVTECが産生するVTと同じ毒素型のVTを産生していることが明らかとなり, これらの家畜がヒトの感染源に関与していることが考えられた.
著者
金田 芳孝 甲斐 明 酒徳 治三郎
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.83, no.9, pp.1417-1422, 1992-09-20
被引用文献数
2

同一部位に長期に嵌頓した尿管結石では,ESWLにより破砕されたにもかかわらず,微細砕石片と尿管狭窄が長期に残存し,水腎・水尿管症の残存あるいは悪化する症例が時に認められる.そのような5例5腎単位について,経皮的(4)あるいは経尿道的(1)バルーン拡張術を実施した.拡張にはバルーンダイレーショソカテーテル(7fr、拡張径6mm拡張バルーン長4/10cm Bard杜)を使用した.拡張術後,尿管ステント(7/8. 2fr.)を4〜8週間留置し,尿管ステント抜去後4〜8週間にて腎盂造影を実施した.4例4腎単位において残石片の排出と水腎・水尿管の著明な改善をみた.1例1腎単位では砕石片の残存はあるものの,水腎・水尿管の改善が認められた.すなわち5例全例に有用な結果が得られた.結石摘出術は不要であった.本法の有用性の確立には,さらに症例を重ねることと,より長期の経過観察が必要である.
著者
平井 昭彦 金子 誠二 仲真 晶子 石崎 直人 小田桐 恵 甲斐 明美 貞升 健志 新開 敬行 矢野 一好 諸角 聖
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.86-92, 2005-06-25 (Released:2009-01-21)
参考文献数
17
被引用文献数
8 8

PCR法により市販牛乳244検体のCoxiella burnetii 汚染状況調査を行った結果,131検体(53.7%)からC. burnetii 遺伝子が検出された.このうち22検体についてマウスによる菌分離を試みたがすべて陰性であった.次にPCR法による鶏卵中のC. burnetii 検査法の検討を行った.卵黄に1 mol/L NaCl加phosphate bufferを等量加え,ホモジナイズ後遠心することで多量のタンパク質や脂質を除去できC. burnetii を沈渣中へ集菌することができた.SDSで消化後NaI法によりDNAを抽出しPCR法でcom1 遺伝子を確認した.本法のC. burnetii 検出感度は3.2×101個/卵黄1 gであった.本法により市販鶏卵200検体を調べたが,C. burnetii は検出されなかった.