- 著者
-
真鍋 徹
石井 弘明
伊東 啓太郎
- 出版者
- 日本景観生態学会
- 雑誌
- 景観生態学 (ISSN:18800092)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, no.1, pp.1-7, 2007-12-15 (Released:2011-03-18)
- 参考文献数
- 64
- 被引用文献数
-
12
8
都市緑地は, 都市住民に対するレクリエーション, 防災, アメニティー, 環境調節機能や, 都市に生育・生息する野生生物に対するハビタット, コンジット, シンク機能など, 多面的機能を持った存在である.これら緑地空間の持つ機能を効率的に活用するには, 新たな緑地を創出するよりも, 現存する緑地を活用するほうが, 技術面・コスト面からみても有効であると考えられる.その地の潜在的な植生の姿を現在にとどめるような自然度の高い社寺林は, 都市緑地の効果的な維持・管理に向けての中核的存在となり得ることが期待できる.社寺林の生態学的研究は植物社会学的手法による群落記載に端を発した.その後, 社寺林を孤立林として認識し, 孤立した社寺林の群集構造・動態, 生息・生育地機能, 物理的環境要因を評価した研究へと発展した.また, 最近の研究結果から, 社寺林の構造・動態には, 社寺林内外の管理様式や神仏分離・都市公園法などの政策といった社会的要因も関与していることが示された.社寺林の機能を評価するためには, 広域的な景観スケールで社寺林を捉える必要がある.また, 生態学的要因のみならず人文科学的・社会科学的要因も考慮しなければならない.さらに, 都市緑地の中核的存在として社寺林を活用するには, 人による管理が必須であることが, 科学的な根拠の基で主張できるようになってきた.社寺林に限らず, 今後の都市緑地の保全・管理においては, 多様なスケール・手法を用いた個々の研究を蓄積し, 有機的に統合することが重要であるといえる.