- 著者
-
鈴木 譲
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 挑戦的萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2010
感染の場であり,防御の最前線となる粘膜組織には,腸管におけるパイエル板のような特殊なリンパ組織の存在が哺乳類では知られているが,魚類では明確ではない.そうした中で,魚の鯛にリンパ球集塊が存在することを見出した.この組織がリンパ器官としての機能を持つのではないかとの仮説を立て,その検証を進めた.組織学的な観察によりリンパ球集塊の表皮内に存在することが明確になったことから,トラフグ上皮間隙白血球の単離を行った.メイギムザ染色観察の結果,リンパ球が多数を占め,次いでマクロファージ,そして少数の好中球,好塩基球が認められた.さらに,哺乳類の粘膜リンパ組織で抗原の取り込みに重要な働きをするM細胞をUEA-1染色により探索した.しかし、鰓のリンパ球集塊近傍のUEA-1陽性細胞は形態的には塩類細胞であった。魚類ではM細胞は存在しない、あるいは同じ系統の細胞が哺乳類とは異なる機能を持っているものと考えられる.鰓におけるRT-PCRの結果,B細胞のマーカーであるIgM,IgT,ヘルパーT細胞のCD4,細胞障害性T細胞のCD8の発現が認められたが,In situ Hybridizationの結果,IgT陽性細胞はリンパ球集塊に特に多く蓄積しており、防御の最前線である末梢でその役割を果たしているものと推測された.一方,IgM,CD4,CD8陽性の細胞は比較的少数であり,哺乳類腸管に見られる胸腺外T細胞分化を示す材料は認められなかった.組織特異的に発現するケモカインが,それぞれの部位に必要な白血球を誘導することが哺乳類では知られている.トラフグのケモカインを明らかにし,鰓で発現する種類から機能の推定を試みた.7種類のCCケモカインの発現をトラフグで調べたところいずれも鰓での発現が認められ,鰓のリンパ球集塊とヒトの各リンパ組織との相同性を類推することはできなかった.しかし、このように多くのケモカインが発現していることから,鰓が免疫系において重要な役割を担っているものと推測された。