著者
田野 宏
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.17-34, 1983-01-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

本稿は,霞ヶ浦岸の沖積低地における蓮根生産について,栽培導入期の異なる2集落(土浦市田村・沖宿)の土地条件の差異が,蓮根経営にどのような影響を与えているかを明らかにしようとしたものである. 霞ヶ浦岸の中でも土浦入北岸は,全国一の蓮根の集団産地であるが,特に減反政策以後に蓮田面積の増加が著しい.しかし,新たに産地化した栽培地の土地条件をみると,必ずしも蓮根生産に好適とはいえない水田が見受けられる.これらの水田を経営する農家は,蓮根に適した土地条件をそなえた水田を経営する農家と比べ,同程度もしくはそれを上回る生産費を投下しているにもかかわらず,単位面積当たりの収量が低いために,農業所得率・土地生産性・労働生産性において低位であることが明らかとなった。減反政策以後,栽培面積は拡大したものの,所与の土地条件の差が経営内容にも影響を与えているといえよう.この場合,転作奨励金が,結果として,土地条件の差によってもたらされる収益の開きを補完する役割を果たしており,新興産地の経営が転作奨励金に大きく依存している状況をうかがい知ることができる.
著者
松本 秀明
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.72-85, 1981-02-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
16
被引用文献数
9 18

仙台平野における沖積層の堆積構造を明らかにするため,野外調査・ボーリング資料解析および14C年代測定を行なった.これをもとに約1万年前以降の海岸線変化を復元し,後氷期の海水準変化との関係から仙台平野の地形発達を考察した. 仙台平野の沖積層は堆積環境の違いをもとに8層に細分される.とくに海成層の堆積状態に注目し,海域変化を復元した結果,後氷期の急速な海水準上昇による海域の最拡大期は,阿武隈川の埋積谷においては海水準が-10mに達する7,900年前,名取川・七北田川の埋積谷においてはそれぞれ海水準が-7m, -5mに達する7,500年前, 7,200年前にあり,その後は陸側からの土砂による海底埋積速度が海水準上昇速度を相対的に上まわることにより,海水準は上昇しながらも陸域の拡大によって海域は後退し,現在に到るものと考える.
著者
西田 與四郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.6, no.7, pp.676-693, 1930-07-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
33
著者
関口 武
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.37, no.11, pp.606-614, 1964-11-01 (Released:2008-12-24)

等値線を引くに当って, 10mm間隔以下の狭い間隔で数字が記入してある場合には,引きにくく時間がかかりすぎ不適当である.しかし問隔が25mm以上になると,引いた等値線に個人差が大きくなり客観性の高いものが得られず不適当である.最適なのは数字が15mm間隔に,市松模様をなして配列している場合か, 20mm間隔で準市松模様に配列している場合である.以上の結論を15枚一組にした種々の数字問隔で数字を記入した図幅に,学生約50名に等値線を記入させ,一枚毎の所要時間数,基準等値線とのくいちがった面積の広狭,その個人差を比較検討した結果求めることができた.
著者
鈴木 毅彦
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.1-25, 2000
被引用文献数
15 14

飛騨山脈南西部の貝塩給源火道から噴出した貝塩上宝テフラ (KMT) は,大規模火砕流堆積物と中部~東北南部を覆った降下テフラからなる大規模テフラである.本稿ではその特性・分布・年代を示し,噴出前後に形成された地形面の編年・古地理について論じた.KMTの認定においては,黒雲母・石英・高ウラン濃度ジルコンの存在,火山ガラス・チタン磁鉄鉱の化学組成を指標とした.従来の放射年代値と房総半島上総層群中での層位から,KMTは海洋酸素同位体ステージ (MIS) 17.3~15.2に降下し,その年代は0.58~0.69Maの間と判断された. KMTは関東の狭山面・阿須山面・喜連川丘陵上位面,松本盆地の梨ノ木礫層堆積面形成後まもなく降下した.これら地形面はMIS17~16に形成されたと推定され,当時は扇状地面を広く発達させる地形形成環境があったとみられる.また, KMT噴出時,飛騨山脈中軸部がすでにかなりの高度を有していた可能性を指摘し,阿武隈山地に発達する小起伏面群の形成年代の上限を示した.
著者
竹村 一男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.182-198, 2000-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
41
被引用文献数
2

本稿では,末日聖徒イエス・キリスト教会の受容と定着の様相の地域的差異について山形・富山地域を中心に考察した.富山地域においては教会員の生家の檀家宗派は浄土系宗派が多く,禅系仏教地域の山形県米沢地域においても同様な傾向がみられた.浄土系宗派の寺院分布が卓越している富山・魚津地域においては布教が難しいが,教会員の定着率は高い.山形県と富山県の受容形態を比較すると,山形・米沢地域においては宗教体験を経て教会員となる場合が多いが,富山地域においては論理的に教義を解釈して教会員となる場合が多い傾向がある.これらの理由として,地域の基層宗教の大枠を構成する仏教では,宗派によって,住民の宗教観に影響を与える教義や地域社会への浸透度が異なるためと考えられる.とくに,浄土真宗地域における末日聖徒イエス・キリスト教会の定着率の高さは,浄土真宗と末日聖徒イエス・キリスト教会を含むキリスト教が教義構造において類似性を持つためと考えた.なお,両地域において教会員の属性には大きな偏りはみられない.1990年代に入り,同教会においては布教の手法と受容に至る過程に分散化・多様化が進んでいる.
著者
石崎 研二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.747-768, 1992-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
51

本稿は,立地-配分モデルを用いてクリスタラー中心地理論における供給原理の定式化を試みるものである.クリスタラー中心地理論では, (a) すべての消費者がすべての財を入手しうる, (b) 財は中心地によって包括的に保有されるという2つの制約条件,および財の到達範囲の概念を鍵として中心地システムが構築される.こうした特性は,立地-配分モデルにおけるカバー問題としての性格を有している.そこで本稿では,供給原理を集合カバー問題として定義し,理論の仮定を便宜的に満たした仮想地域にモデルを適用した.その結果,階層を下位から上位へと構築する方法では,モデルは供給原理に基づく中心地システムを正しく導出するものの,逆の構築方法では異なるシステムを導いた.ゆえに後者の方法については,さらに,最適な階層構造の形成を加味した配置原理の解釈が必要となることが,両構築方法の結果の比較より示唆される.
著者
束村 康文
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.577-592, 1990
被引用文献数
2

本研究では小氷期末の19世紀前半をとりあげて,東アジアの夏季の寒帯前線の出現位置と出現頻度を復元し,当時の乾湿分布との関係を議論した.寒帯前線位置の復元は,19世紀前半の毎日の天気分布図(風,寒暖の記録を含む)について類似している現在の天気分布図を捜し出し,それに対応した現在の総観天気図中の寒帯前線位置を採用するという方法をとった.6月から9月まで,寒帯前線帯の位置の推移を調べた結果,冷涼な年代である1825~1840年はそれ以前の1815~1824年に比べて,盛夏期へ入る際の前線帯の北上の時期が遅れていた.また,8月にも前線の南下が数度あり,9月においては寒帯前線が南偏することが多かった.これらの寒帯前線によって,東アジアの湿潤域は,1825~1840年には華中と日本に出現することが多かった.
著者
壽圓 晋吾
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.143-151, 1952-04-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

In the upper region of -River Kanda found in the eastern part of the Musashino Upland which is overlaid with the Kwanto Volcanic Ash, the ground water-table slants toward the valley on both sides. (cf. Fig. 1) The discharge of this river in this area increases, though very gradually, as the river flows down. From these facts, we presume River Kanda is being nourished by the ground water. At present, the slopes of the precipices forming the valley are different on both sides-the form of the valley is assymmetrical. Where the slope of the precipice is steeper on the north side than on the south, the ground water- table slants toward the north. Where the slope is, steeper on the south side than on the north, the ground-water-table slants toward the south. (cf. Fig. 6) Gathering up these facts, the author believes that the assymmetrical valley wall is related to the declivity of the water table. The ground heaves up gradually in the vicinity of the valley. This seems to be due to the dampness of the ground and to the abundance of the vegetation in the valley region; that is, the darn press of the ground and vegetation protect the ground from the strong Musasllino winds seen elsewhere which blow away the dried mud and causes wind-erosions. If the valley were to be filled up, we would, obtain a convex ground feature.
著者
小田 宏信
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.9, pp.555-576, 1997
参考文献数
59
被引用文献数
3

ME(マイクロエレクトロニクス)技術革新が中小企業にもたらした影響として,再集中化が進行したとする説と大都市工業の地位が低下したとする説とが提起されている.こうした見解の矛盾を止揚すべく,本研究は,技術革新下における大都市機械工業の変容の実態を京浜地域のプラスチック金型製造業を事例にして解明したものである.その結果,技術革新が経営体の階層分化とそれに応じた立地対応を惹起し,そのもとで連関構造も再編されるという一貫した機構が明ちかになった. ME化の受容の形態には資金力や熟練技'能の蓄積状況に応じて違いがある.資金力の大きな業者(資本集約型)はその内部経済性を高め立地分散が顕著であるのに対し,熟練技術者に恵まれた業者(技能集約型)は既存集積地域に留まりそこでの外部経済を活用した経営を継続した.一方,この二つの経営基盤がともに弱い中間的階層の業者群(中間型)は,ある程度のME機器と外部経済を活用し,既存集積地の外延部において日本工業の多品種小量生産化に対応した生産を行うようになった.かくして集積地は外延的に拡大し,その中での階層的な連関秩序・集積構造のもと,既存集積地と外延部で異なった技術体系・地域的連関構造が生じている.本研究から指摘できることは, ME技術革新がマーシャル流の「産業地域」への再集中をもたらしたわけではなく,むしろ,集積を基調としつつも階層的・重層的な連関秩序を内包したより広域化した中小企業ネットワークを作り出したということである.
著者
山本 健兒
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.131-155, 1997

本稿の目的は,内藤 (1996) とSen and Goldberg (1994) の主張を,さまざまな文献に照らし合せて再検討し,移民問題研究のための基礎的視角を提示することにある.両者に共通する主張は,差別されるがゆえに在独トルコ人の間でイスラム主義が広がる,というものである.しかし,イスラム諸組織の性格把握と差別の内容について,無視しえない差が両者の間に認められる.本稿では,イスラム諸組織の多様性と性格の不透明性を示すとともに,在独トルコ人に占めるイスラム諸組織参加者の比率を推計した.さらに,差別がイスラム主義への傾斜をもたらすという論理に,より踏み込んだ議論を展開している内藤 (1996) の論拠を検討した.また, Sen and Goldberg (1994) は国籍が移民問題の鍵になるとみているので,在独トルコ人のドイツ国籍取得に関する動向も分析した.以上の検討から明らかなことは,在独トルコ人社会の中に多元性が認められる,ということである.他方,ドイツ社会も多元的である.それゆえ,ドイツ人と在独トルコ人との関係を分析する際には,二つの多元性に注意する必要がある.
著者
内藤 正典
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.11, pp.749-766, 1997-11
被引用文献数
1

本稿は山本健見による筆者の著書への批判に反論することを通じて,多民族・多文化の共生をめぐる諸問題に対する研究視角を検討したものである.冷戦体制の崩壊とともに,イスラムとイスラム社会を共産主義に代わる新たな脅威とする言説が西欧諸国に蔓延している.しかし,多くのムスリム移民が定住している西ヨーロッパ諸国において,この言説は多文化の共生を危機に陥れる危険をはらんでいる.宗教や民族の相違が直ちに対立や紛争をもたらすとする言説の問題点とは何であるのか.移民自身からの異議申立ては何を争点としているのか.異文化との共存をめぐるマスメディアの功罪とは何か.そして,移民によって国家の基本原理が問われていることをどのように評価すべきか.本稿では,ドイツにおけるトルコ人移民の問題を通して,これらの課題を検討する際に必要な視角を具体的に提示した.
著者
中田 高
出版者
日本地理学会 古今書院(発売)
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.p29-44, 1980-01
被引用文献数
18
著者
茅根 創 吉川 虎雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.18-36, 1986-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
39
被引用文献数
17

海成段丘の形成過程を考察したり,それらを利用して地殻変動や海水準変動を論ずる場合には,現成の海岸地形に関する知見にもとついて,海成段丘を構成する諸地形要素の成因や意義などを明確にしておくことが重要である.このような視点から筆者らは,房総半島南東岸において,現成ならびに完新世に離水した浸食海岸地形の比較研究を行なつた. その結果,まず, (1) 現成の浸食海岸地形はベンチー小崖-海食台という-連の地形からなる地形系であり, (2) 汀線高度はベンチによって示されることを明らかにした。次に,房総半島南端に近い千倉町南部において,4群の離水したベンチ群一小崖一海食台系を認定し, (3) これまで汀線アングルと考えられていた小崖基部の傾斜変換線は,必ずしも旧汀線に対応しないこと, (4) これらの離水したベンチ群一小崖一海食台系は,4回の海食台まであらわれる3~6mの隆起と,それらの間に2~3回ずつはさまれたベンチだけが離水した1~2mの隆起との累積によつて形成されたことを明らかにした.

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出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.907-910,916_1, 1996-11-01 (Released:2008-12-25)