著者
荒川 宏
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.831-855, 1984-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30

大山火山北西部に発達する火山麓扇状地面群を,その形成年代にもとついて古いものから順に,古期扇状地1面,同皿面,中期扇状地面,新期扇状地1面,同皿面および最新期扇状地面の6つの地形面に大別した.それらのうち,相対的に広く分布する中期扇状地面,新期扇状地1面の一部および新期扇状地H面は,石質火砕流の放射谷への堆積,河川によるその火砕流堆積物の侵食,それによって生じた岩屑の下流域への移動・堆積,という過程を経て形成された..これらの火山麓扇状地の形成に要した時間は5千~1万年以下であり,火山全体の形成所要時間と比較すればきわめて短時間である.すなわち,調査地域における主要な火山麓扇状地は,それぞれの形成開始直前に噴出した石質火砕流堆積物の再堆積に起因して,相対的に短時間に形成されたという点で特色をもつ.
著者
斉藤 享治
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.334-349, 1982-05-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

集水域面積100km2, 500km2前後の集水域と,土石流が発生しやすい地質(深成岩,凝灰岩,集塊岩)からなる集水域では,扇状地の形成される集水域の占める割合が大きいことを明らかにした.これらの扇状地が形成されやすい集水域の地形・地質条件を解釈することによって,扇状地堆積物の供給・運搬様式を考察した. 集水域面積200km2以下の集水域では,土石流等によって河床に堆積していた砂礫が,洪水時に一気に谷口まで運搬され,堆積して扇状地を形成する。特に,100km2前後の集水域では,洪水発生頻度が高いので扇状地ができやすい.200km2以上の集水域では,河床堆積物が何回もの洪水によって谷口まで運搬され,掃流砂礫が低地に満遍なく堆積して扇状地を形成する.この場合,集水域が大きすぎても,河床勾配が緩くなり,粗粒の岩屑が運搬されにくい.その結果, 500km2前後の集水域では,扇状地が形成されやすくなったと考えられる. 200km2前後の集水域では,荷重量の相対的に小さい洪水流が発生したときに,谷口に堆積していた岩屑が,侵食・運搬されることもあるので,扇状地ができにくくなったものと思われる.
著者
長谷川 均
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.75-84, 1982-02-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

本稿は,石狩平野海岸部において,砂質堆積物の堆積環境や,同じタイプの地形でも,場所の違いが堆積物の粒度組成にどのように反映しているかなどを明らかにすることを目的とした. 66試料について,粒度組成の統計値による分析と, Qモード因子分析を行なった.その結果,当地域においては, energy総体を反映すると考えた因子により,比較的大きなenergyの影響下にあった北東部と,それより小さなenergyの影響下にあったと考えられる南西部とに区分できた.そして,偏形樹や気候資料をもとにした強風域の分布,強風の出現頻度などから,北東部は南西部に比べ,北西方向の強い風が吹くことがわかり,因子分析で推定した地域区分と一致した. 当地域の堆積物の粒度組成は,西方向の強い風や,それによる波浪の影響を受けて構成されると考えられ,西方向の強風をさえぎる石狩平野西方の積丹半島や高島岬の存在が,石狩平野の堆積環境に重要な意味を持つと考えられる.
著者
松本 豊寿
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.37, no.11, pp.593-605, 1964

近世城下町の商圏は,二つの相反する属性をもっている.一つは封建的商圏としての性格であり,他は経済的商圏のそれである.封建的商圏は城下町本位の商圏で,その独占的優越を領主権力によって維持確立しようとする.「商物方限令」は,その法的表現である.しかし, 19 C. に入ると農民的商品経済の発達は,在郷町を基軸とした経済的商圏の要素を強化し.両商圏の対立ど競合がはげしくなる. 19 C. も中葉以降になるとこの傾向はますます激化していくかつての城下町オンリーの単独商圏は,在郷町の局地的商圏との協同,それとの複合商圏を構成することによってのみその発展が保障されるのである.旧方限令の改定や「出店中宿制」はよくこの間の事清を物語ってくれる.かくして城下町中心主義の方限とその商圏は,方限軽視の自由流通の波によって,大きな変質を余儀なくされるのである.それにしても封建体制のつづく限り領主的反動による封建的商圏の再生が執拗に繰り返されるが,その経済主義的立場より非合理性の故に,これは結局,斜陽的主張の哀歌にすぎない.<br> 版籍奉還と廃藩置県は古い方限制の撤廃を必然化し,純経済的地域分業にもとつく近代都市的商圏へとそれ自体を転化するのである.
著者
山本 健兒
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.131-155, 1997-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
41
被引用文献数
1

本稿の目的は,内藤 (1996) とSen and Goldberg (1994) の主張を,さまざまな文献に照らし合せて再検討し,移民問題研究のための基礎的視角を提示することにある.両者に共通する主張は,差別されるがゆえに在独トルコ人の間でイスラム主義が広がる,というものである.しかし,イスラム諸組織の性格把握と差別の内容について,無視しえない差が両者の間に認められる.本稿では,イスラム諸組織の多様性と性格の不透明性を示すとともに,在独トルコ人に占めるイスラム諸組織参加者の比率を推計した.さらに,差別がイスラム主義への傾斜をもたらすという論理に,より踏み込んだ議論を展開している内藤 (1996) の論拠を検討した.また, Sen and Goldberg (1994) は国籍が移民問題の鍵になるとみているので,在独トルコ人のドイツ国籍取得に関する動向も分析した.以上の検討から明らかなことは,在独トルコ人社会の中に多元性が認められる,ということである.他方,ドイツ社会も多元的である.それゆえ,ドイツ人と在独トルコ人との関係を分析する際には,二つの多元性に注意する必要がある.
著者
中谷 友樹
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.71-92, 1995-02-01
参考文献数
32

空間単位の集計化が空間的相互作用モデルに対し及ぼす影響については,従来,集計単位の画定に関する定義問題が中心に論じられ,かっ,経験的データを用いた感度分析研究に限定されてきた.それに対し,本稿では,流動の距離逓減性を示す距離パラメターの集計バイアスを,空間単位間の距離の定義との関係において理論的に考察した.その結果,空間単位の集計化に伴う距離パラメターのバイアスは系統的な方向を示し,それは集計距離の定義(平均距離ないし平均移動距離)によって異なることが予想された.<br> この予想を検討するために,1988(昭和63)年度の東京PT調査のデータによって, Huffモデルの空間単位集計化の感度分析を行ない,次のような結果を得た.(1)距離パラメターの集計バイアスの方向は,集計距離の定義,および流動の距離逓減傾向の強さによって異なり,それは理論的に期待される方向と一致した.(2)平均移動距離の利用は,適合度,距離パラメターのバイアスの小ささ,距離パラメターの各スケールでの代表性の各点で,平均距離を利用する場合に比べ優れていた.(3)集計空間単位の形のコンパクトさを考慮することが距離パラメターのスケール変化を小さくし,それは理論的にも解釈されうるものであった.
著者
吉村 信吉
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.249-264, 1940-04-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
14
被引用文献数
1

1.東京市杉並區の西,妙正寺川,善幅寺川上流間の臺地に淺井帶があり,地下水面が扁平ではあるが塚状に盛上つてゐて,地下水堆と考へられる。 2.地下水堆は長さ3.5km,幅1.1kmに達し,武藏野臺地に於ては最大である。地下水の動水傾斜は所々稍〓大きくなつてゐるが,地下水瀑布線附近の地下水面のそれに比し著しく小さい。 3.地下水堆は地形から云つて地下水の流出が少い上に厚くローム層下部に粘土層が存在するから生じたものである。 4.聚落發生との間には關係があるらしいが,現在の所證するに足る資料は得られてゐない。
著者
河村 武
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.105-112, 1960
被引用文献数
1

昭和33年9月26日東日本を襲つた台風22号(狩野川台風)による伊豆半島付近の詳細な降水量分布を検討した.本報の目的は,従来ほとんど取扱われなかつたマイクロないしはメソスケールの降水量分布を現象面で捉えることにある.とくにこの程度の規模の現象は,地形の影響を大きくうけるので,現存の観測網では容易に実態を把握できないが,共軸相関図の作成その他の若干の作業を行うことにより,できる限り資料的制約を克服するように努めた.内容的には次の点に大別される.<br> (1) 総降水量分布図の作成(分布図第3図). (2) 1時間降水量の時間的変化(第4図). (3) 面積雨量の時間的変化(第5図).<br> なお狭い地域内の量の分布に対する地形の影響,風上斜面と風下斜面との雨量差および高さによる雨量差などが如何に大きいかが第2図から知られる.
著者
高木 彰彦
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.420-439, 1983

本稿では,参議院選挙をとりあげ,愛知県を事例どして選挙結果の空間的分布とその変化を示すとともに,社会・経済的地域特性との関連を定量的に謝した. (1) まず,選挙繰では,投票率ま,第7回(1965年)・第10回(1974年)選挙とも,農山村部で高く,都市部で低かった.政党別得票率をみると,第7回選挙では保守と革新の得票分布の違いが明瞭で,自民党は農山村部で高い得票率を示し,他政党は都市部で高かった.第10回選挙になると,自民・社会両党の得票が都市部で減少し,共産党・公明党が都市部で増加,民社党が労働組合の支持変更のため急増した. (2) 次いで, 1965・75年における社会・経済的地域特性を因子分析により要約した. (3) 投票率,政党別得票率を従属変数, (2) で得られた因子得点を独立変数として重回帰分析を行なった結果,両者には密接かつ有意な関係のあることが判明した.
著者
立岡 裕士
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.516-539, 1987-08
被引用文献数
3

日本のアカデミズム地理学の初期段階において日本地理学会が負わされた主たる役割は,コミュニケーションの場を提供することにより地理学の知的・社会的制度化を促進することであった。そこで戦前期の日本地理学会が社会的制度化の進展にどの程度貢献したかという点を明らかにするために,研究者に対する本学会の包摂性と本学会に対する研究者の依存性とを検討した。その結果,次の3点が明らかになった. 1) 会員の構成では当会は1930年代半ばにはある程度全国的な組織となっていた. 2) これに積極的に参加していた者はほとんど東大または文理大の出身者で,東京近在ないしはたかだか東日本の居住者であるが,その一方で全国化の傾向も認められる. 3) 当会が提供した発表の機会は学界全体を覆うほどのものではなく,それに対する会員の依存度も必ずしも高くない.<br> 以上のことから,戦前期の日本地理学会は地理学の社会的制度化にとって一応の貢献はしたが,研究者の相互依存性を著しく高めるにはいたらなかった,と考えられる.
著者
野本 晃史
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.300-311, 1960
被引用文献数
1

日本には現在パルプ用材供給地域として北海道北東部,奥羽南部,中部地方西部,中国山地,四国南西部,九州南西部がある.なかでも北海道と中国山地は主要供給地域となつている.北海道がエゾ松,トド松供給地域であるに対し,中国山地は赤松供給地域である.赤松利用は昭和25年頃を契機として盛んとなり,広葉樹利用の始まる昭和35年まで赤松は主要用材となつてきた.パルプ工業立地の南下現象は世界的傾向であるが,日本の場合,旧領土喪失による資源不足が南下を促進している.戦後の工場立地は,赤松資源林周辺の工場適地に誘致された.中国山地地域は約15の工場に用材を供給している.他の供給地域が1工場の独占的供給構造をなすに対し,争奪的であり,分配的である.各工場の用材仕入圏の形態と仕入量をみれば,工場立地と生産能力を知りうる.中部地方各工場の仕入圏は北日本に伸展せず,赤松を求めて西南日本に拡大している.北睦,東海道の各工場は中国山地に用材を求めている点注目すべきである.中国山地でも広島県山地地域が問題であり,用材争奪の結果は,資源涸渇と水害問題,坑木および一般用材コストの高値をよび,地域経済に波及するところ大である.
著者
中田 高 木庭 元晴 今泉 俊文 曹 華龍 松本 秀明 菅沼 健
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.29-44, 1980
被引用文献数
40

房総半島南部の完新世海成段丘は,相模トラフに沿って発生する過去の大地震に伴う地殻変動の歴史を記録している.地形的証拠および36個の<sup>14</sup>C年代測定を含む年代資料をもとに,本地域の地殻変動の量と様式について考察した.<br> その結果,本地域は, 6,150年前, 4,350年前, 2,850年前および270年前に急激な海水準の相対的低下があり,これらは,大正・元禄型地震による地震性地殻隆起によるものであると考えられる.地震間の安定期間の長さは,前回の地震時における変位量と比例関係にある.各地震直前の年代と相対的海水準高度をもとに,長期的平均隆起速度を最小二乗法を用いて求めたところ, 3.0mm/年という値が得られた.また,長期的平均隆起速度と各地震間において求められた隆起速度との値の差は,当時の海水準変動の傾向を示すものと考えられる.これによれぽ,約2,700年前ごろには海水準は低下傾向にあり,それ以降,上昇傾向にあるとみることができる.なお,同様の地殻変動様式と海水準変動の傾向は,琉球列島・喜界島の離水サンゴ礁においても認めることができた.
著者
小泉 武栄 青柳 章一
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.269-286, 1993
被引用文献数
8

わが国の高山地域には,化石周氷河斜面と呼ばれる岩塊斜面や礫斜面が広く分布する.化石周氷河斜面における岩屑の供給期を明らかにするために,北アルプス薬師岳西面の石英斑岩地域の岩屑斜面を調査地に選び,岩屑表面に生じた風化皮膜の厚さを測定した.その結果,主稜線から斜面の下方に向かって,風化皮膜の厚さを異にする,次の4種類の斜面堆積物と1つの氷河性堆積物を確認することができた.A:風化皮膜をもたない岩屑.分布は狭く,稜線沿いの一部に限られる.B:平均0.8mmの厚さの風化皮膜をもつローブ構成礫.これは東南尾根の一部にのみ分布する.C:西側斜面を広く覆う,平均2.4mmの厚さの風化皮膜をもつ粗大な岩塊群.稜線から海抜2,750m付近までは斜面の大半を覆う. D:平均4.0-44mmの厚さの風化皮膜をもつ人頭大の亜円礫.これはCの岩塊群に覆われなかった斜面上の窪みと斜面の下方にのみ分布する. E:平均7.8mmの厚さの風化皮膜をもつ,モレーンの丘の構成礫.平滑斜面末端の海抜2,600m付近に分布する.<br> 次に風化皮膜の厚さから岩屑の供給された年代を推定するための基準値の設定を目的として,稜線の東側にある金作谷カール内の氷河堆積物の風化皮膜を調べた.ここにはおよそ2万年前の最終氷期最盛期頃に形成されたと考えられるM字形モレーンと,4-5万年前の最終氷期前半の亜氷期に堆積したと考えられる古期モレーンとがあり,風化皮膜の厚さはそれぞれ4.6mmと8.0mmであった.またこれらとは別にプロテーラスランパートも認められ,その構成礫の風化皮膜の厚さは2.6mmであった.このうちモレーンから得られた2つの値を基準にして風化皮膜の成長曲線を描き,それをもとに西側斜面の堆積物の供給された年代を推定すると,古い順に,Eは4-5万年前,Dは1.8万-1.9万年前,Cはおよそ1万年前,そしてBはおよそ3,000年前となった.またAは現在ないし現在にごく近い時期と考えられる.この年代と堆積物の性質から考えると,Eは最終氷期前半の氷河堆積物,Dは最終氷期最盛期頃の周氷河性の斜面堆積物かアブレージョンティル,Cは晩氷期(おそらく新ドリアス期頃)の周氷河性の凍結破砕礫,Bはネオグラシエーション期の凍結破砕礫とみることができる.またAは現在またはごく近い過去の凍結破砕礫であろう.<br> このように化石周氷河斜面における岩屑の供給期は一回だけでなく,最終氷期以降少なくとも3回はあり,主要な岩屑供給期は寒冷な時期に一致していることが明らかになった.またカール内のプロテーラスランパートも晩氷期に形成された可能性が大きい.
著者
浅井 辰郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.9, pp.553-554, 1997-09
被引用文献数
1
著者
田村 均
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.216-236, 1985-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30

秩父織物業の衰退は,機械工業とくに下請工業の展開によって促進され,大企業主導による垂直的・専属的な下請構造の形成を一つの重要な背景としている.本稿では,この点に着目しながら,埼玉県秩父地方で最大の生産規模と組織をもつキャノン系A社の下請関係を取り上げ,専属的な関係を基軸に,機械工業の垂直的な下請構造がいかにして形成されてきたかについて考察し,その地域的編成と機能を明らかにした. 1960年代の後半以降,秩父地方では急速な産業交替,すなわち在来織物業の衰退と機械エ業の展開が,織物業者の業種転換による後者への下請従属化をともなって,ドラスティックなかたちで進展した.機械工業による在来織物業の地域的再編は,前者による若年男子を中心とする,織物業とは相対的に異なる労働力編成を通じて,当地方工業の賃金体系が改編される過程であった.この過程で拡大再編された低賃金は,秩父地方の他地域との賃金格差を拡大し,機械工業の下請構造を支えることになった.そこでは,A社による厳しい外注・下請管理が展開されるが,低賃金基盤の上に専属的下請企業層として育成・拡充された小零細企業群と,これを補強するべく同社の「衛星エ場」として編成された生産子会社・系列会社とが,工場群編成のうえで一定の空間的秩序をもって地域内に「合理的」に配置され,機械エ業の下方への負担転嫁を地域的に支えている.
著者
小笠原 洋子 野口 佳一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.459-467, 2000-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
8

日記中の天気記録には,日記記主の主観や観測場所・時刻が明記されていないといったあいまいさが反映されている.従来,古日記を利用した気候復元では,これらのあいまいさの影響を排除して復元する方法が検討されてきた.本研究では,日記記主の主観に起因するあいまいさを包含して推定気温を示す手法を検討した.ファジィ線形回帰式を導入すると,可能性としての幅を持たせて気温の推定値を表現できる. 冬季の京都について,1カ月の降雪日数と各月の平均気温との関係を調べた.その結果, 1・2月において両者の間に高い負の相関関係が存在することが確認された.3種類の日記から得た京都の天気記録を利用して,この関係を応用した降雪日数による気温推定を行った.1856年から1865年を対象期間とし,ファジイ線形回帰式を導入して1・2月の月平均気温を推定幅を持たせて復元した.