著者
森田 紘平
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.76, no.8, pp.532-534, 2021-08-05 (Released:2021-08-05)
参考文献数
20

歴史の小径量子力学を解釈するとはどういうことだったのか
著者
堀田 昌寛 遊佐 剛
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.613-622, 2014-09-05 (Released:2019-08-22)

現在広範なテーマを巻き込みながら,量子情報と量子物理が深いレベルから融合する量子情報物理学という分野が生まれ成長しつつある.なぜ様々な量子物理学に量子情報理論が現れてくるのだろうか.それには量子状態が本質的に認識論的情報概念であるということが深く関わっていると思われる.ボーアを源流とする認識論的な現代的コペンハーゲン解釈は量子情報分野を中心に定着してきた.この量子論解釈に基づいた量子情報物理学の視点からは存在や無という概念も認識論的であり,測定や観測者に対する強い依存性がある.本稿ではこの「存在と無」の問題にも新しい視点を与える量子エネルギーテレポーテーション(Quantum Energy Teleportation;QET)を解説しつつ,それが描き出す量子情報物理学的世界観を紹介していく.QETとは,多体系の基底状態の量子縺れを資源としながら,操作論的な意味のエネルギー転送を局所的操作と古典通信(Local Operations and Classical Communication;LOCC)だけで達成する量子プロトコルである.量子的に縺れた多体系の基底状態においてある部分系の零点振動を測定すると,一般に測定後状態の系は必ず励起エネルギーを持つ.これは基底状態の受動性(passivity)という性質からの帰結である.このため情報を測定で得るアリスには,必ず測定エネルギーの消費という代償を伴う.またアリスの量子系は量子縺れを通じてボブの量子系の情報も持っている.従ってアリスは,ボブの系のエネルギー密度の量子揺らぎの情報も同時に得る.これによって起こるボブの量子系の部分的な波動関数の収縮により,測定値に応じてアリスにとってはボブの量子系に抽出可能なエネルギーがまるで瞬間移動(テレポート,teleport)したように出現する.一方,この時点ではまだボブはアリスの測定結果を知らない.またアリスの測定で系に注入された励起エネルギーもまだアリス周辺に留まっており,ボブの量子系には及んでいない.従って対照的にボブにとってはボブの量子系は取り出せるエネルギーが存在しない「無」の状態のままである.このように,現代的コペンハーゲン解釈で許される観測者依存性のおかげで,エネルギーがテレポートしたように見えても因果律は保たれている.非相対論的モデルを前提にして,系のエネルギー伝搬速度より速い光速度でアリスが測定結果をボブに伝えたとしよう.アリスが測定で系に注入したエネルギーはボブにまだ届いていないにも関わらず,情報を得たボブにも波動関数の収縮が起こり,自分の量子系から取り出せるエネルギーの存在に気付く.そしてボブは測定値毎に異なる量子揺らぎのパターンに応じて適当な局所的操作を選び,エネルギー密度の量子揺らぎを抑えることが可能となる.その結果ボブは平均的に正のエネルギーを外部に取り出すことが可能となる.これがQETである.このQETは量子ホール系を用いて実験的に検証できる可能性が高い.一方,相対論的なQETモデルはブラックホールエントロピー問題にも重要な切り口を与える.
著者
石川 顕一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.12, pp.818-819, 2016-12-05 (Released:2017-10-31)
参考文献数
5
被引用文献数
2

現代物理のキーワード電子の超高速運動を観測する・操作する
著者
田口 善弘
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.9, pp.659-660, 2019-09-05 (Released:2020-03-10)
参考文献数
3

シリーズ「人工知能と物理学」機械学習のコモディティ化
著者
長谷川 剛 小林 研介 村上 修一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.228-231, 2020-04-05 (Released:2020-09-14)
参考文献数
7

令和元年度科学研究費助成事業(科研費,基盤研究等)審査結果報告
著者
土井 正男
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.8, pp.551-557, 2018-08-05 (Released:2019-03-12)
参考文献数
15
被引用文献数
2

蒸発と乾燥は我々の身近にみられる現象である.皿の上の水滴がいつの間にか消えている,洗濯ものが乾いてゆく,茶碗の底のご飯粒がカチカチになってしまう,などは典型的な蒸発・乾燥現象の例である.蒸発とは,物質が液体から気体に変わる相転移現象であると学校では教わるが,実生活で我々が見ている現象はそれだけではない.洗濯ものが乾くときのことを考えてみよう.洗濯物が乾いてゆくとき,水はいきなり気体になっているのではない.水は繊維の間を流れつつ蒸発してゆくのである.この流れには表面張力,界面張力,繊維の弾性力などが関与しているが,原因となっているのは水の蒸発である.洗濯ものの乾燥では,蒸発によって水の流動,気液相転移,水蒸気の拡散などが同時に起こっている.同じようなことが燃料電池の中でも起こっている.燃料電池の中では,水素,酸素および水が気体や液体に状態を変えながら電解質材料の中を移動している.そのコントロールは電池の設計上重要である.洗濯ものの乾燥の問題は,先端科学と結びついている.一般に蒸発・乾燥は物質内部の流動や変形を引き起こし,それが乾燥後の物質の構造に影響を与えるので,蒸発・乾燥の物理を理解することは物質科学の上からも重要である.最初に蒸発速度について誤解を解いておく.蒸発は液体表面で起こる現象だから,蒸発速度は表面近傍の条件で決まっていると考えている人がいるが,これは大きな誤解である.通常の蒸発条件では,液体表面には液体と平衡になっている蒸気があり,蒸発速度は,この蒸気がどのくらい速く運ばれてゆくかで決まっている.これは蒸気の拡散と空気の流れの絡む流体力学の問題である.実際,蒸発速度は物質が置かれた環境に強く依存する.例えば,試験管の中の水の蒸発速度は,管の半径や入っている水の量によって大きく違う.蒸発には,気中の運動だけでなく,液中の運動も絡んでいる.皿の上のコーヒーの滴が乾くと,リング状のコーヒーのしみが残っているのが良く見られるが,この現象は,蒸発によってコーヒー滴の中に中心部から外縁部に向かう流れが誘起されることによってできる.この問題の厳密な取り扱いは難しいが,Onsager原理を応用した,近似的ではあるが,簡便な取り扱いをすることができる.この方法によって乾燥後に残された堆積物の形や,蒸発によって起きる液滴の運動などが理論的に議論できる.蒸発はまた,物質内の構造変化をもたらす.均質な溶液であっても,蒸発にともない,溶液内の溶質の分布は不均一になる.たとえば,高分子系では表面にスキン層と呼ばれる膜ができることがあり,これにより,表面に凹凸ができたり,内部に空洞が発生する.また,粒径の異なる大小のコロイド粒子の混合溶液では,蒸発後の表面にはサイズが小さい粒子が偏析する.これらの現象も物理の言葉で理解できる.
著者
天羽 優子 菊池 誠 田崎 晴明
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.342-346, 2011
参考文献数
4

「『ありがとう』などの『よい言葉』を見せたり『美しい音楽』を聴かせたりした水は凍らせたとき美しい結晶を作るが,『ばかやろう』などの『悪い言葉』を見せた水は凍らせても結晶を作れない」というのが「水からの伝言」という物語である.この単なるファンタジー(ないしはオカルト)が,時に「科学的」とさえみなされ,学校教育の現場にまで浸透している.ここでは,予備知識のない読者を想定し,「水からの伝言」をめぐる状況を紹介し,関連する問題点や論点を簡潔に整理したい.
著者
小宮山 進 竹川 敦
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.422-426, 2017-06-05 (Released:2018-06-05)
参考文献数
5

物理教育は今このままで良いのか大学の電磁気学教育
著者
荒船 次郎 梶田 隆章
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.12, pp.860-865, 2012-12-05

日本の宇宙線研究を語る際宇宙線研究所の果たしてきた役割を忘れるわけにはいかない.本稿では,宇宙線研究所の前身である宇宙線観測所の時代から現在まで宇宙線研究所の関わってきた宇宙線研究を概観し,宇宙線研究所が日本の宇宙線研究に果たした役割を振り返ってみたい.
著者
諏訪 秀麿 藤堂 眞治
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.11, pp.731-739, 2022-11-05 (Released:2022-11-05)
参考文献数
52

マルコフ連鎖モンテカルロ法は多自由度系に対する強力な数値積分手法として,さまざまな分野で広く用いられている.この手法では,積分変数を状態変数とみなして,状態を逐次的に更新するシミュレーションを行う.このとき状態遷移が確率的であることがモンテカルロ法の特徴である.十分長時間のシミュレーションにより,任意の分布(例えばボルツマン分布)からの状態サンプリングが可能となる.ここで確率的な状態遷移を,状態空間中でのランダムウォークとみなすことができる.遷移確率は,通常,詳細つりあいを満たすように決められる.これは状態空間に正味の確率流がないこと,つまりは平衡状態からのサンプリングに対応する.このときの時間発展ダイナミクスは可逆である.マルコフ連鎖モンテカルロ法では,ランダムウォークのおかげで,長時間待てばどんな複雑な分布からもサンプリングができるが,悩ましいことに,そのランダムさゆえに計算効率が悪くなってしまう.ダイナミクスが拡散的であるため,行ってほしいところになかなかたどり着けないのである.計算効率を上げるには,逆説的ではあるが,ランダムウォークのランダム性をうまく抑える必要がある.つまり,詳細つりあいを破ることで,状態空間に確率の流れを作り出し,その流れに沿って,効率的にサンプリングを行えばよい.たとえ詳細つりあいを破っても,分布の収束先(定常分布)を不変に保つことができれば,非平衡定常状態からのサンプリングにより,平衡状態を用いたときと同じ積分計算を実行できるのだ.このような動機のもと,20世紀末頃から,詳細つりあいを満たさない不可逆なダイナミクスが数学的に議論され始めた.典型的な可逆ダイナミクスに対して摂動的に可逆性を破ると,必ず分布の収束が速まることが証明された.また状態空間が1次元などの特殊な場合,収束のスケーリングが大幅に改善されることが示された.しかしながら,物理的に興味のある多体問題に対して不可逆モンテカルロ法が実用的かどうかは,長い間わかっていなかった.そのような状況の中,ようやくここ10年ほどで,実用的かつ効率的な不可逆モンテカルロ法が開発された.中でも,状態空間を拡張し,その拡張された空間で確率の流れを導入するアプローチ――リフティング――がさまざまな系に用いられている.例えばイベント連鎖モンテカルロ法では,どの粒子を動かすかという自由度も状態変数として扱い,一般的な相互作用粒子系に対して効率的なサンプリングを実現する.また,量子系における粒子数保存則などのような制約が状態空間にある場合,ワームアルゴリズムがよく用いられている.この手法の拡張版として,状態空間に向きの自由度を加えた有向ワームアルゴリズムが開発された.向きのない場合と比べて,計算効率を大幅に改善することができる.このようにリフティングはさまざまな系に適用することができ,幅広い分野でますます重要となるであろう.今後,不可逆モンテカルロ法の基礎理論の発展と共に,さらなる効率的なアルゴリズムが生まれてくると期待される.
著者
宮沢 弘成
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.211-213, 2000-03-05 (Released:2019-04-26)
被引用文献数
1
著者
田崎 晴明
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.378-379, 2019-06-05 (Released:2019-10-25)
参考文献数
6

特別企画「平成の飛跡」 Part 2. 物理学の新展開量子力学,統計力学,そして,熱力学
著者
前野 悦輝
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.175-176, 2019-03-05 (Released:2019-08-16)
参考文献数
16

談話室Leggett教授から物理学若手研究者へのメッセージ――傘寿を祝う研究会にて
著者
川崎 恭治
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.38, no.12, pp.919-927, 1983-12-05
被引用文献数
2

無秩序な状態が不安定になってそこから新しい秩序が出来て行く過程は自然界における最も魅力ある現象の一つである. この解説では自由度の数が無限に大きい場合について, この問題を相転移を例にとって説明する. 特にレーザー発振のような小数自由度系では見られない側面に焦点をあてる. この困難な問題を三つの段階に分けて考え, その中で界面, キンク等のトポロジカルな欠陥の果す役割について詳述する. その他, 不整合相における秩序相形成や物性物理以外の分野との関連についても簡単に触れる.
著者
波多野 恭弘
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.12, pp.836-840, 2016-12-05 (Released:2017-10-31)
参考文献数
21

話題―身近な現象の物理―物理屋のための地震学入門
著者
玉置 直樹 青木 伸俊 青地 英明
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.9, pp.648-657, 2018-09-05 (Released:2019-04-27)
参考文献数
34

半導体メモリは情報を制御・記憶する電子回路であり,電源を切ると情報が消失する揮発性メモリと電源を切っても情報を保持できる不揮発性メモリに分類できる.代表的な揮発性メモリはDRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)で高速な動作が特徴である.そのため,CPU(Central Processing Unit)に付随するワーキングメモリとして用いられている.一方,不揮発性メモリはデータを保存することに適したメモリであり,ファイルメモリと呼ばれる.中でも大容量化に適したものの1つがNAND型フラッシュメモリであり,近年急速に普及している.従来型の2次元フラッシュメモリの高集積化の手段は,メモリセルサイズとセル間隔を縮小することである.この集積化の様子をボードゲームの「オセロ」で例えてみよう.盤面にびっしりと「石」を並べると,石の色は1ビット,つまり2値のメモリ機能を持ち,石の大きさがセルサイズに,石が納められるマスの大きさはメモリ1ビットが占める面積に相当する.フラッシュメモリの場合にはセルの間に互いに干渉する効果があるため,ある程度のセル間隔も必要である.従って,決められた領域内に多くのセルを詰め込むには,セルサイズとセル間隔を小さくする必要がある.2000年代になり,いずれ微細化は限界に達するだろうと予測され,この2次元フラッシュメモリを2階建てにした3次元フラッシュメモリが考案された.しかし,この構造で階層を増やしていくと各層の2次元フラッシュメモリを順に作って,重ねていかなくてはならないため,製造コストが高くなってしまう.そこで,革新的に発想の異なる新たな3次元フラッシュメモリが登場した.基本構造は次のようなものである:ミルフィーユという菓子を想像してほしい.クリーム層とパイ生地層が幾重にも積層されている.同様に,メモリセルの元となる半導体と,セル間を隔てるための材料の積層構造をまず構成する.この積み重なった層を縦に貫く穴をあける.この穴の側面に,山を貫くトンネルの内側と岩盤を隔てる側壁のように,メモリ機能を持つ絶縁体膜をつくる.穴の中にはまた別の半導体が満たされる.この穴の中心から順に,穴の中の半導体,穴の側壁の絶縁体膜,そして積層構造の半導体層の3つが作る接合構造が,ひとつのメモリセルとして働き,1本の穴はメモリセルが積層の数だけ数珠つなぎにつながったNAND型フラッシュメモリとして機能する.Punch & Plug技術と呼ばれるこの方法では,積層構造に多数の穴が一括で形成され,これを用いた3次元フラッシュメモリをBiCS FLASHTMと呼ぶ.この方法は,従来型の2次元フラッシュメモリを積層した場合に比べ,必要な微細加工工程を大きく削減することができ,低コストで高集積化が可能であり,動作速度や信頼性により優れたメモリを実現する.一方,大容量化のためには積層数を増やす必要がある.このためには細く深いメモリホールを均一に形成する技術が必要になる.深穴の形成には反応性イオンエッチング技術が用いられるが,直径が100 nm程度で深さ数μmの高アスペクトの均一なメモリホールの開口には高度な技術が必要となる.物理と化学と技術の最先端が具現化したもの,それがフラッシュメモリである.
著者
須藤 靖
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.87-94, 2015-02-05 (Released:2019-08-21)

物理学会誌の記事のほとんどは難しい.私の知る限り少なくとも30年以上前から編集委員会の方々が編集後記で繰り返し,わかりやすい記事をと訴えかけ,かつそれに向けた不断の努力をされてきたにもかかわらず.多分にこれは,非専門家のためにではなく,身近な専門家の顔を浮かべながら執筆してしまう著者のせいである.これが良いことか悪いことかは自明ではないが,著者が「釈迦に説法」を避けるべく書いた解説が,大多数はその分野の非専門家である平均的物理学会員にとって「馬の耳に念仏」になってしまい,ほとんど読まれなくなっているとするならば,あまりにももったいない.一般相対論の研究者ではない私が本特集の序論的解説を依頼されたのは,まさにそのためであろう.というわけで,今回は学生時代に一般相対論の講義は受けたもののほとんど覚えていない,という平均的物理学会員を念頭においた平易な,といっても一般向け啓蒙書とは異なる解説を試みたい.したがって,もしも「釈迦に説法」あるいは「厳密には正しくない」と感じられた方がいたならば今回の試みは大成功だと言える.該当しそうな方はただちに本解説をスキップして以降の記事に進まれることを強くお薦めする.