著者
上野 健爾
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.785-794, 1988-10-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
10
著者
山口 幸司 堀田 昌寛
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.284-288, 2020-05-05 (Released:2020-10-14)
参考文献数
14

量子情報理論に基づく考え方は,量子コンピュータや量子通信の研究だけではなく,ブラックホール物理学や量子カオスなどとも関係して幅広い分野で利用されている.これらの研究とも深く関連する話題として,情報はどこに記憶されるかという基本的な問題について考え,そのひとつの答えである量子情報カプセルという概念を紹介する.量子系には通常,量子もつれと呼ばれる非局所的な相関が存在し,情報も非局所的に記憶される.例として,2量子ビット系の互いに直交する4つの最大量子もつれ状態(|0〉|0〉±|1〉|1〉)/√2と(|0〉|1〉±|1〉|0〉)/√2を考えよう.これらは非局所的な相関の違いによって区別できるが,各々の量子ビットを独立に調べるだけでは区別できない.つまり非局所的な相関にこれらの状態を特徴づける情報が含まれている.相関に含まれる情報の考察に便利な状況設定として,情報ストレージとみなした量子系に情報を書き込んで読み出すことを考える.例として,N個の量子ビットで構成される系を考えよう.あるひとつの量子ビットに未知パラメタに依存したユニタリ操作を行い,このパラメタの情報を読み出す.古典的類推から,書き込みを行った量子ビットから読み出せると想像するかもしれないが,それは正しくない.局所的な操作は非局所相関にも影響を与え,情報は自動的に非局所相関にも含まれるようになる.N量子ビット系が純粋状態にあるとき,非局所相関に書き込まれた情報もすべて読み出すには,単純には4N-1個の相関関数を測定すればよい.しかし書き込んだ情報を記憶する相関が同定できればそれ以外は測る必要はない.純粋状態にある部分系は,他の部分系とは相関がないため情報のひとつのユニットとして働く点で重要である.純粋状態にある部分系としてよく用いられるのが,純粋化パートナーである.今のようにあるひとつの量子ビットに書き込み操作を行う場合,純粋化パートナーの組で情報を共有しているとみなすことができる.初期状態において書き込みを行う量子ビットのパートナー量子ビットを探しておけば,その2量子ビット系は純粋状態であるため情報は外にもれない.この場合,15個の相関関数を測定すると情報が読み出せる.最近我々は量子情報カプセルという新しい概念を提案した.純粋化パートナーに共有されていた情報をうまく分解すれば,空間的に拡がったひとつの量子ビットが純粋状態として情報を記憶しているとみなせる.この量子ビットのことを量子情報カプセルと呼び,任意の初期状態に対して存在が証明できる.このとき情報を読み出す際に測定すべき相関関数は激減して3個になる.複数パラメタの情報の書き込みと読み出しを考えると,情報の独立性が失われて一般には情報の記憶構造は複雑になる.カオス的なダイナミクスで系をかき混ぜると,実は独立な量子情報カプセルが現れることで情報が互いに混ざり合わないことがわかった.これはフィッシャー情報行列に回転対称性が創発することを意味している.ガウス状態にある調和振動子系と量子場においては量子情報カプセルを探し出す公式を示すことができる.この公式からパートナーを同定する公式を導けるため,量子情報カプセルはパートナーよりも基礎的な概念であるといえる.この公式を量子場を媒介とした情報伝達過程の解析に応用し,量子もつれを利用して情報伝達効率を上げることが可能なことがわかった.特に,情報のシグナルが伝搬する因果円錐の外側で行う測定によっても情報伝達効率を向上させられることが明らかになった.更に,量子情報カプセルは量子衝撃波による情報伝達過程の解析にも応用可能である.
著者
阿部 龍蔵
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.252-258, 1996-04-05
参考文献数
46

ここ半世紀の間に, 我が国で物理学上のいくたの重要な貢献がなされた. 統計物理学における重要な寄与の一つは松原により導入された Green 関数である. これは, しばしば松原 Green 関数ともよばれ, 体系の熱平衡状態だけでなく非平衡状態に対する有用な知見を提供する. 著者自身の経験も含め, 歴史的な背景も加味して, このような Green 関数の解説を試みたい.
著者
今田 正俊
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.437-446, 1993-06-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
61
被引用文献数
1

「量子モンテカルロ法」とは何だろうか?多体量子系に対する数値計算の手法はいろいろあるが,そのうち「量子モンテカルロ法」は経路積分に基礎を置くものの総称である.経路積分が典型的な非摂動論的手法であることは知られている.ところで,物性物理学の研究の動向に目を向けてみると,強く相関する電子系の諸問題が困難な,しかし根本的な課題として広く認識されている.やや誇張していえば,強相関電子系の長い研究の歴史にもかかわらず,はっきりしたことは何も解明されていないというわけである.世に言う「高温超伝導」(すなわち銅酸化物超伝導体)の問題がその典型である.強相関電子系にアタックするのに適した非摂動論的手法として,「量子モンテカルロ法」の開発と応用が最近進んできた.まず開発途上のこの手法の現状に目を向けるのがこの解説の目的の一つである.強相関電子系の示す典型的な現象にモット転移(金属-絶縁体転移)がある.金属が絶縁体に転移するとき,電子の有効質量が発散するのか,それともキャリアの数がゼロになるのかという異なる二つの考え方がある.この対立概念を源として,金属-絶縁体転移に関する量子モンテカルロ計算の結果はより広範で基本的な問題提起へとつながってゆく.この問題を「量子モンテカルロ法」の応用例として考えてみるのが本稿のもう一つの目的である.
著者
グレゴリー・A グッド 有賀 暢迪
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.12, pp.856-859, 2019-12-05 (Released:2020-05-15)

話題未来のために歴史を残す――アメリカ物理学協会(AIP)のオーラル・ヒストリー
著者
並木 美喜雄
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.19-26, 1989-01-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
34
被引用文献数
2

1987年4月から10月までの僅か半年の間に量子力学の基礎についての国際会議が5回もあった. この年はシュレーディンガー(E. Schrodinger)の生誕百年に当たっていたこともあって, それを記念しての集会が多かった. ちなみに, シュレーディンガーは1887年8月12日に生まれている. 1987年以前にも, 1983年からの4年間に10回ほど会議が開かれていたのである. 量子力学の発足を1925年とすれば, 1985年は量子力学還暦の年であるし, 同時に先達ボーア(N. Bohr)の生誕百年記念の年でもあった. これら以外にも, いくつかの記念集会があった. たしかに, 量子力学はこの数年間に記念碑的な折り目節目を通過してきたわけだ. しかし, それだけでこれほど多くの会議は開けない. 理論的展開とともに, いやそれ以上に, 技術革新による原理的実験の発展があり, 観測問題自身が全く新しい時代を迎えつつあるからである. ここでは会議の一部を紹介すると同時に, 量子力学の原理的諸問題に関する最近の話題について語りたい. ただ, 私もすべての会議に出席したわけではないし, 話の内容も私自身の興味に偏るであろうことをお断りしておく.
著者
河村 豊
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.706-710, 2016-10-05 (Released:2017-04-21)
参考文献数
26

変わりゆく物理学研究の諸相―日本物理学会設立70年の機会に日本における物理学研究の転換点をふりかえる―(歴史の小径)島田実験所という研究プロジェクト:戦時科学動員は何をもたらしたのか
著者
原 隆 古池 達彦
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.10, pp.793-801, 1999-10-05
参考文献数
31

アインシュタインの一般相対論, 及びその予言する宇宙観は我々の日常感覚とはかなりかけ離れたものであり, 活発な議論の対象となってきた. 特に星の重力崩壊, その結果としてのブラックホールの形成は, 専門家のみならず一般の人の興味をも十分にそそる問題である. アインシュタイン方程式は悪名高き非線形偏微分方程式の典型であり, その性質には(正確に解ける特殊な例などを除き)未知の部分が多い. しかし, ここ20年ほどの間, 計算機を用いた数値相対論の発展とともに, それまでに思いもかけなかったことがわかってきた. 本解説ではその一つ, 「重力崩壊における臨界現象」を取り扱う. (著者の一人が最近までそうであったように)学生時代に一般相対論をかじったまま忘れていたような非専門家を対象に, 「重力崩壊」や「臨界現象」とは何かから始めて, わかりやすく解説することを目的とする.

18 0 0 0 OA 分裂するスピン

著者
求 幸年
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.12, pp.852-853, 2017-12-05 (Released:2018-09-05)
参考文献数
4

現代物理のキーワード分裂するスピン
著者
相川 恒 小林 研介 中西 毅
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.682-689, 2004-10-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
35
被引用文献数
1

電子を微小な領域に閉じ込めた量子ドットは人工的に制御可能な量子系であり,少数多体問題,量子カオス,量子デコヒーレンスなどの舞台として注目されてきた.最近,エネルギースペクトルばかりでなく干渉実験によって位相情報を抽出しようという試みが始まり,また新たな問題提起もなされている.本稿では干渉実験で何が問題となったかについて,そしてそれを解決することによって明らかになった量子ドットの電子状態の性質について解説する.
著者
宮本 岩男
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.103-107, 2022-02-05 (Released:2022-02-05)
参考文献数
5

話題ビックデータ解析基盤(e-CSTI)を活用し「選択と集中」について考える
著者
笹本 智弘
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.380-381, 2019-06-05 (Released:2019-10-25)
参考文献数
3

特別企画「平成の飛跡」 Part 2. 物理学の新展開非平衡系における普遍性と数理――KPZ方程式を例として
著者
工藤 和俊 岡野 真裕 紅林 亘
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.78, no.7, pp.390-398, 2023-07-05 (Released:2023-07-05)
参考文献数
66

神経細胞を含む多様な細胞の集合体であるヒトの身体は,身体をとりまく地球環境がそうであるように,外界との間にエネルギーの移動があり,要素同士が複雑に相互作用し,束の間の秩序を保ちながら時間発展し自己組織化する非線形・非平衡開放系である.この非線形・非平衡開放系を解析し記述する方法論としての力学系アプローチはこれまで,身体におけるミクロな神経細胞の相互作用から,よりマクロな個体の振る舞い,さらには個体集団の集合的な振る舞いを共通の数理によって記述することに成功してきた.その具体例の1つは,身体運動の揺らぎの構造に関する研究である.絶えず変化し続ける身体ゆえに,たとえ立位で静止しようとしても姿勢を固定して留め置くことはできず,同一の運動を正確に再現しようとしても常に変動が付きまとう.これらの運動の時系列は,しばしば自己相似性(フラクタル性)を示すとともに,運動の学習段階や制御特性に応じてそのスケーリング指数が変化していく.また,このスケーリング指数は立位,歩行,会話を含むさまざまな運動や行為において,個人のダイナミクスすなわち個性を反映する指標になりうる.近年ではさらに,複数の人々が関わる場面を解析対象とすることで,対人間(たいじんかん)におけるダイナミクスレベルでのグローバルな協調関係を定量化する試みが進められている.もう1つの具体例は,ヒトの周期的な身体運動における協調パターンに関する研究である.ヒトの身体運動においては,歩行,ダンス,音楽演奏など,様々な周期的運動の協調パターン変化を,非線形力学系の秩序パラメータ変化に伴う分岐現象として記述できることが明らかになった.これにより,運動の学習プロセスを力学系の時間発展として理解することが可能になるとともに,「無秩序(試行錯誤)から秩序へ」という学習進展だけでなく「既存の秩序から新たなる秩序へ」という種類の学習プロセスを数理的に記述することが可能になった.これらの数理モデルはまた,パフォーマンスの急激な向上や学習停滞(プラトー)など運動の学習プロセスにおける様々な現象が,力学系の時間発展に伴い自発的に生じうることを示唆している.ヒト同士の社会的相互作用についても,対人間の運動協調課題において個人単独とは異なる振る舞いの創発が報告されており,結合振動子系モデルによってこの現象が再現されている.また,対人間における運動の協調がヒトの向社会行動を促進することが明らかにされており,ヒト社会において時代や地域を問わず普遍的に存在する音楽やダンスの社会的機能や役割について,定量的な解析が可能になりつつある.以上のとおり,身体を非線形力学系として捉えるという立場から,ヒト個体のみならず,ヒト集団の社会的振る舞いを含めた幅広い時空間スケールの現象を統一的に捉えることが可能になる.このような物質・生命・社会の境界を越えたスケールフリーの法則性を見出そうとするアプローチは,ヒトの振る舞いを微視的な物質要素から説明しようとする立場に対する相補的な方法論として,今後さらなる発展が期待される.