著者
中尾 雄太 大西 英雄 遠藤 優有美 城本 修 村中 博幸
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.146-154, 2014

われわれは,音刺激への注意喚起における脳賦活領域を同定するために,fMRI(functional magnetic resonance imaging)を用いて,「聴く」と「聞く」における脳賦活領域を定量的に比較検討した.さらに,自作したソフトウェアを用いてMR画像の賦活領域の体積を算出し,各領域における賦活程度を比較した.聴覚障害を認めない健常成人12名(男性5名,女性7名)に対して,男性話者と女性話者の単音節聴取課題,雑音下聴取課題を行った.その結果,音刺激へ注意を喚起すると,前頭前野,縁上野,帯状回が賦活することが示唆された.また,同性話者より異性話者の声に注意を喚起したほうの脳活動が活発になると示唆された.
著者
林 千渝 宇野 彰
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.37-42, 2015
被引用文献数
1

本研究では台湾の小学三年生103名を対象とし,これまで報告されてきた文字習得にかかわるとされる音韻認識能力,視覚認知能力,自動化能力,語彙力のなかで,台湾の中国語話者児童においてどの認知能力が中国語漢字の音読力に関与するのかを明らかにすることを目的とした.さらに,台湾で用いられている注音の構造から,音節と音素の2種類に分けた音韻認識能力の検査を用い,音読発達にかかわる影響を検討した.その結果,視覚認知課題と自動化課題の成績が漢字一文字音読成績を予測していた.中国語漢字は形態的変化によって意味や読み方が異なる文字であるため,視覚認知能力の貢献度が高かったのではないかと考えられた.また,台湾児童は,音読の際,音素や音節の単位よりも,sub-syllabic unitであるonsetやrimeを認識し,操作している可能性が考えられた.
著者
川崎 順久 福田 宏之 酒向 司 塩谷 彰浩 辻 ドミンゴス 浩司 高山 悦代 蓼原 東紅
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.381-387, 1990

小児声帯結節の治療方針について, 全国の耳鼻咽喉科医62名を対象にアンケート調査を行った.その結果, (1) 60名中55名が小児声帯結節は男児に多いと回答した. (2) 治療方針は保存的治療, 経過観察, 希望があれば手術を行う, の順に多かった. (3) 積極的に手術を施行しない理由として, 再発しやすいから, 自然治癒しやすいから, との回答が多かった. (4) 手術を行う場合, 96.9%が入院のうえ, 93.8%が挿管全身麻酔によるラリンゴマイクロサージェリーを施行すると回答した. (5) 以上の結果から, 小児声帯結節の治療方針として, まずは保存的治療あるいは経過観察を行うという意見が大半を占めたが, 音声外科を専門としない耳鼻咽喉科医の間では本疾患の自然治癒に関する認識は不十分であった.
著者
猪俣 朋恵 宇野 彰 伊澤 幸洋 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.246-253, 2011 (Released:2011-10-06)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

漢字学習過程を想定し, 意味を付与した非言語的な図形を繰り返し模写, 再生する長期記憶検査 (図形学習検査FLT;Figure Learning Test) を新たに作成し, 小学校1~6年生の典型発達児75名と発達性読み書き障害児6名に実施した. 典型発達児では FLTの遅延再生得点と漢字の書き取り成績との間に有意な相関関係を認めなかった. 非言語的図形の長期記憶力に明らかな低下がない場合, 非言語的図形の長期記憶力以外の他の要因も漢字書字成績に影響しやすいのではないかと考えた. 一方, 発達性読み書き障害児では, 高学年児においてFLTの遅延再生得点が典型発達児に比べて-1.5SDもしくは-2SD以下と低下していた. また, 繰り返しの学習の効果が十分に得られないという特徴や意味との対連合学習で困難を示すといった特徴がみられた. 非言語的図形の長期記憶力が漢字書字の学習到達度に影響しうることが示唆された.
著者
春原 則子 宇野 彰 金子 真人
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.10-15, 2005-01-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
17
被引用文献数
12 7

発達性読み書き障害の男児3例に対して2種類の方法で漢字書字訓練を行い, 単一事例実験研究法を用いてその効果について検討した.3例とも音韻認識力や視覚的認知, 視覚的記憶力に低下を認め, これらが漢字書字困難の原因になっていると考えられた.一方, 音声言語の記憶力は良好であった.漢字の成り立ちを音声言語化して覚える方法 (聴覚法) と, 書き写しながら覚える従来の学習方法 (視覚法) を行い, 訓練効果を比較した.その結果, 効果の持続という点において聴覚法が視覚法に比べて有用であることが示唆された.視覚的情報処理過程に低下がある一方で, 音声言語の記憶力が良好であった本3症例にとっては, 見て写しながら覚えるだけでは十分に漢字書字が獲得できず, 聴覚法が有効なルートとして機能したものと考えられた.
著者
島守 幸代 反田 千穂 伊藤 友彦
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.330-334, 2010-10-20
被引用文献数
1

本研究は吃音児に対する話し方の指導法を開発するための基礎的研究として,1)幼児は発話速度をいつ頃から意識的に調節できるようになるのか,2)速度調節の発達は声の大きさ調節の発達とは異なるのかどうか,について検討したものである.対象児は3歳から6歳の幼児81名であった.刺激語の速度(「ゆっくり」,「速く」)と大きさ(「小さい声」,「大きい声」)を調節させる課題を行った.その結果,速度調節が可能な幼児の割合は3歳で10.0%,4歳で14.3%,5歳で63.6%,6歳で88.9%であった.大きさ調節が可能な幼児の割合は,3歳で35.0%,4歳で61.9%,5歳で77.3%,6歳で94.4%であった.これらの結果から,4歳までは速度調節のほうが大きさ調節よりも困難であることが示唆される.一方,5歳になると速度調節が可能な幼児の割合が著しく増加し,大きさ調節との差が小さくなり,6歳ではほとんどの対象児で速度も大きさも調節可能になることが明らかになった.
著者
山田 純
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.287-290, 1997-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
26

日本語児の発達性難読症についての関心が高まりつつあるが, 現在のところその研究は乏しい.本稿では, 日本語の後天性難読症, 英語の発達性難読症, 失語症の研究を概観し, 日本語児発達性難読症研究への示唆を検討する.特に, 日本語の書字特性, 難読症のタイプ, 診断について考察する.
著者
小島 義次 小島 千枝子 窪田 俊夫
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.250-258, 1981-07-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
24
被引用文献数
2

In order to investigate the nature of motor defects of the speech musculatures in dysarthric patients due to cerebral vascular accidents, non-verbal oral movements were studied in relation to overall intelligibility of speech, coordinative movements of speech organs and swallowing movements.The results led us to the following conclusions.1. The degree of individual isolated oral movements were correlated with efficacy of articulatory, coordinative and swallowing movements.2. A considerable number of the subjects, particularly the subjects whose articulation were moderately disturbed, showed unconscious accompanied movments in other parts during an intended oral movement.3. The types of the accompanied movements were often common to different subjects.4. In spite of the lower grade of oral movements ability, the subjects who exhibited more accompanied movements got fairly well marks in swallowing. This seemed to indicate that the accompanied movements reflected the lower motor patterns of speech organs in some way.5. It is important to estimate the degrees of the accompanied movements and the isolated movements for the evaluation of the ability of oral movements.
著者
安田 菜穂 吉澤 健太郎 福田 倫也 雪本 由美 秦 若菜 原 由紀 正來 隆 頼住 孝二
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.27-32, 2012 (Released:2012-02-08)
参考文献数
13
被引用文献数
1

吃音2例(30代,10代)に流暢性スキル(呼吸コントロール,フレーズ内の語と語の持続的生成,母音の引き伸ばし,軟起声,構音努力の修正)の獲得を目標とした言語聴覚療法(ST)を実施し,ST初回と最終回の文章音読を比較検討した.所要時間中の音読・症状・休止部分を音声分析ソフトで測定し,症状および休止部分を除いた音読部分から音読速度を算出した.音読速度は症例1:初回5.29モーラ/秒→最終回3.29モーラ/秒,症例2:8.86モーラ/秒→6.16モーラ/秒.所要時間中の休止部分の比率は症例1:19.4%→46.7%,症例2:26.2%→38.4%,症状部分は症例1:13.5%→0%.症例2:7.2%→0%.2例の音読の特徴は,初回時の「短く途切れた音読」から,最終回には吃症状の消失に加え,音読速度の低下した「音節,休止の各持続時間の延長した音読」へと変化し,流暢性スキルの獲得が確認された.
著者
須永 義雄 M. D.
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.53-61, 1971-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

A physiological experiment was carried out on six types of“placing the tone”by F. Husler (type No. 1 was abridged) with a forty-one years old tenor. The vowel used was“a”, and the vocal pitch was“f”in No. 2, 3a, 3b and“a'”in No. 4, 5, 6.The following items were analysed:1) The vibration mode of the vocal cords (Fig. 1) and its opening and closing time rate (Tab. 1) as observed by ultra-high speed laryngocinematography.2) The displacements of the larynx (Fig. 2, 3) and the diaphragm (Fig. 6) by X-ray cinematography.3) The sound spectrum of the voice (Fig. 4) .4) The air flow rate, the vocal intensity, the circumference of the chest and the abdomenn on four points were recorded polygraphically (Fig. 5) and mean values were estimated (Tab. 2) .The subject showed some difficulty in performing proper control of breathing for the type six.
著者
廣田 栄子 田中 美郷 前田 知佳子 芦野 聡子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.287-295, 1988

普通小学校に在籍する高度感音性聴覚障害児91例を対象とした.そのうち13例は幼児期に3年以上手指法を用い聴覚と読話を併用していた (指文字6例, キュード・スピーチ7例) .幼児期より聴覚口話法を用いた78例の検査結果と比較した.被検児に対し読書力検査と失語症構文検査を行い言語力を評価し, 57S語音明瞭度検査と単語了解度検査を用いて語音聴取力を評価した.話声位検査, 100音節発語明瞭度検査, アクセント検査を用いて発声発語力を評価し, 発話の聴覚印象によって音声障害の重症度を評価した.その結果, 幼児期に用いた言語メディアによって学童期の言語力に差は認められなかった.一方, 手指法を併用した聴力75dB以上100dB未満の症例では, 音声の韻律的障害が著しく, 聴覚口話法を用いた症例と比べて発声発話力の低下を認め, 単音節語音の弁別力の低下を認めた.これらの症例に手指法を併用するときには, 聴覚活用と音声障害の改善について配慮が必要であると結論した.
著者
佐藤 公則
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.432-437, 2002-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
18
被引用文献数
11 8

声帯萎縮の病理組織を解説した.1) 声帯萎縮とはいったん正常の大きさまで発育した成人・小児声帯の容積, あるいは声帯の層構造を構成する各組織の容積が単独にあるいは重複して減少し, 発声機能が低下する変化と定義できる.2) 各疾患・病態における声帯組織の萎縮部位は異なっている.3) 反回神経麻痺では, 声帯筋層の容積が単独に減少し, 声帯に萎縮が起こる.4) 声帯溝症では, 声帯粘膜固有層浅層の容積が単独に減少し, 声帯に萎縮が起こる.5) レーザーあるいは放射線照射後の声帯組織では, 被照射声帯組織の容積が単独あるいは重複して減少し, 声帯に萎縮が起こる.6) 加齢に伴う声帯の萎縮は, 声帯の粘膜固有層と筋層の容積が重複して減少するが, 特に粘膜固有層浅層の容積の減少が大きく関与している.7) 声帯の組織学的構造および萎縮声帯の病理組織像を理解することは, 声帯萎縮をきたす各疾患あるいは病態に対する治療理念を理解するために必要である.
著者
吉田 大地 細川 清人 北山 一樹 加藤 智絵里 小川 真 猪原 秀典
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.223-232, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
35
被引用文献数
2 2

Acoustic Voice Quality Index(AVQI)は持続母音と文章音読の両者の録音音声を用いた音響分析手法であり,日本語においても高い診断性能が報告されている.しかしながら,文章音読の課題文が異なれば診断性能が損なわれる可能性がある.そこで当研究では,課題文の変更による診断性能への影響を調査した.全311録音について,「北風と太陽」の第2文までの計58音節を既報で使用された前半30音節と検証用の後半28音節に分割しそれぞれのAVQI値を求めた.聴覚心理的評価との相関係数はそれぞれ0.850および0.842,受信者操作特性曲線の曲線下面積はそれぞれ0.897および0.892であり,ともに良好な診断性能が確認された.また,両者の値の差はわずかであった.当検討における課題文の変更はAVQI値の変動に大きな影響を与えず,AVQIは課題文変更をある程度許容できる可能性が示唆された.
著者
後藤 多可志 宇野 彰 春原 則子 横井 美緒 三盃 亜美 大六 一志
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.105-115, 2023 (Released:2023-04-29)
参考文献数
21

本研究では,小学4年生から中学3年生までの発達性読み書き障害児24名と典型発達児24名を対象に,ユニバーサルデザインデジタル教科書体(以下,UD書体)が音読や読解に与える影響を検討した.刺激は,音読課題(仮名非語,文章およびアルファベット)と文章読解課題で,書体はUD書体と教科書体の2種類を使用した.対象児に,2種類の書体で作成された音読課題と読解課題を実施した後,文字の読みやすさについて内観を聴取した.その結果,両群ともに音読課題における所要時間,誤読数,自己修正数と,読解課題の正答数に2書体間で有意差は認められなかった.主観的に,両群とも文字の可読性と読みの正確性についてUD書体を有意に選好したが,読みの流暢性についてUD書体は有意に選好されなかった.本研究の結果から,客観的評価と主観的評価は異なり,UD書体による正確性,流暢性および読解力に関する「読みやすさ」の指標は見出せなかった.
著者
綿森 淑子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.227-243, 1982-10-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
64
被引用文献数
7 7

The purpose of the present study was to look specitically for the presence of subtle linguistic and nonlinguistic deficits that persist after left hemisphere lesions incurred during infancy or childhood, and to compare them with the ultimate outcome for the late onset aphasics (adult and geriatric aphasics) .A battery of linguistic and nonlinguistic examinations was given to a total of 17 CVA patients divided into three groups, i. e., 5 child aphasics (younger than 15 years old at the time of onset) ; 6 adult aphasics (20 to 59 years at the time of onset) ; and 6 geriatric aphasics (older than 60 years at the time of onset) . Six normal elementary school children (mean age : 11.5) served as controls. The results of these examinations were compared among the three aphasia groups and analyzed in relation to the lesion information obtained by CT scan.The results were as follows1. Child aphasics as a group exhibited a superior performance for linguistic and communicative functions among the three groups. Nevertheless, child aphasics were significantly inferior to the normal control children especially on syntactic and reading tasks. Moreover, the chidren who incurred brain injury befory the age of three exhibited a severe limitation in nonlinguistic functions. Older children (with the onset of aphasia after the age of six) exhibited a more selective disorder of linguistic functions with some correspondence to the site of their lesion in the left cerebral hemisphere.2. The adult aphasics exhibited selective disorders of linguistic functions corresponding to the site of their lesion in the left cerebral hemisphere.3. The pattern of linguistic impairments in the geriatric aphasics did not always correspond to their lesion sites as obtained by CT scan. Some of the patients in this group exhibited disorders in nonlinguistic functions as well.Based on these findings, underlying mechanisms for the differential recovery among the different age groups were suggested.
著者
小山 正
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.237-243, 2023 (Released:2023-09-29)
参考文献数
20

初期の時間,位置や場所を表示する語の獲得は動作語の獲得との関連が指摘されてきた.そこには,子どもの日常生活における認知や遊びの発達との関連性が考えられるが,その点についての資料は少ない.本研究では,定型発達の子どもの初期の時間,位置や場所を示す語の獲得が進む2〜3歳の時期に注目し,家庭における認知・遊びの発達との関連性を検討した.研究協力者は,保育所に在園する子どもとその保護者で,保護者にマッカーサー乳幼児言語発達質問紙(CDI)と家庭での認知・遊びの発達に関する調査に縦断的に回答してもらった.生後23ヵ月時から36ヵ月時のCDI「語と文法」における動作語,時間,位置や場所を表示する表出語彙得点と家庭での認知・遊びの諸変数との相関分析の結果,時間,位置や場所を表す語の獲得は動作語の獲得や家庭での認知・遊びの発達における「人の行為の表象化」「物での構成遊び」や「空間理解」との関連が示唆された.
著者
羽石 英里
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.160-164, 2023 (Released:2023-09-28)
参考文献数
9

本稿では,発声・発話機能の改善を目的とする歌によるリハビリテーション「音楽療法ボイスプログラム(MTVP)」について解説する.この介入プログラムは,パーキンソン病患者を対象とし,歌うことの運動療法的な効果に着目したものである.歌うことが呼吸器官や体幹の筋肉をダイナミックに活用した「運動」であることは,リアルタイムMRIで確認されたプロ歌手による横隔膜の巧みなコントロールにも表れている.また,長年歌うことを習慣としてきた高齢者の発声機能が,習慣としてこなかった者に比べ高いことから,歌を継続することのメリットも推察される.MTVPは,身体のウォームアップ,呼吸・発声・構音の訓練,音読訓練,好みの曲の歌唱等を含む一連の活動からなる.音楽療法士は,歌うことに伴う心理的な影響も勘案しながら,発声・発話能力の向上を目指す.
著者
水田 匡信 土師 知行 阿部 千佳
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.186-194, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
32

ケプストラム解析に基づく音響分析(ケプストラム音響分析)は音声信号の個々の周期の同定を必要とせず,会話音声にも適用でき,また重度嗄声も解析できると考えられる.ケプストラム音響分析の指標であるCPP(cepstral peak prominence)とCSID(cepstral spectral index of dysphonia)の妥当性は,主に聴覚心理的評価との相関解析と,嗄声の有無の診断能に関するROC(receiver operating characteristic)解析により検証されており,英語や日本語を含め多言語において,持続母音だけでなく会話音声での高い妥当性が報告されている.また分析対象とする音声波形の範囲により算出される値が異なる可能性(検査の信頼性)があるが,今回重度嗄声例を用いて検証したところ,CPP,CSIDでは重度嗄声例においても信頼性が保たれることが確認された.このようにケプストラム音響分析は持続母音と会話音声に対して高い妥当性を有し,また重度嗄声に対しても高い信頼性を有すると考えられ,日常の音声障害診療において広く使用されることが望まれる.
著者
鈴木 匡子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.300-303, 2004-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
22
被引用文献数
1

発語失行の責任病巣については長年議論されてきたが, どの部位が最も重要かに関しては異論も多い.これまで報告された左半球病巣による純粋発語失行例21例をまとめると, 1例を除き全例で中心前回下部が病巣に含まれていた.一方, 失語症で発語失行の要素を含む症例の検討では島前部を重視する報告が出された.われわれは, 言語優位半球病巣をもつ症例において構音を含む言語機能および行為について検討した.また, 脳腫瘍例においては皮質電気刺激による術中言語マッピングを施行した.その結果, 発語失行の責任病巣としては言語優位半球中心前回下部が最も重要で, 島前部は必須の領域ではないことが示された.術中マッピングでは, 中心前回下部は口舌の運動野やnegative motor areaと同定される例が多かった.以上より, 言語優位半球中心前回下部は高次の運動コントロールに密接に関係しつつ, “言語野”として働いていると推定された.