著者
酒井 奈緒美 森 浩一 小澤 恵美 餅田 亜希子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 = The Japan Journal of Logopedics and Phoniatrics (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.16-24, 2006-01-20
被引用文献数
1 2

吃音者がメトロノームに合わせて発話すると, 流暢に話せることが知られている.その現象を利用し, 多くの訓練のなかでメトロノームが利用されてきた.しかしその効果は日常生活へと般化しづらいものであった.そこでわれわれは国内で初めてプログラム式耳掛型メトロノームを開発し, 日常生活場面において成人吃音者へ適用した.耳掛け型メトロノームは, 毎分6~200の間でテンポを設定でき, ユーザーによる微調整も可能である.また音量は20~90dBSPLの間の任意の2点を設定でき, ユーザーが装用中に切り替え可能である.1症例に対し約3ヵ月半, 発話が困難な電話場面において適用したところ, 電話場面と訓練室場面において吃症状の減少が認められた.本症例は発話が困難な電話場面を避ける傾向にあったが, 耳掛け型メトロノームの導入により, 積極的に電話ができるようになった.また自己評価の結果から, 症例自身は吃頻度以外の面での改善を高く評価していることも認められた.
著者
山本 淳一
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.297-303, 1997-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
8

本論文では, 自閉症児の音声言語獲得の基盤となる前言語的伝達行動 (共同注視, 叙述的指さし, リファレンシャル・ルッキング) が成立するための条件を, 「環境の中にある刺激」, 「大人」, 「子ども」の3項関係の中で明らかにし, それを確立するための心理学的指導技法について検討を加えた.まず, 自閉症児の対人的相互作用, 意志伝達の困難の基礎にある知覚・認知系の障害を検討した.その結果, 重度自閉症児に, さまざまな伝達機能を形成する場合, (1) 社会的刺激に対する視覚的注意を高めるための訓練, (2) 特定の方向に注意を定位するための腕や指の運動反応形成訓練, (3) 大人の視線の動きや, 自分自身の視線の動きと指さしなどの運動反応を協応させるための訓練, (4) 外界からの社会的フィードバックに対する応答性を高める訓練が有効であることが明らかになった.
著者
林田 真志
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.226-235, 2015 (Released:2015-08-31)
参考文献数
16
被引用文献数
1

聴覚障害者と健聴者を対象として,リズムの時間構造と強度アクセント,日常での音楽鑑賞時間を変数としたリズム再生課題を実施した.連続する音刺激でリズムを構成し,隣接する音刺激間の時間間隔(inter-stimulus interval; ISI)の比を基に3タイプのリズムの再生を求めた結果,両対象者の再生率はISI比1:2のリズムで最も高く,1:3,1:2:3の順で低くなった.日常での音楽鑑賞時間を基に,聴覚障害者を鑑賞群と非鑑賞群に分けて分析した結果,ISI比1:3と1:2:3のリズムにおいて,鑑賞群のリズム再生率が非鑑賞群を上回った.また,強度アクセントの付与によって,特に非鑑賞群のリズム再生率が顕著に向上した.以上の結果から,聴覚障害の有無を問わずリズム再生の難易傾向は類似していること,音楽鑑賞時間や強度アクセントの付与がリズム再生に効果的な影響を及ぼすことが明らかになった.
著者
鈴木 重忠 能登谷 晶子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.257-263, 1993
被引用文献数
6 5

主として重度聴覚障害児の言語指導法の確立のために, 私どもが20余年前から開発してきた金沢方式 (従来の聴覚-口話法に加えて, 文字や手指言語をも早期から指導する) に関する研究結果を総括し, 金沢方式を支持する先人の見解や最近の文献を紹介した.その結果, 次の原則を得た.1) 手指や文字言語も健聴幼児が音声言語を発達し始める時期とほぼ同時期から発達させることが可能.2) 音声・文字・手指言語モダリティ間の機能移行が可能であり, かつ多様の移行ルートを持つ.したがって, 3) 早期から親子間のコミュニケーションを成立させ, 音声言語の発達を促進するためには, 文字や手指言語を早期から活用することが必要.4) 個々の聴覚障害幼児と発達の特性を考慮した言語指導法の選択が重要.また, 聴覚障害幼児の言語指導と人工内耳や聴能の鑑別との関連および聴覚障害幼児の選別システムなどについての将来展望を述べた.
著者
石毛 美代子 村野 恵美 熊田 政信 新美 成二
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.172-177, 2003-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

音声治療により良好な効果を得た外転型痙攣性発声障害 (外転型SD) の24歳, 女性症例を報告した.本症例では間欠的な無声化などの音声症状が (会話中) ピッチの上昇に伴って出現し, 話声位を下げると軽減した.音声治療で話声位を下げ症状の軽減を図った.G3 (196Hz) とB3 (約247Hz) の2つの目標話声位を設定し, 単語, 短文, および文章での発話練習を行い, さらに, 会話を中心とした使いこなし (carry over) 練習を加えた.治療後の結果は満足すべきものであり, サウンドスペクトログラムの結果も臨床的な印象を裏づけるものであった.6名によるモーラ法での音声評価の結果, 何らかの音声症状があると評価されたモーラ数の平均値は, 治療前は82.5であったが, 治療後は14.5 (54単語, 全176モーラ中) に減少した.話声位を下げることにより音声症状の軽減が得られたことから, 本症例の音声症状には輪状甲状筋の異常が関与している可能性が示唆された.
著者
平野 滋 岸本 曜
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.255-260, 2016 (Released:2016-09-30)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

再生医療は20世紀後半のブレークスルーであり,治療困難な難治性疾患に福音をもたらす可能性を秘めている.喉頭領域でも再生医療の研究は声帯,筋肉,軟骨,反回神経をターゲットとして進められており,本稿では声帯再生において臨床応用されている再生医療について紹介する.声帯再生のターゲットとなる疾患は声帯の不可逆的硬化性病変で,声帯萎縮,瘢痕,溝症が含まれる.これらの疾患に共通する病態は,本来振動部分である粘膜固有層浅層の萎縮・線維化であり,この組織変化を是正しない限り音声の改善は望めない.変性した組織を再生土台で置換し,その部位に新しい健常な組織が再生することを期待するのが“scaffolding”と呼ばれる方法である.アテロコラーゲンやジェラチンスポンジが適した材料として挙げられ,ヒト声帯瘢痕に対するアテロコラーゲンの土台移植はある程度の成果を挙げたが,再生誘導に乏しいのが欠点で,安定した結果を得るのは難しかった.増殖因子は細胞の増殖のみならず機能修正を促し,組織再生へ誘導する強力な因子である.多くの増殖因子が研究されているが,塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)はすでに市販製剤があり,臨床使用が可能である.声帯萎縮や瘢痕に対するbFGFの声帯内注射は,声帯の質量や粘弾性の回復に優れた効果が報告され,今後さらなる発展が期待されている.
著者
新美 成二
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.242-247, 1999-07-20 (Released:2010-06-22)

声帯に病変があると, 声質が劣化することは衆目の認めるところである.そこで病的音声の生成の機構を知るためには声帯振動を子細に観察しなければならない.観察方法は数多くあるが, 中でもストロボスコピーは, その簡便さ, 安全さ, さらに経済性から臨床ではよく用いられる.しかし原理的に不規則な声帯振動の観察には適していないために, その臨床応用には自ずから限界がある.最近, 電子工学および計算機を用いた情報処理技術が進歩し比較的手軽に声帯振動を高速撮影をすることが可能になってきた.今回の報告ではこのような方法を用いることによって声帯振動と声の質との関係, さらに聴覚印象の異なる音声の生成機構について解説を行った.
著者
村尾 忠廣
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.255-259, 2000-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
7

1960年代以降, 音痴に関するおびただしい数の研究論文が発表されてきているが, 日本では90年代に入ってカラオケとの関係で急速に関心が寄せられるようになった.しかし, 欧米におけるこれまでの科学的な先行研究が踏まえられていない.本報告では, まず, 音痴の概念, 現状, 原因, 治療法の4点について先行研究を外観し, その上で, コンピュータを使った視覚フィードバックによる診断と治療法 (SINGAD, VSG) について述べる.
著者
大森 史隆 水本 豪 橋本 幸成
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.13-22, 2022 (Released:2022-01-28)
参考文献数
10

慢性期失語症例に対し,仮名1文字の書取訓練(40分/回,計35回,約4ヵ月半)において単音節語からなる漢字1文字をキーワード,漢字1文字を初頭に含む複合語等をヒントとして用いた.その結果,平仮名44文字中,書取可能な文字数が9文字から31文字に増加した.仮名1文字の書取には,キーワードの書字やヒント想起の可否がかかわっていた.仮名1文字の書取の成否に影響を及ぼす文字特性を検討した結果,キーワードとして用いた漢字の画数が有意であった.書取可能となった平仮名31文字を組み合わせて2文字単語20語の書取訓練(40分/回,計14回,約2ヵ月)を実施した結果,書取可能単語数は3語から17語に増加した.両訓練は,モーラ分解・抽出の必要がない単音節の漢字1文字単語をキーワードとして用いたため,音韻処理障害のある本例に有効であった.訓練に際しては,漢字の画数に留意し,文字数の少ない単語を用いる必要性が示された.
著者
宮田 恵里 苅安 誠 岩井 大
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.18-23, 2023 (Released:2023-02-23)
参考文献数
20

本邦の多言語話者は増加傾向にあり,言語聴覚士(以下,ST)が対応する機会も増加している.今回,英語と日本語を使用する小児の構音障害の評価と指導を行ったので報告する.症例は3歳11ヵ月の男児で構音以外に問題は認めなかった.耳鼻咽喉科医による診察後に,STによる日本語の構音検査とGoldman-Fristoe 2を用いた英語の構音検査および日本語と英語による自由会話で評価を行った.検査の結果,英語話者で最も多い子音連結に誤りを認めた(spoon:/spu:n/→[pu:n]).構音訓練では/s/の産生から始め,その後続けて/p/や/t/を発音させた.事情により頻回な通院が困難であったため,自主課題を作成し,自宅学習を中心に対応した.3ヵ月後の評価では子音連結も問題なく発音できた.多言語話者に介入する際は母語に対応した検査用具を準備する必要があり,さらに,対象言語の特性を理解することも不可欠である.
著者
高野 佐代子 本多 清志
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.174-178, 2005-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
11
被引用文献数
5 4

磁気共鳴画像法 (MRI) は体内の3次元可視化に優れており, 発話器官の機能解析の研究にも使用されている.しかし音源の生成にかかわる喉頭はサイズが小さいため, 十分な画像分解能やS/N比が得られない.また呼吸運動に伴い動きによるアーチファクトが生じやすいという問題がある.これらの問題を解決するために, 小型アンテナを用いた高感度喉頭用コイルを試作し, アーチファクトを防ぐために発声同期撮像法を考案した.以上の喉頭撮像法を用いて, 男性被験者1名が普通の声 (120Hz) と高い声 (180Hz) で母音/i/を繰り返し発声したときの喉頭画像を記録した.得られた画像精度は喉頭軟骨の計測に十分であり, この画像より輪状甲状関節の運動を計測した.本実験の被験者では, 両者の声の高さにおいて輪状甲状関節には約5度の回転と約1mmの滑走が認められた.
著者
五島 史行 矢部 はる奈
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.273-276, 2008-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
5
被引用文献数
2 1

難聴を一定期間放置すると語音明瞭度が低下することは長期間の難聴に伴う聴取能の剥離として知られている.高齢者の補聴器装用者の問題は語音明瞭度の低下によるものが多い.近年, 言語聴覚士の積極的介入を軸とした補聴器フィッティング, 装用訓練を導入し補聴器装用訓練が奏功する可能性が報告された.言語聴覚士を積極的に活用できる医療施設等は限定されるため, より簡便な聴能回復リハビリテーション法が必要である.今回われわれは, 自宅での音読トレーニングなどを指導することによって裸耳の語音明瞭度の改善を認めた症例を経験したので報告する.症例は77歳女性.2005年7月に感音難聴を主訴に初診.両側高度感音難聴を認めた.語音明瞭度は右30%, 左20%であった.書籍“脳を鍛える大人の音読ドリル―名作音読・漢字書き取り60日”を用いたトレーニング, 新聞の音読をすることを指示した.6ヵ月後右耳の語音明瞭度は60%まで改善した.
著者
白坂 康俊
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.248-252, 2007-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
4

AACを適応する場合, コミュニケーションを維持するための言語力ならびに精神機能の評価と, 機器を操作する身体機能の評価を行う.評価の結果, 言語処理過程のうちどの過程の障害かが判断できるので, それにそって適応を決定する.適応にあたっては, 実際の装用状態での継続的な評価が重要であり, 実用的に使用している状態まで確認することが大切である.また, AACの限界は, 使用する側の障害の重症度から生じる限界と, 機器そのものがもつ限界がある.こうした限界を十分知りながら適応を考えることにより, 初めて障害をもつ方のQOLに貢献することができる.その一方で, 適応の限界を広げていくための努力も強く求められている.
著者
小川 真 吉田 操 渡邉 建 喜井 正士 杉山 視夫 佐々木 良二 渡邊 雄介
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.292-297, 2003-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
13
被引用文献数
3 2

muscle tension dysphonia (以下MTD) は, 発声時に, 喉頭の筋肉の過剰な緊張が原因で喉頭内腔が押し潰されることによる発声の異常のことを意味しており, 喉頭の内視鏡検査では, 仮声帯の過内転, 披裂部の喉頭蓋基部への前後方向への圧迫の所見を示す.また, 音声訓練による治療が奏功しやすいといわれている.しかしながら, 音声訓練が実際に喉頭所見を改善するか否かということについては不明であった.われわれは, 経鼻ファイバースコープ検査より, 持続母音発声時の喉頭内3部位の圧迫の程度から算定する「MTDスコア」を開発し, MTD症例に対する音声訓練の治療効果を明らかにするために, 治療経過を通じてのMTDスコアの変化について検討した.対象症例は, 男性25例, 女性6例であり, 年齢分布では60代後半にピークを認めた.問診による発症に先行するエピソードの解答は多様であった.音声訓練による治療の経過において, 全31例中24例で, 音声訓練の回数を経るにつれて, 経時的に過緊張発声障害スコアの減少が認められた.そのなかの21例においては, スコア0となり, 同時に嗄声の消失が認められた.3例においては, 数度の増悪の後, 最終的にスコア0となった.残りの4例は不変または増悪した.結果として, MTDに対して, 音声訓練による治療が有効であることが強く示唆された.
著者
内藤 泰
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.264-271, 2001-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
38
被引用文献数
2 1

聴皮質の一次聴覚野と聴覚連合野には細胞構築だけでなく, 発達期における髄鞘化においても明らかな差がある.ポジトロン断層法 (PET) で人工内耳を介した語音聴取中の言語習得前失聴者の脳賦活を観察すると, 一次聴覚野はある程度活動するが聴覚連合野の賦活は乏しく, 一次聴覚野の機能は先天的に規定される要素が強く, 聴覚連合野の発達は後天的な言語音聴取に強く依存していることが示唆された.また, 言語習得前失聴の小児でも人工内耳を使い続けることで聴覚連合野に語音認知の神経回路が発達し得るが, その発達は視覚言語の発達と競合する可能性がある.一方, 臨界期をすぎると語音認知の神経回路は長期間, 強固に保持されるが, 加えて, 人工内耳で符号化された語音の認知に際しては, 側頭葉の聴覚連合野だけでなく, ブローカ野や補足運動野の活動も亢進することが明らかになった.
著者
東川 雅彦 竹中 洋
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.321-325, 2003-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
12

ささやき声における音声器官での有声・無声子音間の音響学的な差を作り出す調節を知る目的で, multi-sliced helical computed tomography (MSCT) を用いて口腔・咽喉頭の音声生成時の声道形態を観察した.舌尖を含む舌ならびに喉頭の移動が, CV音節の母音部分での聴覚的な手掛かりを作り出している可能性が示された.
著者
平野 実
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-11, 1970-04-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
12
被引用文献数
3

歌声における声区, ピッチ, 強さの調節機構を, 職業的声楽家について研究した.研究には, 喉頭筋筋電図と声帯の高速度映画撮影を用いた.声区は主として声帯筋によって調節される.声区が重い程声帯筋の収縮は強い.側筋と横筋は声区の調節に当たって声帯筋を助ける.したがって, 重い声区では声帯は厚く, 粘膜波動は著明で声門閉鎖期が長く, 開閉速度率が大きい・前筋は声帯筋の拮抗筋として声区に影響を与える.しかし, 第一義的の声区調節者ではない.一般に, 声帯緊張筋および内転筋の活動はピッチの上昇とともに増加する.しかし, 軽い声区の高い音域では, これらの筋のピッチの調節への関与度はより小さい.重い声区の低い音域では, 声の強さは主として内転多によって調節されるが, 軽い声区の高い音域では主として呼吸筋によって調節される.声区, ピッチ, 強さは生きた人間においてはお互いに全く独立した因子ではない.
著者
中尾 雄太 大西 英雄 遠藤 優有美 城本 修 村中 博幸
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.146-154, 2014 (Released:2014-05-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1

われわれは,音刺激への注意喚起における脳賦活領域を同定するために,fMRI(functional magnetic resonance imaging)を用いて,「聴く」と「聞く」における脳賦活領域を定量的に比較検討した.さらに,自作したソフトウェアを用いてMR画像の賦活領域の体積を算出し,各領域における賦活程度を比較した.聴覚障害を認めない健常成人12名(男性5名,女性7名)に対して,男性話者と女性話者の単音節聴取課題,雑音下聴取課題を行った.その結果,音刺激へ注意を喚起すると,前頭前野,縁上野,帯状回が賦活することが示唆された.また,同性話者より異性話者の声に注意を喚起したほうの脳活動が活発になると示唆された.
著者
飯村 大智
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.205-215, 2017 (Released:2017-09-25)
参考文献数
23
被引用文献数
4 2

吃音が就労にさまざまな影響を与えることが国内外の研究で指摘されており,合理的配慮の必要性が求められているが,吃音者に必要な具体的な合理的配慮については十分に検討されていない.そこで本調査では吃音者182名を対象に就労や合理的配慮に関する質問紙調査を実施した.結果,吃音は就労に大きな影響を及ぼし,電話,大人数での会話,発表,朝礼などを困難としていることが示された.具体的な配慮については,「吃音の正しい知識をもってもらう」「吃音のある自分を受け入れてもらう」「苦手な場面や言葉があることを理解してもらう」「言葉以外で評価してもらう」などが挙げられた.また,年齢が低い人ほど就労で困難を抱え,これらの配慮を必要としていることが示された.本研究より,吃音者の就労の実態と必要な合理的配慮に関する一つの知見を示すことができたと考えられる.