著者
田中 裕美子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.216-221, 2003-07-20
参考文献数
20
被引用文献数
3 1

英語圏の特異的言語発達障害 (SLI) は文法形態素獲得の遅れを主症状とする文法障害である.5歳での発現率は7.4%で, 言語障害は青年期まで長期化する.SLI研究法は, 理論をデータから検証するトップダウン方式が中心であり, 異言語間比較が理論追求に寄与するところが大きい.本研究では, 幼稚園でのスクリーニングにより同定したSLI群, 健常群, 知的障害児群とで, 語順や名詞数という言語学的要因を変化させた文理解成績を比較した.その結果, SLI群では健常の言語年齢比較群や知的障害群とは異なる反応パタンが見られ, 言語情報処理能力の欠陥説を支持した.さらに, 臨床家にSLIと診断された3症例に文理解や音韻記憶課題を実施した結果, SLIの評価・診断法としての有用性が示唆された.言語発達の遅れを「ことばを話すか」という現象のみで捉えるのでなく, 「何をどのように話すか」といった言語学的視点などを含め多面的で掘り下げ的な評価法の確立が今後期待される.
著者
橋本 かほる 能登谷 晶子 原田 浩美 伊藤 真人 吉崎 智一
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.336-340, 2012 (Released:2012-10-09)
参考文献数
16

0歳代から金沢方式(文字-音声法)で言語訓練中の聴覚障害幼児4例を対象に,日本語対応手話に指文字または手話による助詞が挿入された文に含まれる格助詞の出現時期について検討した.(1)格助詞の初出年齢は1歳11ヵ月~2歳2ヵ月で,健聴児の時期とほぼ同時期であった.(2)4例ともに共通して初出した格助詞は「を」であった.(3)聴覚障害児であっても,幼児期早期より日本語の文構造に沿った日本語対応手話よる単語(助詞は指文字または手話)を用いることにより,健聴児の助詞の発達にそった理解・表出が可能であることが示唆された.
著者
田口 亜紀 兵頭 政光 三瀬 和代 城本 修
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.372-378, 2006-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
12
被引用文献数
17 13

近年, 音声障害の自覚的評価方法として, アメリカで提唱されたVoice Handicap Index (VHI) が注目されている.われわれは, VHIの日本語版を作成して音声障害患者に対して使用し, その有用性について検討を行った.対象とした音声障害症例は163例で男性79例, 女性84例であった.VHIスコアの平均は男性34.5, 女性41.6で女性のほうが高い傾向を示した.男性では40歳代以下のスコアが50歳代, 60歳代のスコアより低い傾向を示したが, 女性では年齢による差があまりなかった.疾患別では機能性発声障害, 反回神経麻痺, 声帯萎縮・声帯溝症の症例でスコアが高い傾向を示した.大部分の疾患では, 機能的側面および身体的側面のスコアが感情的側面のスコアより高かった.音声障害の治療後には, 多くの例でスコアが減少し, VHIは患者自身の音声障害に対する自覚度の把握, 適切な治療法の選択, および治療効果の評価を行ううえで有用と考えられた.
著者
谷 尚樹 後藤 多可志 宇野 彰 内山 俊朗 山中 敏正
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.238-245, 2016
被引用文献数
1

本研究では,発達性ディスレクシア児童23名と典型発達児童36名を対象に,2種類の書体を用いた速読課題を実施し,書体が速読所要時間,誤読数,自己修正数に与える影響を検討した.刺激は,表記(漢字仮名混じりの文章,ひらがなとカタカナで構成された無意味文字列)と書体(丸ゴシック体,明朝体)の2×2の合計4種類である.実験参加者には,4種類の刺激を速読してもらった後,どちらの書体を主観的に読みやすいと感じたか口頭で答えてもらった.その結果,発達性ディスレクシア児童群と典型発達児童群の双方において,書体間の速読所要時間,誤読数,自己修正数に有意差は認められなかった.主観的には,発達性ディスレクシア児童群では丸ゴシック体を読みやすいと感じる児童が多かった.本研究の結果からは,客観的評価と主観的評価は異なり,丸ゴシック体と明朝体の書体の違いによる正確性と流暢性に関する「読みやすさ」の指標は見出せなかった.
著者
宮原 卓也
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.137-146, 1986-04-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
8

職業的テノール歌手による9種の発声サンプルについて声帯振動の超高速度映画撮影を行い, また平均呼気流率と声の音圧レベルを測定した.発声サンプルはHuslerのアンザッツタイプをもとに選定した.推定体積速度波形, 推定最大体積速度, 最大声門幅, 平均呼気流率, OQ, SQ, SI, 声の音圧レベル, 仮声帯間距離は声の音色によって決定し, 関係づけられるが, その主な結論は次のとおりである.1) アンザッツNo.2では声門を強く閉じ, 声門上部を狭くし, 強い呼息圧を用いて発声している.声門下圧, 声の音圧レベル, 推定最大体積速度, 平均呼気流率は大である.2) アンザッツNo.3aでは中等度の声門閉鎖と呼息圧を有し, 声門上部をあまり狭くせずに発声している.推定最大体積速度は大であるが, 平均呼気流率は中等度である.3) アンザッツNo.3bでは声門を弱目に閉じ, 声門上部を広く開いて弱い呼息圧を用いて発声している.声門下圧は小さいが, 推定最大体積速度は大きく, 平均呼気流率は中等度である.4) アンザッツNo.4, No.5ではファルセットの喉頭調節で発声している.推定最大体積速度, 平均呼気流率は低目である.5) アンザッツNo.6では声門をかなり強く閉じ, 中等度の呼息圧で発声し, 声の音圧レベルは高い.推定最大体積速度は大きいが, 平均呼気流率は小さい.
著者
楠山 敏行 池田 俊也 中川 秀樹 沢田 亜弓 木村 晋太
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.333-338, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1

音声障害を訴える歌唱者のなかで急性上気道炎症状を伴わない慢性上咽頭炎(以下上咽頭炎)が原因と思われる症例に対して1%塩化亜鉛による上咽頭処置(Bスポット療法)を行い,その治療効果を検討した.過去1年7ヵ月間にBスポット療法前後に内視鏡検査,音声検査,Voice Handicap Index-10(VHI-10)およびSinging Voice Handicap Index-10(SVHI-10)による評価が可能であった歌唱者53例を対象とした.内視鏡所見,VHI-10,SVHI-10,および最長発声持続時間における有意な改善を認めた.SVHI-10減少幅が5以上の症例は41例で78%の改善率であった.以上より上咽頭炎は音声障害の原因疾患の一つと考えられ,Bスポット療法は上咽頭炎による音声障害に対し有効であることが示唆された.また,その病態は自律神経系に関連する喉頭潤滑障害と上咽頭の共鳴障害であると考察した.
著者
中津 真美 廣田 栄子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.219-228, 2012 (Released:2012-10-09)
参考文献数
13
被引用文献数
1

聴覚障害の親をもつ健聴の子ども(CODA)における親への通訳役割は,情報伝達にとどまらず親と社会との仲介役を担い,親子関係の形成に影響を与えることが指摘される.本研究では,CODAの児童期から成人期の通訳経験を通して形成された親子の認識とその変容を,質的側面から明らかにした.CODA成人25名,聴覚障害の親19名を対象とし,個別の半構造化面接(M-GTA)を用いて解析した.その結果,逐語録320,849文字から概念27種,カテゴリ6種,サブカテゴリ6種が生成された.CODAは児童期では無意識に親を擁護し,青年期では通訳と親に葛藤を生じさせるが成人期には受容した.親は,CODAの児童期と青年期ではCODAの通訳を頼るものの成人期では自立を志向する姿勢であった.CODAが,児童期に親を擁護する認識および成人期に親を受容する契機には独自性があった.親の受容にいたる心理的自立時期は個人差を示した.
著者
平野 実
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.435-438, 1995-11-10 (Released:2010-06-22)
著者
川合 紀宗
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.269-273, 2010 (Released:2010-08-31)
参考文献数
17
被引用文献数
3 5

認知行動療法とは, クライエントの不適応状態に関連する行動や情緒, 認知の問題に対して介入し, 適応的な反応を学習させ, 情緒の安定や行動の修正を行う方法である. 吃音臨床・研究分野においても, 特に吃音の多因子モデルが発表され, 吃音の核症状以外の問題が具体化され, その問題へのアプローチの重要性が提起された1990年代後半より, 認知行動療法を取り入れた臨床や研究が数多く発表されるようになった. 本稿では, 認知行動療法の理論および構造, そして認知行動療法がどのように吃音の臨床で用いられているかを紹介するとともに, その留意点や限界点についても論述する. また, 認知行動療法が吃音研究・臨床分野において脚光を浴びる以前より実践されている認知行動療法の要素を含んだアプローチについても紹介する.
著者
谷合 信一 前新 直志 田中 伸明 栗岡 隆臣 冨藤 雅之 荒木 幸仁 塩谷 彰浩
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.192-198, 2015 (Released:2015-05-21)
参考文献数
14

高齢で突発した心因性吃音の症例を経験した.症例は70歳男性,肺炎で他院入院中に突然吃音を発症.当科初診時,口腔・咽喉頭に器質的異常なく,構音障害や失語症も認めなかった.語頭音のくり返しを主症状とする吃音を認め,随伴症状を認めた.訓練は,発話速度低下訓練とカウンセリングを併用した.訓練実施後から吃音症状は徐々に軽減し,訓練開始3ヵ月半でほぼ消失した.本例の特徴は,吃音が獲得性で突然発症している,発話は語頭音のくり返しが多い,随伴症状がある,数ヵ月の訓練で著明に改善している,画像所見で突発した吃音を説明できる病変がない,発症誘因と推察される入院に伴う強いストレスがある,吃音の原因となる他疾患の可能性がないことがある.これらの特徴から,本例は心因性吃音であると考えられた.
著者
金子 真美 平野 滋 楯谷 一郎 倉智 雅子 城本 修 榊原 健一 伊藤 壽一
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.201-208, 2014 (Released:2014-09-05)
参考文献数
28
被引用文献数
2 3

一般人の音声障害に関する音声治療については多くの報告があり,高いエビデンスレベルのものもある.しかし歌唱者の音声障害に対する音声治療については国内外で報告は少なく,現時点で確立された手技もない.今回われわれは歌唱者の音声障害に対し音声治療を行い,症状に一定の改善を認めた.対象は声帯結節,声帯瘢痕,声帯萎縮,過緊張性発声障害のいずれかと診断され,音声治療を施行した歌唱者9例(男性5例,女性4例,平均年齢53.3歳)である.口腔前部の共鳴を意識した音声治療を施行し,効果をGRBAS,ストロボスコピー,空気力学的検査,音響分析,自覚的評価,フォルマント周波数解析で評価した.治療後,音声の改善は個人差があるものの全例で認められ,MPTやVHI-10,GRBASで有意差が認められた.また,歌唱フォルマントもより強調されるようになった.歌唱者の音声障害に対する音声治療は一定の効果が期待できると考えられた.
著者
西尾 正輝 田中 康博 新美 成二
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.6-13, 2009-01-20
参考文献数
49
被引用文献数
7

健常成人発話者262例(青年群200例,老年群62例)を対象として,青年期以降の加齢に伴う音声の変化について音響学的に解析し,主に以下の結果を得た.男性では,基本周波数に関する計測ではT<SUB>0</SUB>が短くなりF<SUB>0</SUB>が上昇し,周期のゆらぎに関する計測ではJitt,RAP,PPQで上昇し,振幅のゆらぎに関する計測では,ShimとAPQを含めて全体的に上昇し,雑音に関する計測ではSPIで上昇し,震えに関する計測ではATRIで上昇する傾向を呈した.女性では,基本周波数に関する計測ではT<SUB>0</SUB>が延長しF<SUB>0</SUB>が低下し,周期と振幅のゆらぎに関する計測ではほぼ変動が乏しく,雑音に関する計測ではNHRで上昇しVTIで低下し,震えに関する計測ではATRIで上昇する傾向を呈した.今回得られた知見ならびに正常範囲に関するデータは,加齢による生理的変化の範囲内の音声と病的音声との識別上臨床的に意義のあるものと思われる.
著者
小池 靖夫
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.212-216, 1978-07-28 (Released:2010-06-22)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

A newly developed method for direct measurement of sub-glottal pressure is described. The technique involves employment of a miniaturized solid-state pressure transducer which is inserted into the sub-glottal space via the glottis. The minute size and wide frequency response of this series of transducers provides a new approach to the study of the rapid air-pressure variations inside the vocal mechanism.Advantages of this procedure are discussed in comparison with other methods of measuring the sub-glottal pressure, such as those that employ an esophageal baloon, a thin catheter through the glottis, or a tracheal puncture. Some qualitative data, including the sub-glottal plessure wave recorded simultaneously with the supra-glottal pressure wave, or with the high speed motion picture of the larynx, are presented and debated. Limitations of the technique are considered together with the technical modification of the equipment needed for speech research.
著者
本田 仁昭 赤坂 謙 神山 五郎 岡本 途也 永田 三郎
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-5, 1977

A portable electromotive Kana-typewriter was developed as a communication method for dysarthric patients. As the size of this machine is 215&times;90&times;30mm, it is easy to carry in the pocket or bag. This machine has 50 keys (Kana-letters) with a thermal print system. Using this typewriter, the dysarthric patients who had almost no speech output and showed only a gesture of&ldquo;yes&rdquo;or&ldquo;no&rdquo;reaction, could express their ideas correctly and communicate actively with other people. It was believed that the device was very helpful for the dysarthric patients. But the effectiveness of this machine was greatly dependent on their intelligences, vocations and their motivations and so on. Other technical problems are the sharpness of the printed letters and the size of the apparatus to be carried more conveniently. By improving these technical points, utility of this Kana-typewriter will be multiplied and it will be useful as an aid of communication for severe dysarthric patients.
著者
河原 英紀
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.131-135, 2009 (Released:2010-03-24)
参考文献数
7

本稿では, 音声モーフィングと呼ばれる技術が, 声の分析と臨床においてどのような可能性をもつかについて紹介する. 音声モーフィングは, 新しい音声分析変換合成法であるTANDEM-STRAIGHTに基づいている. ここで用いられている分析法は, 病的音声に見られるような複雑な声帯振動にも対応可能であると考えられる. このような分析方法としての可能性に加え, 音声モーフィングとして用いることにより, 治療目標とする声を, 本人の声を用いて事前にシミュレーションできる可能性を有している.
著者
田山 二朗 弓削 忠 二藤 隆春 木村 美和子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.158-162, 2007-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

アテロコラーゲンは, 異種タンパクであるためアレルギー反応等のおそれや, 吸収率が高いことから複数回の注入が必要になるなどの短所があるが, 注入手技が多彩で簡便であるため使用しやすく, 全身状態の低下した症例, 全身麻酔不能例や外来治療を希望する例に対する局所麻酔下日帰り内視鏡手術に適している.咽喉頭の麻酔が十分なされていれば, ほとんどの症例において本手技が施行可能である.手術効果は声帯の状態によって異なる.主に筋層に萎縮が見られる声帯麻痺例 (特に正中固定例) については, 筋層のvolume増加が得られるために音声改善効果が高くなる.声帯溝症では振動部位である粘膜の病変が主であるため, 術後声帯のvolume増大により発声時の声門閉鎖不全が改善されたとしても, 音質の改善に関しては不十分となる.なお, 吸収率が高いため安定した効果を得るには3~4回の注入が必要である.合併症としては, 術時の局所麻酔中毒や喉頭痙攣, 術後の嚥下性肺炎や喉頭浮腫, 粘膜層への注入による声帯振動障害などが挙げられる.われわれの音声外来では, 高齢者の声帯萎縮性病変が増加しており, 声帯内注入術はこれらに対して十分活用できる音声外科的治療法としてもっと普及してよい術式である.そのためには, 声帯内注入術や注入材料に対する正しい理解と, 安全, 簡便かっ安定した, さらに粘膜内注入にも適した注入材料の開発が望まれている.
著者
南 和彦 丸山 萩乃 土師 知行
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.180-185, 2015 (Released:2015-05-21)
参考文献数
14
被引用文献数
2

チューブ発声法はさまざまな音声障害に有効な音声治療として使用されており,コンピュータによるシミュレーションによると,声道の入力インピーダンスと声門のインピーダンスとを容易に適合させて効率の良い発声を導きやすくさせるとされている.しかし,実際にチューブ発声を行っている状態の声帯振動を観察した報告はわれわれが確認した範囲では,ない.当院では声帯結節に対してチューブ発声法を積極的に指導しているが,同訓練法の声帯振動への影響は不明であった.本検討ではチューブ発声時の声帯振動を電子スコープで観察したところ,通常発声時と比較して声帯振幅が増大する傾向にあることがわかった.これはコンピュータでのシミュレーションのように,チューブ発声が効率の良い発声を導くことを示す一つの証拠となると考えられた.チューブ発声法は自宅で簡便に訓練でき,継続的な訓練が可能である.今後,さらなる症例を重ねて治療効果についても検討したい.
著者
佐藤 公則
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.197-204, 2013 (Released:2013-10-25)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

1)職業歌手は話声(日常会話)には支障がない程度の,喉頭所見に乏しい微細な声帯病変でも歌声の異常を訴えた.2)主訴は,歌声の高さに関連した歌声の質に関するものが多く,多種多様であった.必ずしも音色(音質)の障害(嗄声)を訴えなかった.3)治療法の選択は音声障害の程度,声帯の病態に加えて声のemergencyを考慮して決定すべきであった.4)職業歌手の診療でも音声障害の病態の把握と病態に応じた治療が重要であり,他の音声障害の診療と何ら変わることはなかった.5)職業歌手の声帯の器質的病変に対する手術は,喉頭微細手術による緻密な手術手技が必要であった.6)職業歌手の音声障害を診療するためには,歌声を含めた発声の生理・病理・病態生理・声帯の組織解剖の理解と熟練した手術手技が不可欠であった.
著者
鈴木 香菜美 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 WYDELL Takeo N. 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-11, 2010-01-20
被引用文献数
3 5

本研究の目的は, 発達性読み書き障害児の診断評価の補助的な指標となる書字特徴を明らかにすることである. 対象は専門機関にて診断を受けた1年生から6年生の発達性読み書き障害児45名と, 定型発達児560名である. 小学生の読み書きスクリーニング検査のひらがな, カタカナ1文字と単語の書取課題にて分析した結果, 発達性読み書き障害児の書字特徴は, 特殊音節で誤りやすく, その誤りは学年が上がっても減少しにくい点, 低学年ではひらがなの単語よりも1文字で誤りが多い点, ひらがなに比べてカタカナの習得の遅れが著しい点であると思われた. 一方, 主に1年生から3年生でひらがな単語の心像性効果が両群で認められる可能性が示唆された. したがって, ひらがなやカタカナに関して1文字と単語双方の書取課題を実施し, これらから得られた書字特徴を確認することが発達性読み書き障害児の診断評価における補助的な指標となりうるのではないかと考えられた.