著者
長井 慎成 東野 哲也 松田 圭二 外山 勝浩 河野 浩万 小玉 隆男
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.110, no.11, pp.707-712, 2007-11-20 (Released:2008-12-25)
参考文献数
15
被引用文献数
4 3

【はじめに】中耳真珠腫の画像診断にはCTが第一選択として用いられるが, 軟部陰影を質的に鑑別するためにはMRIが有用である. 当院では2002年よりMRI撮像に加え, 拡散強調法による撮像を用い真珠腫診断を行っている. これまでに当院にてMRI拡散強調画像で病態評価を行った中耳炎症例を用い, 本撮像法の有用性について検討したのでその結果を報告する.【対象と方法】2002年10月から2006年7月に, 当院で拡散強調画像を加えた側頭骨MRI検査を行った56例を対象とした. 男性35名, 女性21名, 年齢は3歳~76歳で, 平均42.8歳であった.【結果】真珠腫診断における拡散強調像の感度は85.4% (41/48), 特異度は100% (8/8), 陽性的中率は100% (41/41), 陰性的中率は53.3% (8/15) であった. 拡散強調像にて真珠腫を同定できた症例の画像におけるサイズは, 5mmから40mmであり, 4mmの先天性真珠腫は評価困難であった.【考察】今回の検討から, 本撮像法の中耳真珠腫診断における有用性が確認された. 今後本撮像法の分解能が向上することにより, 中耳真珠腫診断におけるMRI検査の位置づけがさらに高まるものと期待される.
著者
藤川 太郎 白倉 聡 畑中 章生 岡野 渉 得丸 貴夫 山田 雅人 齊藤 吉弘 別府 武
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.8, pp.1046-1052, 2015-08-20 (Released:2015-09-04)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

癌治療において低ナトリウム血症はしばしば遭遇する電解質異常である. 今回われわれは, 中咽頭癌進行症例に対してシスプラチン (CDDP) 同時併用放射線治療を行い, 計3回の grade 4 の低ナトリウム血症を経験したので報告する. 初回および2回目の低ナトリウム血症は CDDP 投与後に出現し, 脱水と多尿を伴い, 輸液と塩分の補充により1週間程度で改善した. ナトリウムの排泄過剰の所見から塩類喪失性腎症が原因であると考えられた. 3回目の低ナトリウム血症の原因であった抗利尿ホルモン不適合分泌との比較から, 細胞外液量とナトリウムバランスの評価が低ナトリウム血症の鑑別と適切な治療において極めて重要であると考えられた.
著者
森 安仁 上羽 瑠美 橘 澄 佐藤 拓 後藤 多嘉緒 藤巻 葉子 二藤 隆春 山岨 達也
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.7, pp.932-938, 2017-07-20 (Released:2017-08-18)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

歯ブラシによる口腔・咽頭外傷は小児に多く, 外力の加わる方向により深頸部や頭蓋内を損傷する可能性がある. 当院で入院加療を行った4症例を報告する. 症例1は咽頭後壁の受傷翌日に発熱と呼吸障害を来し, 深頸部・縦隔の気腫と周囲への感染を認め人工呼吸管理を要した. 3症例は口腔内の創傷が軽微だったが, CT で全例に気腫を認めた. 症例2は左副咽頭間隙を中心とした気腫, 症例3は咽後間隙上方に気腫と腫脹, 症例4は右顎下部から副咽頭間隙に気腫と腫脹を認めた. 全例が抗菌薬による保存的治療で治癒したが, 歯ブラシ外傷では局所所見が軽微な場合でも異物遺残や気腫, 深部感染の可能性に留意し, CT などの画像評価を行うべきである.
著者
後藤 穣
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.7, pp.943-947, 2021-07-20 (Released:2021-08-04)
参考文献数
6

鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版 (改訂第9版) が2020年7月に改訂された. 今回の改訂では2019年に実施されたアレルギー性鼻炎有病率調査結果が掲載されたこと, 病態メカニズムに自然Ⅱ型リンパ球の関与が明記されたこと, 重症・最重症スギ花粉症に対して抗 IgE 抗体療法が推奨されたことなどが新しい改訂ポイントである. アレルギー性鼻炎・花粉症の治療の原則は, 抗原除去・回避, 薬物療法, アレルゲン免疫療法, 手術療法の4つがある. 近年, 薬物療法薬では複数の非鎮静性第2世代抗ヒスタミン薬が新しく上市された. 鎮静作用がほとんどなく, 安全性が高い薬剤が選択できるようになった. 舌下免疫療法ではスギ舌下錠が市販され舌下液よりも高い有効性を示し, スギ舌下錠とダニ舌下錠の併用も安全性の高い治療法であることが臨床研究で確かめられた. 低年齢のスギ花粉症有病率が増加しているが, 根治的治療であるアレルゲン免疫療法を小児期から積極的に開始することも考慮すべきである. また, 2019年12月にはアレルギー性鼻炎領域では, 世界初の生物学的製剤が重症以上のスギ花粉症に対して適応追加された. 抗ヒスタミン薬などの薬物療法や舌下免疫療法は軽症から最重症までの患者に推奨されているが, 抗 IgE 抗体療法は重症以上のスギ花粉症に対してのみ使用できる. 患者の病型や重症度に応じて適切に治療方法を選択すべきである.
著者
野村 俊之 山本 昌彦 鈴木 光也 吉田 友英 大和田 聡子 重田 芙由子 池宮城 慶寛 田村 裕也
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.11, pp.869-874, 2011 (Released:2011-12-02)
参考文献数
10
被引用文献数
1

2007年8月より2009年7月までの2年間に, 東邦大学医療センター佐倉病院耳鼻咽喉科において良性発作性頭位めまい症と診断した1,145名を対象とし, われわれが考案した運動療法で治療を行った. われわれの方法は患側が特定できなくても整形外科疾患など頸椎・脊椎に問題のある症例でも, 患者が自宅で自分のペースで治療を行えるという特徴を有している. その結果1カ月以内に80.7%, そして3カ月以内では91.7%のめまい消失をみた. その中でも発症より1週間以内に受診した症例では2週間以内に80%の症例がめまいの消失をみている. めまい発症より受診時期が遅くなるにしたがって治癒期間も長くなる傾向があった.
著者
米山 文明 沢木 修二
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.1600-1610, 1959-07-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
5

On 200 students (male and female were at the same rate) of an Academy of Music, the authors investigated their methods of the practice of singing and their subjective fatigue following the practice. In the second place, larygoscopic examination was carried out on 99 out of them befor and after their practice of singing. The results were as follows: 1. Vast majority of the subjects had the practice for 1 hour each day; thirty minuites each time with intermission of 10 minutes. 2. Signs of dysphonia due to over-practice were noticed in case they had the practice over 3 hours, a day. 3. The subjects complained of fatigue when they practised for 1 hour each time or 2 to 3 hours. each day. 4. It was revealed by laryngoscopic examination that hyperemia in the vocal cords easily manif- ested itself following the practice, while edema was hardly elicited by the practice. Moreover, am appreciable parallelism was found between the grade of subjective fatigue and hyperemia in the. vocal cords. On the other hand, fatigue and edema seemed to have no definite relation to each other. 5. There existed some certain, common tendency as to subjective fatigue, viz., fatigue was ratherr marked in the female as compared with male; being independent of sex, it was more notable in soprano or tenor than in alto or basso, and in those having long vocal career, fatigue was less marked even after vocal practice. 6. Edema in the vocal cords was more incident to alto or basso than to soprano or tenor.
著者
打越 進 野村 公寿 木村 廣行 宇佐 神篤
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.374-378, 1981
被引用文献数
1

Six patients with nasal allergy due to Japanese Apricot pollen which are called "Ume" pollen were clinically examined. All cases had hyperrhinorrhea and nasal obstruction with ocular symptoms, and one of them also had itching in the pharynx. They have lived for 8 to 47 years near by a large grove of Japanese apricot and 4 of them were fruit-growers. Among these four cases, three have suffured from nasal and ocular symtoms while they were working in the grove. These cases had positive skin reaction to clude "Ume" pollen extract, and five patients also reacted to nasal and ocular provocative tests.<br>Serum IgE value by RIST was distributed from 98 to 2300IU/ml (mean value 887IU/ml). Specific anti-"Ume" pollen IgE in the serum was measured by BrCN activated RAST method, and serum value of five patients was 1.6 timed to 3.5 times higher than that of non-allergic subjects.<br>Air-borne "Ume" pollen collected in a grove were observed from the beginning of February to the middle of March, and maximum grain count was 43 per cm<sup>2</sup> in 24 hours.
著者
橋口 一弘 若林 健一郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.1, pp.24-29, 2020-01-20 (Released:2020-02-05)
参考文献数
16

アレルギー性鼻炎の治療選択肢は近年増加してきたが, 薬物治療の中心となるのは第2世代抗ヒスタミン薬である. 抗ヒスタミン薬は第1世代と第2世代に分類されるが, 基本的な構造は共通である. 第1世代抗ヒスタミン薬の特徴として, 脂溶性が高く組織移行性が良好である. このため中枢移行しやすくなり, 眠気などの副作用を起こす. また H1 受容体に対する選択性が低いため, ムスカリン受容体, セロトニン受容体などアミン受容体に共通構造を持つほかのアミン受容体にも結合をする. 口渇, 食欲増進などの副反応はこのためである. こういった不要な反応を軽減することを目的として第2世代抗ヒスタミン薬が開発された. 第2世代抗ヒスタミン薬の特徴として, 脂溶性が低下し血中タンパク結合が多くなった. このため組織移行性が悪くなったが, 中枢移行が少なくなり眠気などの副作用が減った. H1 受容体に対する選択性が高くなったことから, ほかのアミン受容体への結合が少なくなり, 第1世代抗ヒスタミン薬で見られた副反応が減ってきた. 一方で組織移行性の低下なども見られることから, その効果には個人差があることも理解しておく必要がある. 近年経口剤ではなく, 投与経路を変更した貼付剤の抗ヒスタミン薬が開発されてきた. さまざまな投与法の選択肢が増えてきたことで, 第2世代抗ヒスタミン薬の特徴を理解し, 患者満足度を上げるように使用することが大事である.
著者
児玉 悟
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.12, pp.1406-1413, 2015-12-20 (Released:2016-01-15)
参考文献数
26
被引用文献数
5

鼻閉の改善は鼻科手術の重要なアウトカムであり, 鼻閉の改善のためには, その原因や病態を的確に捉え, 鼻腔形態の矯正を行うことが重要である. 鼻中隔弯曲症は鼻閉を来す代表的な疾患であり, 鼻中隔矯正術は耳鼻咽喉科医にとってはごく一般的な手術である. しかし前弯が顕著な症例や外鼻変形を伴っている症例では, 通常の鼻内法による鼻中隔矯正術では,弯曲の矯正が困難なことが多く, 満足する結果が得られないこともある. このような鼻中隔弯曲症に対しては, 外鼻と鼻中隔を立体的な一つの構造物と考え, 矯正を行う septorhinoplasty (鼻中隔外鼻形成術) が有効である. 外鼻手術はいまだにわが国の鼻科臨床においてはマイナーな分野であり, 外鼻への手術操作に対しては, 耳鼻咽喉科医自身も抵抗を感じるものも少なくないのが現状であるが, 正確な鼻内所見の把握と鼻閉の評価ができるのは, おそらく耳鼻咽喉科医のみである. 患者の QOL 向上のためにも鼻閉改善のための外鼻手術においては鼻閉治療の中心であるべき耳鼻咽喉科医が積極的に関与すべきであると思われる.
著者
加藤 榮司 東野 哲也
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.9, pp.842-848, 2012
被引用文献数
1

1992年から2010年までの18年間に高等学校剣道部員を対象にして行った聴覚健診成績を集計した. 純音聴力検査で一つ以上の周波数に聴力閾値30dB以上の閾値上昇を認めた聴覚障害例は225名中45名 (19.7%) 69耳であり, 障害程度は2000Hzと4000Hzで大きかった. 聴力型としては, 2000Hz-dip型, 4000Hz-dip型, 2000-4000Hz障害型感音難聴の頻度が高く, 初年度の健診では正常聴力を示した例も含まれていた. また, 聴力閾値25dB以内の小dipについても2000Hzと4000Hzのみに観察され, 剣道難聴の初期聴力像と考えられた. すべての学年で右耳よりも左耳の聴力閾値が有意に高いことがわかった (p<0.01). 18年間にわたる聴覚健診活動の結果, 聴覚障害の発症頻度減少が認められた.
著者
甲斐 智朗
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.102, no.7, pp.898-906, 1999-07-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
25
被引用文献数
1

(目的) 鼻粘膜の血管収縮・拡張が鼻腔由来の一酸化窒素 (NO) 濃度に及ぼす影響を局所への薬剤投与により検討した.(対象) アレルギー性鼻炎以外に特に鼻副鼻腔疾患を有しない健常人24名.(方法) 安静座位における鼻腔由来のNO濃度および鼻腔抵抗, 最小鼻腔断面積, 鼻腔容積を測定した後, 前者12名には血管収縮剤として硝酸ナファゾリン, 後者12名にはNO-cGMP系を介さない血管拡張剤として硫酸サルブタモールをそれぞれ定量噴霧器を用いて両側鼻腔内に投与し, それぞれの計測値の変化を測定した. NOの測定には, chemiluminescence法によるNOアナライザーを用いた. 鼻腔抵抗の測定は鼻腔通気度計を用いてアンテリオール法により, 更に最小鼻腔断面積と鼻腔容積の測定はアコースティックライノメトリーにより行った.(結果) 硝酸ナファゾリンの投与によりNO濃度は有意に低下し, 鼻腔抵抗は有意に減少した. 更に鼻腔容積は有意に増大した.硫酸サルブタモール投与により, NO濃度は有意に上昇し, 鼻腔抵抗も有意に上昇した. 更に最小鼻腔断面積および鼻腔容積は有意に減少した.(考察) 鼻腔抵抗および最小鼻腔断面積, 鼻腔容積の変化から, 各薬剤により鼻粘膜が収縮・拡張していることが示された. 硝酸ナファゾリンはα1レセプターを介して血管を収縮させ, また血管拡張作用を示した硫酸サルブタモールはβ2刺激剤であり, この血管拡張作用はNOを介さないことから, 鼻腔由来のNO産生量は, 血管の収縮・拡張に伴う基質の供給量の変化に影響される可能性が示唆された.(結論) 血管収縮・拡張剤により, 鼻腔由来のNO濃度は有意に減少・増加し, これは基質の供給量の変化に基づいている可能性があると考えられた.
著者
山中 盾
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.103, no.8, pp.905-915, 2000-08-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
27
被引用文献数
1

正常成人男性3名を対象として声帯振動のEGG(電気声門図)波形, PGG(光電声門図)波形,超高速度ディジタル撮影装置(以下HSDI)による撮像を同時記録し,声帯振動の1周期における撮像と各波形との対応に関して比較して,声帯振動パタンの解析におけるEGG,PGGの有用性について検討した.被験者ごとに話声位で3段階の音程と3段階の強弱をつけて行い,合計27の発声を記録した.各発声のデータ毎に声門面積波形(GAW),声門横径波形(GWW),EGG波形,differentiated ECiG波形,PGG波形,differentiated PGG波形,音声波形と同期信号を同じ時間軸の上にグラフ化して示し,各波形のパタンを比較した.GAWとGWWの解析から,声帯遊離縁を基にした声門閉鎖パタンと声門開大パタンには発声様式の違いに対応した変化があることが確認された.声門閉鎖時のEGG波形はいくつかのパタンがありHSDI撮像で観察された声帯遊離縁の動きによく対応していた.しかし声門開大時のEGG波形と声帯遊離縁の動きとは閉鎖時ほど明らかな一致が見られなかった.EGG波形は遊離縁の接触の仕方により決まり,EGGは声帯振動パタンの推測に実用的かつ有用であると考えられた.一方PGGとGAWとの間には時間のずれが認められ,PGG波形だけで閉鎖期始点と開大期始点を決定することは難しいと考えられた.従って,PGG波形は開放期の有無や周波数の測定などには有用と考えられるが,1周期毎の声帯振動パタンを推測するには難点があり,声帯振動の解析に適用するには今後も検討を要する.
著者
中山 明峰
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.1, pp.14-21, 2016-01-20 (Released:2016-02-06)
参考文献数
36

近年睡眠医療が急激に発展した背景に, 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 (OSA) の出現がある. OSA が解明され始めた1980年代にはこれといった治療方法はなく, この時期に考案された口蓋垂軟口蓋咽頭形成術 (UPPP) は画期的な治療法であり, 耳鼻咽喉科医が OSA の治療をリードしていた. ところが20世紀の終わり頃, 経鼻的持続陽圧加圧装置 (CPAP) の普及により, 手術症例が激減した. CPAP が普及し始めて10年以上経過し, CPAP アドヒアランスのよくない OSA 患者や, 治療が長期になると CPAP から完全に脱落してしまう患者が多発するというような問題点が討論されるようになった. CPAP を脱落してしまったら無治療と同じである. CPAP 治療が普及し問題点も出てきた今だからこそ, 睡眠医療における手術治療のあり方が再度検討される時期であると考えている. OSA に対して手術を行う耳鼻咽喉科医は, 以下の項目に意識を配って手術に臨んでいただくことが, 過去と同様の過ちに陥ることなく, 外科的治療の有用性を睡眠医に提案でき, 睡眠医に必要とされる外科医になる近道ではないかと考えている. 1. 睡眠医療を熟知し, OSA 以外の睡眠疾患を鑑別することができ, OSA ではないほかの呼吸障 害についても対処できる知識を持つ. 2. リスクに対する認識と対策, 再発時の合併症などを周知して手術を行う. 3. どの科よりも積極的に小児を診断し, 治療をする. 4. OSA 改善目的の手術は, 上気道の粘膜の拡張のみならず顎顔面全体を考慮し, 顎延長術など 他科との連携も配慮する. 睡眠耳鼻咽喉科医はいまだ不足しており, 睡眠医療を熟知しかつ手術も可能な施設は多くない. 現在見直されつつある睡眠医療における外科的治療に, 多くの若手医師が興味を持ってもらえたら幸いに思う.
著者
宮崎 総一郎 北村 拓朗 野田 明子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.12, pp.1475-1480, 2019-12-20 (Released:2020-01-09)
参考文献数
21

24時間社会の今, 人々の生活スタイルは夜型化し睡眠時間は確実に減少している. 短い睡眠時間でも日常生活に問題なければよいが, 実際には睡眠不足によりもたらされる影響は, 肥満, 高血圧, 糖尿病, 心血管病, 精神疾患等多岐にわたり, 看過できるものではない. 睡眠は「疲れたから眠る」といった, 消極的・受動的な生理機能ではなく, もっと積極的かつ能動的であり,「明日によりよく活動するため」に脳神経回路の再構築 (記憶向上), メンテナンス (脳内老廃物の除去) を果たしている. 睡眠不足や質の悪い睡眠は認知症の促進因子となり, 逆に, 質の良い睡眠は抑制因子となることが近年明らかにされてきている. また, 耳鼻科医が関与することの多い閉塞性睡眠時無呼吸は間歇的な低酸素や高二酸化炭素血症, および頻回な覚醒反応により, 肥満・高血圧・糖尿病・脂質代謝異常症などの生活習慣病と深く関連していることが報告されている. さらに最近の研究で, 認知症発症に対して睡眠時無呼吸が影響を及ぼしていることがいくつかの大規模研究によって示されている. 今後, 睡眠の観点からも認知症予防に取り組むことが必要であり, 特に30代から50代までの若い世代の睡眠不足や睡眠障害,睡眠時無呼吸に対する早期診断, また若年者からの睡眠教育が第1次予防として重要であると考える.
著者
森 恵莉
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.557-562, 2020-07-20 (Released:2020-08-06)
参考文献数
47

多様なにおい分子を受容する嗅覚受容の仕組みが, 徐々に解明されてきている. 嗅覚障害の臨床研究においても, 着実に広がりと進歩を見せている. ヒトが “におい” として感知できる物質は, 濃度や組み合わせ, 温度や湿度などの環境によってもにおい方が全く異なる. 約400種類の嗅覚受容体により, におい物質の交通整理がなされ, 嗅球に情報が送られるシステムは, まだ未解明な部分も多くある. においを感じることができなくなる嗅覚障害は, その先の豊かな生活や人生の選択肢を奪ってしまう. 嗅覚障害の主な原因疾患として慢性副鼻腔炎が挙げられるが, 感冒に伴う嗅覚障害や, 原因が特定できない特発性嗅覚障害も比較的多い. 神経変性疾患との関連も最近は注目されている. 難病指定された好酸球性副鼻腔炎は特に嗅覚障害が重度であるが, ほかの嗅覚障害に比して治療による効果が最も明瞭であり, 治療成績の向上が期待できる. 感冒に伴う嗅覚障害の多くは自然軽快する. 回復が長期に渡る場合は, 嗅覚刺激療法や漢方薬による治療効果も今後は期待されている. 原因が特定できない高度嗅覚障害については, 脳腫瘍を含めた中枢性疾患が存在していることもあり, 頭蓋内病変鑑別のため, 頭部 MRI や神経内科依頼も念頭に置くべきであると考える. また, 職業歴や趣向などから有機溶媒や化学薬品などの使用歴有無の聴取は, 重要な問診事項であると考える.