著者
岡村 陽介 武岡 真司
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.6, pp.673-678, 2013-06-20 (Released:2013-08-28)
参考文献数
36

血小板は, 血液凝固系と連動した巧妙かつ複雑な止血機構を有しており, これらすべての機能を人工系で模倣することは非現実的といっても過言ではない. 感染の危険性がなく長期間保存可能な血小板代替物として, 生体投与可能なナノ粒子に活性化血小板を認識できる分子 (フィブリノーゲンγ鎖C末端ドデカペプチド, HHLGGAKQAGDV: H12) を担持させることで, それが血管損傷部位へ特異的に集積して血栓形成を誘導する起点となり, 集積したナノ粒子によって出血部位を充填し止血能を補助できるとの発想に基づいて, 極めて単純な血小板代替物を設計した. さらに, 血小板凝集を惹起するアデノシン5'-二リン酸 (ADP) をリポソームの内水相に封入することで止血能を増幅させることにも成功している.
著者
將積 日出夫 渡辺 行雄 丸山 元祥 本島 ひとみ 十二町 真樹子 安村 佐都紀
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.106, no.9, pp.880-883, 2003-09-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

(目的)Meniett20Rはメニエール病の携帯型中耳加圧治療器具である,本論文では,本邦で初めてMeniett20Rを薬物療法に抵抗する難治性めまいを反復し,人退院を繰り返す高齢メニエール病患者に対して用い,めまいに対する治療効果を報告した.(方法)対象は,高齢重症メニエール病患者2例であった.Meniett20Rによる治療開始から1年間の経過を評価した.(結果)治療開始からめまい発作消失までは約3カ月であり,めまい係数からいずれも改善と評価された.(結論)Meniett20Rは,鼓室換気チユーブ留置術を必要とするが,めまい制御に対する有効性が期待でき,簡便で安全性が高い.したがって,薬物療法に抵抗する重症メニエール病に対する治療方法の選択肢の一つとなる可能性がある.
著者
三輪 高喜
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.8, pp.1043-1050, 2018-08-20 (Released:2018-09-11)
参考文献数
44
被引用文献数
1

嗅覚もほかの感覚と同様, 加齢とともに低下する. 視覚ならびに聴覚と比べて嗅覚の低下は日常生活における支障度は高くはないものの, 生活上の支障にさらされる危険性をはらむとともに, 食と深くかかわる感覚であるために栄養や生活の潤い, 楽しみに影響を及ぼす. 嗅覚低下のリスクファクターとして, 加齢と男性であることがすべての調査で指摘されており, それ以外に鼻副鼻腔疾患の既往, 喫煙, 生活習慣病などが挙げられている. 加齢に伴う病理変化は, 末梢の嗅神経細胞から中枢の嗅覚野まですべての嗅覚経路で表れる. 加齢に伴う嗅覚低下における問題点は, ① 日常生活上の危険,支障を抱えること, ② 自身の嗅覚低下に気付いていないこと, ③ アルツハイマー病やパーキンソン病など神経変性疾患の前駆症状であることが挙げられる. 加齢に伴う嗅覚低下を改善することはできず, 眼鏡や補聴器のような補装具もないため予防が重要である. 予防としてはリスクファクターの回避に加えて, 適度な運動が効果を示すことが報告された. また, 近年, 欧州で行われている嗅覚刺激療法が嗅覚低下の予防に効果を示すかもしれないが, 今後の研究が待たれるところである. 耳鼻咽喉科医としては, 嗅覚低下を有する高齢者を診察する際には, まず, 鼻副鼻腔炎など原因となる疾患を鑑別した上で, 原因と思われる疾患が明らかでない場合は, 神経変性疾患の存在も考慮すべきである. また, 治らないとしても患者の抱える危険や日常生活の支障, 心理的な変化を理解する必要がある.
著者
服部 謙志
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.101, no.12, pp.1412-1422, 1998-12-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
30
被引用文献数
8 6

IgA腎症に対する口蓋扁桃摘出術(以下扁摘)の長期的な臨床効果と長期予後を左右する因子について検討した.対象は腎生検後5年以上経過を観察できたIgA腎症扁摘例71例とした.予後予測因子については,性別,発症年齢,腎病理所見,腎生検時臨床検査所見(血清クレアチニン値,クレアチニンクリアランス,1日尿蛋白量,血清IgA値,高血圧の有無),扁桃炎の既往,扁桃誘発試験,経過(発症から扁摘までの期間,発症から現在までの期間)について検討した.各々の因子について,寛解率(寛解群/全症例×100),腎機能保持率{(寛解群+腎機能保持群)/全症例×100}を求め,Fisherの直接確率計算法を用いて統計学的に検討した.全症例の予後は,寛解率28.2%,腎機能保持率90.1%であり,長期的な臨床効果が期待できると考えた.予後予測因子については,発症年齢が20歳以上,腎病理組織障害度が高度,血清クレアチニン値が1.3mg/dl以上,1日尿蛋白量が1.0g/日以上,血清IgA値が350mg/dl以上で,有意に予後不良であった.性別,クレアチニンクリアランス(80ml/min以上と未満),高血圧の有無,扁桃炎の既往の有無,扁桃誘発試験陽性項目の有無,経過の長短については有意差は認めなかった.IgA腎症に対する扁摘の適応については,腎病理組織障害度が軽度な症例は,扁摘により腎機能低下への進行を抑制する効果が期待できると考えた.腎病理組織障害度が高度な症例は,腎生検時すでに腎機能が低下していれば積極的な扁摘の適応はないが,腎機能が比較的保持されていれば扁摘を含めた治療の効果が期待できると考えた.
著者
杉浦 彩子 内田 育恵
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.707-713, 2017-05-20 (Released:2017-06-20)
参考文献数
31

難聴は高齢者に最も多くみられる障害の一つだが, 近年難聴が認知機能低下のリスク要因であることが注目されている. 難聴と認知機能は, 共通の因子や相互作用もあると考えられ, その関係性は複雑である. 補聴器による難聴に対する介入で, 認知機能の維持・改善が報告されており, 2015年には大規模な疫学調査における補聴器装用の認知機能への有効性がイギリスとフランスから報告された. 難聴高齢者は難聴の自覚が乏しく, 家族から難聴を指摘されて受診する場合が多い. 高齢者において聴力を評価する場合には, 既に認知機能低下を伴っていて, マスキングがうまく入らなかったり, 聴力検査でのボタン操作が不安定だったりすることがある. また, 本来の難聴に機能性難聴を伴う症例があり, 留意が必要である. 認知機能低下のある高齢者の難聴への介入は, 語音明瞭度が悪く補聴器の効果が限定的な方が多いこと, 本人の自覚が乏しく補聴器装用の意思の乏しい方が多いこと, 意思があっても補聴器の操作などが困難な方がいること, 紛失のリスクが高いこと, などの問題点があり, 慎重な対応を要する. 認知機能正常の難聴高齢者と認知機能低下のある難聴高齢者とを区別して対応する必要がある. 高齢の難聴者の看過できない問題として耳垢栓塞があり, 湿性耳垢の多い欧米では高齢者の3割程度に認めるとされているが, 本邦においても1割弱の方に耳垢栓塞があると考えられ, 留意が必要である.
著者
湯田 厚司 小川 由起子 荻原 仁美 鈴木 祐輔 太田 伸男 有方 雅彦 神前 英明 清水 猛史
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.6, pp.833-840, 2017-06-20 (Released:2017-07-15)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

スギ花粉舌下免疫療法のヒノキ花粉飛散期への効果を検討した. 方法: スギ花粉舌下免疫療法 (SLIT) を行ったヒノキ花粉症合併180例 (平均37.0 ± 17.0歳, 男性105例, 女性75例, CAP スコアスギ4.6 ± 1.1, ヒノキ2.7 ± 0.8) を対象とした. スギ・ヒノキ花粉とも中等度飛散の2016年に日本アレルギー性鼻炎標準 QOL 調査票の QOL およびフェーススケール (FS) と, 症状薬物スコア (TNSMS) を花粉ピーク期に調査した. また, 花粉飛散後に両花粉期の効果をアンケート調査した. 結果: 飛散後アンケートで, 治療前にはスギ期で症状の強い例が多く, SLIT の効果良好例はスギ期68.7%とヒノキ期38.7%でスギ期に多かった. 両花粉期を比較すると, 同等効果42.2%であったが, ヒノキ期悪化が半数以上の54.9%にあった. 各調査項目の平均では両花粉期に有意差がなかったが, 個々の例で TNSMS スコア1以上悪化例が27.2%あり, スギ期軽症の FS 0または1の43.4%で FS が悪化した. 治療前にスギとヒノキ期に同等症状であった例の30.4%でヒノキ期に TNSMS が悪化した. 一方で, 治療前にヒノキ期症状の強かった8/30例 (26.7%) でヒノキ期に改善し, 効果例も認めた. 結論: スギ花粉舌下免疫療法はヒノキ花粉症に効果例と効果不十分例があり, ヒノキ期の悪化に注意が必要である.
著者
藤原 崇志 野々村 万智 白 康晴 吉澤 亮 岩永 健 水田 匡信 吉田 充裕 佐藤 進一 玉木 久信
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.143-147, 2019-02-20 (Released:2019-03-01)
参考文献数
15
被引用文献数
1

2010年4月~2018年3月の間に専攻医が執刀した甲状腺葉切除術の安全性と質を評価するため, 手術時間, 術後半年以上治癒しない声帯麻痺, 術後出血を評価した. 8名の耳鼻咽喉科専攻医が専門領域研修を開始し, 339例の甲状腺葉切除術を執刀した. 声帯麻痺は3例 (0.9%) に生じ, 術後出血は10例 (2.9%) に生じた. 術後出血は執刀10~20例目に多く, 執刀経験が40例を超えると1例も認めなかった. また手術時間は執刀数が45例を超えると手術の約75パーセンタイルが1.5時間以内であった. 術後出血および手術時間の観点から甲状腺葉切除術を安全に行うには45例程度の執刀経験が必要であった.
著者
竹内 義夫
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.95, no.11, pp.1744-1758,1891, 1992-11-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
68

骨導測定とマスキングに関連する基本的事項を定量的法則に再編成し, 実効マスキング狭帯域雑音を装備するオージオメータの使用を前提とすれば, マスキングノイズレベルと気導および骨導の域値の関係を計算して予測できることを示した. 良聴耳骨導を非検耳の骨導とする仮定を導入すれば, この骨導と両気導の3者および両耳間移行減衰量からマスキングノイズレベルが算出できることを新たに見いだし, ABCマスキング法として体系化した. ABCマスキング法は原則的に一検査周波数につき1つのノイズレベル下の骨導測定で終わるのでプラトー法に比べて測定時間を飛躍的に短縮することができた.
著者
鈴木 衞
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.12, pp.1468-1473, 2018-12-20 (Released:2019-01-16)
参考文献数
24

めまいを訴える患者は高齢社会を反映して増加の一途をたどっている. 体平衡には前庭系, 視覚情報, 深部知覚などが総合的に関与する. また, めまいは自己の感覚なので検査所見とは並行せず, 病態の把握も困難なことが多い. しかしながら研究の蓄積によって病態や治療に多くの新知見が得られている. 眼振検査をはじめとする神経耳科的検査の多くは過去の基礎的研究の成果で, 診断に大きく貢献してきた. 温度刺激検査だけでなく, 簡便で特異度も高い head impulse test が一側半規管の検査法として開発された. 新しい耳石器機能検査法としては前庭誘発筋電位 (VEMP) 検査や自覚的垂直位が臨床応用され, 前庭神経の障害が詳しく区別されるようになった. 今後, 病態に応じた治療法の開発も期待される. 画像検査の進歩は著しく, 内リンパ水腫の診断や平衡中枢機能の解明が進んでいる. 遺伝学も平衡障害の診断や治療法開発に寄与していくと思われる. BPPV の治療は, Epley らによる病態特異的な理学療法の開発を契機に大きく進歩した. 最先端の治療としては薬物を内耳へ直接作用させる drug delivery system や再生医学的手法があり, 今後内耳疾患治療の主流になることが予想される. 手術療法では, 難治性 BPPV への半規管遮断術, メニエール病へのゲンタマイシン鼓室内注入などが詳しく検討されている. 平衡訓練やリハビリテーションでは, 聴覚, 振動覚, 舌知覚などほかの感覚を利用した感覚代行が試みられている. 適応の決定や治療効果の判定にこれまで開発された機能検査が画像検査とともに貢献することを望みたい. 高齢者の QOL 向上のため, 平衡医学の果たす役割は今後増していくものと思われる.
著者
岩﨑 真一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.1, pp.14-21, 2018-01-20 (Released:2018-02-07)
参考文献数
18
被引用文献数
1

一側の前庭障害であれば, いわゆる前庭代償によりめまい感や平衡障害は徐々に軽快するが, 両側の前庭障害では前庭代償が働かず, 慢性のふらつきや動揺視が持続する. この両側前庭障害に対する治療を目指して, さまざまな基礎研究や臨床研究が進められている. 本稿では, 両側前庭障害に対して現在進められている研究のうち, 1) 人工前庭, 2) ノイズ前庭電気刺激, 3) 内耳再生の研究について概説する. 両側前庭障害に対する治療の一つとして, 人工前庭の開発が進められている. 人工前庭は, 3つの半規管の膨大部に電極を埋込み, 頭部に装着した加速度計によって解析した頭部の動きを基に, 各々の半規管の刺激を行うものである. 2000年頃より開発が開始され, 現在はヒトを対象とした臨床試験が欧米で進められるところまで来ている. 残存する前庭機能を底上げする治療の一つとして経皮的ノイズ前庭電気刺激 (ノイズ GVS) を利用した治療の開発を進めている. ノイズ GVS は, 耳後部に貼付した電極より微弱なノイズ様の電流を流すことで前庭神経を刺激する方法である. これまでの研究で, ノイズ GVS の短期刺激 (30秒間) では, 両側前庭障害患者の約9割において体平衡機能の改善を認めており, 長期刺激 (30分間, 3時間) では, 刺激終了後少なくとも数時間は体平衡機能改善効果が持続することが判明している. 内耳の再生医療を目指した研究では, 既に ES 細胞, iPS 細胞から有毛細胞の作成が可能となっており, 再生医療研究は目覚ましく進展しているが, 臨床応用にあたっては, 内耳への到達手段が問題となっている. 前庭上皮の特徴としては, 蝸牛有毛細胞とは異なり, 成熟した哺乳類の動物においてもある程度の再生能を有することが挙げられる. この自発再生を促進する目的で, さまざまな薬剤の投与が試みられており, 複数の栄養因子が再生を促進する効果があることが判明している.
著者
熊川 孝三
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.6, pp.809-815, 2015-06-20 (Released:2015-07-18)
参考文献数
15
被引用文献数
1
著者
大塚 雄一郎 根本 俊光 國井 直樹 花澤 豊行 岡本 美孝
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.9, pp.1225-1230, 2016-09-20 (Released:2016-10-07)
参考文献数
15
被引用文献数
2

甲状腺吸引細胞診の最も一般的な合併症である頸部腫脹には2つの機序が知られている. 1つは穿刺部からの出血による血腫形成 (甲状腺内と甲状腺外), もう1つは穿刺刺激に反応した腺内血管の拡張によるびまん性甲状腺腫脹である. 後者は過去の報告で acute and frightening swelling of thyroid と表現される重要な合併症であるが, 適当な名称がないため本文では便宜上 dTSaFNA (diffuse thyroid swelling after fine needle aspiration) と称した. われわれは甲状腺の吸引細胞診後の血腫形成を1例と dTSaFNA を2例経験した.