著者
髙尾 なつみ 榎本 浩幸 木谷 有加 田中 恭子 井上 真規 小林 眞司 折舘 伸彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.5, pp.371-376, 2020-05-20 (Released:2020-06-05)
参考文献数
16

アデノイド切除術後の合併症として鼻咽腔閉鎖不全を来すことがあるが, 多くは保存的加療で消失する. 今回アデノイド切除術後に重度の開鼻声を生じ改善に外科的治療を要した一症例を経験した. 症例は5歳女児. 両側滲出性中耳炎, アデノイド増殖症に対し両側鼓膜チューブ留置術, アデノイド切除術を施行した.術後より聴力は改善したが, 開鼻声を来し発話明瞭度が低下した. 手術4カ月後から言語訓練を開始したが改善せず, 上咽頭ファイバースコピー, X 線所見より先天性鼻咽腔閉鎖不全症と診断し7歳9カ月で自家肋軟骨移植による咽頭後壁増量法を施行し症状は改善した. 術前予見可能性および発症後の対応について検討したので報告する.
著者
賀来 美寛
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.182-201, 1970 (Released:2007-06-29)
参考文献数
101
被引用文献数
2

鼻副鼻腔疾患に栄養が大きく影響していることはすでに知られているが, ビタミンE (以下Eと略す) は近年多くの研究がなされているにもかかわらず, 耳鼻咽喉科領域での基礎的系統的研究は皆無といつてよく, そこでまず萎縮性鼻炎, 血管神経性鼻炎, 慢性副鼻腔炎, 肥厚性鼻炎の患者につき正常者を対照として血清中E量を測定し, 又全例にE負荷後血中値を測定した.最も低値を示したのは萎縮性鼻炎であり, Eとその病態成立が最も密接な関係にあると思われたが, 血管神経性鼻炎, 慢性副鼻腔炎においても正常者より低値を示し, 何らかの関連は否定出来ないと推考した.次に慢性副鼻腔炎の上顎洞粘膜につき病型別にE量を測定し, 又正常家兎及び実験的副鼻腔炎を惹起した家兎副鼻腔粘膜を螢光法による組織化学的検索及びミクロラジオオートグラフイにより観察した所, E定量では線維型は浮腫型, 化膿型に比し低値を示したが, E負荷による変動はいずれの型にもほとんど認められなかつた. 螢光法ではEはわずかに上皮, 腺に認められたが正常粘膜と病的粘膜の間に螢光の差は認められず, Eの負荷による螢光の増加も認められなかつた. オートラジオグラムでは上皮, 腺にグレインが観察された.さらに実験的E欠乏家兎の鼻粘膜を全身諸臓器と共に病理紹織学的に検索した所, 全身臓器ではすでに報告されている如き変化を得, 鼻粘膜では短期欠乏群で萎縮変性がみられ, 長期欠乏群では萎縮性が強く, 慢性炎症性所見がみられ, 純然たるE欠乏のみによる変化と断定は出来ないにしてもE欠乏により鼻粘膜にも病的変化を来す事は疑いないと断定した.
著者
杉浦 彩子 文堂 昌彦 鈴木 宏和 中田 隆文 内田 育恵 曾根 三千彦 中島 務
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.8, pp.737-744, 2020-08-20 (Released:2020-09-01)
参考文献数
29

水頭症患者における聴力変化がしばしば報告されており, 相対的内リンパ水腫によると推測されている. 今回われわれは2012年1月~2018年3月の間に正常圧水頭症に対するシャント手術を受け, 術前後で聴力検査を行った高齢者53名において聴力変化についての検討を行った. 術前の聴力は半数以上に中等度以上の感音難聴を認めた. 術後の聴力は53名全体では一部の低音域において有意な低下を認めたが, 250~4,000Hz の5周波数平均聴力が 10dB 以上変動した症例は12例あり, 聴力悪化が8例 (15.1%), 聴力改善が4例 (7.5%) であった. 聴力の変化無群と悪化群, 改善群でそれぞれ年齢, 性, シャント部位, シャントシステム, バルブ圧, 認知機能, 身体機能等を比較したが, 有意差を認めるような特性はなかった. 悪化群では術前の聴力は変化無群と違いがなかったものの, 術後の左低音域の聴力が有意に悪かった. また, 改善群では術前の聴力が低音域・中音域・高音域とも変化無群より悪く, 術後には差がなくなっていた. 相対的内リンパ圧上昇による聴力悪化と, 相対的外リンパ圧上昇による聴力悪化の解除と, 両方の病態が考えられた. 高齢者ではもともとあった加齢性難聴にこのような聴力変化が伴うことで, 術後補聴器装用となった例もあり, シャント術のリスクの一つとして留意する必要があると考えた.
著者
平野 滋
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.3, pp.163-167, 2016-03-20 (Released:2016-04-19)
参考文献数
25

再生医療は20世紀後半のブレークスルーであり, 21世紀における発展が期待されている. 喉頭領域においても枠組み, 筋肉, 粘膜, 反回神経などの再生研究が活発に行われており, 一部は既に臨床応用に至っている. 再生医療は細胞を用いることで失われた組織を造る, あるいは失われた機能を復活させることを目的とし, 細胞およびその調節因子, さらに細胞が活動できる土台の3要素を駆使することで組織再生を図るものである. 声帯の硬化性病変である瘢痕や萎縮に対しては, 種々の幹細胞や細胞増殖因子を用いた再生実験が進んでいるが, 中でも塩基性線維芽細胞増殖因子と肝細胞増殖因子が有望視されており, いずれも臨床応用に至っている. 枠組みの再生には人工の足場材料の開発が, 反回神経においては各種ポリマーを用いた神経再生誘導チューブの開発が進められているが, 最近の脱細胞技術の発展により, さらに大きな組織, 例えば喉頭全体の再生用足場材料についても研究が開始されている. これらの研究が進むことで喉頭全摘後の喉頭再生も夢ではなくなることが期待される.
著者
志賀 英明 三輪 高喜
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.6, pp.835-839, 2021-06-20 (Released:2021-07-01)
参考文献数
15

新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 患者の多くが嗅覚障害の自覚症状を有するため, 嗅覚障害の診断と治療の重要性がクローズアップされてきた. 耳鼻咽喉科医には, これまで以上に嗅覚障害に十分な備えをもって診療に取り組むことが求められている. 嗅覚検査には閾値検査, 識別検査と同定検査の三つの要素を兼ね備えた形式が望ましい. 基準嗅力検査は, 検知域値で閾値検査を, 認知域値で閾値検査と同定検査の性格を有しており, 識別検査の要素を取り入れた改良を試みる必要がある. 基準嗅力検査の問題点として検査後の室内に立ち込める悪臭が挙げられるが, 脱臭装置の改良やにおい吸着板を壁に装着した防臭室の開発なども期待される. 認知症スクリーニングにおける嗅覚検査の有用性が明らかになっているが, 本邦では研究用としてスティック型とカード型の嗅覚同定能力検査キットが市販されている. 嗅覚障害の原因部位診断は経験を要するが, 近年のイメージング研究により嗅覚障害では原因疾患にかかわらず嗅球の萎縮と成熟嗅細胞減少を認めることが示唆されている. 嗅覚研究の課題としては上記のほか, 嗅上皮マーカーの開発, 経鼻的薬物投与方法, 嗅覚刺激療法, 運動療法, 異嗅症の治療法, および COVID-19 に伴う嗅覚障害の診断などが挙げられる. 世界に先駆けて嗅覚障害診療ガイドラインを発刊した本邦では, 耳鼻咽喉科学における嗅覚研究分野の裾野は広がりつつあり, さらなる発展を期待したい.
著者
森園 徹志
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.94, no.7, pp.938-948, 1991-07-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
52
被引用文献数
3 1

To investigate the influence of the cervical input to the equilibrium, the effect of neck vibratory stimulation on body sway was analyzed in 49 normal human subjects.Body perturbations during standing posture were recorded by a force platform with or without vibratory stimulus on the upper cervical region, and analyzed by computer.During the neck vibratory stimulation, the center of gravity was shifted to the forward, and the amplitude of the body sway was increased especially along the front-rear axis.These results indicate that the proprioceptive inputs from the cervical receptors largely modifies the body equilibrium in normal subjects.
著者
佐川 雄一 大谷 巌 鈴木 聡明
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.106, no.7, pp.739-749, 2003-07-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
24
被引用文献数
2 1

ヒト側頭骨病理標本を用い,耳小骨靱帯周囲の硬化性病変について観察を行い.次の結果を得た.1. 非炎症群では前ツチ骨靱帯,後キヌタ骨靱帯で,30歳未満の群と30歳以上の群の間で硬化性所見に有意差を認めた.このことは,硬化性所見は加齢とともに増加することを意味している.2. 慢性炎症群では前ツチ骨靱帯,後キヌタ骨靱帯について,非炎症群に比較し,各年代とも硬化性変化の程度が強く,また.年代間に有意差を認めなかった.炎症の影響が加齢の影響よりも強く,炎症が起きると加齢と関係なく硬化性変化が進むと考えられた.硬化性変化を進行させないためには,中耳炎,特に小児の中耳炎の治療の際に.炎症を速やかに改善させ,慢性期に至らせないよう注意が必要である.3. 輪状靱帯については,非炎症群,慢性炎症群のいずれについても,各年齢間で有意差を認めなかったが,前ツチ骨靱帯,後キヌタ骨靱帯よりも硬化性所見は少なかった.また,非炎症群と慢性炎症群の比較でも,60歳代の群を除き,有意差を認めなかった.このことから,輪状靱帯は,加齢や炎症の影響を受けにくく,硬化性変化が進行しにくいことが示唆された.4. 輪状靱帯よりも前ツチ骨靱帯や後キヌタ骨靱帯で硬化性変化が起きる頻度が高いことは,ツチ骨とキヌタ骨を残した手術では伝音系全体の可働性が制限され,十分聴力が改善しない可能性があることを意味し,炎症耳の手術の際は,年齢に関係なく前ツチ骨靱帯,後キヌタ骨靱帯の可動性を確認し,可動性が損なわれている場合には,これらの靱帯を切離するような術式が有効であると考えられた.
著者
岡本 浩一郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.10, pp.887-893, 2012 (Released:2012-11-23)
参考文献数
12
被引用文献数
1

“外転神経麻痺”と“三叉神経第1枝 (V1) 領域の疼痛”の組み合わせはGradenigo症候群として知られ, 側頭骨錐体尖部 (以下, 錐体尖部) の病変を示唆する. Gradenigo症候群の患者のみならず, 耳鼻科的・眼科的疾患や脳病変の検索のために撮像されたCT・MRIで, 錐体尖部病変が認められることがある. これらの病変は, 耳鼻科的診察では直接視診・触診などすることができず, 内視鏡でも観察することが困難で, 生検なども容易ではない. 病変が積極的な耳鼻科的治療の対象か否かの判断に, 画像診断の果たす役割りが大きい.偶然発見される錐体尖部病変のうち, 治療的介入を要しない正常変異や病変は ‘Leave me alone’ lesionsといわれ, 介入を考慮する疾患と区別することが必要である. 偶然発見される代表的な ‘Leave me alone’ lesionsには(1)錐体尖蜂巣の左右差による非対称性錐体尖部骨髄, (2)錐体尖蜂巣内液体 (滲出液) 貯留, (3)脳瘤がある. これらの病態や疾患を, 耳鼻科的介入を考慮すべき錐体尖部 (破壊性) 病変と区別するためには, 錐体尖部の正常画像解剖の理解と, 日常臨床上重要な錐体尖部 (破壊性) 病変の画像所見の知識が必要である.
著者
坂田 俊文
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.5, pp.732-737, 2019-05-20 (Released:2019-06-12)
参考文献数
14

耳閉感とは「耳がつまった」,「耳がふさがった」,「何かに覆われた」などと訴えられる聴覚異常感である. 外耳疾患, 中耳・耳管疾患だけでなく, 内耳疾患, 後迷路疾患でも発現し得る. 多くの症例では耳閉感以外の症状や諸検査によって比較的容易に診断できる. 一方, オージオグラムで低音障害を示すものと無難聴例では確定診断が得られ難いことがある. 容易に診断がつかない場合には, 耳管機能不全と急性低音障害型感音難聴の可能性を継続的に観察する. 耳管機能不全では鼻すすり型を含めた耳管開放症を診断するため, 耳管閉鎖処置や耳管開放処置などを行いながら, 耳閉感の変化や鼓膜所見の変化を観察する. また, 急性低音障害型感音難聴は自覚症状があってもオージオグラムが正常な時期があるので, 純音聴力検査で低音障害を捕らえるまで一定期間観察する. また, 低音障害がある場合はグリセロールテストも有用である. ちなみに低音障害の気骨導差は伝音障害と感音障害の鑑別に必ずしも有用でない. これらのほかに診断しにくい疾患としては, 上半規管裂隙症候群, 乳突蜂巣内の慢性炎症, 顎関節症などがあり, 慢性的な感音難聴も耳閉感の原因となる. 耳閉感を訴える患者の中には診断困難な例や, 診断できても難治な例があり, 少なからず QOL を悪化させる. 耳閉感の早期改善や完全消失が困難な場合には, 疾患に対する十分な説明が必要であるほか, 認知行動療法の要素を取り入れた診療, TRT 療法など耳鳴治療に準じた対応が有用な例がある. 聴覚補償が必要な難聴があれば, 補聴器適合が望ましく, 耳閉感を克服しやすくなる. 耳閉感の苦痛が強い患者は, 少なからず失聴恐怖や破局視などを抱えていることがあるので, 適切な情報提供により正しい認知が得られるよう導くことも大切である.
著者
高木 大 福田 諭 中丸 裕爾 犬山 征夫 間口 四郎 飯塚 桂司
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.6, pp.675-681, 2001-06-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
19

釧路地方におけるアレルギー性鼻炎患者についてCAP RASTの陽性率を検討した. また当地方の花粉の飛散状況もあわせて調査し, 札幌での報告と比較し, その地域特異性について検討した. 平成10年4月1日から平成12年3月31日までに市立釧路総合病院耳鼻咽喉科を受診した患者でアレルギー性鼻炎様症状を示し, CAPRASTを施行した結果, アレルギー性鼻炎の診断を下した107名を対象とした. また, 釧路地方でのシラカンバとイネ科花粉について飛散量を調査し, 札幌での飛散量と比較検討した. CAP RASTの結果は花粉類の陽性率ではオオアワガエリが22.4%と最も高く, 以下ハルガヤ17.7%, タンポポ15.0%, シラカンバ14.0%, ヨモギ12.1%, ハンノキ11.2%, ブタクサ8.4%の順であった. シラカンバ花粉の飛散量は釧路では5月下旬から6月上旬にかけて飛散のピークがみられた. 札幌では4月下旬から5月にかけて飛散がみられ, ピークは5月上旬頃であり, 釧路では約2週間程度ピークが遅れていた. また, シラカンバRAST陽性患者の初診月は6月が多く, 時期的にも一致していた. イネ科花粉の飛散時期は釧路地方では札幌に比し約1カ月遅れていた. 釧路地方の花粉症ではイネ科花粉症が最も多く, シラカンバがそれに次ぐ形になっており, シラカンバ花粉症が近年増加している札幌周辺とは若干異なった結果になった. これらの結果については釧路地方の気候等の地域的特徴が影響しているものと思われた.
著者
將積 日出夫
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.10, pp.1243-1249, 2018-10-20 (Released:2018-11-21)
参考文献数
20

遅発性内リンパ水腫は先行する高度感音難聴にメニエール病様のめまい発作あるいは対側の聴力変動を来す疾患群である. 先行する高度難聴耳と内リンパ水腫症状の原因耳の関係から同側型, 対側型に分けられる. 平成26年5月に「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法) が制定され, 遅発性内リンパ水腫は第2次指定難病 (平成27年7月1日施行) に選定された.「難病法」による医療費助成の対象となるのは, 原則として「指定難病」と診断され,「重症度分類等」に照らして病状の程度が一定度以上の場合である. 遅発性内リンパ水腫の診断基準は, A. 症状 (4項目), B. 検査所見 (5項目), C. 鑑別診断からなる. 指定難病には症状の4項目および検査所見の4項目に該当する確実例のみである. 遅発性内リンパ水腫の重症度分類は A. 平衡障害・日常生活の障害, B. 聴覚障害, C. 病態の進行度の3項目がある. 医療費助成の対象となるのは, 平衡障害では両側の半規管麻痺, 聴覚障害では両側 40dB 以上, 病態の進行度では不可逆性病変が高度に進行して後遺症を認めるものと定義されている. 遅発性内リンパ水腫の治療としては, 保存的治療として有酸素運動等の生活指導, 心理的アプローチ, 浸透圧利尿剤等の薬物治療, 機能保存的手術治療として内リンパ嚢開放術, 選択的前庭機能破壊術として内耳中毒物質鼓室内注入, 前庭神経切断術が行われている. 近年, その治療選択として低侵襲の治療から開始し, 有効性が確認されない場合に, 次の段階へ進む段階的治療選択法が提唱された. 中耳加圧療法は, 保存的治療に抵抗した難治例に対して手術治療の前に考慮される新しい治療法である. 新型鼓膜マッサージ機は経済産業省平成24年度課題解決型医療機器等開発事業「難治性メニエール病のめまい発作を無侵襲的に軽減する医療器機の開発」により作成され, 平成29年9月に中耳加圧装置として一般的名称がつけられた.
著者
北島 尚治 北島 明美 北島 清治
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.1, pp.55-62, 2020-01-20 (Released:2020-02-05)
参考文献数
24

耳管開放症は耳管が開放しているために鼻咽腔内の音や圧が低減衰のまま中耳に伝わる疾患で, 耳閉感や自声強聴, 自己呼吸音の聴取などが主訴となる. 症例は開放耳管を伴うダイバー患者14例である. ダイビングトラブルに関する詳細な問診, 耳管機能検査を含めた神経耳科的検査を施行した. 耳管機能検査には音響法とインピーダンス法を用いた. 14例中8例が耳違和感, 1例が中耳気圧外傷 (MEB), 5例が内耳気圧外傷 (IEB) であった. MEB 症例のうち1例は圧変動性めまい (AV) を生じていた. 14例中8例が浮上時に発症し, 急速潜降した2例で AV と IEB を生じた. 正常ダイバーとの比較で音響法・インピーダンス法ともに有意差を認めたが, 各患者の正常耳と患側耳との比較では音響法でのみ有意差を認めた. 内耳障害の有無での比較では, 耳管機能に有意差を認めなかった. 開放耳管ダイバー患者は急速潜降で内耳障害を生じやすく, 急速な圧変化に加え耳抜き時の過剰加圧が原因と思われた. 浮上時の IEB は中耳腔含気が膨張し蝸牛への過大な圧力を引き起こしたためと考えられ, 浮上速度を遅め嚥下運動で経耳管的に圧を逃がすことが対策と考えた.