著者
中﨑 公仁 岡 真一 佐々木 祐典 本望 修
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.2, pp.93-97, 2015-02-20 (Released:2015-03-05)
参考文献数
17

われわれは基礎研究と臨床研究において, 脳梗塞に対して, 骨髄間葉系幹細胞の経静脈的投与により, 機能回復が得られることを報告してきた. 2007年より自家骨髄間葉系幹細胞を用いた, 脳梗塞に対する臨床研究を行い, 同治療の安全性と有効性を報告した. その結果を踏まえて, 2013年より, 医師主導治験 (Phase III) に取り組んでいる. この治験は, 薬事法 (平成26年11月25日より,「医薬品, 医療機器等の品質, 有効性及び安全性の確保等に関する法律」に改名) に基づき, 厳格な品質管理のもと, 細胞医薬品 (細胞生物製剤: 自己骨髄間葉系幹細胞) を製造し, 適応となった症例を実薬群, プラセボ群へランダム化二重盲検法で割り付けて, 同治療の有効性を検証し, 薬事承認を目指している. 本稿では, 脳梗塞に対する骨髄間葉系幹細胞移植治療の臨床研究と, 現在進行中の医師主導治験の概要について報告する.
著者
Minoru Okuda Atsushi Usami Hirotaka Itoh Satoshi Ogino
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
Nippon Jibiinkoka Gakkai Kaiho (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.105, no.12, pp.1181-1188, 2002-12-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
29
被引用文献数
4 7

アレルギー性鼻炎患者(AR)における昆虫アレルゲンの症状への関与を調べるため,560例のARを対象にしてガ,ユスリカ,ゴキブリを含む13アレルゲンに対するIgE抗体を測定した.また,65例の患者でこれら3種の昆虫の鼻誘発試験を実施した.ガ,ユスリカおよびゴキブリに対するIgE抗体保有率はそれぞれ32.5%,16.1%,13.4%であった.これらIgE抗体保有率には,地域,年齢,治療および合併症による差は認められなかった.鼻誘発試験で陽性と判定される割合は,RASTクラスが高いほど多くなる傾向があった.とくにゴキブリ,ガにおいて,RASTクラス3以上では,各々55.6%および61.5%が鼻誘発試験に陽性を示した.昆虫間のIgE抗体価の相関を検討したところ,ガ,ユスリカ間には強い相関が認められ共通抗原性を示唆したが,ゴキブリ,ガ間およびゴキブリ,ユスリカ間では強い相関は認められなかった.また,いずれの昆虫もヤケヒョウヒダニおよび室内塵に対するIgE抗体価との相関は認めなかった.以上の結果,日本においてガ,ユスリカ,ゴキブリは,アレルギー性鼻炎を起こす原因となっていることが示された.
著者
岩淵 康雄 花牟礼 豊 廣田 常治 大山 勝
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.97, no.12, pp.2195-2201, 1994-12-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

The detection of lesions of the paranasal sinuses as incidental findings during magnetic resonance imaging of patients suspected of intracranial disease who have no nasal symptoms has been far more common than we expected. The present study was performed on 325 patients a mean age of 60.7 years. Medical histories were taken whether they had any nasal symptoms or not. Asymptomatic sinus disease was present in 41.6% of the 257 patients who had no nasal symptoms, and 9.7% of the patients had either marked mucosal thickening, excessive fluid or polyps in the maxillary sinuses. Although the mean age of these patients was comparatively high, we can infer that 1 in 10 have relatively severe sinus lesions. Mucociliary transport time was measured using the saccharin method in 15 patients who had sinus disease but no nasal symptoms. The mean transport time was 15.6 minutes and within normal limits. Routine ENT examination revealed no lesions in the nasal cavity of any of the subjects.We classified the patients with asymptomatic sinus disease into two groups; group A: patients with sinus disease associated with some nasal manifestations but who do not complain about them, group B: patients who have sinus disease but do not have any nasal problems. Group B represents genuine asymptomatic sinus disease in the narrow sense. Most asymptomatic patients in this study appeared to belong to group B. They had some sinus disease, but because their mucociliary function in their nasal cavity was normal, they did not have any nasal symptoms. When we find patients with asymptomatic sinus disease, we have to determine which group they belong to by examining their nasal cavity and measuring their saccharin time. Patients in group A should be medically treated, but those in group B should be followed without medical treatment.
著者
藤枝 重治 坂下 雅文 徳永 貴広 岡野 光博 春名 威範 吉川 衛 鴻 信義 浅香 大也 春名 眞一 中山 次久 石戸谷 淳一 佐久間 康徳 平川 勝洋 竹野 幸夫 氷見 徹夫 関 伸彦 飯野 ゆき子 吉田 尚弘 小林 正佳 坂井田 寛 近藤 健二 山岨 達也 三輪 高喜 山田 奏子 河田 了 寺田 哲也 川内 秀之 森倉 一朗 池田 勝久 村田 潤子 池田 浩己 野口 恵美子 玉利 真由美 広田 朝光 意元 義政 高林 哲司 富田 かおり 二之宮 貴裕 森川 太洋 浦島 充佳
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.6, pp.728-735, 2015-06-20 (Released:2015-07-18)
参考文献数
21
被引用文献数
2 9

これまで本邦における慢性副鼻腔炎は好中球浸潤が主体で, 内視鏡鼻副鼻腔手術とマクロライド少量長期投与にてかなり治療成績が向上してきた. しかし2000年頃からそれらの治療に抵抗性を示し, 易再発性の難治性副鼻腔炎が増加してきた. この副鼻腔炎は, 成人発症で, 嗅覚障害を伴い, 両側に鼻茸があり, 篩骨洞優位の陰影があった. 末梢好酸球も多く, 気管支喘息やアスピリン不耐症の合併もあった. このような副鼻腔炎の粘膜には多数の好酸球浸潤が認められていたため, 好酸球性副鼻腔炎と命名された. 好酸球性副鼻腔炎は, 徐々に増加傾向を示してきたが, 好酸球性副鼻腔炎の概念, 診断基準はあまり明確に普及していかなかった. そこで全国規模の疫学調査と診断ガイドライン作成を目的に多施設共同大規模疫学研究 (Japanese Epidemiological Survey of Refractory Eosinophilic Chronic Rhinosinusitis Study: JESREC Study) を行った. その結果, 両側病変, 鼻茸あり, CT 所見, 血中好酸球比率からなる臨床スコアによる簡便な診断基準を作成した. さらに臨床スコア, アスピリン不耐症, NSAIDs アレルギー, 気管支喘息の合併症, CT 所見, 血中好酸球比率による重症度分類も決定した. 4つに分類した重症度分類は, 術後の鼻茸再発と有意に相関し, 最も易再発性かつ難治性の重症好酸球性副鼻腔炎はおよそ全国に2万人いることが判明した. 治療法については経口コルチコステロイド以外まだ確立されておらず, 早急なる対応が急務と考えている.
著者
平野 滋
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.752-753, 2017-05-20 (Released:2017-06-20)
被引用文献数
1
著者
平野 滋 杉山 庸一郎 金子 真美 椋代 茂之
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.1, pp.11-13, 2021-01-20 (Released:2021-02-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1

声帯は50歳ごろより萎縮が始まり, 声の減弱化, 嗄声を呈するようになる. 声帯の粘膜および筋肉の萎縮によるが, 声の劣化は活力の低下, 生活圏の制限, 社会的地位への脅威など高齢者における生活および仕事環境を脅かすことにもなり, またひいては誤嚥による健康被害にも繋がる. 声が掠れてきたら要注意であり, 予防による声帯の維持が重要である. 声帯の維持のために, 1. 声帯の保湿, 2. 喉頭の慢性炎症の予防, 3. 適度な発声, 4. 活性酸素の抑制を勧めている. 声帯の保湿には1日1.5L 以上の水分摂取が世界的に推奨されている. 喉頭の慢性炎症予防のためには禁煙, 胃酸逆流やアレルギー性炎症のコントロールが重要である. 歌手は声帯の寿命が長いといわれるが, 近年の臨床研究で一定のエビデンスが示された. 適切な発声を継続することが声帯維持に重要である. また, 活性酸素は加齢とともに増加し, 組織障害性を発揮する. 声帯も例外ではなく, 加齢や声帯酷使により声帯粘膜内の活性酸素が増加すること, また抗酸化剤の投与によりこれを予防し, 声帯の維持に有効なことを示した. 声帯の萎縮が生じてしまった場合, 呼気と共鳴を最適化する適切な音声治療によりある程度の改善が期待できる. 塩基性線維芽細胞増殖因子は, 萎縮した声帯粘膜内のヒアルロン酸産生を促進することで, 声帯の再生を促すことが可能である. かつては「年だから仕方ない」とされた声帯萎縮であるが, 健康長寿のために予防と治療が重要である.
著者
神崎 晶
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.3, pp.192-196, 2021-03-20 (Released:2021-04-03)
参考文献数
10

急性感音難聴の診療のてびき, 耳鳴診療ガイドラインが作成されているが, 本稿ではその内容を抜粋し, 最近の文献報告も含めて紹介する. 急性・慢性難聴, 耳鳴について診断アルゴリズム, 検査のポイントについて解説する. 難聴と耳鳴は合併することが多いことから一連の流れで検査, 診断を行うことが多い. まず原因疾患の診断を行う上で, 問診 (発症時期, 経過, 一側か両側か, 進行の速さ, めまいの有無), 耳鏡検査 (鼓膜所見など), 純音聴力検査を行うことになる. 難聴の診断では, 純音聴力検査では伝音, 感音, 混合性難聴を分類する. 伝音難聴があればインピーダンス検査, 感音難聴があれば語音聴力検査を実施する. 混合性難聴であれば上記2つの検査を実施する. また聴力型を確認することで鑑別が可能になる. 必要に応じて語音聴力検査, 他覚的検査 (耳音響放射, 聴性脳幹反応 (ABR), 聴性定常反応 (ASSR)) を行う. 急性感音難聴では突発性難聴, 外リンパ瘻などを疑うが, MRI で聴神経腫瘍, 脳血管障害など中枢疾患を除外する必要がある. 補聴器や人工内耳の適応決定に至るまでの検査も重要であり一定の基準を提示した. 耳鳴の診断では, 耳鳴の苦痛度を問う質問票である Tinnitus handicap inventory (THI) 改訂版を用いて評価する. THI が大きいほど重症度が高く, 治療に難渋する. 難聴の有無を確認するため, 純音聴力検査などを行い, 原因疾患を特定する. 耳鳴検査 (ピッチマッチ, ラウドネスバランス検査) で耳鳴の周波数と大きさを検査する. また, 耳鳴に伴って不安, うつ, 睡眠障害の合併は治療予後に影響を与えるので, 問診で確認することが重要である. 耳鳴に伴いやすい聴覚過敏についても言及した. 難聴, 耳鳴は多岐にわたり, 新たな診断基準の制定, 新しい疾患概念も増えている. また耳鳴治療概念の変化に伴い検査内容も変化していることから, 検査・診断について改めて整理し提示した.
著者
肥塚 泉
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.11, pp.1321-1328, 2014-11-20 (Released:2014-12-19)
参考文献数
9
被引用文献数
2

眼振には衝動性眼振と振子様眼振があるが, 一般的には衝動性眼振を指す. 前庭性眼振の眼振緩徐相は, 末梢前庭器やその伝達路である前庭神経の障害によって生じた前庭動眼反射のアンバランスによって生じた眼球の偏倚である. 偏倚した眼球位置を, 正中眼位にリセットすることを目的に眼振急速相が続いて生じ, このプロセスが繰り返されることにより眼振が形成される. 前庭性眼振の眼振緩徐相は, 前庭系で受容した情報が, 前庭神経, 前庭神経核, 眼運動核 (動眼神経核, 滑車神経核, 外転神経核) に伝達されて形成される (前庭動眼反射). 良性発作性頭位めまい症 (後半規管型) で認められる眼振は, 回旋成分を有した上眼瞼向きの眼振である. またメニエール病や前庭神経炎, めまいを伴った突発性難聴で認められる眼振は, 水平・回旋混合性眼振である. 一方, 純垂直性眼振や純回旋性眼振は末梢性めまいでは認めることは極めてまれである. これらが認められた場合は, 中枢性めまいを疑う. 眼振急速相発現にかかわるニューロン回路は, 眼振緩徐相のそれとは全く異なっている. 眼振急速相発現の主役は, 同側の眼振急速相に一致して一過性の高頻度発射を示す網様体バーストニューロンである. 水平方向急速眼球運動の核上性機構としては, 傍正中部橋網様体 (paramedian pontine reticular formation: PPRF), 垂直方向急速眼球運動の核上性機構としては, 内側縦束吻側間質核 (rostral interstitial nucleus of MLF: riMLF) が重要な役割を果たしている. 眼振緩徐相から眼振急速相への切り替わりに関しては, burster-driving neuron (BDN) が重要な役割を担っている. 注視眼振は, 神経積分器 (neural integrator) に障害があると出現する. 水平方向眼球運動の神経積分器は, 前庭神経内側核, 舌下神経前位核, 小脳片葉などで構成されている. 垂直方向眼球運動の神経積分器は Cajal 間質核, 舌下神経前位核で構成されている.
著者
亀井 昌代 桑島 秀 片桐 克則 平海 晴一 佐藤 宏昭 小田島 葉子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.580-585, 2020-07-20 (Released:2020-08-06)
参考文献数
13

集音器はあくまで「家電製品」として販売されており, 管理医療機器である補聴器とは異なる. われわれは, 補聴器2機種と通信販売されている集音器2機種の4機種について周波数特性を測定し, 20~22歳の若年者と41~55歳の壮年者の健聴被験者に対して客観評価, 印象評価について検討した. その結果, 集音器の周波数特性は, 語音聴取に必要な特性ではなく, リニア増幅で出力も 100dB SPL を超えるため短時間の会話でも聴取時間によっては騒音性難聴の危険があることが分かった. 補聴器の周波数特性は各種聴力検査の結果を基に調整を行い, また出力制限は症例に応じて調整可能で騒音性難聴の危険はない. 雑音下語音明瞭度は, 補聴器が集音器に比較し有意に高値であったが, 印象評価では集音器が良い傾向であった. したがって, 補聴器は印象評価が集音器に比較し低い傾向があるが, 十分な調整と補聴リハビリテーションをすることにより聞き取れ, 集音器は聞き心地がよく聞こえた感じはあるが聞き取れているわけではないことが分かった.
著者
久我 むつみ
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.99, no.9, pp.1208-1217,1235, 1996-09-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
27
被引用文献数
5 5

本研究は妊娠による味覚機能の変動の詳細を検討したものである. 妊婦97例を対象に妊娠後の味覚につき問珍し味覚検査を行った. 32例については, 経時的な味覚機能の変化の検討を行った. 72例については, 血清微量元素の測定も行った. 対照は健常女性30例とし, 妊婦, 対照とも検査は全例同一検者が行った. 妊婦の味覚域値は妊娠前期から中期に, 非妊娠女性に比べ有意に上昇していた. 妊婦の血清亜鉛値は妊娠中期から後期に低下する傾向を認めた. 従って妊娠初期の味覚障害の成因を亜鉛欠乏との関連のみで説明づけることは困難であると思われた.
著者
肥塚 泉
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.2, pp.87-93, 2016-02-20 (Released:2016-03-10)
参考文献数
28
被引用文献数
2

平衡感覚の受容器である三半規管や耳石器からの情報は, 経核, 舌下神経前位核, 前庭小脳などで構成される, 神経積分器の一種である neural store に入力している. neural store には前庭系からの入力以外に, 体性感覚情報 (深部知覚情報) や視覚情報も入力している. これら3つの感覚情報が neural store で統合処理されて平衡感覚が保たれている. 前庭神経核から入力を受ける前庭視床は, 頭頂―島前庭皮質 (PIVC) や VIP 野など複数の大脳皮質領域に前庭感覚情報を送っている. 海馬にも前庭系からの入力がある. 末梢前庭系においては加齢に伴う変性と萎縮は耳石, 有毛細胞から前庭神経まで前庭器全体に及ぶ. 半規管動眼反射の利得は, 低周波数領域については高齢者でも比較的保たれる. 高周波数領域については80歳を超すと徐々に低下する. oVEMP と cVEMP の振幅は50歳を超すと徐々に低下する. 眼では調節力の低下, 網膜感度の低下などが生じる. 深部知覚情報も加齢により変化を受ける. 高齢者では, 深部知覚情報に対する依存度が高まる傾向を示す. neural store を構成する小脳の Purkinje 細胞のニューロン数に関しては, 加齢による変化を認めない. しかしながら細胞体の体積は加齢により減少する. PIVC や VIP 野に障害が生じると, 垂直位の偏倚, 半側空間無視などの空間識障害などが生じる. 高齢者におけるめまい・平衡障害は転倒のリスクファクターの一つである. 高齢者においては, 生活習慣病などの全身疾患の合併もしだいに多くなるなどの理由により, めまい・平衡障害の病態は, 末梢前庭系や中枢前庭系のみならず, 多モダリティ感覚領域や出力系である筋肉を含む, “平衡維持システム” 全体の障害としての理解が必要となる. 加齢に伴う平衡感覚の低下に対してはめまいリハビリテーションが有用である. 高齢者においては出力系である筋肉にもサルコペニアが生じる. これに対しては, レジスタンストレーニングが推奨されている.
著者
北野 雅子 小林 正佳 今西 義宜 坂井田 寛 間島 雄一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.112, no.3, pp.110-115, 2009 (Released:2010-06-03)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

本研究では当科嗅覚味覚専門外来を受診した嗅覚障害を合併する味覚障害患者を, 自覚的味覚異常症状を訴えるが味覚検査上異常を認められない「自覚的味覚障害 (風味障害)」と, 自覚的味覚異常とともに味覚検査上も異常を呈する「検査的味覚障害 (味覚障害)」に分類して, これらの相違点につき検討した.風味障害群は, 味覚障害群と比べて自覚的味覚低下度が有意に軽度であった. 嗅覚障害の原因として, 感冒の割合が風味障害群で味覚障害群よりも有意に多かった. 治療開始前の基準嗅力検査の平均認知域値は両群間で有意差を認めなかった. 風味障害例に対しては嗅覚障害に対する治療を重点的に施行し, 風味障害でない味覚障害例に対しては亜鉛製薬やビタミンB12 製薬投与や口腔内清潔保持を中心とした治療を施行した. 治療後は両群ともに味覚障害が有意に改善した.今回の結果から, 風味障害例に対しては, 嗅覚障害に起因する障害であることを認識して嗅覚障害に対する治療を重点的に施行すれば味覚障害の改善が得られるものと考えられる. その一方で, 嗅覚障害を合併する検査的味覚障害例に対しては, 適切に味覚検査を施行して風味障害と鑑別し, 嗅覚障害に対する治療と同時に味覚障害に対する治療を原因に応じて適切に施行することが重要と考えられる.
著者
山田 成子 渡辺 泰夫 平野 優子 内藤 儁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.401-406, 1973-03-20 (Released:2008-12-16)
参考文献数
14

嗅覚の生理に関しては不明の処が少なくない,嗅覚は非常に鋭敏な感覚であるが,万余の匂いが,どのようにして末梢のreceptorに受容されるのか,末梢のreceptorの受容機構はどの様になつているか,また末梢で受容された刺激は,中枢へどの様に伝達されるか,など未だ未解決の問題が多い.嗅覚の検査に用いられるべき嗅素として,最も適当な匂いは何であるかという基本的な問題も解決されていない.このような現状において文部省科学研究班,"嗅覚測定の基準設定"が結成された.私どもはこの班の一員として次の10種の嗅素の各種濃度(10-1より10倍稀釈で10-14迄)で日本人の平均閾値の測定を行なつている.使用ている嗅素は,バラ臭,糞臭,腐敗臭,樟脳臭,酸臭,麝香,フェノール臭,焦臭,果実臭,にんにく臭,である.撰択的無嗅覚症(selective anosmia or specific anosmia Amoore)という病名はAmooreにより使用され,ある種の匂いにのみ特異的に閾値の高い場合に用いられる.現在まで238名の測定対象に8名の撰択的無嗅覚症例を認めた.このような8症例の中,2例は嗅覚障害を自覚していない.男女性別に差はなく 男女共各4名である.撰択的無嗅覚症がみとめられた嗅素はフェノール臭,麝香臭,パラ臭,糞臭である.撰択的無嗅覚症の機構は不明であるが,恐らく嗅覚受容機構における部分的障害と考えられる,Amooreによれば,青酸,メルカプタン,イソ酪酸に嗅盲が認められるが,嗅盲は遺伝的因子が強いと考えられる,一方,撰択的無嗅覚症は後天的な受容機構の受傷性の差によつてもおこることが考えられる.撰択的無嗅覚症に認められる嗅素は嗅覚機能検査に必要な基本的嗅素の1つであると思われる.
著者
湯田 厚司 小川 由起子 鈴木 祐輔 有方 雅彦 神前 英明 清水 猛史 太田 伸男
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.1, pp.44-51, 2017-01-20 (Released:2017-02-10)
参考文献数
9
被引用文献数
4

舌下免疫の最初の数年間の効果は治療年数により高まるとされる. スギ花粉舌下免疫の同一患者での症状を, ともに中等度飛散であった2015年 (花粉総数2,509個/cm2) と2016年 (同3,505個/cm2) の2年間で検討した. 【方法】発売初年に開始した舌下免疫132例 (41.8±17.5歳, 男女比75: 57) と対照に初期療法56例 (44.9±13.5歳, 同25: 31) を選択した. 2015年と2016年の両方のスギ花粉飛散ピーク時に, 1) 症状スコアと症状薬物スコア, 2) Visual analog scale, 3) 日本アレルギー性鼻炎標準 QOL 調査票 (JRQLQ No1) で調査した. 主目的に舌下免疫療法2年目に効果が増強するか, 副次目的に舌下免疫と初期療法の比較とした. 【結果】推定周辺平均ですべてに治療方法と年度に交互作用はなく, くしゃみ, 鼻汁, 鼻閉, 眼のかゆみなどの眼鼻症状において, 初期療法には2年での差はなく, 舌下免疫療法の多くで2年目は1年目より有意に良かった. 全般症状の項目も同様であった. QOL (quality of life) は, 舌下免疫の17項目中2項目のみで有意に2年目が良かった. また, ほとんどの項目で舌下免疫は初期療法より有意に効果的であった. 【結論】初期療法を対照にした中等度飛散の2年の比較で, 舌下免疫の治療効果は治療1年目より2年目で高まっていたと考えられる.
著者
菅田 薄
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.79, no.12, pp.1590-1600, 1976-12-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
57
被引用文献数
1

The function of the external laryngeal muscles in laryngeal adjustment was experimentally investigated in the mongrel dog.Electrical stimulation was given to the nerve trunk innervating the pertinent muscle.oz muscle group.In someselected cases, sets of different muscle or muscle groups were simul-taneously stimulated.Positional changes in the laryngeal structures, especially of the laryngeal cartilages before and after stimulation were measured by means of double contrast roentgeno-graphy.Changes in the position and configuration of the vocal cord were observed by, simpl-taneous intralaryngeal photography.On the basis of the experimental data, biomechanical effects of the external laryngeal muscles on laryngeal adjustment were discussed.Through the present study, it was confirmed that the external laryngeal muscles imparted mechanical effects on the larynx basically in the following manner;1)the change in reciprocal positioning of the thyroid and cricoid cartilages, 2)the change in vertical position of the entire larynx, and 3)structural warp of the laryngeal frame-work.It was concluded that the change in the position and configuration of the vocal cord was induced by synergestic or antagonistic function of each external laryngeal muscle or muscle group, through the three basic pattern of the mechanisms mentioned above.
著者
泰地 秀信 守本 倫子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.7, pp.676-681, 2012 (Released:2012-09-06)
参考文献数
13
被引用文献数
1 3

小児では突発難聴を来す疾患が成人とは異なり, また突発性難聴に比べて頻度が高い. 小児突発難聴20例の臨床像を検討した. 小児の突発難聴では心因性難聴がかなり多いので, 他覚的聴力検査を組み合わせて診断を行うべきである. 純音聴力検査とDPOAEの結果に乖離がみられる場合は心因性難聴が強く疑われるが, 確定診断のためにはABR検査が必要である. ムンプスでは不顕性感染が30~40%にみられるため, 耳下腺腫脹のないムンプス難聴例がある. 小児の急性感音難聴ではムンプスの罹患歴・予防接種歴を問診するべきである. 前庭水管拡大症も突発難聴において考えておくべき疾患であり, 低音域のA-B gapを伴う高音障害型のオージオグラムでは本症を疑う.