著者
片岡 祐子 菅谷 明子 前田 幸英 假谷 伸 大道 亮太郎 福島 邦博 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.2, pp.131-136, 2017-02-20 (Released:2017-03-23)
参考文献数
13

2012年4月難聴遺伝子検査は保険収載され, 現在19遺伝子154変異の検索が行われている. 難聴遺伝子検査は, 聴力型や聴力予後, 随伴症状の予測, 難聴の進行予防といった情報が得られる可能性があるため, 診断や介入, フォローアップを行う上での有用性は高い. 今回遺伝子検査で複数の難聴遺伝子ヴァリアントが検出された症例を経験した. 検索可能な遺伝子数が増加することにより, 診断率の向上が見込める一方で, 複数の遺伝子ヴァリアントが検出され, 結果の解釈に難渋する例も増えることが推測される. 臨床情報との照らし合わせや家族の遺伝子検査も検討し, 患者, 家族が理解, 受容できるように遺伝カウンセリングを行う必要がある.
著者
神崎 晶 小川 郁 熊崎 博一 片岡 ちなつ 田副 真美 鈴木 法臣 松崎 佐栄子 粕谷 健人 藤岡 正人 大石 直樹
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3, pp.236-242, 2019

<p> 聴覚過敏を主訴とした患者に対して, ほかの感覚器の過敏症状を問診・質問票による検査をしたところ, 複数の感覚過敏を有する5例を発見した.「感覚過敏」と本論文では命名し, その臨床的特徴を報告する. 主訴に対する聴覚過敏質問票に加えて, 複数の感覚過敏に対する質問票「感覚プロファイル」を用いて過敏, 回避, 探求, 低登録について検査した. 同時に視覚過敏は5例で, 触覚過敏は4例で訴えたが, 嗅覚と味覚過敏を訴えた例はなかった. 病態には中枢における感覚制御障害が存在することが考えられる. 感覚過敏の検査法, 診断法, 治療についてはまだ確立されておらず, 今後の検討を要する.</p>
著者
益田 慎
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.95, no.1, pp.71-80, 1992-01-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
44
被引用文献数
9 12

Patients with a paranasal disorder often manifest voice change. Yet, computer simulation of these nasal sounds is difficult using a nasal tract model without any branching cavity. In other words, acoustic property of the nasal tract is influenced by a coupling with the paranasal sinuses. If the transfer function of the sinus acts as a Helmholtz resonator, the resonance frequency, or "zero" point, of the sinus would be present on the acoustic spectrum of the nasal cavity. This study was designed to prove the validity of this hypothesis.The sweep tone was given from the subjects' epipharyngeal space. The tone passed through their nasal space and radiated from the anterior nostrils. In 13 cases without nasal or paranasal disorders, the tones obtained at the nostrils were analyzed with Fast Fourier Transformation (FFT) and were compared between two conditions of the ostia of the maxillary sinuses, obstructed and opened with epinephrine.The resonance frequencies of the maxillary sinuses ranged from 1 to 2kHz and varied considerably among individuals. This variation may be due to a difference in the maxillary sinus volume and in the diameter and length of the natural maxillary ostium. In past reports, in which the resonance frequency of the sinus was measured using a compound model or computed simulation, the maxillary sinus resonated below 1kHz. In these reports the ostium of the maxillary sinus was regarded as a straight pipe. However, the examination of 29 cadavers revealed that the radius of the ostium differes according to its depth. The radius in the depth halfway from the edge was narrower than that of the edge. The way of evaluating a shape of the ostium is different between the present and the past studies, thus possibly resulted in discrepancy of the resonance frequency.
著者
山岨 達也 田山 二朗 喜多 村健
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.93, no.12, pp.2028-2037, 1990-07-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
46
被引用文献数
4 4

Auricular hematoma is not rare condition and its prognosis has been considered to be good in Japanese textbooks. Recurrence of the hematoma, however, frequently occurs by use of simple aspiration or incision, and a pressure dressing. In this paper, we report a case of ruptured othematoma and review the biliographies concerning the pathology and treatment of othematomas.A 37-year-old man sustained a fist blow to his left ear at the beggining of May, 1989. He was first seen with auricular hematoma on July 4, but refused a surgical treatment. The laceration of the skin overlying the hematoma occurred by once more fist blow on July 26, with the upper auricle divided into anterior and posterior parts. The auricular cartilage was broken into several pieces, some of which attached to the anterior side and the others to the posterios side.Under general anesthesia, fibrin glue was applied to the dead space after irrigation, minimal debridement, and removal of the clots. Four horizontal mattress sutures were put through the entire pinna after the anterior skin was protected by fluffed gauze with antibiotic ointment and the posterior skin by buttons. The dressing was allowed to remain in place ten days and was then removed. Nine months after the operation the pinna appeared almost normal.In recent reports, the othematoma is considered to occur between the perichondrium and the cartilage, or within the cartilage. Various techniques have been applied to treat the othematoma, which are classified into three types : incision and drainage, pressure dressing with splinting mold, or with mattress suture. Treatment of choice is discussed, with reviewing the advantages and disadvantages of each method.
著者
中本 吉紀 飯野 ゆき子 小寺 一興
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.108, no.2, pp.172-181, 2005-02-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
34
被引用文献数
2 2

【目的】 騒音性難聴を呈した2症例の側頭骨標本を観察し, 聴力像と内耳変化の関係を調べ内耳変化の要因を考察した.【対象】 症例1は50歳男性, 甲状腺癌で死亡した症例で38年間印刷工場に就労し, 純音聴力検査にて4kHzを中心とした高音障害型感音難聴を認めた. 症例2は58歳男性, 上顎洞癌にて死亡した症例で22年間建設現場に就労し, 高音急墜型感音難聴を認めた.【方法】 光学顕微鏡下に内耳変化を観察し, Schuknechtらのaudio-cytocochleogram作成法に基づきaudio-cytocochleogramを作成した.【結果】 側頭骨病理所見では症例1, 2において基底回転のコルチ器, ラセン神経節細胞, 神経線維に変性, 消失を認めた. 症例1では血管条にも変性, 消失を認めた. Audio-cytocochleogramにおいて症例1, 2の難聴像と内耳変化は一致し, 特に症例1のコルチ器, 血管条の変性, 消失は限局性で高度であった.【結論】 騒音性難聴の成因として長期間の騒音暴露により基底板の最大振幅部のコルチ器は, 音響エネルギーの機械的ストレスと音刺激による感覚細胞の代謝亢進から疲弊し, 障害を生じることはよく知られている. また動物実験では, 騒音暴露により蝸牛内循環障害が生じることが報告されている. 今回の症例1においてはコルチ器に加え血管条にも変性を生じていたことから, ヒトにおける騒音性難聴の側頭骨病理変化の成因として従来からの説である疲弊効果に加え, 騒音暴露による蝸牛内循環障害も生じる可能性があると考えられた.
著者
齋藤 康一郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.5, pp.614-630, 2014
被引用文献数
7

頭頸部におけるヒト乳頭腫ウイルス (HPV) 感染に関連した疾患の中で, 喉頭乳頭腫は, 特に再発性・多発性の強い, 喉頭気管乳頭腫症 (recurrent respiratory papillomatosis: RRP) と称される症例では手術も多数回におよび, 治療に難渋し, 医師・患者・家族を大いに悩ませる疾患の一つとなっている. 個々の喉頭乳頭腫で経過がまちまちであることも, 事態を複雑化させている. 本疾患は, 100以上の遺伝子型があるHPVの中でも良性型に分類される6型と11型が主としてその発症に関与しているが, その感染源に関しては種々の可能性が報告されている. 小児発症症例と成人発症症例での臨床経過の違いを含め, 疾患の臨床動態に影響する種々の背景因子に関しては, 慢性のHPV感染症という観点からも, 基礎知識として整理し, 把握しておく必要がある. 診断は, 病理組織学的診断によるが, 病変の広がりの詳細な診断には, 特殊光を用いた内視鏡での観察も有効である. 疾患を取り扱うに際しては, 経過中に悪性転化を来す可能性, 腫瘤の好発部位, さらには気管切開に関する考え方も知っておくことが要求される. 決して頻度が高いとはいえない orphan disease であることもあり, 絶対的な治療方法の開発が進まない現状において, 治療の基本は外科的切除であり, 再発・多発症例では補助療法を併用することとなる.<br> 本稿では, 喉頭乳頭腫に関する疫学からHPV感染症としての背景, 診断のコツや疾患とかかわる中での注意点をまとめた. さらに, 外科的治療の基本的な考え方や種々の手技の特徴, 補助療法に関するこれまでの試みと今後の展望まで含めて, 欧米の報告を中心に概説する. さらに, 2006年6月以来, 60症例以上の喉頭乳頭腫の患者にかかわってきた経験をもとに, われわれが現時点で施行可能かつ有効と考え, 実践している, 診断・治療のポイントを挙げる.
著者
辻 富彦 山口 展正 森山 寛
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.106, no.10, pp.1023-1029, 2003-10-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
13
被引用文献数
3 4

耳管開放症の成因として体重の減少,脱水,妊娠,疲労,中耳炎などが指摘されているが,詳細は明らかでない.我々は中耳炎に引き続いて起こる耳管開放症の症例につき検討を行い,中耳炎と耳管開放症との関連につき考察を加えた.当科受診の中耳炎罹患後に発症した耳管開放症12症例につき検討したところ,BMI低値,体重減少,基礎疾患を有する症例がそれぞれ数例ずつ認められた.しかしBMI低値,体重減少,基礎疾患有り.のいずれにも含まれない中耳炎後の耳管開放症症例が12例中5例存在した.先行する中耳疾患は2例が急性中耳炎から移行した滲出性中耳炎,1例は急性中耳炎,1例は急性乳突洞炎,その他の8症例は滲出性中耳炎であった.また当科で診察した耳管開放症症例の119例に対して,過去に耳鼻咽喉科を受診した際に中耳炎(急性中耳炎,滲出性中耳炎など)と診断されたことがあるかを検討したところ42例35.3%で中耳炎の既往がみられた.急性中耳炎や滲出性中耳炎の際は鼓室の炎症とともに,耳管粘膜にも炎症が生じ,耳管は狭窄傾向にある.中耳炎の治癒に伴って耳管粘膜の炎症も改善するが,その際炎症の消退の仕方によっては耳管粘膜の線維化が起こり病的な耳管の開放状態が生じると推測される.耳管開放症の成因についてはまだ不明な点が多いが,耳管開放症発症や顕在化の誘因の一つとして中耳炎が関与していることが強く示唆された.
著者
鈴木 淳 小林 俊光
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.113, no.11, pp.844-850, 2010-11-20
参考文献数
16
被引用文献数
3

目的: 2009年におけるインターネット人口普及率は75.3%であり, 今後インターネット上での医療情報収集がますます進むと予想される. インターネット上には顔面神経麻痺に関するさまざまな情報が存在するが, それらを検討した報告はない. 今回, インターネット検索サイト (Google Japan, Yahoo! Japan, Google USA) にて「顔面神経麻痺」, 「facial palsy」「facial nerve paralysis」をキーワードに検索を行い, 上位50サイトについて検討を行った. 結果: 鍼灸院のサイトは日本語サイトの約40%と多数を占めた. 日本語サイトでは, 医師作成サイトや公共性の高いサイト (大学・学会・公共組織) の割合が英語サイトに比較し少なかった. 耳鼻咽喉科医以外が作成した日本語サイトでは, 中耳炎・耳下腺腫瘍・側頭骨腫瘍の記載率が少なかった. 医師作成サイトと鍼灸師作成サイトの比較では, 改善率, 改善時期, NET (nerve excitability test)・ENoG (Electroneuronography), ステロイド, 形成外科手術の各記載率について, 医師作成サイトが有意差をもって多かった. 結論: 十分な情報が記載された日本語サイトは少ない. 今後は公共性の高い組織から, 質の高い情報が発信されることが望まれる. 耳鼻咽喉科医は, インターネット上での情報提供により積極的に参加していくことが必要と考えられる.
著者
片岡 祐子 菅谷 明子 福島 邦博 前田 幸英 假谷 伸 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.10, pp.1258-1265, 2018
被引用文献数
2

<p> 新生児聴覚スクリーニング (以下 NHS) を全例公費で実施した場合と, 全例実施しなかった場合で, NHS および要精密検査例を含めた難聴児の診断にかかる費用, その後に必要となる教育, 福祉, 補聴等にかかる公的費用について岡山県のデータをもとに試算し, NHS の費用対効果について検討を行った. 義務教育機関については NHS 実施例の方が非実施例よりも地域の公立学校 (難聴学級, 支援学級を含む) 進学率は7.6%高かった. また NHS 実施例の方が特別児童扶養手当受給開始は4.3カ月早く, 障害児福祉手当受給率は8.8%低く, 人工内耳装用率は6.9%高かった. NHS と精査, 教育, 福祉, 補聴にかかる公的費用は, 年間出生数16,000人の自治体を想定すると, NHSを実施した場合では795,939,526円, 非実施では807,593,497円であり, NHS を実施した方が11,653,971円低く, NHS を全額公費負担にしたとしても償還できる可能性が高いという結果であった. また NHS と以後の精査にかかる費用としては, 1段階 NHS と確認検査まで実施する2段階 NHS を比較すると, 2段階 NHS の方が経済的効率は高かった. 教育および福祉費用の軽減の背景には難聴児, 障害児の義務教育の受け入れ状況の年代による変化も関与している可能性はあり, 統計学的な限界はあるものの, NHS を全額公的助成で行う意義は十分あると考える.</p>
著者
石井 香澄 荒牧 元 新井 寧子 内村 加奈子 岡部 邦彦 西田 素子 余田 敬子
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.249-256, 2002-03-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

<目的> 扁桃周囲膿瘍は副咽頭間隙に近接しており, 種々の合併症を生じ得るため早急な対応を要する. 副咽頭間隙の内側には内頸動脈が走行しており, 処置の際に血管損傷など副損傷を併発する可能性がある. そこで迅速かつ適切に対応するため, 扁桃周囲膿瘍例のCT像から, 膿瘍と副咽頭間隙の主要臓器の位置関係を計測し, 処置の際の安全範囲を検討した.<対象・方法> 1997年2月から1999年4月までの期間, 当科で初診時に造影CT scanを施行し, 扁桃周囲膿瘍と診断された31例を対象とした. 平均年齢は30.7歳 (12~54歳), 男性19例, 女性12例で, 患側は右側20例, 左側11例であった. フィルムから膿瘍および副咽頭間隙内の主要臓器である頸動静脈と神経系を含む軟部組織辺縁の位置を, 診療時に指標となり得る門歯正中矢状断および上歯槽後端を基準に距離および角度として計測した.<結果> 副咽頭間隙内の主要臓器の内側縁は門歯正中から15±2°, 正中矢状断からは扁桃上極で24±4mm, 下極で23±3mm外側にあった. 前縁の深さは上歯槽後端から29±5mm後方の位置にあった. 間隙内側に位置する内頸動脈は上歯槽後端を含む矢状断上にあった. 正中と間隙との角度および距離は患側, 健側ともに上極とほぼ同様の計測値で, 有意差は認められなかった. 咽頭粘膜を含めた膿瘍前壁および扁桃周囲膿瘍後壁から, 間隙前縁までの距離は各々31±5mmおよび9±4mmであった. 全例で膿瘍の中心は, 門歯正中と内頸動脈を結ぶ直線より内側に位置していた.<結論> 副咽頭間隙の位置を想定する際, 上歯槽後端と正中矢状断との関係が参考となる. 上歯槽後端の矢状断に副咽頭間隙内側 (内頸動脈) が位置するため, 穿刺・切開の際, 極力穿刺点から矢状方向に進み, 穿刺深は20mm以内とし, 方向は穿刺端が上歯槽後端の矢状断より内側に留めると, 血管損傷を回避した有効な処置が可能と考えられた.
著者
國枝 千嘉子 金澤 丈治 駒澤 大吾 李 庸学 印藤 加奈子 赤木 祐介 中村 一博 松島 康二 鈴木 猛司 渡邊 雄介
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.10, pp.1212-1219, 2015
被引用文献数
6

声帯ポリープや声帯結節の診断・治療方針の決定には大きさなどの形態的特徴が関与することが多い. 初診時から音声治療を行った声帯ポリープ36例, 声帯結節35例について, 手術の効果および手術の際に測定した病変の大きさと術前音声検査値との相関, 病変の大きさとその術後改善率との相関を検討した. 手術後の音声機能は, 声帯ポリープ・声帯結節の両群で最長発声持続時間・声域・平均呼気流率・Jitter%値 (基本周期の変動性の相対的評価)・Shimmer%値 (ピーク振幅の変動性の相対的評価) のすべての項目で術前に比べ有意な改善を認めた. 病変の大きさとの相関では, ポリープ症例は術前の声域・Jitter%で相関を認め, 術後改善率では, 声域・平均呼気流率・Jitter%・Shimmer%で相関を認めた. 一方, 結節症例では術前の声域のみ相関を認めた. Elite vocal performer(EVP) (職業歌手や舞台俳優など自身の「声」が芸術的, 商業的価値を持ち, わずかな声の障害が職業に影響を与える) 群と EVP 以外群で検討を行い, 声帯ポリープ症例の EVP 群では EVP 以外群と比較して病変の大きさと音声検査値との相関は低かった. 結節では両群とも病変の大きさと音声検査値との相関は低かった. 両疾患において手術治療は有効で, 形態的評価は治療方針決定のために必要であり, 音声治療も両疾患の治療に不可欠であると思われた.
著者
黒野 祐一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.10, pp.1247-1252, 2020-10-20 (Released:2020-11-05)
参考文献数
11

粘膜免疫は消化管において病原微生物の侵入を防ぐ一方で, 生命維持に必要な食物は積極的に体内へ取り込むなど, 抗原に応じて相反する反応を示す. 上気道においても粘膜免疫が生体防御に重要な役割を果たしており, これが破綻することで感染症やアレルギー性炎症が発症する. したがって, 上気道の粘膜免疫を賦活すること, すなわち粘膜ワクチンを用いることでこれらの疾患を予防できると考えられる. 粘膜免疫において主たる役割を担っているのが分泌型 IgA で, ウイルスや細菌の上皮への接着を阻止する. 上気道に抗原特異的分泌型 IgA を誘導するには, 抗原を経鼻投与するのが最も効率的で, 現在, 経鼻ワクチンの開発が進められている. そのワクチンの一つとしてホスホリルコリンがあり, すべてのグラム陽性および陰性菌に含まれることから広域スペクトラムを有するワクチンになり得ると考えられる. また, 結合化ホスホリルコリンは粘膜アジュバントとしての作用を有しており, これらを用いた新規の経鼻粘膜ワクチンの開発を目指して現在も研究を続けている.
著者
平賀 幸弘 黄 淳一 霜村 真一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.10, pp.1114-1119, 2013-10-20 (Released:2013-11-26)
参考文献数
12

血管免疫芽球性T細胞リンパ腫 (angioimmunoblastic T-cell lymphoma: AITL) の1症例を経験した. 患者は33歳女性で, 前頸部に単発の腫瘤を認め, 手術にて摘出された. 病期診断はStage IAで, CHOP3コースと頸部へのX線照射40Gyが施行され, 経過観察中であるが再発を認めない. AITLは, 非ホジキンリンパ腫の1.2~2.5%にみられるまれな疾患で, 耳鼻咽喉科領域での報告は認めない. 全身リンパ節腫脹, 肝脾腫, 皮疹, 貧血, 高ガンマグロブリン血症などを症状とする. 治療は多剤併用の化学療法が一般的であるが, 5年生存率20~50%と高悪性に分類されている.