著者
矢守 克也 李 旉昕
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.117-127, 2018
被引用文献数
1

<p>高知県黒潮町が掲げる「私たちの町には美術館がありません,美しい砂浜が美術館です」というフレーズは,「Xがない,YがXです」の形式をもつ。本論文では,この形式が,「限界集落」,「地方消滅」といった言葉によって形容されるきびしい状況下にある地方の地域社会の活性化を支える根幹的なロジックになりうることを,「Xからの疎外/Xへの疎外」の重層関係を基盤とした見田宗介の疎外論の観点から明らかにした。この疎外論の根幹は,「Xからの疎外」(Xがないことによる不幸)は,その前提に「Xへの疎外」(Xだけが幸福の基準となっていること)を必ず伴っているとの洞察である。よって,Xの欠落に対してXを外部から支援することは,「Xからの疎外」の擬似的な解消にはなっても,かえって「Xへの疎外」を維持・強化してしまう副作用をもっている。これに対して,YがXの機能的等価物であることを当事者自身が見いだし宣言したと解釈しうる黒潮町のフレーズには,「Xからの疎外」を「Xへの疎外」の基底層にまで分け入って根本から克服するための道筋が示されていると言える。</p>
著者
谷口 友梨 池上 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.78-92, 2018
被引用文献数
1

<p>本研究では,解釈レベル理論に基づき,(1)観察された行為事象との心理的距離によって生起しやすい自発的推論が変化するか,(2)その結果,特性に基づく行為者の将来の行動予測がどのような影響を受けるのかについて検討した。4つの実験を通じて,特性の推論は観察事象との心理的距離が近い場合より遠い場合のほうが生起しやすく,目標の推論は観察事象との心理的距離が遠い場合より近い場合のほうが生起しやすいことが示された。加えて,心理的距離が遠い行動を行った行為者の方が近い行動を行った行為者に比べて推論された特性に基づいて将来の行動が予測されやすいことが窺われた。これは,行為事象との間に知覚された心理的距離に応じて,駆動する情報処理の抽象度が変化し,距離が遠いほど行為事象は抽象的に解釈され,特性の観点から行動が解釈されやすいのに対し,距離が近くなると行為事象は具体的に解釈され,一時的な行為目標の観点から行動が解釈されやすくなることを示唆している。以上の結果から,潜在レベルで生起する推論が文脈の影響を受けやすい性質をもつこと,潜在レベルの推論が顕在レベルの判断を一定程度規定することが考察された。</p>
著者
大野 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.230-239, 1996
被引用文献数
1

「いじめの被害者にも問題がある」とする見解は, 一般的によく聞かれる見解である。本研究の目的は, 攻撃が「いじめ」として定義される特徴的な形によって, この見解が生じてしまう可能性について検討することにある。本実験では, 以下の2つの仮説が検討された。(1) ある攻撃が, 単独の加害者により行われる場合に比べ, 集団により行われた場合の方が, 被害者は否定的に評価される。(2) ある攻撃が, 一時的に行われる場合に比べ, 継続的に行われた場合の方が, 被害者は否定的に評価される。本実験の結果により, 仮説1は支持されたが, 仮説2は支持されなかった。また予備実験の結果から, 否定的評価と関連する個人差要因として「自己統制能力への自信」と「社会一般に対する不信感」と解釈される2つの信念・態度の存在が指摘された。
著者
今川 民雄
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-6, 1985

本研究は, 好ましい他者の価値態度を認知する際, 仮定された類似性が実際の類似性よりも大きいという仮説を, 3種類の指標に基づいて検討すると同時に, 3種の指標間の関連についても検討した。<BR>被験者は大学生の男女50名づつ計100名である。価値態度はGordon &菊池 (1974) の個人的価値尺度 (KG-SPV) を用いた。実験は集団で行なわれ, 被験者は2部のKG-SPVテスト用紙に, 自己の価値態度と, 同じ大学内で最っとも好ましい同性の友人の価値態度についての推測を, 別々に記入した。<BR>結果は, (1) 個人内の相関係数に基づく指標, (2) 個人内の価値態度別の, 評定間の差の絶対値に基づく指標, (3) 価値態度別の全体の相関係数に基づく指標の3種の指標によって分析された。結果は次の通りである。<BR>1) 仮定された類似性が実際の類似性よりも大きいという仮説は, 3つの指標のいずれにおいても支持された。<BR>2) 3種の指標間の関連を検討したところ, 差の絶対値に基づく指標と全体の相関係数に基づく指標との間には密接な関連が見られた。しかし, 個人内の相関係数に基づく指標は, 他の2つの指標とは関連がみられなかった。
著者
平井 美佳
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.103-113, 2000
被引用文献数
17

本研究は, いわゆる日本人論における「日本人らしさ」についてのステレオタイプを, 当の日本人はどのように捉えているのかを検討したものである。すなわち, 「日本人らしさ」のステレオタイプを「一般の日本人」については認めるにしても, 個々人に注目した場合には, それほどにはあてはまらないとするのではないかという仮説を検討した。まず, 代表的な日本人論の記述から2, 000項目を抽出し, これをもとに3ヵテゴリー45項目からなる「日本人らしさの尺度」を作成した。この尺度を用い, 大学生の男女226名に「一般の日本人」と「自分自身」の2評定対象についての評定を求めた。その結果, 「日本人らしさ」についての肯定度は「自分自身」についてよりも「一般の日本人」についてより高いという有意差が認められた。さらに, カテゴリー別には, 集団主義的傾向を記述したカテゴリーにおいて, 最も顕著な差が見出された。この結果に基づいて, 「一般の日本人」のレベルと個人のレベルの評定が異なる理由について考察した。
著者
MINORU WADA
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
THE JAPANESE JOURNAL OF EXPERIMENTAL SOCIAL PSYCHOLOGY (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.193-201, 1998-12-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
23
被引用文献数
1 2

本研究は, 大学生がストレスにどのように対処しているのか, また男女で対処法に違いがあるのかを調べた。さらに, ソーシャルサポートはストレス低減に有用かどうかも調べられた。被験者は大学3年生285 (男性114, 女性171) 人であった。自分の将来のこと, 勉強のこと, 友人・仲間のこと, 自分のこと, 余暇, 異性のこと, 教師・授業について, 両親・家族とのこと, の8つのストレッサーが用いられた。対処法は, 積極的解決の試み, 積極的回避, 忍耐, 支援要請, 消極的回避の5つであった。男性よりも女性の方がストレスとサポートが多かった。対処法で一番多いのが, 男女とも消極的回避であった。忍耐は低より高ストレス者, 消極的回避は高より低ストレス者がより多く選択した。低サポート者より中サポート者, 中サポート者よりも高サポート者の方が孤独でなかった。しかし, サポートは疾病徴候には何の効果も示さなかった。すなわち, ソーシャルサポートはストレスに対して限られた効果しか持たないのである。
著者
沼崎 誠
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.14-22, 1995-07-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

セルフ・ハンディキャッピングが, セルフ・ハンディキャッパーの能力に関連する受け手の知覚と受け手のセルフ・ハンディキャッパーに対する好意とに与える効果を検討するために, 2つの実験室実験を行った。2つの実験とも, 獲得的セルフ・ハンディキャッピングの有無と主張的セルフ・ハンディキャッピングの有無が操作された。獲得的セルフ・ハンディキャッピングはセルフ・ハンディキャッパーの遂行成績を低く知覚させたが, セルフ・ハンディキャッパーの能力やセルフ・ハンディキャッパーに対する好意には影響を与えなかった。遂行成績が低く知覚された結果は, ハンディがあることにより, 受け手が遂行成績が低くなると期待したために生じ, そこから割り引き原理が働いたことにより, 能力知覚には影響しなかったと考えられる。一方, 主張的セルフ・ハンディキャッピングはセルフ・ハンディキャッパーに対する好意を低下させたが, セルフ・ハンディキャッパーの能力に関連する知覚には影響を与えなかった。これらの結果は, 印象操作方略としてのセルフ・ハンディキャッピングが, 受け手に対してはネガティブな効果を持ちやすく, ポジティブな効果が少ないことを示唆するものである。
著者
上田 敏見 谷口 勝英
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.75-80, 1980

本研究は, 社会的望ましさと誘引との関係を明らかにすること, 自己評価の高低がこの関係にどのようにかかわっているかを確かめることを目的として行われた.<BR>116人の被験者が, 課題遂行能力において, すぐれた人, 類似した人, 劣った人の3人の刺激人物を, 課題遂行のパートナーとして, 遊び友達として, リーダーとして, どの程度好ましいかを評定した.<BR>主な結果は, 次の通りであった.<BR>(1) 作業のパートナー, 遊び友達としては, すぐれた人より, 類似した人の方が好まれる.<BR>(2) リーダーとしては, すぐれた人が, 類似した人より好まれる.<BR>(3) 作業のパートナーでは, 自己評価の高い者の方が低い者より刺激人物をより好ましく感じる.<BR>このうち, (1), (2) については, 場面の特性と社会的望ましさの側面が合致して, 社会的望ましさが本人に直接的に利益を与える時のみに報酬となることを示すものとして解釈された. また, (3) については, 自己評価の高い者の劣等感のなさや, 自己の能力への肯定的是認によるものとして解釈された.
著者
大渕 憲一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.175-179, 1982-02-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

被害の大きさが等しい事態で, 欲求不満の帰因情報を操作することによって, 被害者の攻撃反応が変化するかどうかが欲求不満物語を使って検討された. 男女80名の大学生に対して2種類の状況を描いた欲求不満物語が呈示され, 5質問測度によって被害者の欲求不満行動が評定された. 測度毎に, 性別 (2) ×帰因情報 (攻撃意図, 過失, 利他的動機, 事故) ×物語状況 (2) の分散分析が行われ, 次のような結果を得た. (1) 攻撃意図が最も被害者の攻撃反応を強く誘起し, 次いで過失, 利他的動機, 事故の順となった. この順序は不合理判断次元に対応すると思われる. (2) 内面的情緒反応 (怒り) にも同様の条件差が観察され, 欲求不満の不合理性と攻撃反応の関係については, 反応抑制説よりも動因低減説が有力視された. (3) 欲求不満反応を帰属過程が媒介する仕組について, 阻止者への自由の帰属と態度推測のふたつの見解に関する証拠が提出されて議論された. いずれも肯定的に結論付けられた. (4) 男女差は利他的動機による阻止行動をどれくらい合理的とみなすかに関して生じた. 女性は個人の行動が家族に制約されることを受け入れ傾向があると推論された.
著者
柿本 敏克 細野 文雄
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.149-159, 2010

状況の現実感尺度(柿本,2004)の妥当性を,仮想世界ゲーム(広瀬,1997)を用いて構成された集団間状況において検討した。研究1では従来型の仮想世界ゲームを用いた実験が行われ,研究2では今回新たに開発されたその電子試作版を用いた実験が実施された。研究1では参加者がゲームのルールを学習しその状況を想像しただけのシナリオ条件と,実際のゲームに携わったゲーム実施条件の間で,状況の現実感尺度の各下位尺度得点と全体尺度得点を比較した。予想通り,ゲーム実施条件でシナリオ条件でよりも状況の現実感尺度の諸得点が大きいという傾向がみられた。研究2では電子試作版のゲーム場面と,研究1の従来型のゲーム場面からの結果を比較した。電子試作版では,その特徴を反映して参加者の現実感が従来型よりも小さかった。下位尺度の得点パターンとともに,全体としてこの尺度が状況の現実感を比較的良好に捉えていると解釈できた。いくつかの研究方法上および理論上の問題が議論された。<br>
著者
吉武 久美子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.163-169, 1988

This experiment was conducted to assess the recall scores of own and others' responses between conformers and non-conformers or between specialists and non-specialists. Fifty-six female college students (27 were music majors and 29 were not) were given a classical music task for 9 trials in which 6 trials were critical. After the task they were asked to write all of ownand others' responses during the task. Nonconformers recalled own and others' responses much more than conformers. And specialists recalled them much more than non-specialists. These results were discussed from the view point of tension reduction theory.
著者
田崎 敏昭
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.69-77, 1974
被引用文献数
1

本研究は斉一者, 同調者, 非同調者, 反同調者に対する反応を知覚レベルで把えようとする試みである.<BR>31名の大学生の被験者は, 斉一的, 同調的, 非同調的役割をするサクラのパートナーのいずれか2人と共に幾何図形の面積判断を行うという課題が与えられた. さらに, 面積判断の前後に距離知覚装置上で, パートナーの写真を知覚対象として距離定位させることが求められた.<BR>得られた結果は次のとおりである.<BR>(1) 被験者は, 面積判断後, 一致者の写真も不一致者の写真も, 装置上における定位位置を負の感情方向 (自己にとって, 不快な対象を定位させる方向) に変化させたが, その変化量に差はなかった.<BR>(2) 被験者は, 面積判断後, 斉一者の写真を正の感情方向 (自己にとって快な対象を定位させる方向) に変化させたが, 非同調者, 反同調者の写真は負の感情方向に変化させた.<BR>(3) パートナーが2人共同調者である場合, 被験者は面積判断後, 彼らの写真を負の感情方向へ変化させたが, 1人が同調者1人が斉一者である場合の同調者の写真は正の感情方向へ変化させた.<BR>このような結果は, 斉一者に対し被験者は正の感情負荷を行ない, 非同調者, 反同調者に対しては負の感情負荷を行なったためと解釈される.