著者
阿部 慶賀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.161-170, 2016

&lt;p&gt;本研究では,印象評定時の重さの身体性入力が評定に及ぼす影響を検討する。近年の身体性研究では,事物や人物の印象評定時に触覚や力覚での身体性刺激を添えることによって判断に歪みが生じることが報告されている。例えば,重いクリップボード上に提示された履歴書の人物や記事に対して印象評定を行うと,軽いクリップボード上に提示された場合より重要性を高く評定する傾向が見られるとされている。しかし,こうした重さをはじめとする知覚される身体性入力は,主観量と物理量が必ずしも一致しない。そこで,本研究では重さによる印象への影響は主観量と物理量のどちらが主導であるのかを「大きさ重さ錯覚」を用いた心理学実験によって検討した。実験の結果からは,同質かつ同じ重量の飲料水でも容器の大きさから生じる錯覚で重さの主観量が異なっていた場合には,飲料水の貴重さや値段の見積もりが異なることが示された。このことから,重さによる印象評定には主観量が作用していることが示唆された。
</p>
著者
大淵 憲一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.127-136, 1986-02-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
22

本稿では社会人と大学生を被験者に, Averillの質問紙「怒りの経験」を使って攻撃反応の要因を検討した. まず, 反応11項目の因子分析から, 願望・実行の両水準で同じ4因子が得られ, それらは「直接的攻撃」, 「攻撃転化」, 「非攻撃的解決」, 「怒りの抑制」と解釈された。次に, これらを基準変数とし, 一方, 個人要因 (年令, 性別), 状況要因 (加害者の性別, 被験者との関係, 地位, 被害), 認知判断 (悪意の知覚, 原因帰属), 情緒過程 (敵意的動機, 道具的動機, 怒りの強さ) を説明変数とする数量化分析I類を行った。主な結果は次の通り。(1) 直接的攻撃反応は, 心理的被害が強く, それが不合理な原因に帰属され, 敵意的動機が喚起され, 加害者が身近な人の時に生じやすく, 対象が目上の人だったり女性だったりすると抑制されやすかった。(2) 攻撃転化は, 若年者に多く, 認知的要因が弱いのに情緒的要因が強いなど衝動的性格が認められた。(3) 非攻撃的解決が試みられるのは, 加害者と被験者の間に元々良好な関係があり, 被害が悪意に帰属されず, 敵意的動機が弱く道具的動機が喚起されている時だった。(4) 怒りの抑制は, 被害が個人的な性質のもので他者の共感を得にくく, また, 加害者が明確な攻撃意図を持っていたり目上の人であるなど, 報復の危険が高い時に行われやすかった。
著者
杉万 俊夫 谷浦 葉子 越村 利恵
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.136-157, 2006 (Released:2006-12-28)
参考文献数
11
被引用文献数
1

大学病院の中堅看護師(卒後数年の看護師)を対象としたリーダーシップ研修において,研修期間中に研修生が自らの職場改善を開始する研修プログラム(Already-Started型研修)を開発した。その研修プログラムでは,まず,2日間の集合研修において,①研修会場で研修生が自らの職場を分析し,職場改善のための行動計画案を策定する,②一旦,職場に戻って上司(看護師長)と計画を練り直した上で,計画実行の第一歩を踏み出す,③再び研修会場に戻り,各自の行動計画と第一歩の成果を発表し合う,というプロセスを踏む。その後4ヵ月の計画実行期間を挟んで,第2回目の集合研修(1日間)をもち,再び上司との話し合いによって,それ以降5ヵ月間の行動計画を固める。通常のOff-the-Job-Training(Off-J-T)では,研修中に意思決定したことが,職場復帰後,実行に移されにくいという問題があるが,本研修プログラムによって,その問題がかなり克服されることが見出された。また,本研修は,上司をはじめ職場集団が変化する有効なトリガーとなることも見出された。
著者
HORI Juri
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.73-78, 2018
被引用文献数
1

<p>Recognizing the structure of human well-being related to ecosystem services is an important first step to addressing the associated environmental issues. This paper aims to analyze the structure of human well-being related to ecosystem services in Japan (including coastal and inland areas). Satisfaction levels with the five components of human well-being (basic material for a good life, health, good social relations, security, and freedom of choice and action), as defined by the Millennium Ecosystem Assessment, were investigated using a questionnaire. Of the five components, structural equation modeling analysis indicated that "security" and "basic materials for a good life" functioned as explanatory variables, while "freedom of choice and action" acted as a dependent variable through its effects on the intermediate variables "health" and "good social relations". This study obtained similar findings to previous studies regarding the structure of human well-being. The present results also indicate that the structural model of human well-being related to ecosystem services might be psychologically shared among people.</p>
著者
宮本 正一 小川 暢也 三隅 二不二
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.99-104, 1973-12-30 (Released:2010-11-26)
参考文献数
16

本研究は回避反応の習得と消去におよぼす社会的条件刺激の有効性を実証するために行なわれた. 社会的条件刺激はグリッド越しのとなりの部屋で他のラットに電気ショックを与えることにより作り出された, 恐怖反応である. 従来の手続きによるBuzzer群と比較した結果, 次のことが明らかになった.1. 習得基準までの試行数, その間の回避反応数の2測度には2群間の差がみられず, 反応潜時だけはSocial群がBuzzer群より短い傾向が認められた.2. 消去に関しては, 基準までの試行数, CR数, 反応潜時の3測度でいずれにも2群間に顕著な差が認められ, Social群の消去抵抗がBuzzer群より著しく大きかった.これらの結果は代理経験と社会的刺激のもつ複雑性の2つの観点から考察された.
著者
山口 一美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.55-65, 2002
被引用文献数
1

本論文では, 自己宣伝の評価ならびに就労に関わる要因としてスマイル, アイコンタクトの表出とパーソナリティ要因に焦点をあてて検討した。女子大学生の就労希望者 (24名) の自己宣伝の場面をビデオ撮影し, 研究1では就労希望者のパーソナリティと自己宣伝におけるスマイル, アイコンタクトの表出ならびに他者評価との関連を検討し, 研究2では就労希望者のパーソナリティ要因および自己宣伝におけるスマイル, アイコンタクトの表出とサービス業への就労との関連を探った。その結果, 研究1からセルフ・モニタリングの"自己呈示の修正能力"がスマイル表出の適切さの評価に, 自己意識が人事評定に, また自己宣伝のスマイルがスマイル表出の適切さの評価ならびに人事評定に影響を及ぼしていることが示された。研究2ではセルフ・モニタリングの"自己呈示の修正能力"と自己意識が高く, スマイル表出が適切で, 人事評定が事前の評価で高かった者がサービス業に採用され, 就労する傾向をもつことが明かになった。
著者
林 文俊
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-9, 1982
被引用文献数
4

本研究は, 人が他者のパーソナリティを認知する際の対人認知構造における個人差を, 認知者の自己概念および欲求と関連づけて分析したものである。<BR>被験者は大学生男女299名。対人認知構造の個人差を測定するために, 各被験者は8名の役割人物を20組の性格特性尺度上で評定することを求められた。また, 自己概念については長島ら (1966) のSelf-Differential Scaleが, 各人がもつ欲求体系についてはKG-SIV (Gordon・菊池, 1975) と土井・辻岡 (1979) に準じた検査が, それぞれ実施された。<BR>主な結果は, 次の2点である。<BR>1) INDSCALモデル (Carrll & Chang, 1970) による分析を通して得られた対人認知構造の個人差測度は, 7週間を隔てた再検査結果の分析でも, かなり高い安定性を示した。<BR>2) 他者認知に際して人がある次元を重視する程度は, その個人の自己概念や欲求体系とある程度の関連性をもつことが明らかになった。また, このような関連性のパターンには, 顕著な性差が認められた。
著者
山浦 一保
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.16-27, 2000-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
19
被引用文献数
3 2

本研究は, リーダーの課題関連行動, あるいは社会情緒的行動が出現する背景に, 部下の行動やリーダーの管理目標がどのように関与しているのかを明らかにするため, リーダー行動の変容・形成過程を吟味した。研究1では, 部下の不満対処行動に対するリーダーの認知と, リーダー自身のリーダーシップPM行動 (三隅, 1978) との関連について検討した。看護組織を対象に調査を行った結果, 自分の部下が不満を感じても「服従」していると認知しがちなリーダーの方が, 自分の部下は「服従していない」と認知しがちなリーダーよりも, 自己評価によるM得点が高かった。研究2で用いた要因計画は, 2 (作業者のP行動・M行動) ×2 (リーダーの課題指向の管理目標・関係指向の管理目標) であった。被験者は, 男子大学生38名で, それぞれ4人集団のリーダー役に任命された。主な結果は, 次の通りである。(1) 課題指向的リーダーは, メンバーどうしの連帯感が強いM的行動をとる作業者よりも, 高い生産性をあげP的行動をとる作業者に対して, 配慮的行動を多く用いるようになった。(2) 課題指向的リーダーは, 関係指向的リーダーよりも強制的な指示を増加させ, とりわけ, M的行動をとる作業者に対して, 攻撃的な言動を多用するようになった。(3) 関係指向的リーダーの場合, P的行動をとる作業者よりもM的行動をとる作業者に対して, 課題に関連する情報を提供しなくなり, 頻繁に雑談を行った。(4) 関係指向的リーダーは, P的行動をとる作業者に対して配慮的な行動を増加させ, 同時に, 方向づけの増加と情報提供の減少という課題関連行動の変容が認められた。以上の結果から, リーダーのPM型は, 課題指向的リーダーが, 生産性の高い作業者を統率する状況で形成されやすいことが示唆された。
著者
渡部 幹 寺井 滋 林 直保子 山岸 俊男
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.183-196, 1996
被引用文献数
2 20

最小条件集団における内集団バイアスの説明のために提出されたKarpら (1993) の「コントロール幻想」仮説を囚人のジレンマに適用すると, 囚人のジレンマでの協力率が, プレイヤーの持つ相手の行動に対するコントロール感の強さにより影響されることが予測される。本論文では, 人々の持つコントロール感の強さを囚人のジレンマでの行動決定の順序により統制した2つの実験を行った。まず第1実験では以下の3つの仮説が検討された。仮説1: 囚人のジレンマで, 相手が既に協力・非協力の決定を終えている状態で決定するプレイヤーの行動は, 先に決定するプレイヤーの行動により異なる。最初のプレイヤーが協力を選択した場合の2番目のプレイヤーの協力率は, 最初のプレイヤーが非協力を選択した場合の2番目のプレイヤーの協力率よりも高い。仮説2: 先に行動決定を行うプレイヤーの協力率は, 同時に決定を行う通常の囚人のジレンマにおける協力率よりも高い。仮説3: 2番目に決定するプレイヤーの協力率は, 相手の決定が自分の決定の前に知らされない場合でも, 同時に決定を行うプレイヤーの協力率よりも低い。以上3つの仮説は第1実験の結果により支持された。3つの仮説のうち最も重要である仮説3は, 追実験である第2実験の結果により再度支持された。
著者
仙波 亮一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.105-116, 2018

<p>本研究の目的は,どのような要因が労働者の自我脅威の知覚に影響を及ぼし,その後どのような対処方略に結びつくのかを自己愛タイプ別に明らかにすることである。本稿では,まず分析1として,自己本位性脅威モデルに基づいて,どのような要因が労働者の自我脅威の知覚に影響を及ぼし,その後どのような対処方略に結びつくのかを複数のモデルを設定し,共分散構造分析により検討した。その結果,相対的自己評価と自己概念の明確性を要因として含むモデルは,それを含めないモデルよりも適合度が低く,自我脅威が対人恐怖心性および組織機能阻害行動に影響を及ぼすことを仮定したモデルが採用された。次に分析2では,分析1で採用されたモデルについて,労働者を自己愛タイプ(自己主張性タイプ,注目・賞賛欲求タイプ,優越感・有能感タイプ)に分類し,自我脅威がどのような対処方略と結びつくのかを複数の母集団に対して共分散構造分析を用いて検討した。その結果,すべての自己愛タイプにおいて自我脅威は対人恐怖心性へ正の影響を及ぼしており,自己主張性タイプでは,組織機能阻害行動へ正の影響を及ぼしていた。</p>
著者
竹ヶ原 靖子 安保 英勇
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.136-146, 2018

<p>援助要請者は,援助要請の際に,自身のコストだけでなく,潜在的援助者のコストにも注目していることが示されているが,援助要請者が何から潜在的援助者のコストを予測するのかについてはあまり検討されていない。そこで,本研究では援助要請者と潜在的援助者の二者間におけるコミュニケーション・パターンに着目し,それが援助要請者の潜在的援助者コスト予測と援助要請意図に与える影響を検討した。大学生の同性友人ペア15組にそれぞれ10分間の日常会話をさせた後,潜在的援助者のコストを予測し,自身の援助要請意図について回答させた。その結果,相補的コミュニケーション(↑↓)と潜在的援助者の憂うつな感情との間に負の相関,相称的・競争的なコミュニケーション(↑↑)と援助要請意図の間には負の関連が示されるなど,日常会話におけるコミュニケーション・パターンと潜在的援助者のコスト予測,援助要請意図との間にいくつか有意な関連が示された。このことから,日常場面におけるコミュニケーションは,援助要請者が潜在的援助者のコストを予測する手がかりのひとつであることが示唆された。</p>
著者
加藤 謙介 渥美 公秀 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.155-173, 2004
被引用文献数
5 3

本研究では,高齢者に対するロボット介在活動(Robot Assisted Activity: RAA)の事例を取り上げ,RAAを,ロボットをめぐる物語の共同的承認の過程であるとして検討した。筆者らは,有料老人ホームに入所する高齢者を対象とした,ペット型ロボットを用いたRAAを実施し,参与観察するとともに,RAA実施中における参加者群の相互作用を,定量的・定性的に分析した。定性的分析の結果,RAA時には,対象となった高齢者のみではなく,施設職員やRAAの進行係等,RAAの参加者全員が,ペット型ロボットの挙動に対して独自の解釈を行い,それを共同的に承認しあう様子が見出された。また,定量的分析の結果,RAA実施中における参加者群の「集合的行動」のうち,最も頻度が多かったのが,「ロボットの動きを参加者群が注視しながら,発話を行う」というパターンであることが明らかになった。筆者らは,RAAを,参加者によるロボットの挙動に対する心の読み取り,及びその解釈の共同的承認を通して物語が生成され,既存の集合性とは異なる集合性,<異質性>が生成される過程であると考察した。<br>