著者
安藤 香織 大沼 進 安達 菜穂子 柿本 敏克 加藤 潤三
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-13, 2019

<p>本研究では,環境配慮行動が友人同士の相互作用により伝播するプロセスに注目し,調査を行った。友人の環境配慮行動と,友人との環境配慮行動に関する会話が実行度認知や主観的規範を通じて本人の環境配慮行動の実行度に及ぼす影響を検討した。調査は大学生とその友人を対象としたペア・データを用いて行われた。分析には交換可能データによるAPIM(Actor-Partner Interdependence Model)を用いた。その結果,個人的,集合的な環境配慮行動の双方において,ペアの友人との環境配慮行動に関する会話は,本人の環境配慮行動へ直接的影響を持つと共に,実行度認知,主観的規範を介した行動への影響も見られた。また,ペアの友人の行動は実行度認知を通じて本人の行動に影響を及ぼしていた。結果より,友人同士は互いの会話と相手の実行度認知を通じて相互の環境配慮行動に影響を及ぼしうることが示された。ただし,環境配慮行動の実施が相手に認知されることが必要であるため,何らかの形でそれを外に表すことが重要となる。環境配慮行動の促進のためには環境に関する会話の機会を増やすことが有用であることが示唆された。</p>
著者
高口 央 坂田 桐子 黒川 正流
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.40-54, 2002
被引用文献数
1

本研究では, 集団間葛藤・協力の文脈からなる仮想世界ゲームを用いて, 複数のリーダーによるリーダーシップが, 集団にどのような影響を及ぼすのかを検討した。各集団における公的役割を持ったリーダーを公式リーダーとし, 集団内の1/3以上の成員から影響力があると評価された人物を非公式リーダーとした。両リーダーのリーダーシップ発揮形態に基づき, 全集団を次に挙げる2つの基準で5つに分類した。分類の基準は, a非公式リーダーの有無, bリーダーシップ行動 (P機能と集団内M機能, 及び集団間M機能が統合された形 (PMM) で発揮されているか) であった。この分担形態を用いて, 集団へのアイデンティティ, 個人資産について検討を行った。さらに, 本研究では, 集団間文脈において検討を行ったため, 特にリーダーシップの効果性指標として, 他集団からの評価, 集団間関係の認知を採用し, それらについても検討を行った。その結果, 複数のリーダーによってリーダーシップが完全な形で発揮された分担統合型の集団が, もっとも望ましい状態にあることが示された。よって, 集団間状況においては, 複数リーダーによるリーダーシップの発揮がより効果的であることが示唆された。
著者
江口 圭一 戸梶 亜紀彦
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.84-92, 2009
被引用文献数
5

本研究は,使用が簡便な労働価値観測定尺度短縮版の開発を目的として行ったものである。開発にはこれまでに蓄積された全データ(<i>n</i>=720,平均年齢41. 4歳&plusmn;13. 3,18~74歳)を使用した。労働価値観測定尺度の原版(38項目版)の探索的因子分析の結果に基づき,因子負荷量が高い3項目が短縮版の項目として選択された。短縮版の下位尺度はいずれも高い内的一貫性を示した(&alpha;=.814~.878)。いずれの下位尺度についても,労働価値観測定尺度の原版(38項目版)と短縮版の間に高い相関係数が示され(<i>r</i>=.906~.976),基準関連妥当性は支持された。また,検証的因子分析でもモデルの高い適合度が示され(GFI=.929, AGFI=.902, CFI=.953, RMSEA=.056),因子的妥当性が支持された。以上の結果から,短縮版はより少ない項目数で38項目版と同様の構成概念を測定できることが示唆された。<br>
著者
安達 智子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.45-51, 2001
被引用文献数
4

大学生230名を対象として, 就業動機尺度の概念的妥当性について検討を試みた。測定変数は (1) 就業動機, (2) 達成動機, (3) 勢力動機, (4) 親和動機, (5) 自己効力感, (6) 仕事活動に対する自己効力感である。就業動機と達成動機, 勢力動機, 親和動機間の相関係数を男女別に算出したところ, 男女ともに達成動機の下位尺度である個人的達成欲求, 社会的達成欲求と就業動機の間に関係性がみとめられた。一方, 勢力動機, 親和動機との関係からは, 就業動機下位尺度の特性に男女による質的差異が示された。就業動機を従属変数, 自己効力感, 仕事活動に対する自己効力感を独立変数とする階層的重回帰分析を行ったところ, いずれの回帰式においても自己効力感の影響を統制した後に, 仕事活動に対する自己効力感が独自の説明力を有していた。また, 特定の仕事活動に対する効力感が当該の就業動機に有意な回帰をみせており, 就業動機の下位側面の特性が明確化された。
著者
吉村 英
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.47-58, 1987
被引用文献数
1

本研究は, 印象を方向づけた情報が, 後にその人物との関連性を否定されるという状況において, 最初の情報の望ましさと, 再判断時に利用できる情報の有無, 及び情報を積極的に解釈するという行為の有無が, 再判断にどのような影響を及ぼすかについて, 検討を行なった。<BR>本研究では次のようなパラダイムを用いた。(1) 先ず意味のはっきりしている情報 (positive又はnegative) とあいまいな情報から印象を形成する。(2) 次に, 意味のはっきりしている情報が, ターゲットと無関係であることが知らされる。(3) 最後に, あいまいな情報だけで, 再びターゲットに対する判断を行なう。<BR>実験Iでは, あいまいな情報だけにもとづいて判断する場合でも, 初めにpositiveな情報を与えられたグループの方が, negativeな情報を与えられたグループより, ターゲットをよりpositiveに判断するという結果が得られた。又, 再判断を行なう場合に, あいまいな情報を与えられず記憶にたよる条件では, 与えられる条件よりも, 印象が変化しにくいという結果も得られた。<BR>実験IIでは, 実験Iで得られた結果を更に詳しく検討するために, あいまいな情報に対する解釈を行なう条件と, 行なわない条件が比較された。初めにpositiveな情報を与えられたグループの方が, negativeな情報を与えられたグループより, ターゲットをよりpositiveに判断するという傾向が, 解釈を行なうことにより促進されるという結果が得られた。又, あいまいな情報を一旦ある方向で解釈すると, 後からそれ以外の解釈を行なうことが困難であるということを示す結果も得られた。
著者
藤島 喜嗣
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.62-74, 1999

本研究は, 自己肯定化を公的な形式で行うことによって, 低自尊心の人でも自己肯定化の効果が現れるかどうかを, 課題成績の原因帰属過程において検討した。他者の前で自分のポジティブな側面を供述することで, 低自尊心の人は, 自己にポジティブな側面があることを確信し, 自己肯定化が可能になると考えられる。そして, このような公的な自己肯定化は, 課題の失敗をより自己卑下的に原因帰属させる効果を持つと予測される。実験は, 成績フィードバック (成功・失敗) ×自尊心 (高・低) ×自己肯定化 (あり・なし) の被験者間デザインで行われた。<BR>主な結果は次の通りである。(1) 被験者は一般的に自分の成績を自己卑下的に帰属する傾向にあった。(2) 低自尊心の人は, 公的な自己肯定化の機会を与えられると, 与えられない場合と比べて, 失敗の原因をより自己卑下的に原因帰属する傾向にあった。高自尊心の人ではこのような違いは認められなかった。本研究の結果は, 低自尊心の人は, 公的に自己肯定化をすることで, はじめて自己完全性への脅威に間接的に対処することができるようになることを示唆した。
著者
奥田 秀宇
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.11-20, 1993-07-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

本研究は, 態度の類似性と対人魅力の関係が, 態度の重要性によって影響を受けるかという点に関して検討した。従来の研究によれば, 重要態度と非重要態度の類似度が異なる場合にのみ重要性の効果が生じ, それ以外の場合には態度の重要性は類似性と魅力の関係に影響を及ぼさないことが知られている。その理由として, 仮想類似性が対人魅力を媒介することが考えられる。男女大学生148名 (実験1) および女子看護学生68名 (実験2) は, 重要態度および非重要態度の類似・非類似な他者に対する対人魅力と仮想類似性について回答した。その結果, 対人魅力は重要類似条件において最も高く, 非重要類似条件において最も低かった。重要態度のみの条件と非重要態度のみの条件では対人魅力に差はなかった。同様の結果は, 仮想類似性についても得られた。しかし, 仮想類似性が対人魅力を媒介するという仮説は支持されなかった。
著者
坂元 章
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.35-48, 1995
被引用文献数
2

本研究の目的は, 被験者が, 1人の刺激人物 (多くの特徴を持つ) が, ある血液型ステレオタイプにあてはまるかどうかを判断するときに, そのステレオタイプに一致する特徴を選択的に使用するであろう, という仮説を検討することであった。実験1では, 86名の女子大学生の被験者を2つの群 (A型群とB型群) に無作為に分けた。実験者は, まず, A型群の被験者に, 刺激人物がA型のステレオタイプにあてはまっているかどうかを判断させ, B型群の被験者には, B型のステレオタイプがあてはまっているかどうかを判断させた。そして, 両群の被験者に, その判断の中で, 刺激人物のどの特徴に着目したか (着目得点), また, 刺激人物に対してどのような印象を形成したか (印象得点) を答えさせた。結果は, 着目得点に関しては仮説を支持しなかったが, 印象得点に関しては仮説を支持するものであった。実験2では, 146名の女子の大学生の被験者を4つの群 (A型群, B型群, O型群, AB型群) に分けて, 同様の実験を行った。結果は, 着目得点と印象得点のどちらに関しても仮説を支持するものであった。
著者
品田 瑞穂
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.99-110, 2009
被引用文献数
3

近年の実験研究では,社会的交換において第三者の立場にある参加者が,参加者自身にとって罰行動が何の利益ももたらさない場合であっても,他者を搾取した非協力者を罰するためにすすんでコストを支払うことが示されている。本研究では,このような第三者による罰行動は,協力的な社会的交換を維持するための二次の協力行動であると考える。重要な社会的交換が外集団成員よりも内集団成員との間で行われることを所与とすると,第三者による罰行動は内集団成員に対してより向けられやすいと考えられる。Shinada, Yamagishi, & Ohmura(2004)はこの予測を検討する実験を行い,協力者は内集団の非協力者をより強く罰するが,非協力者は逆に外集団成員を強く罰するという結果を示している。本研究は,Shinadaらの実験における外集団への罰行動を,相手との利益の差を最大化するための競争的行動と解釈し,罰しても相手との利得差が拡大しない実験で,参加者が内集団成員と外集団成員に対し罰の機会を与えられる実験を実施した。実験の結果,仮説を支持する結果が得られた。参加者は,外集団の非協力者よりも内集団の非協力者を罰するためにより多くの金額を支払った。<br>
著者
益田 圭
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.68-78, 1996-06-30 (Released:2010-08-24)
参考文献数
12

本稿は, 被差別部落に関する問題をめぐって, 人々がどのような常識的知識を用い, 実践的推論をおこなっているかについて検討するものである。そのために, ある被差別部落の周辺の教職員と主婦を対象に面接調査を実施した。この調査から, この地域で語られる同和政策に対する不満の表出という現象を記述し, この地域の人々の実践的推論と常識的知識について考察をおこなった。その結果, この地域の被差別部落周辺住民の同和政策に対する不満の表出に関して, 次の三点が明らかになった。第一に, この地域で被差別部落周辺住民からの不満の対象となるのは, 非常に日常生活に密着し住民自身の利害関係に深く関わっている事柄であること。第二に, 同和行政に対して強い不満を示すのは, 被差別部落近隣地域の経済的に苦しい立場にある人々であり, こうした不満の表明の背後には, 被差別部落や部落問題から回避しようとする, より一般的な価値観が存在すること。第三に, 同和政策に対する不満に用いられている実践的推論に, 一般的で抽象的な「公平」という価値観が動員されており, さらに, 「人の助けを借りない」という価値観が, 被差別部落の環境改善などの同和政策に対する実践的推論に動員されることで, 被差別部落を差別・排除する作用を持つことである。
著者
安藤 香織 大沼 進 安達 菜穂子 柿本 敏克 加藤 潤三
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
2019

<p>本研究では,環境配慮行動が友人同士の相互作用により伝播するプロセスに注目し,調査を行った。友人の環境配慮行動と,友人との環境配慮行動に関する会話が実行度認知や主観的規範を通じて本人の環境配慮行動の実行度に及ぼす影響を検討した。調査は大学生とその友人を対象としたペア・データを用いて行われた。分析には交換可能データによるAPIM(Actor-Partner Interdependence Model)を用いた。その結果,個人的,集合的な環境配慮行動の双方において,ペアの友人との環境配慮行動に関する会話は,本人の環境配慮行動へ直接的影響を持つと共に,実行度認知,主観的規範を介した行動への影響も見られた。また,ペアの友人の行動は実行度認知を通じて本人の行動に影響を及ぼしていた。結果より,友人同士は互いの会話と相手の実行度認知を通じて相互の環境配慮行動に影響を及ぼしうることが示された。ただし,環境配慮行動の実施が相手に認知されることが必要であるため,何らかの形でそれを外に表すことが重要となる。環境配慮行動の促進のためには環境に関する会話の機会を増やすことが有用であることが示唆された。</p>
著者
秋山 学 竹村 和久
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.58-68, 1994-07-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
31
被引用文献数
1 2

This paper investigated the effects of negative affect by odors and involvement with the choice task on the decision-making process. Sixty-two male undergraduates were asked to select one of ten tape recorders, either for actual use of the tape recorder (high involvement condition) or for fictitious use (low involvement condition). The results showed that, in high involvement with the task, people in whom negative affect had been induced tended to search information more slowly and redundantly, and to feel the choice more difficult than did subjects in a neutral affect condition and in low involvement condition. These results were interpreted in terms of a resource allocation model (Ellis & Ashbrook, 1988).
著者
宮本 正一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.35-43, 1989

1. 本研究は選択反応課題の作業遂行過程において, 観察者の存在が被験者の作業成績, 自己評価反応, そして心拍数にいかなる影響を及ぼすかを検討しようとするものである。<BR>2. 大学生36名が, 前半・後半とも一人で課題を遂行する単独群と, 後半だけは一人の観察者が存在する条件下で課題を行う被観察群とにランダムに分けられた。<BR>3. 課題は漢字1文字と数字1文字との対を5組記憶し, ある遅延時間後に, 呈示された漢字に対する数字を答えるという, 選択反応課題である。選択反応をした後, 被験者は自分の反応に対して「正解」あるいは「マチガイ」いずれかの自己評価をするように求められた。<BR>4. その結果, 観察者の存在は作業成績, 「正解」と自己報酬的に自己評価する比率などには影響を与えなかったが, 自己評価, 特に「正解」と自己評価する時の反応潜時を長くさせた。また瞬時心拍数が実験の進行とともに低下するのを抑制した。<BR>5. これらの結果は社会的促進の動因理論と情報処理自己呈示モデルから考察された。
著者
宮本 正一
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.69-77, 1987

1. 本研究は遅延選択反応課題の作業遂行過程において, 観察者の存在が被験者の自己呈示行動にいかなる影響を及ぼすかを検討しようとするものである。<BR>2. 大学生67名が, 前半・後半とも一人で課題を遂行する単独群と, 後半だけは一人の観察者が存在する条件下で課題を行なう被観察群とに分けられた。<BR>3. 課題は漢字1文字と数字1文字との対を4組記憶し, ある遅延時間後に, 呈示された漢字に対する数字を答えるという, 遅延選択反応課題である。選択反応後, 被験者は自分の反応に対する自信度を表明し, さらに反応の正誤をCRT上に表示するかどうかの選択をせまられた。<BR>4. その結果, 観察者の存在は正反応数などには影響を与えなかったが, 自信度の回答時間を長くさせた。また公的自意識傾向を低下させた。<BR>5. これらの結果は社会的促進の動因理論と情報処理自己呈示モデルから考察され, 公的自意識得点の低下は積極的自己呈示の技巧から解釈された。
著者
織田 涼 服部 雅史 八木 保樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.67-77, 2018 (Released:2018-03-03)
参考文献数
32

本研究は,意図されない情報の想起を介した検索容易性の逆説的効果が,処理資源を要するプロセスであるという仮説を検証した。二つの実験では,全参加者に他者の行動リストを呈示して記銘を求めた。行動リストには,後で行う判断の肯定事例と否定事例が含まれており,肯定事例だけを1個(容易)または4個(困難)想起することを求めた。実験1では,二重課題法を用いて想起課題中にかかる認知負荷を操作した。負荷が小さいと,肯定事例の想起が困難な時に想起内容に反する判断がなされ,意図しない否定事例の想起がこの効果を媒介することが示された。しかし負荷が大きいと,この媒介パタンが観察されなかった。実験2では,課題遂行への動機づけ(認知欲求)の強い参加者だけが,意図されない想起を介した検索容易性効果を示した。これらの結果は,困難さが促す事例想起の方略が努力を要する処理であることを示唆する。肯定事例の想起が困難であると,連合記憶内の事例が網羅的に走査され,この走査の過程で意図せず想起された情報に基づいて判断が形成されると考えられる。
著者
宮﨑 友里
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
2019

<p>本稿は,地方自治体の行動原理について,社会心理学の理論を適用することの有用性を探るものである。これまで,政治社会学や政治心理学において,国家から個人に至るまで政治主体の心理性は繰り返し確認されてきた。しかしながら,政治主体を地方自治体に限定した場合,心理性の検討は極めて限定的であったと言えるだろう。地方自治体は各種の政策形成に取り組んでいるが,その中でも経済的利潤の増大を目的としているとは捉えがたい観光政策が散見される現状は注目に値する。そこで本稿では,地方自治体を自律した行為主体と措定し,その政策形成過程に対して,集団一般の行動原理について心理的側面から説明してきた社会的アイデンティティ理論の観点を導入して解釈する。注目する点は,地方自治体としての集団概念と,観光資源活用の関連である。本稿では,水俣市を事例として,水俣病を用いた来訪者誘致に至る過程について,水俣市の集団概念に注目しながら追跡する。事例分析の結果は,水俣市において水俣病経験が先進的経験として肯定的に意味づけられた時,水俣病を用いた来訪者誘致への取り組みが進展した,というものである。</p>
著者
村本 由紀子 山口 勧
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.65-75, 1997-06-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
25
被引用文献数
24 26

本研究は, 日本人の帰属における自己卑下・集団奉仕傾向の共存を実証することを目的に行われた。検証された仮説は以下の通り。(1) 集団の中の個人は, 自らの遂行については自己卑下的帰属を行い, 内集団の遂行については集団奉仕的帰属を行う傾向が見られる; (2) 仮説 (1) の傾向は内集団の他者に好印象を与えるための自己呈示戦術と考えられるため, 内集団成員の前で公に帰属を表明するときに, より顕著に現われる。成功状況を扱った実験1・失敗状況を扱った実験2の結果, いずれも, 仮説 (1) の通り, 帰属における自己卑下と集団奉仕傾向が実証された。この傾向は集団内の他者の自尊心への配慮の表れであると同時に, 集団を単位とした間接的な自己高揚の方策として捉えることができる。また, 仮説 (2) については2つの実験の結果は一貫していなかったが, いずれの結果も, 集団奉仕的帰属が, 単なる内集団他者への自己呈示戦術ではなく, より内面化された傾向であることを示唆するものであった。
著者
今井 芳昭
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.163-173, 1987-02-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
23
被引用文献数
1 5

日常の対人関係において, 一般的レベルでの被影響の認知および影響者に対する満足度が, 6種類の社会的勢力 (参照・専門・魅力・正当・賞・罰) とどのように関連しているかを検討した。大学生229人 (31人の会社員・公務員・自由業, 19人の主婦を含む) に, ふだん頻繁に接触している人の中から自分にとって最も影響力のある人 (影響者I), 2番目に影響力のある人 (影響者II) を選択させ, 社会的勢力・被影響の認知・満足度に関連する31項目 (7件法) に, それぞれの人について評定させた。各尺度の信頼性を因子分析・α係数で検討した後, 林の数量化I類・重回帰分析でデータ解析を行った。主要な結果は次の通りである。1. 被影響の認知と関連する社会的勢力は, 全体的に見ると, 参照勢力・罰勢力および正当勢力 (影響者I) ・専門勢力 (影響者II) であった。2. 影響者に対する満足度と関連する社会的勢力は, 主に魅力勢力であった。3. 1・2で述べた点について, 重回帰分析を用いて影響者ごと (父・母・夫・友人・職場の上司・クラブの先輩・クラブの同輩) に結果を出したが, 影響者I・影響者IIを通じて一貫した傾向をもつ影響者間の差異は見出されなかった。4. 影響者の種類を水準として社会的勢力ごとに一要因の分散分析を行ったところ, 参照勢力は影響者間に有意差のないことが見出された。また, 被影響の認知が相対的に大きいのは, 父・母・夫であり, 満足度が大きいのは, 友人・クラブの同輩であった。