著者
中島 誠 吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.111-121, 2009 (Released:2009-03-26)
参考文献数
43

人が複数の関係間で帳尻を合わせるように行動するという「世界に対する衡平(Equity with the World; EwW)」仮説を検討するため,大学生161名を対象とした実験を行った。研究では特に個人内要因の影響に着目し,向社会的規範を指示する程度としての「援助規範意識」と,出来事の肯定的評価と関連する「正当世界信念(Belief in a Just World; BJW)」を取り上げた。実験において参加者は2度の報酬分配状況に置かれ,一度目では実験操作として過大,過少,衡平のいずれかの報酬を受け取った。その後,参加者は分配者として第三者に報酬を分配するよう求められた。結果はEwW仮説から予測される行動と概ね一致していたが,援助規範意識の高い個人は過去に過少な分配が行われても,第三者を通して不衡平を回復しなかった。参加者の行動と情動を比較すれば,BJWの高い個人は過去の不衡平にネガティブな情動を感じにくいために,第三者に衡平な分配を行うことが可能だと解釈できる。一方,援助規範意識の高い個人は第三者に衡平に分配することでより満足を感じており,個人内要因ごとに異なるプロセスが示唆された。これらの結果から,人々がどんな条件においても単純にEwW回復行動を見せるわけではないことが示された。
著者
渡辺 匠 唐沢 かおり
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2012, (Released:2022-05-03)
参考文献数
36

自由記述方式の質問をもちいた過去の研究では,人々にとって自由意志は「何ものにも制約を受けず,自分の心理状態にそって行動を選択する」ということを基本的に意味すると示唆されている。しかしながら,人々の自由意志信念に関する既存の尺度は,人々の素朴な自由意志概念ではなく,研究者の理論的な自由意志概念にもとづいて作成されてきた。そこで著者らは他行為可能性,行為者性,制約からの自由の3つの因子から構成された,人々の素朴な自由意志信念を測定するための新たな尺度を作成した。本論文では,3つの研究で約4,000人の回答者(大学生および一般成人)が分析にふくまれている。その結果,予測されていた因子構造や尺度の信頼性が確認された。それにくわえて,他行為可能性と行為者性の得点は,道徳的な責任帰属の得点と正の相関関係をもつことが明らかになった。これらの知見は,心理学および哲学の文献と照らし合わせて議論されている。
著者
上野 徳美
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.195-201, 1994-11-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
15

本研究は, 被影響性の性差, すなわち説得の受容や抵抗を規定する受け手の男女差の問題を説得の圧力 (自由への脅威) の強さとの関連において検証することを目的とした。とりわけ, 説得の圧力の大小によって性差の生じ方に違いが認められるか否か, また, 性差が見られる場合, そこにどのような心理的メカニズムが働くかを中心に検討した。実験は, 2 (説得メッセージの圧力: 大, 小) ×2 (受け手の性別: 男, 女) の要因計画に基づいて実施され, 説得メッセージの提示直後に, メッセージに対する反応が多面的に測定された。実験の結果, 説得に対する認知反応 (好意的思考) に関して受け手の性の主効果が見られ, 女性は説得に肯定的な反応を示したのに対して, 男性は否定的な反応を示した。話題に関する意見においては十分に有意ではなかったが, 性の主効果の傾向が認められた。また, 認知反応 (好意的思考と反論の両者) や送り手の評価に関して, 圧力の大きさと受け手の性との交互作用効果があり, 話題に関する意見についても類似の傾向が見られた。すなわち, 説得の圧力が小さい時には性差が認められないのに対して, 圧力が大きい時には女性被験者では説得を受容する反応が見られ, 男性被験者では説得への抵抗が生じた。これらの結果は, 説得による同意への圧力が大きい場合に被影響性の男女差が明瞭になりやすいことを示したものであり, 受け手の性の効果は説得の圧力の強さと相互作用することを強く示唆している。さらに, メッセージ接触中に生じる受け手の認知反応 (好意的, 非好意的思考) や送り手に対する評価が, 被影響性の性差を生み出す媒介過程として関与していることが示唆された。
著者
安藤 香織 大沼 進 安達 菜穂子 柿本 敏克 加藤 潤三
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-13, 2019 (Released:2019-08-23)
参考文献数
40
被引用文献数
1

本研究では,環境配慮行動が友人同士の相互作用により伝播するプロセスに注目し,調査を行った。友人の環境配慮行動と,友人との環境配慮行動に関する会話が実行度認知や主観的規範を通じて本人の環境配慮行動の実行度に及ぼす影響を検討した。調査は大学生とその友人を対象としたペア・データを用いて行われた。分析には交換可能データによるAPIM(Actor-Partner Interdependence Model)を用いた。その結果,個人的,集合的な環境配慮行動の双方において,ペアの友人との環境配慮行動に関する会話は,本人の環境配慮行動へ直接的影響を持つと共に,実行度認知,主観的規範を介した行動への影響も見られた。また,ペアの友人の行動は実行度認知を通じて本人の行動に影響を及ぼしていた。結果より,友人同士は互いの会話と相手の実行度認知を通じて相互の環境配慮行動に影響を及ぼしうることが示された。ただし,環境配慮行動の実施が相手に認知されることが必要であるため,何らかの形でそれを外に表すことが重要となる。環境配慮行動の促進のためには環境に関する会話の機会を増やすことが有用であることが示唆された。
著者
孫 英英 矢守 克也 谷澤 亮也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.75-87, 2016 (Released:2016-09-07)
参考文献数
9
被引用文献数
4 4

本研究は,行政や専門家が防災・減災に関わる際の基本スタンスを問い直し,防災・減災活動における当事者の主体性の回復をはかったアクションリサーチである。研究する主体となる行政や専門家とその客体的対象となる地域住民との間に一線を画す自然科学的な研究スタンスが,行政や専門家の過度にパターナリスティックな関与と地域住民の主体性の喪失との間に見られる悪循環が生じているとの考えに立って,両者の共同的実践を中核に据えたアクションリサーチを導入した。具体的には,津波リスクがきわめて高い高知県沿岸のある地域社会において,個別避難訓練を提案し実施した。訓練結果に基づき,当事者の主体性の回復という観点において注目すべき3つの事例を取り上げて考察を行った。第1は,どのような避難訓練を行うか,その計画・立案における主体性が回復された事例,第2は,避難訓練を地域内でより活発に推進・展開するための活動において主体性が回復された事例,第3は,個別避難訓練の実施を通じて,訓練そのもの,あるいは防災・減災活動という限定された側面における狭義の主体性ではなく,こうした活動が地域社会やそこに暮らす人びとに対してもつ意味や大義を根底から問い直す点において,当事者が主体性を発揮した事例であった。
著者
原田 耕太郎
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-11, 2002-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
9

報酬分配場面において, 分配者は, 多くの場合, 公正な報酬分配を行うよう動機づけられていると考えてよいであろう。本研究の目的は, 分配者による報酬分配の公正認知が低い場合に公正認知が高い場合と比べて, 言語メッセージの量が多くなり, なかでも, 被分配者にとって心理的報酬となるような内容の言語メッセージが多くなるという予測を検討することである。本研究では, 分配者による報酬分配の公正認知を, 被分配者の業績, 能力, 努力の量的相違と, 分配者-被分配者の交換関係継続の有無によって, 操作した。大学生122名が実験に参加した。実験の結果, 被分配者間に能力差がある条件の方が, 能力差が無い条件と比べて, 分配者による報酬分配の公正認知が低かった。また, これらの条件間で, メッセージの量に差はみられなかったが, 前者よりも後者の条件で, 被分配者にとって心理的報酬となるような内容の言語メッセージが多く観察された。さらに, このような言語メッセージの使用と公正認知との関連性が示唆された。しかし, 言語メッセージ使用による公正さの向上の程度は, 有意傾向であった。
著者
Miki Ozeki Giovanni A. Travaglino
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2105, (Released:2022-04-13)
参考文献数
20
被引用文献数
1

Group-norm succession motivation refers to motivations for passing down group norms to the younger generation. The current study compared the effects of group identity and individualism/collectivism on group-norm succession motivation between Japan and the UK. Eighty-four university students from Japan and 132 university students from the UK were included in the analysis. The results showed that group identity positively influenced group-norm succession motivation in both Japan and the UK. Group-norm succession motivation seems to be promoted by the following two routes: responsibility for the younger generation and hoping they experience happiness and showing superiority over the younger generation.
著者
岡本 真一郎
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.47-56, 1986-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
20
被引用文献数
5 3

状況的要因が依頼の言語的スタイルの変動に及ぼす影響を検討するため, 男子大学生を被験者として, 2つの研究が行われた. 研究1では, 被験者 (73名) は同性・同学年の親しい相手, 疎遠な相手に対する, 依頼表現を筆答した. 疎遠な相手に対しては親しい相手に比べて, 6場面中4場面で依頼型が減少, 意向打診型が増加して, 依頼スタイルは間接化することが明らかになった. 研究2では親しい相手に対する依頼に限って, 依頼内容 (場面) によるスタイルの変動が検討された. 2組の恩恵場面群と1組の修復場面群でそれぞれ, 依頼を履行する際の相手のコストが変数として導入された. 被験者 (43名) は依頼を口頭で答えた. 予想された恩恵場面群だけでなく修復場面群でも, 依頼のコストが増すと依頼型が減少し, 意向打診型が増加した. 以上の結果の考察のほか, 他のスタイルの分布や, 慣用句, 依頼の長さについても分析・考察が行われた.
著者
浅野 良輔
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.158-167, 2011 (Released:2011-03-08)
参考文献数
39
被引用文献数
1

健康生成モデルは,精神的健康をより力動的でポジティブな視座から捉えようとする理論である(Antonovsky, 1979, 1987山崎・吉井監訳,2001)。しかし,これまでの健康生成モデルに関する研究では,個人内過程のみが扱われるに留まっており,個人間の相互影響過程を考慮した検討が必要である。本研究では健康生成モデルに基づき,恋愛関係における知覚されたサポートと親密性が,首尾一貫感覚を介して,精神的健康を促進するというモデルを仮定し,二者の個人内過程と個人間過程を検証した。恋愛カップル85組を対象とする質問紙調査を行った。構造方程式モデリングによる分析の結果,(a)個人の首尾一貫感覚はその個人の精神的健康を直接的に促進する,(b)個人の首尾一貫感覚を介して,知覚されたサポートと親密性はその個人の精神的健康を促進する,(c)男性の首尾一貫感覚を介して,女性の知覚されたサポートは男性の精神的健康を促進する,しかし,女性の親密性は男性の精神的健康を抑制するということが示された。以上の結果から,恋愛関係と健康生成モデルの個人内過程,ならびに個人間過程との関連性が議論された。
著者
川西 千弘
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.122-128, 2001-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
19

対人認知における顔の影響について検討した。93名の女子学生が実験に参加した。彼女たちには, 刺激人物の行動情報と顔写真 (半分の被験者には知的な顔写真が, その他には非知的な顔写真) が提示され, その人物の印象と知的行動可能性について評定することが求められた。その結果, 以下のことが明らかになった。(1) 前述のいずれの評定においても, 知的な顔と非知的な顔では差が大きく, 知的な顔をした刺激人物の方がより知性が高く, 賢明な行動をしやすいと判断された。(2) 顔のみから推測される知的さについて実験的に統制すると, 上記の差は消失したが, 顔のみから推測される好意度について実験的に操作しても, その差を相殺することはできなかった。つまり, われわれは魅力的な顔の人物だからといってより知性が高いと認知するのではなく, 少なくともその他の対人情報が曖昧であったり, 判断性に乏しかったりする場合は, 顔から直接的に他者の知性を読みとり, それを用いて印象を形成することが明らかになった。
著者
久木田 純
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.125-137, 1984

本研究は, 自集団以外の他集団と共に課題を遂行する状況において, 集団間の友好性と達成度の高低, 集団成員間の達成度の高低が, 集団内および集団間の報酬分配の公正感をどのように規定するかを検討した。<BR>集団間の関係が (1) 友好的である場合を実験I, (2) 非友好的である場合を実験IIとし, 各々の実験において友人二人 (個人達成度の高・低) からなる2集団 (集団達成度の高低) に対し報酬を支払う相互依存的状況が設定された。集団内分配と集団間分配において公平 (equity) と平等 (equality) の二つの分配原理につき, 個人決定と集団決定の状況で分配原理の選択を行なわせた。<BR>主な結果は以下の通りであった。<BR>(1) 個人決定による集団内分配原理の選択では, 実験I・実験IIの両者において一貫して高達成度の成員が平等原理を, 低達成度の成員が公平原理を選択した。<BR>(2) 集団決定による集団内分配原理の選択において, 実験IIの低達成度集団以外の条件では, 公平原理よりも平等原理が多く選択され, また, 平等原理を選択した集団での集団決定においては高達成度の成員の強い影響力があったことが見出された。<BR>(3) 個人決定による集団間分配原理の選択においては, 実験Iでは公平原理よりも平等原理が多く選択され, 逆に実験IIでは平等原理よりも公平原理が多く選択された。<BR>(4) 集団決定による集団間分配原理の選択においては, 実験Iでは, 集団の達成度にかかわりなく平等原理が多く選択され, 実験IIでは, 高達成度の集団は平等を多く選択し, 個人決定とは異なる選択をしたのに対し, 低達成度の集団は個人決定と同様公平原理を多く選択した。<BR>これらの結果については, 利己的・非利己的分配の観点から考察され, 特に, 低達成度条件においてはそれが個人であると集団であるとを問わず, 非利己的分配原理の選択を行なうものと考察された。
著者
井上 和子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.127-134, 1985-02-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
18
被引用文献数
2 1

本研究は, Equity理論を恋愛関係にあてはめ, 認知されるinequityの程度による心理的変数の相異をみると同時にEquityモデルの妥当性を検討することを目的とする。特にequity回復の行動的方法の検証を試みる。対象者は現実に恋愛関係にある男女学生各50名計100名。質問紙により, equity-inequityの認知, 情緒的反応, 自分のInputsを高める行動傾向, 相手がInqutsを高めることへの期待, 結婚の意図, 交際期間が測定された。認知されたinequityの5段階による傾向分析の結果, (1) 認知されたinequityの程度が大きいほど恋人たちの感じる心理的緊張も大きく, (2) その認知されたinequityの程度に応じて, 恋人たちは, inequityを低減もしくは解消させる行動に動機づけられるというEquity理論をおおむね支持するものであった。すなわち, 情緒的反応は, 認知されるinequityが大きくなると, 利得過剰であっても利得不足同様否定的となった。また, 行動傾向に関しては, 認知されるinequityが小さい場合には, 利得過剰の人は自分のInputsを高めることで, 利得不足の人は相手のInputsを高めることでequityの回復をはかろうとしたが, 認知されるinequityの程度が大きくなると, 行動はむしろ関係の破棄の方向に動機づけられることがわかった。本研究の結果と仮説との若干のずれに関して, 「分配公正」と「利得最大」の両原理の合成による検討が部みられた。
著者
篠原 弘章 三隅 二不二
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.136-154, 1977
被引用文献数
1

本研究は, 集団体験を中心とする全国公開研修セミナーにおける2つの訓練計画の効果性を集団発達の過程から検討したものである。被験者は一般企業からの参加者24名。被験者は2つのグループに折半され, セミナーの10セッションに渡る集団過程のうち, 1つの群 (Aグループ) は前半の5回が事例討議 (PMTコース), 後半の5回がSensitivity Training (STコース) であった。他の1群 (Bグループ) はAグループとは逆順のコースを採った。PMTコースでは. P機能とM機能の2つの尺度から成る質問紙を用いて, 各メンバーは討議行動について自己評定と他者評定を行なった。また, すべての10回の会合について会合の魅力が調査された。結果は以下の通りであった。<BR>1. 討議のリーダーシップ行動についての自己評定と他者評定の認知的不一致は3つの測度を用いて分析された。<BR>(1) 自己評定からの他者評定の差を測度とした時の認知的不一致の方向は, 過少評定の方向で生じた。これはP, Mいずれの機能についてもAグループよりBグループで大きかった。<BR>(2) 自己評定と他者評定の相関を用いた認知的不一致を検討すると, AグループではP, Mいずれの機能も第2セッション以降すべて有意な相関を示し, 他方, Bグループでは, M機能の第4セッションのみの相関が有意で, 他はすべて有意な相関が見られなかった。それ故, 自己評定と他者評定の相関による認知的不一致は, AグループよりBグループで大であった。<BR>(3) 自己評定と他者評定の差の絶対値を測度とした認知的不一致は, AグループよりBグループが大であった。また, セッションの進行に伴なう認知的不一致の縮少は, M機能よりもP機能において顕著であった。以上の認知的不一致の両群の相異は, グループ内のリーダーシップ構造の構造化, 未構造化と関連して考察された。<BR>2. 会合魅力の上昇型は, BグループよりAグループに多い傾向にあった (p<. 10)。また, 会合魅力のセッション間の因子分析によると, Aグループでは後期の因子の寄与率が最大であった。この因子は, メンバーの相互啓発と関連するものとして考察された.<BR>3. セミナー全体の総合評価の高い者は, BグループよりもAグループに多い傾向が示された (p<. 10)。
著者
安達 智子
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.45-51, 2001-12-25 (Released:2010-08-24)
参考文献数
26
被引用文献数
5 4

大学生230名を対象として, 就業動機尺度の概念的妥当性について検討を試みた。測定変数は (1) 就業動機, (2) 達成動機, (3) 勢力動機, (4) 親和動機, (5) 自己効力感, (6) 仕事活動に対する自己効力感である。就業動機と達成動機, 勢力動機, 親和動機間の相関係数を男女別に算出したところ, 男女ともに達成動機の下位尺度である個人的達成欲求, 社会的達成欲求と就業動機の間に関係性がみとめられた。一方, 勢力動機, 親和動機との関係からは, 就業動機下位尺度の特性に男女による質的差異が示された。就業動機を従属変数, 自己効力感, 仕事活動に対する自己効力感を独立変数とする階層的重回帰分析を行ったところ, いずれの回帰式においても自己効力感の影響を統制した後に, 仕事活動に対する自己効力感が独自の説明力を有していた。また, 特定の仕事活動に対する効力感が当該の就業動機に有意な回帰をみせており, 就業動機の下位側面の特性が明確化された。
著者
宮崎 弦太 池上 知子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.194-204, 2011 (Released:2011-03-08)
参考文献数
21
被引用文献数
6 1

本研究は関係へのコミットメントと関係相手からの受容予期が社会的拒絶への対処行動に及ぼす影響を検討した。219名の大学生が質問紙調査に参加した。参加者は,親友または知人との関係におけるコミットメントと相手からの受容予期の程度,そして,その相手からの拒絶場面における感情状態と行動傾向を評定した。その結果,知人よりも親友のほうが,関係相手からの受容予期は強く,関係へのコミットメントが強いことが明らかとなった。また,知人よりも親友のほうが,拒絶に対する関係志向的行動が促進され,関係破壊的行動は抑制されることが示された。媒介分析とパス解析の結果,コミットメントと受容予期はそれぞれ直接,拒絶への関係志向的行動を促進し,関係破壊的行動を抑制すること,そして,受容予期はコミットメントを強めることで間接的にも拒絶への対処行動に影響することが明らかとなった。これらの結果は,拒絶への対処行動を規定する要因は,相互依存理論とリスク制御システム理論という観点から統合的に理解する必要があることを示唆している。
著者
吉田 俊和
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.104-109, 1991
被引用文献数
1

本研究は, 観察者の有・無条件において, 公的自意識の高・低が失敗経験を与えられることによって, 先行試行の原因帰属や次試行の課題遂行にどのような影響を及ぼすかを検討した。実験デザインとして, 2 (公的自意識の高・低) ×2 (観察者の有・無) の4条件群を設定した。教養心理学受講生162名の中から公的自意識高群と低群それぞれ38名ずつを抽出し, ランダムに観察者有・無条件に割り当てた。実験者は大学4年生男子であり, 実験課題は4文字アナグラム課題である。被験者は入室後, 練習試行を3分間行って失敗経験をした後, 原因帰属 (能力, 努力, 課題の困難さ, 運) の4要因の合計が10になるように評定させられた。その後, 5分間の本試行が行われた。観察者有り条件では, 実験中常に実験者が被験者の前方に着席したが, 観察者無し条件では, 教示以外の時は被験者右前方の衝立の後ろに位置した。<BR>その結果, 公的自意識の高い群は, 失敗の原因を内的で安定した要因に帰属させる傾向がみられ, 自己客体視状態が高まることによって低められる自己評価に合致する帰属を行うという認知的斉合性理論からの予側が支持された。課題遂行の増加量に関しては, 公的自意識よりも観察者の影響が強くみられ, 観察者が存在することにより増加量の抑制がみられた。これにより, 公的自意識は原因帰属に, 観察者の存在は課題遂行に, それぞれ独立した効果を及ぼしている可能性が考察された。
著者
具志堅 伸隆 唐沢 かおり
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.40-52, 2007
被引用文献数
1

本研究は,情動的メッセージと反すう思考による説得プロセスを検証した。大学生277名が情動的なエピソードによって死刑制度の必要性を訴える情動的メッセージ,あるいは客観的な報告によってこれを訴える客観的メッセージを提示された。その後,実験参加者は態度評定に先立って,死刑制度に対する考えを記述するか(反すう思考群),死刑制度と無関連な事柄について記述するか(反すう妨害群),あるいは直ちに態度評定を行った(直後評定群)。その結果,死刑制度に関する反すう思考は,情動的メッセージ群においてのみ,態度変化を促進した。さらに,パス解析によると,情動的メッセージ群では情動的な思考によって態度変化が媒介されていたのに対し,客観的メッセージ群では認知的な思考によって媒介されていた。情動的メッセージの内容に関する反すう思考が態度変化を促進するメカニズムが議論された。<br>
著者
加藤 司
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.147-154, 2002-04-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
33
被引用文献数
2 4

本研究の目的は社会的相互作用を考慮に入れたコーピングモデルを提唱し, その妥当性を検証することである。本研究によって提唱されたコーピングモデルでは, コーピングが直接的に精神的健康に影響を与える過程と, コーピングが対人関係を媒介として, 個人の精神的健康に影響を与える2つの過程を仮定している。本研究では後者の過程を検証するために2つの研究がなされた。研究1では129名の大学生を対象に, 対人ストレスコーピングが他者に快-不快感を抱かせることを実証した。研究2では299名の大学生を対象に, 対人ストレスコーピング→ソーシャルサポート→孤独感といった因果関係を検証した。2つの研究結果から, 他者に好感を抱かせるコーピングは他者からのソーシャルサポートを増加させ, 孤独感を低減させるが, 一方, 他者に不快感を抱かせるコーピングは他者からのソーシャルサポートを減少させ, 孤独感を増加させることが明らかになった。そして, 本研究で提唱されたモデルの妥当性が実証された。
著者
潮村 公弘
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-13, 1995-07-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
22
被引用文献数
1

本研究の目的は, カテゴリー化を引き起こす刺激手掛かりが, 対人記憶と印象評定に及ぼす効果について検証することであった。Taylorら (1978) によって開発されたパラダイムに基づいて2つの実験が行なわれた。実験1では, 被験者にグループ・ディスカッションを提示するさいに, テープレコーダーとスライドを用いて, 被験者に話し手の声と顔写真が示された状況で行なわれた。そこでは, 話し手の性別と, 発言内容の性度とが 独立に操作されていた。実験2では, 話し手の声や顔写真の情報を被験者には与えず, 話し手の性別に関して性別ラベルのみを提示することで, 性別手掛かりが低減させられた。結果は, 対人記憶での効果は2つの実験を通じて変化しなかったことに対して, 印象評定での効果は2つの実験で明瞭に異なり, 実験2では話し手に 対する印象評定は, 発言内容の性度によって規定されていた。結果は, 2つの課題の独立性, 話し手の性別によって引き起こされるaccentuation (強調化) 効果の普遍性, 自動的処理とコントロール処理といった事項と関連づけて考察された。