著者
四柳 宏
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.115, no.9, pp.777-780, 2018

<p>B型肝炎ワクチンの定期接種化は,母子垂直感染対策だけでは水平感染のコントロールができなくなったことが主因である.定期接種化により今後日本のB型肝炎の新規発生は激減すると考えられるが,定期接種の対象とならない児や青少年に対するキャッチアップを行う必要がある.今後解決すべき問題としてエスケープ変異,ワクチン無効例への対策,ブースター接種の検討などが挙げられる.</p>
著者
松原 淳一 藤田 善幸 橋本 明美 新浪 千加子 伊藤 俊之 丸山 正隆
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病學會雜誌 = The Japanese journal of gastro-enterology (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.102, no.3, pp.303-310, 2005-03-05
参考文献数
19
被引用文献数
9

1998年1月から2002年12月までの5年間に当院で経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)を施行した65歳以上の178例を対象とし,後ろ向きコホート解析を行った.術後7日以内の周術期死亡率は1.7%,30日以内の早期死亡率は5.9%,1年生存率は61.4%であった.術前のAlb,T-chol,ChE値が良いと生存率も有意に高かった.多変量解析では悪性疾患,T-chol値が予後に有意に関わっていた.術後の栄養状態の改善は有意だが限界があった.PEGは患者の状態から予測される予後や危険性を把握したうえでその適応の有無が決定されるべきであり,患者の長期生存とQOL向上の両立を考えることが重要である.<br>
著者
丸山 正隆 大坪 千秋 田中 三千雄 大井 至 上地 六男 竹本 忠良 鈴木 博孝
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.414-427, 1975

1971年11月から1974年2月までの間に単一の検者により前方直視鏡で内視鏡検査を施行された475例中, 130例に潰瘍あるいはその瘢痕以外の何らかの変化を十二指腸球部に観察した. これらの全てが十二指腸炎の所見であるか, あるいは, 所見を認めなかつた例を正常としてよいかどうかはまだ不明であるが, これらの変化の多くは前回の病理組織学的検討と照合して考えた時, 原発性十二指腸炎の種々の所見の反応と考えられる. このうち, 発赤, びらんなどは表在性十二指腸炎の所見といえるが, 生検的には間質性十二指腸炎を獲え難いため, これがどの程度含まれてくるかは不明である. 萎縮性十二指腸炎は日本では稀とされ, 生検でこれを獲えることは困難もあるが, 血管透見, Liver area の出現, 絨毛の萎縮などはこれを示す可能性のある所見として考慮し得る. このほか種々の小陥凹や小隆起は十二指腸炎との関連性を考慮し得る所見である.
著者
香山 尚子 竹田 潔
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.110, no.5, pp.741-752, 2013 (Released:2013-05-07)
参考文献数
98

消化管に慢性の炎症が生じる潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(IBD)は,食生活やライフスタイルの欧米化にともないわが国において急激な増加傾向を示す難治性疾患である.慢性炎症は多様な疾患に共通する基盤病態であり,腸管組織においても大腸癌リスク増大に関与する.近年,腸管組織において多様な自然免疫細胞が同定されるとともに,獲得免疫系の活性化を制御することで腸管組織の恒常性維持に寄与することが明らかとなった.今後,自然免疫系を標的としたIBDの病態解明および新規治療法の開発が期待される.
著者
樋渡 信夫 渡辺 晃
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.79, no.5, pp.1106-1114, 1982-05-05 (Released:2007-12-26)
参考文献数
22
被引用文献数
1

潰瘍性大腸炎の粘膜真性毛細血管を透過電顕で観察し,各種腸疾患を対照として主にmorpho-metricに比較検討した.活動期では毛細血管内皮細胞の著明な肥厚や風船状突出が見られ毛細血管の抵抗性は増加しており,また血管腔内に赤血球を認めることが少ないことより血流も少なくなつて微小循環不全状態にある.この状態は難治性を示す一因となつていると考えられる.さらに内皮細胞では飲小胞数は減少し機能低下状態にあり,また基底膜は多層化しており内皮細胞の変性,再生が繰り返しおこつている.緩解期ではこれらの変化は活動期と過敏性大腸症候群の間に位置しており,何らかのtriggerが加われば再燃しやすい状態にあると考えられる.
著者
中村 昌太郎 松本 主之
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.109, no.1, pp.47-53, 2012 (Released:2012-01-06)
参考文献数
18
被引用文献数
2

胃MALTリンパ腫の診療に関する最近の知見について,Helicobacter pylori除菌後の長期予後を中心に解説した.本邦における多施設大規模追跡試験により,H. pylori除菌後の胃MALTリンパ腫の長期予後がきわめて良好であることが明らかとなった.対象420例の除菌による完全寛解率は77%であり,3~14.6年(平均6.5年)の追跡の結果,除菌10年後の治療失敗回避率は90%,全生存率95%,無イベント生存率86%であった.多変量解析の結果,H. pylori陰性,粘膜下層深部浸潤およびt(11;18)/API2-MALT1転座が除菌抵抗因子として抽出された.本症に対する除菌治療の保険収載により,H. pylori依存性胃MALTリンパ腫症例が減少し,将来は除菌抵抗例やH. pylori陰性例の診療が問題となることが予想される.
著者
山下 太郎 金子 周一
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.1, pp.10-17, 2015-01-05 (Released:2015-01-05)
参考文献数
31

肝細胞癌は世界で年間約70万人が罹患する第3の癌死亡原因であり,現在本邦では年間約3万人が死亡する.多くはウイルス性慢性肝炎,肝硬変を背景に発症するが,近年明らかな肝炎ウイルス感染をともなわない非B非C型肝細胞癌の増加が報告されている.発癌メカニズムとしてはウイルス遺伝子や蛋白に加え,繰り返す壊死,炎症,再生を背景にさまざまな異常が細胞に蓄積し,前癌病変から高分化型肝癌,進行肝癌へ進行すると考えられる.分子生物学的アプローチの進歩により肝細胞癌で認められる遺伝子変異,遺伝子/蛋白発現パターン,悪性形質や微小環境変化の多様性が明らかとされ,再発形式や薬剤感受性との関連について現在解析が進められている.
著者
工藤 通明 内田 聡 平沢 敏昭
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.97, no.7, pp.895-899, 2000-07-05 (Released:2008-02-26)
参考文献数
7

症例は65歳,女性.人間ドックの精査で上部消化管内視鏡検査施行したところ,胃内に運動性のある虫体を発見し,内視鏡下に三ツ又鉗子で把持し摘出した.回虫症は近年増加しているといわれているが,過去11年間の本邦報告例は55例であった.これに自験例を含め,治療法別に手術的治療,駆虫剤投与,内視鏡的治療に分けて,主訴と診断名,患者の居住地,治療法,摘出虫体の個体数と虫卵検査の結果について考察した.
著者
松尾 拓 中村 由紀子 鈴木 恒治
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.5, pp.888-895, 2015-05-05 (Released:2015-05-05)
参考文献数
30

症例は73歳,女性.局所進行乳癌に対してnab-パクリタキセルによる化学療法を受けていた.治療開始から約9カ月後に,肝機能障害のため化学療法は中止となった.MRCPとERCPでは肝門部胆管の狭窄と肝内胆管の口径不同を認め,nab-パクリタキセルによる二次性硬化性胆管炎が疑われた.同剤による二次性硬化性胆管炎の報告はこれまでになく,示唆に富む症例と思われ,報告する.
著者
河野 博行 岡田 裕之 平岡 佐規子 田中 健大
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.7, pp.1326-1333, 2015-07-05 (Released:2015-07-05)
参考文献数
29

症例は67歳女性.61歳時小腸大腸型クローン病と診断.生物学的製剤(Adalimumab)にて寛解維持状態であった.67歳時に空咳が出現.胸部CTで両側下葉に間質影を認めた.血液検査でSS-A, B抗体陽性,唾液腺生検でリンパ球浸潤を認めたが,乾燥症状は認められず無症候性シェーグレン症候群と診断した.感染や薬剤性の肺障害は否定的で,間質性肺炎はシェーグレン症候群の腺外病変であると考えられた.
著者
春日井 邦夫 舟木 康 小笠原 尚高 佐々木 誠人 山本 さゆり 川村 百合加 足立 和規 山口 純治 田村 泰弘 井澤 晋也 土方 康孝 海老 正秀
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.116, no.11, pp.913-926, 2019

<p>日本の一般生活者の便秘に関するインターネット調査を実施した.51.5%が便秘を自覚し,その有意な因子は加齢,女性,糖尿病,痔疾患,脳血管疾患であった.便秘自覚者3000名の約1/3が便秘薬・下剤を服用し,43.8%は刺激性下剤を服用していた.入手方法は,医師処方37.2%,薬局購入67.5%であった.排便回数が週3回未満や硬便の割合はそれぞれ約1/3で,硬便,下痢便の人のQOLは有意に低下していた.便秘治療薬の1カ月間の支払い金額あるいは支払い可能金額は,約75%が1000円未満であった.日本人便秘自覚者の多くに十分な便秘治療が行われていないと思われ,適切な便秘診療の普及が望まれる.</p>
著者
原 歩 吉岡 政洋 伊藤 貴 西澤 雅彦 市川 雅 高橋 重人 緋田 めぐみ 竹森 政樹 石原 直毅 日比 紀文
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.98, no.12, pp.1379-1383, 2001-12-05 (Released:2008-02-26)
参考文献数
20

症例は71歳,女性.他院での種々の検査の結果,特発性再発性アフタ性口内炎と診断されていた.本症例は約2年6カ月の間,再発するアフタ性口内炎に対して副腎皮質ホルモンの投与を受けていた.著者らは本症例のアフタ再発時にマレイン酸イルソグラジンを投与した.アフタは1週間で消失し,継続投与にて1年6カ月の間,アフタは再発していない.本症例はアフタ性口内炎に対するマレイン酸イルソグラジンの有効性を示唆した.
著者
白地 孝
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.73, no.12, pp.1479-1494, 1976

閉塞性黄疸時のビリルビンの腎よりの排泄機序, 閉塞性黄疸時の腎障害, 尿排泄障害時における血中ビリルビン値の変化, ビリルビンによる腎障害などについて, 臨床的, 実験的に検討し, つぎの様な結果を得た.<br>1) 尿中へのビリルビンの排泄量は, 血清総ビリルビン値および直接型ビリルビン値と正の相関々係を示し, また血清アルブミン予備結合能と負の相関々係を示すことから, ビリルビンの尿中への排泄には, アルブミンと結合していない遊離の直接型ビリルビンが尿中に排泄される可能性が強いことが示された.<br>2) 片側尿管の結紮その他によつて尿排泄障害をおこし, あるいは腎障害を有する例では, 尿中排泄ビリルビン量が減少し, 血清ビリルビン値がより高値を示すことから, 血清ビリルビンの値は, 腎機能と密に関係していることも明らかになつた.<br>3) 黄疸発現よりの期間が長くなるにつれ, 腎障害が増強し, 尿中へのビリルビンの排泄量が減少した.
著者
森脇 久隆
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.352-356, 2007 (Released:2007-03-05)
参考文献数
8
被引用文献数
4

肝性脳症の代表的な原因疾患は劇症肝炎と肝硬変である.前者の治療は人工肝補助と肝移植による.後者についてはまず消化管出血,便秘など誘因の除去と,平行して分岐鎖アミノ酸輸液,合成二糖類の内服を主とした治療を行う.これらの併用治療による肝硬変脳症の覚醒率は末期昏睡型(大量消化管出血型)が23%,慢性再発型(便秘型)が78%, 1年生存率はそれぞれ15%, 60%である.肝硬変脳症の予防は血中アンモニア濃度のコントロールを目安として,分岐鎖アミノ酸経口補充,合成二糖類の内服により行う.わが国の大規模臨床試験によって,肝硬変患者に対する経口分岐鎖アミノ酸補充療法が肝不全(肝性脳症,腹水·浮腫,黄疸)の発生を有意に予防することが証明されている.
著者
奥野 正隆 森脇 久隆
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.95, no.7, pp.743-749, 1998 (Released:2008-02-26)
参考文献数
60

肝線維化は, 肝硬変を特徴づける病像の一つであり, 過剰な細胞外マトリックスの沈着による. マトリックス産生の中心的役割を担うのは星細胞であり, 線維肝においては星細胞は種々のサイトカインにより活性化され, レチノイドを失い, マトリックス産生能・増殖能を獲得する. これらサイトカイン刺激のなかでは, 特にTGF-βとPDGFが重要であり, ともにautocrine, paracrineloopにより, 前者は星細胞のマトリックス産生を, 後者は増殖を刺激する. その他, TNF-α, IGF, IFN, ET-1などのサイトカインが, 各々特徴的な作用を星細胞に及ぼし, 肝線維化に関与する.
著者
市田 隆文 岩月 舜三郎 各務 伸一
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病學會雜誌 = The Japanese journal of gastro-enterology (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.1-7, 2001-01-05
参考文献数
2
被引用文献数
2

脳死肝移植適応評価委員会での脳死肝移植の選択基準に関しては,欧米のそれと異なり対象疾患に優先順位を与えた.このことより肝移植医療に必要な公平差を欠くとの指摘を受けてきた.健全なる肝移植医療を立ち上げるための善意の操作であったが,UNOSの基準と合わせてもはや実状に合わなくなってきていることも事実である.アルコール性肝硬変より圧倒的に多い肝炎ウイルスによる肝疾患を念頭に置き,UNOSの選択基準を本誌で簡潔に紹介し,わが国における脳死肝移植の選択基準の改訂の必要性を記した.