著者
太幡 敬洋 峯 信一郎 飯田 武 岸川 博文 田中 良哉
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.103, no.1, pp.23-29, 2006 (Released:2006-01-12)
参考文献数
21
被引用文献数
3

症例は多飲歴を有する47歳の男性.腰痛,全身倦怠感を主訴に当院受診.肝機能障害および炎症反応を認め,経過中DICを併発した.MRIにて第2, 3腰椎に化膿巣と両側腸腰筋に波及した膿瘍形成が認められ,血液培養で黄色ブドウ球菌を検出した.化膿性脊椎炎と腸腰筋膿瘍と診断.抗生剤投与による保存的治療法で軽快した.肝硬変では,まれに化膿性脊椎炎,腸腰筋膿瘍の合併例を認めることがあり貴重な症例と考えられた.
著者
重福 隆太 松永 光太郎 田村 知大 小澤 俊一郎 松尾 康正 高橋 秀明 松本 伸行 奥瀬 千晃 鈴木 通博 伊東 文生
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.113, no.2, pp.263-272, 2016-02-05 (Released:2016-02-05)
参考文献数
30
被引用文献数
1

今回,口腔内常在菌であるStreptococcus intermediusによる化膿性肝膿瘍を経験し,その感染経路の検索で早期胃癌を診断した.胃低酸状態ではStreptococcusを中心とした胃細菌叢が形成され,さらに糖尿病,高齢など粘膜免疫低下を呈する病態が存在する場合,上部消化管疾患が細菌の侵入経路となる可能性があり十分に留意すべきである.
著者
太田 昌徳 石黒 昌生 岩根 覚 中路 重之 佐野 正明 土田 成紀 相沢 中 吉田 豊
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.51-57, 1985 (Released:2007-12-26)
参考文献数
13
被引用文献数
2

大腸疾患 (大腸ポリープ, 大腸憩室) 発生に対する食物繊維の抑制効果をみるため, 弘前市およびその近郊の市町村にて, 大腸ポリープ50症例, 大腸憩室33症例の食事調査を国民栄養調査方式にのつとり施行した. 対照は国民栄養調査実施家庭とし, 3群の食物繊維摂取量の比較検討を行なつた. その結果3群の1日当りの食物繊維摂取量は大腸ポリープ群18.2±5.44g, 大腸憩室群17.4±5.07g, 対照群21.1±6.57gで疾患群が対照群より有意に少なかつた. また大腸ポリープ群, 大腸憩室群の間に差はみられなかつた. 成分別では疾患群, 対照群の間でヘミセルロース, セルロース量に有意差が認められたが, リグニン量には差がなかつた. 以上の結果より食物繊維摂取量の増加が大腸ポリープ, 大腸憩室の発現を抑制する効果があると示唆された.
著者
武田 宏司
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.111, no.6, pp.1058-1070, 2014-06-05 (Released:2014-06-05)
参考文献数
85

機能性ディスペプシア(FD)は,慢性的に上腹部愁訴を呈するものの器質的疾患を認めない疾患群である.FDの病態として,胃排出遅延,知覚過敏,胃適応性弛緩障害などの関与が指摘されてきたが,最近では脳腸相関の関与が注目を集めている.脳機能画像を用いた研究により,FDでは脳内の侵害情報の処理機構に構造的・機能的異常が生じていることが明らかになっており,その原因として幼少時期の強いストレスの関与が示唆されている.一方,胃十二指腸領域に限定して不快な自覚症状が発生する原因として,消化管感染症を基盤とした十二指腸の慢性炎症によって脂肪や酸に対する知覚過敏が引きおこされるというプロセスが明らかになりつつある.
著者
岩田 啓子 杉本 優弥 東 勇気 月岡 雄治 桐山 正人
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.114, no.8, pp.1454-1459, 2017-08-05 (Released:2017-08-05)
参考文献数
17

症例は21歳男性.新生児期に食道閉鎖症と診断され,開腹手術下に胃瘻を造設された.経口による栄養摂取が可能となった生後7カ月に胃瘻カテーテルを抜去され自然閉鎖したが,21歳時に瘻孔閉鎖部位が再開通し唇状瘻を形成した.唇状瘻からの胃内容物の流出が多く,受診時には瘻孔周囲に皮膚びらんを形成していた.確実で再燃のない治療方法として開腹手術による瘻孔切除術を選択し施行した.術後は問題なく学生生活を送っている.
著者
田中 治 西村 恒彦 山上 卓士 一条 祐輔 大内 宏之 大野 浩司 光本 保英 森 敬弘 吉川 敏一
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病學會雜誌 = The Japanese journal of gastro-enterology (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.107, no.5, pp.703-711, 2010-05-05
参考文献数
33

画像診断装置の性能向上および造影剤の進歩により,肝細胞癌の画像診断は近年飛躍的に進歩した.2008年1月に肝細胞特異性造影剤であるGod-EOB-DTPA(gadolinium ethoxybenzyl diethlenetriamine pentaacetic acid,ガドキセト酸ナトリウム;EOB・プリモビスト<sup>&reg;</sup>)が本邦で発売され,約2年が経過した.肝細胞機能評価のみならず,これまでの細胞外液性MRI造影剤の性能を併せ持っているために1回の検査で血流評価と肝細胞機能評価が同時に可能となり,肝細胞癌の診断,特に境界・前癌病変と癌との鑑別においてその有用性が期待される.<br>
著者
横山 顕 大森 泰
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病學會雜誌 = The Japanese journal of gastro-enterology (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.110, no.10, pp.1745-1752, 2013-10-05
参考文献数
36

飲酒,喫煙,野菜果物不足,やせ,頭頸部癌既往,アルコール脱水素酵素1B(ADH1B)低活性型とアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)ヘテロ欠損型は,食道癌の危険因子である.多発ヨード不染帯,メラノーシス,MCV増大もリスクを高める.ALDH2欠損でアセトアルデヒドが蓄積し,ADH1B低活性でエタノールへ長時間曝露される.両遺伝子型+飲酒+喫煙で357倍のリスクとなる.ビールコップ1杯で赤くなるか,現在と過去の体質をたずねる簡易フラッシング質問紙法は,精度90%でALDH2欠損を判別し,飲酒・喫煙・食習慣と組み合わせた食道癌リスク検診問診票の高スコア群の癌の頻度は高い.予防の新戦略となる遺伝子解析の普及が望まれる.<br>
著者
菅野 健太郎
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.106, no.3, pp.321-326, 2009 (Released:2009-03-05)
参考文献数
20
被引用文献数
1

非ステロイド消炎薬(NSAID)ならびに低用量アスピリン(LDA)による消化管障害が,全国的に重篤な合併症を引きおこしていることが,日本消化器病学会における発表や各地域の論文で報告され,とくにNSAIDやLDAが消化管出血のリスクを高めることはわが国でも確認されている.これらの薬剤による重篤な消化管合併症をきたす患者の多くは高齢者であり,その予防対策が喫緊の課題となっている.この問題の重要性に鑑み,現在NSAIDやLDAの消化性潰瘍発症に対する予防試験が進行中である.本総説では,NSAIDならびにLDAによる消化管障害と予防に関するわが国の現状を述べ現段階で可能な対策について考察する.
著者
佐藤 慎一郎 稲葉 宏次 小穴 修平 三浦 雅憲 近藤 公亮 滝川 康裕 鈴木 一幸 上杉 憲幸 増田 友之 久喜 寛之
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.102, no.5, pp.595-599, 2005 (Released:2005-06-14)
参考文献数
15

症例は68歳男性.1996年より無症候性原発性胆汁性肝硬変の診断で通院中であった.2002年10月麻痺性腸閉塞の診断で入院,内科的治療で改善したが同時に四肢,体幹の筋萎縮と四肢の筋力低下を認めたため精査を行った.筋生検でragged-red fiberを認め,ミトコンドリア脳筋症の診断となった.原発性胆汁性肝硬変とミトコンドリア脳筋症の合併は過去に報告はなく極めてまれである.両者の合併に関連性があるかは不明であるが,抗ミトコンドリア抗体(anti-mitochondrial antibody;AMA)がミトコンドリア脳筋症の発症やその後の経過に影響を与えた可能性は否定できず,AMAの病因論的意義を考える上で興味深い症例と思われた.
著者
海野 倫明
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.12, pp.2113-2118, 2015-12-05 (Released:2015-12-05)
参考文献数
12

膵癌は最も治療成績の不良な癌であるが,近年の癌化学療法の発達により,少しずつ治療成績が向上してきた癌でもある.外科治療においては,5つのランダム化比較試験によって拡大手術はほぼ否定され,現在,標準郭清が推奨されている.術後S-1による補助化学療法も標準療法としてほぼ確立されたといえよう.現在,さらなる治療成績の向上を目指し術前治療が注目され多くの施設で行われているが,いまだエビデンスとして確立されたものはないため,術前治療は臨床研究として行われるべきである.現在,切除可能膵癌に対する術前治療の有効性・安全性の第III相臨床研究が行われている.その結果を緒としてさらなる臨床研究により,膵癌の外科治療成績向上がもたらされるものと考える.
著者
岡本 宏明
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.106, no.2, pp.177-187, 2009 (Released:2009-02-05)
参考文献数
54
被引用文献数
2

E型肝炎はアジア·アフリカの流行地域に限らず,先進国を含め広く世界各地で発生している.わが国でも3型や4型の土着HEV株による散発性E型肝炎は古くからあったが,今世紀に入ってその存在が認識された.国内の飼育ブタでHEV感染が蔓延している事実が明らかになるとともに,ブタや野生動物の肉·内臓摂食後の発症事例や劇症肝炎による死亡例の存在もあって,E型肝炎がにわかに注目を集め,診断や疫学に関する研究が急速に進んだ.その結果,本症における動物由来感染(zoonosis)の重要性が,わが国において,世界に先駆けて認知された.加えて,効率的な感染培養系も確立され,HEVのウイルス学も急速に進展しつつある.
著者
吉光 雅志 林 宣明 金子 佳史 土山 寿志
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.74-79, 2011 (Released:2011-01-05)
参考文献数
20

症例は28歳,女性.腹痛,粘血便にて入院.O157感染による腸管出血性大腸炎に引き続き,血小板減少,腎不全を発症し,溶血性尿毒症症候群(HUS)と診断した.一時,血小板数の増加・尿量の回復を認めたが全身痙攣と一過性片麻痺にて脳症を発症した.ステロイドパルス療法や血漿交換などの治療により後遺症なく回復した.成人での脳症発症の報告は少なく,今後の治療法確立のため文献的考察を含めて報告する.
著者
川本 勝 福島 恒男 久保 章 石黒 直樹 竹村 浩 土屋 周二
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.193-198, 1982-02-05 (Released:2007-12-26)
参考文献数
18
被引用文献数
2

潰瘍性大腸炎症例31例の便中細菌および短鎖脂肪酸を検索した.本症例の便中総細菌数は健常人とくらべ減少していた.なかでも嫌気性菌数が減少し,好気性菌数の増加がみられた.短鎖脂肪酸濃度は健常人にくらべ減少し,便中細菌数と比例した.短鎖脂肪酸分画において揮発性短鎖脂肪酸濃度が低く非揮発性の乳酸濃度が高かつた.病変部位が拡がる程また緩解期より活動期で揮発性短鎖脂肪酸濃度は減少し,乳酸濃度は増加した.乳酸濃度に対する揮発性短鎖脂肪酸濃度比と排便回数との間に負の相関がみられた.便中細菌および短鎖脂肪酸が潰瘍性大腸炎の病態と深い関係があることが示唆された.
著者
中野 哲 熊田 卓 北村 公男 綿引 元 武田 功 井本 正己 小沢 洋
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.1306-1314, 1979-06-05 (Released:2007-12-26)
参考文献数
23
被引用文献数
3

健常者35例,肝硬変症を含む良性消化器疾患79例,肝癌を含む悪性消化器疾患84例の合計198例に,「第一」SPAC ferritin kitを用いて血清ferritinを測定し,その診断的意義を検討した.肝硬変症で43%,肝炎で50%前後,原発性肝癌で74%,転移性肝癌で67%に血清ferritinの異常高値がみられた.肝疾患において血清ferritinとGOT,血清Feとの対比を行つたが肝炎時にGOTと著明な相関がみられた(p<0.01)のみである.原発性肝癌では血清ferritinは,AFPが104ng/ml以上の場合は正の相関(P<0.05)それ以下の場合は負の相関傾向(0.05<P<0.1)がみられた.また巨大な腫瘍では微小な腫瘍より明らかに血清ferritinは高値を示した(P<0.05).一方,肝悪性腫瘍の血清ferritinとCEAは明らかな相関はみられなかつた.
著者
江原 正明 土屋 幸浩 大藤 正雄
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.78, no.7, pp.1443-1451, 1981-07-05 (Released:2007-12-26)
参考文献数
38
被引用文献数
6

閉塞性黄疸例および急性胆管炎例に対し,経皮的胆汁ドレナージをX線透視下穿刺により187例,超音波映像下穿刺により66例,計253例に施行した.両方法はともに著者らが開発した新しい経皮的胆汁ドレナージ法であり,安全性と確実性の高いことが確認された.とくに,超音波映像下穿刺法は,選択的胆管穿刺が容易かつ確実に行なえるため,手技が簡便である上に,きわめて安全性の高い方法であり,手技に伴なう重篤な合併症を全く認めなかつた.なお,ドレナージ施行後の黄疸軽減効果,急性胆管炎に対する治療効果などの臨床効果についても検討を加えた.
著者
河邉 毅 良永 雅弘 北村 陽介 村尾 寛之 多喜 研太郎 加来 豊馬 山下 晋作 鶴田 悟 吉河 康二 酒井 浩徳
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.108, no.2, pp.238-244, 2011 (Released:2011-02-07)
参考文献数
15

症例は67歳女性.胃癌で幽門側胃切除術(低分化腺癌+印環細胞癌,stage IIIA)施行後,20年目に左頸部リンパ節腫脹を認めて来院し,生検で低分化腺癌+印環細胞癌を認め,胃癌の再発と診断し,化学療法施行.2年後に骨髄抑制,DICを合併し死亡.剖検で,脳以外の全身臓器を検索したが原発巣は認めなかった.本症例は,進行胃癌術後,晩期再発したと考えられた.
著者
村脇 義和 川崎 寛中
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.96, no.10, pp.1143-1152, 1999-10-05 (Released:2008-02-26)
参考文献数
73

慢性肝疾患では肝線維化が問題となるが,この対策を確立するためにも肝線維化の病態を正確に把握する必要がある.肝での細胞外マトリックスは主として肝星細胞で産生される.肝星細胞は正常肝ではその産生能は低いが,線維肝では活性化され筋線維芽細胞となりその産生能は著明に高くなる.肝星細胞の活性化にはTGF-β1が,増殖にはPDGFの関与が明らかにされている.一方マトリックス分解にも肝星細胞が強く関与しているが,MMP酵素群の特性およびその活性を規制しているTIMPについても詳細が明らかにされて来ている.最近ではこれら病態を踏まえて各種薬物の抗線維化作用が実験的肝線維化モデルで検討されている.
著者
大下 恭弘 原田 亘 刈屋 憲次
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.96, no.4, pp.413-417, 1999-04-05 (Released:2008-02-26)
参考文献数
10
被引用文献数
1

症例は60歳,男性.平成8年1月抗核抗体陽性,DNA抗体陽性,LEテスト陽性,持続性蛋白尿,貧血,リンパ球減少を認め,ARAの診断基準でSLEと診断.平成8年3月腹痛出現.腸雑音の低下および腹部X線写真にて小腸ガスと鏡面像を認め,麻痺性イレウスと診断.経口小腸造影検査では上部空腸間に瘻孔を認めた.イレウスの原因がSLEの血管炎と考えられ,プレドニン60mgより開始し,イレウスは改善したが,瘻孔は開存したままであった.