著者
金井 隆典 松岡 克善 久松 理一 岩男 泰 緒方 晴彦 日比 紀文
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.109, no.3, pp.364-369, 2012 (Released:2012-03-05)
参考文献数
20

インフリキシマブ治療はクローン病治療に革命をもたらしたといっても過言ではない.しかし,治療経過中に効果が減弱するいわゆる二次無効について国内外で活発に議論がなされている.本邦でも,2011年,インフリキシマブの10mg/kgへの増量が承認され,二次無効症例に対して直接的な対処が可能になった.しかし,10mg/kg増量ですべての二次無効症例が再び8週間隔の維持治療で寛解を維持できるまで効果が回復するとは限らない.また,本邦では2番目に登場したアダリムマブとの治療優先に関する議論,アダリムマブ増量の議論,さらには本邦オリジナルな白血球除去療法,栄養療法との併用など,長期の寛解維持を達成させるための適切な薬剤選択,適切な増量のタイミングを明らかにすることが重要である.
著者
安達 靖代 岩田 徳和 足立 靖 中村 浩子 菊地 剛史 中村 正弘 見田 裕章 吉田 幸成 木下 一郎 石井 良文 遠藤 高夫
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.117, no.6, pp.532-541, 2020-06-20 (Released:2020-06-20)
参考文献数
30

IgG4関連自己免疫性肝炎と肝炎症性偽腫瘍の合併例を経験した.症例は80歳代女性.肝障害,IgG高値を認め自己免疫性肝炎を疑い肝生検施行,IgG4関連自己免疫性肝炎と診断された.その後肝腫瘤が出現,肝炎症性偽腫瘍と考えられた.IgG4関連自己免疫性肝炎はIgG4関連疾患の肝実質病変とされ,一方,炎症性偽腫瘍の一部もIgG4関連疾患と考えられている.両疾患の合併の報告はなく,貴重な症例と考えた.
著者
平澤 俊明 多田 智裕 藤崎 順子
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.119, no.7, pp.600-609, 2022-07-10 (Released:2022-07-11)
参考文献数
52

上部消化管領域においても,人工知能(artificial intelligence;AI)の臨床応用は内視鏡診断を中心に増加傾向にある.食道,胃,十二指腸の各臓器で,AIによる病変の指摘,質的診断(良悪性の鑑別),量的診断(範囲・深達度診断)などが報告され,いずれも高い精度である.当初は静止画での検討であったが,動画での検証へ進み,さらにAIと医師との比較,AIの使用の有無による医師間の成績の比較が行われ,中国では大規模なランダム化比較試験も行われている.現在は,研究から臨床導入のフェーズに入ってきており,今後どのようにAIが臨床現場で使われ,医療が変化していくかが注目されている.医師がAIの利点と欠点を理解して使用すれば,AIは医師のよいサポートツールとなるであろう.
著者
桑原 崇通 原 和生
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.119, no.7, pp.610-625, 2022-07-10 (Released:2022-07-11)
参考文献数
86

胆膵疾患は膵管癌や自己免疫性膵炎,胆管癌など多彩な疾患が存在し,その治療方針は異なる.人工知能(AI)アルゴリズムの1つであるdeep learningは,特徴量を抽出することなく直接画像を解析することが可能である.今回われわれはTORIPOD声明などを参考にAI文献の評価チェックリストを作成し,胆膵領域のAI文献を評価した.胆膵領域AIの報告は膵腫瘍・膵囊胞・膵炎診断や検出,予後予測や病理グレード予測など多岐にわたる報告を認めたが,evidenceが高い外的検証を行った報告は少なかった.AIを日常臨床で使用するために薬事承認が必要であるが,それを得るためには前向きに大規模な多施設データを収集する必要がある.
著者
西田 直生志
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.119, no.7, pp.626-641, 2022-07-10 (Released:2022-07-11)
参考文献数
99

医療は複雑化しており,医療情報の誤認識は重大な結果を招く.この認知ステップを人工知能(AI)が提示する情報で補うことで,ヒューマンエラーを回避できる.現在,さまざまな医療データを学習させたAIの開発が進められ,肝臓病分野においても肝炎,脂肪性肝疾患,肝硬変,肝腫瘍の診断,あるいは疾患の転帰予測や治療法選択に関するAIの報告が認められる.本稿では,肝疾患に関するAIを取り上げ,さらに筆者らが中心となり開発している肝腫瘤の超音波診断支援AIについても紹介する.これらのAIの一部は専門医を凌駕するパフォーマンスが報告され,出力が秒単位であることを考えると,診療をサポートする十分なポテンシャルを持つ.
著者
石川 卓哉 鈴木 孝 篠田 昌孝 高士 ひとみ 山口 晴雄 鈴木 貴久 三宅 忍幸 神谷 徹
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.103, no.9, pp.1050-1054, 2006 (Released:2006-09-05)
参考文献数
11

症例は43歳,男性.不明熱のため当院入院.腹部超音波検査で,脾臓に多数の低エコー病変,腹部CT検査で肝臓,脾臓に多発結節状の低吸収域を認めた.猫を1匹飼っており,Bartonella henselae抗体を測定したところ高値を示し,ネコひっかき病と診断した.本症はまれな疾患と考えられるが,肝臓,脾臓に多発性腫瘤を認める不明熱をみた場合,鑑別として本症の可能性を念頭において診断をすすめることが重要と考えられた.
著者
竹森 康弘 澤武 紀雄 里村 吉威 太田 英樹 渡辺 弘之 河上 浩康 岡井 高 高橋 豊 磨伊 正義 服部 信 秋山 高儀 永川 宅和 橋本 琢磨
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.84, no.10, pp.2386-2392, 1987 (Released:2007-12-26)
参考文献数
24
被引用文献数
6

各種消化器系疾患 (悪性疾患455例, 良性疾患303例) の血清CA 125値を測定し, 臨床的意義を検討した. 膵癌(66%), 肝細胞癌(51%), 胆道癌(47%)の順で高い陽性率がみられた. CA 19-9, DU-PAN-2, CEA陰性の膵癌でCA 125陽性例がかなりみられた. 胃, 大腸癌での陽性例はほとんど stage IV以上または非切除例で, 特に腹膜転移群では他のマーカーに比して明らかに陽性率が高かつた. 一方, 良性疾患での偽陽性率は一般に低かつたが, 腹水を有する肝硬変, 劇症肝炎, 重症の膵炎では本抗原の上昇がみられ, その増減は腹水の消長に一致していた. 以上より, 血清CA 125は膵, 胆道癌の診断のみならず, 腹水や腹膜転移の有無を把握するのに有用と考えられた.
著者
古川 健亮 谷 聡 福田 昌輝 西澤 昭彦 坂井 誠 森田 宗孝 今西 築 山下 順平 北澤 荘平 老籾 宗忠
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.96, no.2, pp.160-163, 1999-02-05 (Released:2008-02-26)
参考文献数
6

症例は25歳女性.右下腹部に手拳大の腫瘤を認め入院.虫垂炎に併発した腹腔内膿瘍を疑い,右半結腸切断術を行ったが,切除標本にて腸結核と診断された.その後,抗結核療法を開始し,1カ月後には炎症所見の改善と残存潰瘍の消失を確認した.最近の結核が種々の医療基盤の変遷によって特異な形で出現することもあると考えられ,本例では腹腔内膿瘍による腹部腫瘤を初発症状とした貴重な1例として報告した.
著者
高井 利恵子 宮島 真治 大村 亜紀奈 森澤 利之 岡野 明浩 木田 肇 沖永 聡 久須美 房子 大花 正也 藤田 久美
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.9, pp.1689-1695, 2015-09-05 (Released:2015-09-05)
参考文献数
12

既往にStage Iの腎細胞癌摘出術を受けた男性が,倦怠感と肝胆道系酵素上昇を認め受診した.腹部の超音波検査やCT上,さらに肝生検においても異常はなかった.しかし,FDG-PET検査で骨に集積を認めた.骨生検の病理組織像は,以前摘出した腎細胞癌と類似していた.各種検査で他臓器には原発巣を指摘できず,腎細胞癌の骨転移と診断した.肝機能異常は,腎細胞癌に随伴するStauffer症候群であると考えた.
著者
長沼 誠 藤井 俊光 長堀 正和 渡辺 守
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.108, no.3, pp.388-400, 2011 (Released:2011-03-07)
参考文献数
91

クローン病の治療には栄養療法と薬物療法があるが,抗体製剤の登場によりクローン病の治療法や治療目標,長期予後などが大きく変わってきている.6-MP,AZAを中心とした免疫調節薬は抗体製剤が登場する前より難治例を中心に使用されており,特にステロイド依存例のステロイド減量や寛解維持に有用な薬剤である.長期予後の観点からみて6-MP,AZAは腸管粘膜治癒効果,術後の再燃防止効果を有するが,抗体製剤と比べその効果は限定的である.免疫調節薬を早期に使用することにより長期予後が改善される可能性も考えられるが,骨髄抑制,感染症,さらには最近注目されているリンパ腫発生の可能性を考慮し,有用性と副作用のバランスを考えながら使用することが大切である.
著者
三好 広尚 服部 外志之 高 勝義 片山 信 荒川 明 瀧 智行 乾 和郎 芳野 純治 中澤 三郎 内藤 靖夫
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.96, no.6, pp.644-651, 1999-06-05 (Released:2008-02-26)
参考文献数
28
被引用文献数
2

点滴静注胆道造影法を併用したhelical CT(以下,DIC-CT)による総胆管結石診断の有用性を明らかにする目的で,切石により確診を得た総胆管結石25例を含む胆道疾患82例を対象とした.胆道疾患82例において超音波内視鏡検査(以下,EUS)およびDIC-CTによる総胆管結石の診断能の比較検討を行った.総胆管結石25例の描出率はEUS 87.5%,DIC-CT 94.7%であった.総胆管結石のDIC-CT,EUSの診断能はそれぞれsensitivity 94.7%,87.5%,specificity 100%,100%,accuracy 97.8%,96%であった.DIC-CTは総胆管結石の診断においてEUSやERCと同等の診断能を有し,しかも非侵襲的な検査法であり,胆嚢結石の術前診断として有用な検査法である.
著者
吉崎 秀夫 竹内 和男 奥田 近夫 本庶 元 山本 貴嗣 櫻井 則男
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.97, no.3, pp.342-346, 2000-03-05 (Released:2008-02-26)
参考文献数
7
被引用文献数
4

他疾患の経過観察中に肝嚢胞に感染を併発した2症例を経験した.2症例とも腹部超音波では嚢胞内部にスラッジエコーが出現し,単純CTでは内部のdensityの上昇,造影CTでは嚢胞壁の濃染などの所見が認められた,いずれも抗生剤の全身投与に加え嚢胞ドレナージを施行して,炎症は改善した.感染をおこした嚢胞は,6カ月後には縮小あるいは消失していた.
著者
宮崎 慎一 野田 裕之 森田 照美 上萬 恵 岡田 睦博 守山 泰生 鈴木 一則 竹内 勤
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.104, no.9, pp.1359-1364, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
12

症例は64歳男性.前胸部痛および右下腿浮腫にて当院受診,精査目的に入院となった.両側胸水を認めたため,穿刺したところともに乳糜胸水であり,左胸水の細胞診で低分化型腺癌を認めた.精査にて4型胃癌が原発巣であると診断した.両側乳糜胸水を来す胃癌は極めてまれであり,また乳糜胸水から淡黄色の胸水への変化が認められ,乳糜胸水の成因を考える上で示唆に富む症例であると思われたため報告する.
著者
武内 重五郎 奥平 雅彦 高田 昭 太田 康幸 藤沢 洌 伊藤 進 辻井 正 蓮村 靖
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.76, no.11, pp.2178-2185, 1979-11-05 (Released:2007-12-26)
参考文献数
19
被引用文献数
20

わが国の肝疾患の病態の特徴を反映し,臨床的に広く使用できるようなアルコール性肝疾患(脂肪肝,肝炎,肝硬変,および肝障害)の診断基準案を提示した.次いで,近年のわが国におけるアルコール性肝疾患の実態を把握する目的で,1968年から1977年までの10年間を調査対象に,この基準に合致した症例を全国の病院内科94施設からアンケート方式によつて集め解析した.その結果,肝疾患による入院患者のすべての症例のうち,アルコール性肝疾患症例の占める割合が1968年の5.1%から1977年10.7%へと直線的に有意に増加したこと,さらに肝硬変の入院症例のうちアルコール性肝硬変の占める割合も有意な増加をみた結果,1977年には16.9%であつたことが判明した.この成績は,わが国でもアルコールに起因した肝疾患に充分注目する必要があることを示している.
著者
牧野 勲 篠崎 堅次郎 芳野 宏一 中川 昌一
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.690-702, 1975 (Released:2007-12-26)
参考文献数
25
被引用文献数
6

Cholesterol 胆石症11名にUDCA1日450mgから2gを4カ月から1年半長期投与し, 臨床症状, 胆嚢造影, 肝機能検査の経過を観察した. その結果, 患者11名中胆石の完全消失1名, 胆石個数の減少又は胆石陰影の縮少3例, 判定保留1例, 残り6例は不変であつて有効率約37%であつた. 一方, 今回の比較的大量のUDCA投与によつてほとんど全例にそれ迄高頻度に持続した右季肋部痛, 右背部痛の消失が認められ, 自覚症状の改善を認めた. この間肝機能検査に異常なく血中 Cholestreol も正常値を保持した.患者11名中3例についてUDCA投与前後の胆汁中脂質が分析されUDCA投与前 Cholesterol 過飽和の胆汁はUDCA投与後, そのLithogenicity が改善された. 一方, 胆汁中胆汁酸分析ではUDCA投与後総胆汁酸の40%以上がUDCAで占められCDCAと合計すると Dihydroxy 胆汁酸は, 約80%に達したがLCAも軽度増加するのを認めた.
著者
坂口 賀基 山道 信毅 藤城 光弘
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.119, no.2, pp.103-111, 2022-02-10 (Released:2022-02-10)
参考文献数
72

非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍は,主に家族性大腸ポリポーシス由来と特発性に大別される.Wnt pathwayが腺腫発生から発癌初期の中心的役割を担い,特発性でもAPC変異自体の頻度が低いもののWnt pathway異常活性化が80%に認められる.またWnt pathway異常活性亢進に加え,さらに別の発癌関連遺伝子の異常も発癌に必要とするmulti-hit theoryが有力視され,大腸癌adenoma carcinoma sequenceと類似する点が多い.一方で胃型粘液形質に特異的なGNAS変異も確認されている.また十二指腸癌独自の発生機序が存在する可能性もあり,さらなる研究が必要である.