著者
趙 巖 野呂 影勇 岩崎 常人
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.357-362, 1997

本研究は, 二眼式液晶シャッターを用いた時分割方式によって再生された二眼式立体 (3D) 映像を負荷した場合と, 平面 (2D) 映像を負荷した場合での, 負荷前後の瞳孔反応への影響を調べた. このとき, 鑑賞時に与えられた視距離 (2mと4m) と室内の照度の設定条件により, 縮瞳量に変化が認められるか否かを検討した. 瞳孔面積の変化は, 赤外線オプトメータに付帯したピューピロアナライザーで測定した. その結果, 以下の事実がわかり, それらの結果から二眼式3D映像鑑賞にあたり, より良い鑑賞の仕方 (距離や照明のあり方) を人間工学的に考察した.<br>(1) 2D映像, 二眼式3D映像ともに負荷前より負荷後に縮瞳量が増した.<br>(2) 2D映像, 二眼式3D映像のいずれの負荷においても, 縮瞳量の変化に対して, 室内照明の有・無による影響が認められた. 特に, 二眼式3D映像負荷時の照明の有無は, 瞳孔機能に大きな影響があることがわかった.<br>(3) 二眼式3D映像を観察するにあたっては, 瞳孔機能の結果だけを考えた場合, 室内照明をつけたほうが良いと考えられた.
著者
嶋脇 聡 酒井 直隆
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 = The Japanese journal of ergonomics (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.31-35, 2011-02-15
被引用文献数
1

ヒトが物体を把持する直前に,物体の形状や大きさに依存した手の形を準備するプリシェイピング動作を実行する.本研究の目的は,三次元動作解析システムを用いて指関節角度を計測することによって,プリシェイピングに及ぼす視覚条件の影響を調査することである.9人の健常者が4つの視覚条件(通常,閉眼,仮想,仮想閉眼)で円柱の把持を実施した.円柱は高さ120 mm,直径30 mmであった.関節の初期角度と最終角度の間である中間値までの中間時間が計測された.結果として,仮想条件におけるDIPとPIP関節の中間時間は通常および閉眼条件におけるそれらより有意に低値であった.4つの視覚条件におけるMP関節の中間時間の間で有意差は無かった.これは,通常および閉眼条件で,近位関節より順番に屈曲する「なじみ機構」が作用しているが,仮想条件では,3関節とも同時に屈曲したことを示した.
著者
小島 崇 綱島 均 伊藤 聡美 塩沢 友規
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.193-200, 2007-08-15 (Released:2010-03-15)
参考文献数
11
被引用文献数
2 1

鉄道の安全性確保のために, 列車運転士には判断に関するヒューマンエラーを犯さないことが強く求められる. 列車運行時のヒューマンエラーを防止するためには, 人間の特性を考えた運転支援システムの開発が必要である. このようなシステムを開発するにあたっては, 運転操作と認知, 判断にともなう脳機能に着目する必要がある. 本論文では, 列車運転中の運転士の高次脳機能を, 機能的近赤外分光 (fNIRS) 装置を用いて計測した. 運転中の脳機能活動を抽出するために, ウェーブレット変換による多重解像度解析を適用することを提案した. 運転シミュレータを用いた実験の結果, 提案の方法により運転中の高次脳機能を評価できることを示した.
著者
伊東 昌子 平田 謙次 松尾 陸 楠見 孝
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.305-312, 2006-10-15 (Released:2010-03-15)
参考文献数
30

個人営業における熟達を, ATS理論に基づき知識スリップを制御する準備行為の観点から検討した. 実験では, 事務機器販売領域の高成績者と平均的成績者がビデオ視聴により顧客情報を把握したうえで, 初回商談前の準備行為を報告した. 次に, 彼らは商談場面 (営業担当者が顧客の話を十分に聞かずに提案を勧めたため顧客は興味を失う) を視聴して, 担当者の不適切行為の診断と自分が行う行為を報告した. その結果, 高成績者は, 急がずに顧客の問題状況を理解するとの趣旨と行為目標を定め, 彼らの診断も商談行為も趣旨と目標に沿っていた. 平均的成績者では, 顧客ニーズの発見と関係の構築が趣旨と行為目標であり, 彼らの商談行為はニーズを問う点では目標に沿っていたが, 得た個別ニーズに対し早くも解決案を示す状況行為が報告された. この結果は, 商談前に生成される趣旨や行為目標が熟達により異なることと, その差が知識スリップの制御に影響することを示唆する.
著者
杉本 洋介 柴田 知己 佐藤 陽彦
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.35-41, 1991

本研究は, 健常者における手指触覚によるアルファベット文字およびドット数の知覚に, 左右差があるかどうか調べることを目的とした. 被験者は, 利き手調査票によって分けられた80人の完全な右手利きの男性と, それ以外の10人の男性であった. 刺激は, 能動的な手指動作によって左右いずれかの人さし指に与えられ, 被験者は感じたアルファベット文字あるいはドットの数を口頭で答えるように指示された. 実験の結果, 完全な右手利きのグループでは有意に左手の成績がよく, また左手の優位はアルファベット文字で顕著であった. それ以外のグループでは反対の傾向がみられた. これらの結果より, 完全な右手利きの被験者ではアルファベット文字は右大脳半球で形態として処理されることが示唆された.
著者
高林 範子 小野 光貴 渡辺 富夫 石井 裕
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.84-91, 2014-04-15 (Released:2014-05-16)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

著者らは,看護コミュニケーション教育を支援する目的で,仮想病室に患者と看護実習生役のアバタを実装した身体的バーチャルコミュニケーションシステムを開発し,有効性を示した.本システムは,対話者のノンバーバル情報に基づいて対話者の化身であるアバタのノンバーバル行動を生成し,仮想病室で対話者相互のアバタのインタラクションを観察しながらコミュニケーションできるシステムである.5組10人の看護学生を対象に,システムを用いたロールプレイングによるコミュニケーション実験を行い,官能評価,自由記述内容の結果,「役になりきれた」「対話しやすさ」「システムを使用したい」などの項目で肯定的に評価され,看護学生同士の対面でのロールプレイングよりも有効であることが示された.患者体験ができ,役になりきることが可能なシステムであることが確認され,本システムによる新たな看護コミュニケーション教育支援の活用可能性が示された.
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.10-23, 1965-01-01 (Released:2010-03-11)
被引用文献数
1 2
著者
児玉 公信
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.147-153, 2005-06-15 (Released:2010-03-15)
参考文献数
9

連続加算課題における計算エラーの研究では, これまで単体の計算行為だけに注目していた. しかし, 被験者は, 連続作業の条件でできるだけ多く計算を行うために下位作業を巧みに並列化する. 計算エラーの一部には, こうした並列作業の同期の失敗に起因するものがあると仮定して, それを検証するために後ろの小問をマスクする装置を用いた条件 (マスク条件) と, そのマスクを取り除いた装置を用いた条件 (透過条件) とで連続加算課題を課した. その結果, 透過条件では計算回数および同期の失敗に起因すると見られるエラーがマスク条件よりも多かった. また, 計算エラーはなんらかのアルゴリズムに起因するのではなく, 認知的難問に起因する可能性が見いだされた. このことから, 連続加算課題における計算エラーの分析には, 作業の並列性および認知的難問の観点を導入する必要性が示唆された.
著者
石田 久之
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.321-327, 1993-10-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
7

視覚障害者におけるタイピングの正確度および誤りを検討することを目的として実験を実施した. 被験者は短期大学に在籍する全盲学生および弱視学生5名であった. 1回の試行で40~50の単語を提示し, 6試行行った. タイピングすべき単語に組み込まれたキーは, q, v, xを除く23のアルファベットと, \を加えた24のキーとした. 実験後, 実際にタイピングされたキーについてのデータをプリント出力し, タイピングすべきキーと比較することによって, 正確度を算出し, 誤りを抽出した. タイピングの正確度は, 最も高い被験者が99.0%, 最も低い被験者で97.9%であった. 誤りは, 置き換え, 割り込み, 脱落の3種類に大きく分類した. 最も多い誤りは置き換えであった. 割り込みと脱落については差はなかった. これらより正確なキー位置の把握の重要性を指摘した.
著者
齋藤 誠二 田中 翔子 松本 和也
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.266-273, 2012-10-15 (Released:2012-12-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1 2

転倒しにくいスリッパを提案することを目的に,スリッパの性質と歩容およびスリッパのズレとの関連について検討した.若年者男性10名と女性10名に異なる4足のスリッパを履かせ8 mの自由歩行をさせた.そして,歩行中における任意の3歩分の歩容と下肢筋電図を分析した.さらに,スリッパの主観評価と屈曲性評価を実施した.その結果,屈曲性の低いスリッパを履いて歩行すると片足支持期における足関節の背屈が抑制されることが示唆された.また,遊脚期終期において足部が床と接触することを避けるために,股関節をより屈曲させるとともに,膝関節の伸展を遅らせる必要があることが示唆された.さらに,ソールの屈曲性が影響していると推察されるフィット性が低いスリッパでは,遊脚期においてスリッパが足部からズレやすいことが示唆された.したがって,高齢者のスリッパによる転倒を予防するためには,適度な屈曲性を明らかにする必要がある.