著者
劉 建中 久保 光徳 青木 弘行 寺内 文雄
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.29-38, 1996-02-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
14
被引用文献数
4 3

本研究では, 5名の男子学生を被験者とし, 弛緩状態での座姿勢と仰臥姿勢において, 2-20Hzの垂直正弦振動を受ける人体の振動伝達特性を, 伝達率と位相差によって検討した. 伝達率は, 人体上の振動加速度実効値を振動台垂直加速度実効値に対する比率で表したものとし, 位相差は, 人体と振動台間の振動加速度の位相角で表した. また振動刺激に対する身体各部位の揺れの感覚について主観評価を行った. その結果, (1) 2Hzでは座姿勢, 仰臥姿勢ともに体全体が1つの剛体として, 振動台とほぼ同じ振幅と位相で振動した. (2) 5Hzと8Hzでは身体の振動が強くなって, しかも姿勢と被験者により各部位の振動状況がかなり異なった. (3) 11-20Hzの範囲では足部と頭部の振動を強く感じる一方, 腹部と胸部はほとんど減衰していることが明らかとなった. 本実験の結果から, 人体における振動の伝播は振動刺激の種類, 方向, 周波数, 強度のほかに, 被験者の体型と姿勢などから大きな影響を受けていることが明らかとなった.
著者
小崎 智照 松澤 七海 百岳 香奈
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.76-83, 2022-04-15 (Released:2022-07-12)
参考文献数
36

本研究は高濃度の二酸化炭素が心理・生理機能へ与える影響について調べた.本研究の被験者は11名の健常な21才から23才の成人女性であった.被験者は実験室にて異なる二酸化炭素濃度条件(大気濃度,2000 ppm,4000 ppm)に45分間曝露された.各心理・生理指標は二酸化炭素曝露の前後にて記録された.計算課題の正解数は二酸化炭素濃度2000 ppmと4000 ppm条件において曝露後で有意に減少した.事象関連電位P300の潜時も2000 ppmと4000 ppm条件曝露後に有意に遅延した.眠気感も高濃度の二酸化炭素曝露後に有意に低下した.以上の結果から,室内における2000 ppm以上の高濃度の二酸化炭素は覚醒と精神作業能を低下させることが示唆された.
著者
糸井川 高穂 村田 智明 古賀 誉章 山田 昭徳
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.56-64, 2018-04-15 (Released:2019-07-12)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本研究の主な目的は,判別の容易なエレベータの開閉ボタンのデザインを提案し効果を検証することである.そのために,大学生を被験者とした3種類の実験を行った.エレベータの開閉ボタンのデザインを構成する要素として,イラスト,地の色,イラストの色,サイズ,振り仮名を設定した.イラスト毎の判別の容易性を明らかにする一つ目の実験では,三角および人をテーマとしたイラストで誤判別が生じやすいことがわかった.デザインの因子毎に判別の容易性を明らかにすることを目的とした二つ目の実験では,イラストでは顔,地は白,開ボタンのみ幅を1.25倍としたデザインが最も判別を容易にすることがわかった.判別の容易性を高める因子の効果の検証を目的とした三つめの実験では,各要素の最適組み合わせだけでなく,一般的なイラストの部分最適化においても,誤判別を低減させる効果を得た.以上より,本研究では,エレベータの開閉ボタンの判別を容易とすることを目指したイラストを提案するとともに,そのイラストを含むデザインを構成する要素毎の判別の容易性を明らかにした.
著者
小美濃 幸司 遠藤 広晴 種本 勝二 白戸 宏明 澤 貢 武居 泰 斎藤 寛之
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.126-134, 2009-04-15 (Released:2010-10-28)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

定常風が立っている人へ及ぼす力学的影響について調べるため,大型低騒音風洞で被験者に風を当て,姿勢保持限界風速等を測定した.姿勢を保持できない被験者の割合は,特定の風速を超えると急激に増加し,その増加の程度は立つ向きに依存した.身体の抗力は風速の2乗に比例し,姿勢を傾けないと立っていられない風速は,風下向きで16 m/s,横向きで19 m/sであった.列車駅通過時の風であると想定した場合に「許容できない」とした被験者の割合も同様に風速に伴って増加した.簡易な剛体人体モデルを仮定し,定常風について姿勢保持限界風速を推定したところ,推定値は実測値より小さくなった.一方,既報の一過性変動風データについては推定値と実測値とがよく対応することがわかり,定常風よりも一過性変動風のほうが剛体に近い動きとなると考えられた.
著者
橋本 邦衛
出版者
Japan Human Factors and Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.107-113, 1981-06-15 (Released:2010-03-11)
参考文献数
15
被引用文献数
8 5
著者
北堂 真子 荒木 和典 高橋 達也 井邊 浩行 梁瀬 度子
出版者
Japan Human Factors and Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.229-239, 1999-08-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
42
被引用文献数
5 6

電車の特徴的な振動を基に合成した振動に1/fゆらぎの特性を併せ持つ低加速度レベルの全身振動を人体に与え, 入眠に及ぼす影響について主に生理的反応から検討を行った. 健常な成人16名を対象に, 電車の固有振動数を応用し, かつ, 1/fゆらぎ特性を示すような時間間隔で変化させた垂直振動 (1.5Hz; 0.06m/s2rms及び2.0Hz; 0.11m/s2を交互, かつ12Hz; 0.09m/s2をON/OFF) 及び左右振動 (0.4Hz; 0.05m/s2及び0.6Hz; 0.09m/s2を交互, かつ12Hz; 0.13m/s2をON/OFF) を10分間負荷し, 振動のない場合と比較検討した. その結果, 全身振動の場合, 睡眠潜時が短縮される傾向が認められ睡眠量も増加した. また, 心拍周期の増加率が高くなる傾向が見られ, 心拍変動係数も高くなることが示された. 即ち, 全身振動により副交感神経優位の状態に誘導でき, 入眠促進の有効性を確認することができた. しかし, 振動による筋活動の低下状態や入眠への影響, あるいはリクライニング角度による影響等について, さらに研究を行う必要があると考えられる.
著者
宮崎 由樹 伊藤 資浩 神山 龍一 柴田 彰 若杉 慶 河原 純一郎
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.222-230, 2020-12-15 (Released:2021-12-11)
参考文献数
17

顔を細く・小さく見せることに対する日本人の関心は高いが,どのような要因が顔の見かけの大きさを左右するかについては未検討な点が多い.本研究は,顔全体のサイズ知覚に,どの顔部位のサイズ情報が関与するか検証することを目的とした.そのためにまず,女性・男性顔132画像において,20箇所の顔部位の縦幅や横幅を計測した.また,その計測サイズとそれらの画像毎に評定された見かけの顔サイズ評定値との相関を算出した(研究1).その結果,顔全体のサイズ知覚には,顔画像の性別に関係なく,顔面上部(額の長さ等)にくらべて顔面下部のサイズ(頬の広さや顎の長さ等)が強く正相関していた.この結果に基づき,顔面下部を衛生マスクで遮蔽し,顔面下部のサイズ情報を観察できなくすることで,顔のサイズ知覚が変わることも実証した(研究2).これらの結果は,顔全体のサイズを判断する際,顔面下部のサイズ情報が重要な手がかりとして用いられていることを示している.
著者
武内 寛子 辻野 直良 森本 裕二
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.36-45, 2017-04-20 (Released:2018-05-10)
参考文献数
9

我が国の鉄道のプラットホームで発生する鉄道人身障害事故やプラットホームからの転落の約60%は酔客が原因である.本研究の目的は,プラットホームに設置している防犯カメラ映像を分析し,プラットホームからの転落や列車接触に至った酔客の転落・列車接触時の行動パターンと転落前に見られる前兆行動を明らかにすることである.その結果,酔客の転落・列車接触時の行動パターンが3種類,転落前に見られる前兆行動が5種類あり,それぞれの行動の発生確率が判明した.また,酔客は転落・列車接触の直前までホーム上で静止しており,動き出してから数秒の間に転落・列車接触に至ったケースが全体の約90%を占めていた.このことから,駅員が前兆行動中の酔客を発見した場合は,速やかに酔客に声をかける等して,酔客の安全を確保することが重要である.
著者
沖 和砂 山田 泰行 広沢 正孝
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.65-73, 2018-04-15 (Released:2019-07-12)
参考文献数
36

アルペンスキー選手がパフォーマンスの向上と選手生命の長期化を実現するためには,スポーツ傷害のリスクマネジメントが不可欠である.そこで本研究では,日本選手をとりまくスポーツ傷害のリスク要因の特定と構造化を行った.日本選手24名(男性15名,女性9名)を対象とする半構造化面接を通して,リスク要因に該当する853のエピソードを収集した.Spörriら(2012)の先行研究を参照の上,専門家がエピソードの構造化を行った結果,39種類のリスク要因を抽出し,選手,道具,コース,雪質,気象,情報の6カテゴリに分類した.多重コレスポンデンス分析は,異なる組み合わせの4カテゴリを支持した.本記述研究の知見は,スポーツ傷害の潜在リスクを推定し,防止策を検討する上で有用といえる.
著者
岩宮 眞一郎 中嶋 としえ
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.329-335, 2009-12-15 (Released:2010-12-17)
参考文献数
20
被引用文献数
3 2

メッセージを伝えるサイン音には,音の断続パターンだけでなく,短いメロディや和音などの各種の音楽的表現を用いることも多い.本研究では,サイン音に和音を用いることの可能性を検討するために,各種の三和音表現とサイン音としてのイメージおよびその印象の関係を,評定尺度による評価実験に基づいて検討した.終了感を出すのに,音楽の終止形として用いられている,属和音あるいは下属和音から主和音の進行が利用できることが示唆された.これらは,快適で,明るい印象があり,日常生活で頻繁に使われるサイン音としては適しているであろう.警報感を出すには,短三和音,減三和音がふさわしい.これらの和音は,不快で,暗い印象がある.増三和音は,呼び出し感を出す機能があり,報知感も強い.本研究により,サイン音に和音を用いることで,特定の機能イメージや印象を引き出すのに有効であることが示された.